作品タイトル不明
追加で仕事を増やすのやめてもらえません?
ここまでは予定通りだ。
どんな願いも叶えるという究極の願望機をめぐる大魔法儀式。その中枢にいかにして接触して干渉し、自身の思い通りにコントロールできるか。
接触はクリア。
手詰まり状態だったところで、これ以上ない幸運が文字通り転がりこんできたのだ。まさか儀式中枢につながる〝聖なる器〟そのものを手中に収められるとは。
もっとも干渉は困難を極めた。
〝魔神〟の滓はどうとでもなったが、〝神〟以上の存在に邪魔された。
さらに、儀式中枢から流れこむ膨大な魔力に悩まされる。〝神〟の肉体をもってしても耐えられなかったのだ。
だから肉体を捨てた。
自ら〝聖なる器〟に取りこまれることで、儀式中枢へ直接干渉することも叶う。
しかしやはり、精神だけでは儀式をコントロールするには無理があった。
〝神〟の肉体は使えない。
自身で証明済みだ。一時的には理性を保って活動できても、ほどなく魔力過多で崩壊してしまう。
元の〝器〟も用を成さない。
ただの物体に精神を移したところで、理性どころか長く自我を保っていられないのだ。やはり生物としての肉体が必要だった。
なぜ、儀式中枢が あの男の肉体(・・・・・・) を欲したのか?
なるほど、馴染んだ今では理解できる。
〝神〟と〝人〟とではこうも魔力制御機構に違いがあるのか。
溜めるのではなく循環させる。
必要以上の魔力は自身の『外』へ流しつつも、自らとのつながりは確保して都度利用するのだ。
魔法レベルが低いがゆえの最適化らしい。
そもそも魔法レベルの最大値が決まっているのも、おそらくはこの機構の違いによる弊害なのだろう。
膨大な魔力を最大限活用できないデメリットはあるが、無限に湧き出る魔力をまさしく永遠に使い続けられるのはとてつもないメリットだ。
これで儀式は我が手中に落ちた――とまでは、さすがに及ばない。
だが完全にではないにせよ、儀式をある程度はコントロールできる。
ここからだ。
今はまだ自身が『儀式の一部』になったにすぎない。
すでに脱落した自分が、いかにして参加者に復帰するか。
そのうえで『儀式の勝者』と認められれば、究極の願望機によって我が願いが成就する。
ああ、そうか。
天啓のようなひらめきが降りてきた。
順序を入れ(・・・・・) 替えればいい(・・・・・・) のだ。
勝者がこのヴィーイである、と儀式に誤認させれば、必然、自分は参加者でなくては矛盾が起きる。
すでに条件は満たされた。
なぜなら自分はもう、勝者の証である〝聖なる器〟を手に入れたのだから――。
◆
追い詰められたっぽい学院長に助け船を出したのは、その 相方(サポーター) だったアレクセイ先輩だ。
「グーベルク君――」
何か言いたげな学院長を目配せで制し、先輩は滔々と語り始めた。
「私は以前、魔神ルシファイラに憑依されていたことがあります。シヴァに救われて今は元の自分に戻っていますが、魔神の記憶の一部は今でも保持していましてね。その記憶からそこの少年の正体を知ったのです」
おー、一部にしか知られていない秘密をさらっと暴露したぞこの人。
アレクセイ先輩はちらりと白い少年を見て続ける。
「彼は神代の昔に大陸を支配していた三主神がひと柱、【強奪】のヴィーイ。この場にいるみなに馴染みある言葉で表わすなら、『魔神』と呼ぶべきでしょうか」
な、なんだってーっ!? とは誰も言わない。なんだかぽかーんとしてますね。ただ一人、愛らしいおめめをきらっきら輝かせているピンクちゃんは今日も可愛い。
「つまりアレクセイさんは早い段階からホワイトさんが魔神ヴィーイだと確信し、儀式はもちろん、王国の危機となり得るためパートナーである学院長にお伝えしたのですね!」
「ぇ? ぁ、うん、まあ、そうだね……」
「そして学院長はこの荒唐無稽とも思える話を信じ、アレクセイさんに協力した、と」
「は? ぇ、ええ、そう、ですね……」
なるほどピンクちゃんは賢いなあ。
てか俺が学院長の立場なら絶対に信じない自信がある。けど学院長の性格的に真面目学生の話を無碍にはしないよな。
学院長はなんとなく伏し目がちで申し訳なさそうな不思議。
そしてティア教授は学院長を追いこむ目論見が外れたからか、むぎぎぎと悔しそう。だがこんなことで諦める女ではない。
「でもでも! たしか学院長ってば超々高密度魔力体を『自分のモノだから返して』って言ったよね? 人では攻略不可能な遺跡の地下深くに隠せるってことは、もしかして学院長もそこの少年と同じで〝魔神〟なんじゃないのぉ?」
きゅっと唇を引き結ぶ学院長。
しかしここでも助け船が。
「アレは学院が調査して発見しながらも、発掘困難なためそのまま監視対象としていたものですよ。あの場で『学院の所有物』と正直に話せば察しのいいルセイヤンネル教授のこと、パープルの正体に感づかれる危険がありましたからね。機転を利かせたのですよ」
ぐぬぬと歯ぎしりするティア教授を横目に、アレクセイ先輩は「ともあれ」と話題を戻す。
「〝聖なる器〟に自我が芽生えれば、すなわち魔神ヴィーイの意思が色濃く反映されてしまうかもしれません」
受けたのはマリアンヌお姉ちゃん。深刻そうに重々しく言う。
「ルシファイラ同様、邪悪なる思想を持っているのなら何をしでかすかわかりませんね」
沈黙が降りる。俺は息が詰まる雰囲気が苦手なので頓狂な声でも上げて場を和ませたいところだが、恥ずかしいのでやるつもりはない。
仕方がないのでこの場にふさわしい人物に登場いただこう。
『ふはははっ! 正義の執行者にして儀式の監督役シヴァ、参・上!』
中身空っぽの全身黒づくめの男を作って窓から突入させる。
ぽかーんとする面々を置き去って話を進めますね。
『状況を鑑みるにこのまま儀式を進めるより、まずは〝聖なる器〟の確保と解析が先決だ。でなければピンクかゴールドのどちらか一人が残ったところで、儀式が正しく終わるか怪しいのでね』
もっともらしいことを言いつつ、偽シヴァの眼前に半透明ウィンドウを出現させる。
地図に赤い点がぴこーんと光った。なるほどここに戻っていたか、との感想は横に置き、
『見つけたぞ! とうっ!』
窓から飛び出す黒い男。
『戻ったぞ!』
行き先に『どこまでもドア』があったのですぐでした。
なんだろう、シャルちゃん以外の視線が痛い。めげずに手にしたモノを掲げて見せる。黄金がまぶしい優勝トロフィーもとい〝聖なる器〟でございます。
「え? ちょっと待って。なによそれ」
おや? ゴールドちゃんが珍しく慌てている。
「そんな……」
学院長はわなわな震えていた。
なにか問題でも? と続きを待っていると、
「中身が空っぽだわ……」
「中身がありません……」
二人して声を合わせたのだった――。
なんだろう? 嫌な予感がしてきたぞ。
こう、『もっと働け、と天が告げている』ような……。