作品タイトル不明
ティア教授は探りたい
学院内の奥深く。ひっそりと建つ研究棟の一室で、ティアリエッタは半透明ウィンドウを眼前に浮かべていた。
羅列するのは儀式のルール。いくつか追加されているのも含めて、頭から読み返す。
【魔法少女戦争(仮)のルール】
・参加者は究極の願望機〝聖なる器〟を手に入れるために戦う、バトルロイヤル形式。
・参加者は七人の魔法少女と彼女らを補佐するサポーターがそれぞれ一人ずつの計十四名。
・参加者は〝聖なる器〟によりランダムに選ばれる。
・魔法少女から魔法少女への攻撃のみ有効。
・魔法少女がブレスレットの宝石を破壊されるとその組は脱落する。
・ブレスレットは着脱可能。魔法少女は異空間から自由に収納、取出しできる。
・ブレスレットの宝石を破壊されずに最後まで残った一組が〝聖なる器〟を手にできる。
・魔法少女同士は変身後、戦闘開始が認められてから五分間は変身を解除できない。
・魔法少女に変身するとブレスレットの効果で魔法の威力が向上する。
・魔法少女にはそれぞれひとつ、特殊能力が付与される。
・サポーターだけがそのパートナーたる魔法少女のステータスを知り得る。(特殊能力含む)
・サポーターは特殊能力の発動・停止を決定できる。
・サポーターは半径一㎞圏内の魔法少女を探知できる。
ここまでは当初の取り決めだ。
そして次の項目からは、新たな取り決めや実際の状況から追加したものだ。
・魔法少女は変身中、その素性を秘匿できる。
・サポーターは魔法少女が変身中、小動物のようなマスコットキャラにその姿を変える。
以上十五項目のうち、ティアリエッタの陣営には適用されていない項目があった。
・サポーターだけがそのパートナーたる魔法少女のステータスを知り得る。(特殊能力含む)
おそらく勝敗を決定づけるほど重要な、儀式でのみ使用できる特殊能力。
自身のパートナーのそれが、まったくわからない。
そのため致命的とも呼べるほど、勝ち残るには不利な状況に陥ったのだ。
「そんなバグあるぅ?」
彼女と同じく魔法少女のサポーターに選ばれたアレクセイの話からすると、魔法少女が変身する前はステータスの確認ができないものの、変身後はサポーターの自由意思でステータスが表示されるそうだ。
今のところ可能性として考えられるのは二つ。
真っ先に思ったのは、自陣営にのみ現れた不具合である可能性だ。
この場合はこちらにできることは何もない。
システムの根幹にアクセスできる者に頼んで不具合を修正してもらう以外ないだろう。
(でもなあ、そうするとハルト君にメルちゃんのステータスを覗かれちゃうんだよなあ)
ハルトは卑怯者ではあるが、この手のイベントには妥協せず、意外にもルールに誠実なところがある。
もちろん気分次第ですぐにズルをする傾向もあるので油断できないが、わざわざ彼に言い訳を用意してやるのはもったいない。
そんなわけでティアリエッタは二つ目の可能性に賭けることにした。
パートナーたる魔法少女のステータスがまったく見えないのが不具合でないとしたら、考えられるもっとも有力な可能性はひとつだけだ。
ソファーでうとうとしているメルに声をかける。さっきまでお絵描きに熱中していたのか、ローテーブルの上には禍々しい大鎌を持つ愛らしい少女を描いた紙が放置されていた。
「メル君、魔法少女に変身してもらえるかな?」
寝ぼけ眼をティアリエッタに向け、褐色肌の少女はこくりとうなずいた。
片手を掲げると、どこからともなくブレスレットが装着される。黒色の宝石が輝いて、メルは黒を基調とした魔法少女の姿になり、さらに手足が伸びて成長した。
ついでにティアリエッタはまんまるタヌキに姿を変える。
「うん、やっぱりそうか」
今回もまた、彼女のステータスは見えなかった。
うっすらと半透明ウィンドウが表示されはするが、そこに何が表示されているかはまったく判別できない。
が、変身中も目を凝らしてステータス画面を表示すべく意識を集中していた。
すると衣装が完全に切り替わるそのタイミングで、一瞬だがステータス画面がくっきりと見えたのだ。あまりに瞬時だったので内容までは読み取れなかったが、たしかに。
「となればこれ、当たりだね」
可能性の二つ目。
この一瞬で『可能性』から『確定』に昇華した。
「メル君、キミって今、特殊能力を発動してるでしょ」
いまだステータスが見えないため詳細は不明だが、ステータスを隠す効果のある特殊能力を発動しているため、サポーターのティアリエッタにすら見えないのだ。
「てかこれが本当に特殊能力の効果だとしたら、どのみちショボすぎるような……」
落胆しつつも、ハタと気づく。
(そういえばメル君が成長した姿になったのは、一瞬だけステータス画面が見えた直後だったような……)
つまり特殊能力の発動後に、幼い姿から手足が伸びて今の姿になったのだ。
いやなんで? さらなる疑問が湧き上がるも、そもそも特殊能力の影響だとするなら確認すればいい。
サポーターに与えられた『特殊能力を停止できる』権限を発動してみた。
特別な術式を行使するのでもなく、ただ『解除~』などと考えただけで、
「おお、見えた見えた」
眼前にメルのステータス画面が表示された。と同時に、
「うん、やっぱり縮むんだね」
メルは魔法少女の衣装のまま、成長した姿から元の幼い少女に戻ってしまった。衣装も体の大きさに合わせて小さくなっている。
「うわ、魔法レベルがむちゃくちゃ上がっているじゃないか。まあ素のシャル君ほどじゃないけど……んんん?」
ここでようやくメルの特殊能力が明らかになった。
【特殊能力】『隠したいものを隠してやるぜぇ』
隠したいものを隠したいように隠す。隠せるものは発動中に三つまで。
なんだこれ? が第一印象。
三つが破格かは置いておき、変身直後に『ステータス』と『幼い姿』を隠しているから実質は一枠しかない。
(いや、もしかしたら『正体を隠す』でふたつに作用したとも考えられるか)
これは後ほど調べるとして。
もう一度、特殊能力の説明を読み返す。
やはり字面だけなら大した能力ではないように感じる。
(ん? 『字面』?)
その言葉に、ピンときた。
(そうだ。字面だけ見れば、とても簡素なものでしかない。それはすなわち、 字面にない条件は(・・・・・・・・) 定められていない(・・・・・・・・) ことを意味している)
もしこの仮説が正しいなら、自由度はかなり高まる。となればこの特殊能力、実はとてつもなく優秀なのでは?
(まずは検証、かな。ところで――)
最大の懸念は払拭されたかもしれず、ティアリエッタは心に余裕ができる。
ただ、新たに気になることもあった。
(特殊能力はたしか、その人の『願望や特徴的な資質などが強く反映される』のだったね)
メルには何か、隠したくてしかたのないことがあるのだろうか?
その結果がパートナーに対してもステータスを隠匿し、大人の姿に成り変わることなのだろうか。
(状況的には『正体を隠す』の現実味が高まったけど……)
魔物ひしめく迷宮の奥深くで保護された少女。素性はいまだ明らかになっておらず、記憶も失っている。
本来ならば自身の『正体』をこそ、知りたいと願うものではないのか?
(ま、今は詮索しないでおこう)
ティアリエッタは、不思議そうに見つめる褐色肌の魔法少女の頭をそっと撫でようとして、短い手が届かないと悟るのだった――。