軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意外な儀式の参加者

帝国皇帝ヴァジム・ズメイは静かに報告を受けていた。

広々とした謁見の間には彼と、王国へ出兵したはずの軍総司令の二人だけ。

総司令は震えを抑えられない。

跪き、事実をありのまま、ただ床を見つめて語り尽くした。

「なるほど、武具や糧食をすべて、か。たとえ二十万余の軍勢であっても、持たぬ食えぬでは戦えまい。退却も致し方なし、であろうな」

「あ、相手はとにかく不思議な魔法を操り、一時間足らずで残らず奪い去っていきました。また先遣隊の報告によれば、一撃で都市を丸ごと滅するほどの超破壊魔法を繰り出した、と」

「ほう、それほどの相手に対し、ただの一人も死ななかったのは、ふむ、そなたの手柄であろうか」

びくり、と総司令の肩が跳ねた。

「い、いえ、そのようなことは……」

冷や汗が鼻先からぽたぽたと床に落ちる。拭うことはもちろん、顔を上げれば即座に首が飛ぶと恐怖した。

「詳細な報告は後ほど文書でまとめて寄越せ。言い訳や他責の言葉はいらぬ。事実のみ、忠実に、過不足なく、書き留めよ」

「しょ、承知いたしました!」

総司令は額が床にくっつくほど平伏し、逃げるように謁見の間から出ていった。

沈黙は長らく、しかし唐突に破られる。

皇帝ヴァジムは凛と明瞭な声音を飛ばした。

「どう見る? 魔神の子(・・・・) よ」

「その呼び方はやめてください、と伝えましたよね?」

どこからともなく、少年の声がした。声変わり前の幼さを醸している。

そして声が聞こえた直後、先ほどまではたしかにいなかったはずなのに、ヴァジムの眼下に立つ者がひとり。

「でも、そうですね。実際に見てみないことにはなんとも。大勢の目を欺く術は、いくらでもありますから」

純白のスーツ姿が背伸びした印象を与える、およそ純朴に映る少年だ。

くすんだ灰色のショートボブは少女に見紛うほど。上品な顔立ちには愛らしさが香るも、金色の瞳は艶やかで妖しい。

「だがその実力が確かならば、ヴィーイ。 其方(そなた) と同じく〝神〟と呼ぶべき存在であろうな」

ヴァジムは以前から、神代の〝魔神〟復活を目論んでいた。

巨大な氷に埋まった少年を発見したのはひと月ほど前。

ルシファイラ教の信徒によれば魔神の素体に間違いないとのことだったが、何をやっても氷が溶かせない。

しかしほんの数日前――王国への侵攻軍が退却を余儀なくされたまさにその日に、突如として氷が割れ、中の少年が目を覚ましたのだ。

その少年――ヴィーイは淑やかにくすくす笑う。

「もしそうなら、ただの〝神〟ではないですよ。自分と同じ、〝三主神〟クラスで間違いありませんね」

「ふむ、神話の時代にこの世界を統治していた三柱の〝神〟か。目覚めたばかりでその 権能(ちから) の大半を失った其方と異なり、 神代(かつて) の権能をほぼ取り戻しておる、ということか」

「完全に、ではないでしょうけれどね。もっとも、それほどの力があるならその正体は絞られます。〝神殺し〟だとすれば厄介ですけれど……いえ、自分からすれば他の二柱はいずれも致命的に相性が悪いですから、どちらにせよ厄介この上ありません」

肩をすくめて見せるも、ヴィーイは笑みを浮かべたまま。

「でもやはり、実力で帝国軍二十万余りを退けたとは思えません。大方……ええっと、今はユリヤ、という名でしたか。彼女がなんらかの策を弄したのでしょう。その特性は〝空間操作〟ですから、幻影くらいはやれそうですしね」

「 彼奴(きゃつ) め、余を裏切ったのか」

ヴァジムは怒りを露わにするも、ヴィーイは涼やかになだめる。

「怒るだけ無意味ですよ。彼女に仲間意識なんて始めからありません。他者は等しく『自分以外の 何か(・・) 』であって、自身が楽しむためのオモチャでしかないですから。貴方にすれば『便利な駒』をひとつ失ったとの意味で痛くはありますけれどね」

「ふん、では其方も似たようなものか。同じ〝三主神〟なのだろう?」

「自分は義理堅い方ですけれどね。もっとも人間味がある、とでも言いましょうか。すくなくとも貴方の協力なくして完全なる復活はあり得ませんから、敵対する理由はないですね」

「余は他者の自己評価を鵜呑みにはせぬよ」

「それで構いません。今は互いに協力しなければならない点で一致していますからね」

そう、とヴィーイはほんのわずか笑みを薄れさせて決意を口にする。

「せっかくこの世に再び顕現できたのです。自分はどうしても完全に力を取り戻し、かつて叶わなかった〝悲願〟を成就させたいと――」

切に願った――次の瞬間。

「む?」

「これは――?」

二人のちょうど中間地点に、金属質のブレスレットが突如として現れた。ゆっくりと回転するそれには、白い宝石が埋めこまれている。

ヴィーイは警戒しつつ近寄っていく。

「とてつもない魔力を感じますね。特殊な用途の魔法具に思えますけれど――っ!?」

足を止めようとした直前、ブレスレットが強烈に輝いた。目を細めるのを耐え、何かしらの攻撃に備えてすべての意識を注ぎこむ。

瞬きもせず凝視していたはずだった。

逆に周囲への注意が散漫であったとしても、ブレスレットに対してわずかな変化も見落とすはずがなかったのに。

(そんなバカな。いつの間に……?)

消えた。そう感じたと同時。ブレスレットは自身の腕に嵌められていたのだ。白い宝石が妖しく光る。

加えて自身の服が変わっていた。白いフリルの付いた装束は女性のものだ。

不思議な現象はこれに留まらない。

「くっ、なんだこれは!?」

この場にいたもう一人。

ヴァジムの怒鳴り声に顔を向ければ、彼の首元には白いチョーカーが付けられていた。その姿が珍妙なものに変わったのも不可思議な現象の一端だろう。

玉座で苦々しい顔つきの彼は威厳ある皇帝とは似ても似つかない。

そんな彼を隠すように、半透明のウィンドウが現れた。

「へえ……、ねえヴァジム。貴方には見えていますか? 目の前の、この説明文が」

羅列した文字を読み進めて理解する。と同時に、ヴィーイは心を震わせた。

(間違いありません。これは自分たち〝三主神〟でさえ諦めた、究極の願望機をこの世に現す大魔法儀式です)

半透明ウィンドウには、儀式のルールが事細かく記されていた。

その全体像は同じながら、細かな変更が見て取れる。それがどれだけ影響を及ぼすのか、今は未知数だ。

(いったい誰が――いえ、どんな連中が試みているのか知りませんけれど)

復活した早々、とてつもない絶好の機会が巡ってきたらしい。

ユリヤも、仮に生きているなら〝神殺し〟もまとめて排除して、

(今度こそ、世界を我が手につかみましょうか)

ヴィーイは歓喜に酔いしれるのだった――。

【現在の儀式参加者】※()内は宝石の色

[魔法少女] |[サポーター]

・シャルロッテ(ピンク) | ??

・メル(黒) | ティアリエッタ

・ユリヤ(金) | ウラニス

・テレジア(紫) | アレクセイ

・ライアス(緑) | マリアンヌ

・イリスフィリア(青) | ハルト

・ヴィーイ(白) | ヴァジム(帝国皇帝)

残り0枠――(?)