軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

血のつながりは重要? じゃない?

かぽーんと、鹿威しの音が湯殿に響く。

「ふわ~~」(シャルロッテの気持ちよさそうな声)

「ふぅ……」(イリスフィリアの恍惚な吐息)

「はぁ……」(マリアンヌの艶やかなため息)

「ぶくぶくぶくぶくぶく……」(フレイの沈む音)

滝行の場にいた女子四人組は、蒼天の下で露天風呂に浸かっていた。

板の壁で仕切った向こう側にはハルトとライアスもいる。ちなみにハルトは左胸の王紋を隠してある。抜かりはなかった。

マリアンヌは初めて野外で湯に浸かる行為に当初は躊躇っていたものの、他の三人があけっぴろげなので意を決した。

「いい湯加減ですね。それに、なんだか肌がつるつるしたように感じます」

わずかに白濁した湯からしなやかな腕を出し、もう一方の手で撫でつける。

シャルロッテはその所作を、ではなく、王女の胸元をガン見していた。やはり浮くのか、と。

一方でこの二人は気づいていないが、沈むものもあるようで。

「ちょ、フレイ、大丈夫なのか?」

イリスフィリアは底に沈んだフレイを引っ張り上げ、風呂の縁に持たれかけさせる。

ここでもシャルロッテはガン見である。

両者のたわわに実った果実が、重力に弄ばれてぷるんぷるん。

(母上さまだって負けてはいません。いつかわたくしも母上さまのように……)

でも、しかし、と。

自身のちんまい胸部を手で押さえ、果たして自分があの領域に到達できるのかと震え慄く。

ぶんぶんと首を横に振り、嫌な考えを頭から払い飛ばす。

そうしてしばらく湯に蕩け、ほんわかしたままキリリと言った。

「さて皆さまに、というかマリアンヌ王女とライアス王子にお伝えしたいことがあります」

名指しされたマリアンヌが表情を引き締める。

「学院は今、裏生徒会的な組織が暗躍しています。ピンチなのです」

「は?」

「……」

マリアンヌは頓狂な声を上げ、板の壁の向こうから呆れた雰囲気が流れてきた。

「あの……シャルロッテちゃん? 裏生徒会とはどのような……?」

「はい、実は〝ナンバーズ〟なる学生集団が表の生徒会を転覆させて学院を乗っ取ろうとしているのです!」

「えっ」

「何っ」

「そして彼らを裏で操る闇の巨大組織がいるのです。それこそ魔神さんを復活させて世を支配しようと企む、ルシファイラ教団なのです!」

「ッ!?」

「ッ!?」

最初こそ意味をつかみかねていたマリアンヌとライアスだったが、教団の名が示されては妄想と切って捨てるわけにはいかなかった。

ちなみに魔神がどうとかはハルトがいつかちょろっと口を滑らせてしまったのだが、シャルロッテはわずかな情報で教団の真の目的にまで想像を膨らませていた。

「魔神、とはなんなのでしょうか?」

「神話時代の闇落ちした神さまです。とても悪いのです」

衝撃を受けたのは、特にライアスだった。

板の壁を隔てた向こう側の声を拾い(ハルトがちょっと声を大きくする結界を張っていた)、湯に浸かりながらわなわなと震える。

「まさか、母上が……」

魔神なんて不確かなものはさておき、母王妃ギーゼロッテは教団に資金援助しているとの噂が絶えない。

教団が世の支配を目論んでいるのなら、母はそれを利用して王国を乗っ取ろうとの意図が透けて見えた。

「お、おいシャルロッテ。お前は、何をやろうとしてんだよ?」

「まずはナンバーズの正体を暴き、彼らを改心させます。悪いことはしちゃダメですので」

「それから?」

「その時点で教団は気づくでしょう。我らキャメロットの存在を!」

「そういうのはいい。お前らまさか、教団とも事を構えようってんじゃないだろうな?」

隣にいるハルトに目をやる。

ハルトは我関せずとほんわか湯に浸かっていた。

シャルロッテが元気に応じる。

「もちろんです! 一説によれば先の王都騒乱事件も教団が主導したものだとか。これ以上の悪事は見過ごせませんので!」

「マジかよ……」

信じたくはなかった。

しかしシャルロッテの話がまったくの嘘偽り、妄言の類でないと理解できてしまう。

王都騒乱事件では、ライアス本人も窮地に陥った。一歩間違えればエルダー・グールに噛みつかれ、生きる屍と化していたのだ。

仮に母も関与していたとしたら、息子が危険を回避する手立てを何も用意していなかったことになる。

いや、もしかしたら――。

(あのとき、姉貴と一緒に僕も排除しようとしていたのか……?)

母とは生まれてこの方、ふつうの親子のように接したことがなかった。

自分が次の国王となり、母はその後ろ盾として君臨する。そのための駒に過ぎないのでは、との疑念はずっと付きまとってきた。

(僕は、もはや駒ですらないのか……)

ライアスはぎりと奥歯を噛んだ。

一方の女湯では。

「な、なにやらシリアスな雰囲気がビシバシあちらの湯から放たれているような気がしますけどこれは!?」

シャルロッテがおろおろしていた。

マリアンヌが躊躇いがちに言う。

「教団には、ギーゼロッテ王妃様が資金援助をしているとの憶測が流れています。王宮にいる私の感じからしても、そうなのだろう、と」

「ふへ?」

驚くシャルロッテに代わりイリスフィリアが応えた。

「となれば必然、いつかは閃光姫と相まみえることになるだろうね」

「ふわわぁ……」

状況次第では実の親子が殺し合う。

「そそそういう展開はアニメでもよくありますけど、げ、現実になってしまったらあわわわ……」

唐突なシリアス難問に、シャルロッテの頭がオーバーヒートしかけたそのとき。

「いいんじゃないの、別に」

ハルトがのほほんと言い放つ。

「血のつながりなんて些細なことだろ。立ちふさがった敵がたまたま実の親だったってだけだ。遠慮なくぶっ潰せばいい」

ライアスはハルトに視線を移す。

湯に浸かっていい気分な蕩けた顔ながら、その言葉には得も言われぬ〝力〟が込められているように思えた。

ハルトの出自はいまいち定かではない。

ゼンフィス辺境伯が『平民の孤児を引き取った』と語ったにすぎないのだ。

もしかしたらハルトの言葉は、実体験から来たものかもしれない。

それが事実であろうが、事実でなかろうが。

「ああ、そうだな」

ハルトの言葉はライアスに力を与えた。

このところの母は以前にも増して様子がおかしい。

妙な首輪を嵌めた五年前からずっとイライラしていたのに、最近は気持ち悪いほど陽気になっていた。

何かを企んでいる。もしかしたらすでに事を始めているのかも。

いずれにせよ、王国に仇なす所業であるのはもはや疑いようがない。

訣別のときだ。

「相手が母上だろうと、国を乱すってんなら僕が始末してやる」

「いやお前じゃ無理でしょ。実力的に」

「そこはさらっと流してくれよ!」

とにもかくにも、キャメロットに王女と王子まで参加する運びとなった。

(さて、俺はどうするかね……)

面倒臭いが妹には楽しんでもらいたい。

ハルトはいい湯に蕩けながら、次なる策を練るのだった――。