作品タイトル不明
七大魔将『破虎』ビャッコ⑥/野生王国
乾いた空気、熱気、そしてどこまでも続く荒野。
ラストワンたちは、ビャッコが展開した『 野生王国(サバンナ) 』に巻き込まれた。そして、大きな樹の下に集まり、ラスティスとビャッコの戦いを見ていた。
ラスティスが来たおかげで、怪我の手当をする余裕もできた。
「フルーレさん、大丈夫ですか?」
「……七大剣聖は引退かしらね」
エミネムは心配そうにする。
腕を噛み千切られ、隻腕となったフルーレ。ショックが強いが、絶望はしていない。
サティも、『臨解』を乗り越えたが、全く身体が動かせなかった。
「うぅ、動けない……首から下が存在しないみたいです」
「『臨解』を使えばそうなるの。いい? あなたも真に『神スキル』を使うことができるようになったけど、絶対に『臨解』を使わないように。発動時間は短いし、使った後は今みたいに指一本動かせないから」
「は、はい……」
アナスタシアに言われ、サティは頷く……頷くだけでも相当な苦労だった。
ラストワンは、大きく息を吐いた。
「よし。少し休めた……オレはこのまま、ラスの援護に行く。アナスタシア、お前はサティたちを守ってろ」
「……冗談よね」
「本気だ。ラスの野郎、ブチ切れてやがる……あいつの『閃牙』は冷静にならないと真の切れ味が発揮できねぇ」
「でも、今私たちが参戦しても、足手まといよ。連戦の疲労もあったけど……ううん、万全の状態でも『七大魔将』と戦うには力不足。参戦するなら、団長かランスロット……」
「領域内だぞ。もう出れねぇし、ラスがビャッコを倒すしかねぇ。だったら、少しでも勝率上げるために、盾でも何でもやってやるさ」
「あなた、死ぬつもり?」
「生きるために、命賭けるんだよ」
ラストワンは曲刀を両手に持ち、クルクル回転させる。
腕が痛むのかぎこちない……すると、サティが言う。
「あの、師匠は大丈夫だと思います!!」
「あ?」
「師匠は最強です。だから、私たちはしっかり休むべきです!! しっかり休んで、万全になったら、皆さんで援護に行きましょう!!」
「「…………」」
サティの言葉に、ラストワンもアナスタシアも冷静になった。
先の先を見ている。ラスが勝つことを疑っていない。
そして、ラストワンは座った。
「そーだな。よし、休むか……悪いな、サティ」
「いえいえ。というか、動けない私が言うことじゃないですけどね……あはは」
「ほら、顔拭くわよ」
「んあ……気持ちいいです」
アナスタシアに顔を拭かれ、サティは顔を綻ばせた。
「……次の七大剣聖、か」
フルーレはそう呟き、サティを見るのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「『閃牙』───……『 顎(あぎと) 』!!」
「効かねぇ!!」
俺の『顎』を、上段打ち下ろしと下段突き上げを同時に放つ技が、防がれ……いや、斬撃は通っているが、一瞬で回復した。
斬ると同時に治癒。こんなのあり得ないだろうが。
「ははッ!! 綺麗な斬撃だぁ!! 治るのも速いぜ!!」
ビャッコが迫ってくる。
拳を握り、人間ではあり得ないほど大きな腕力を持った拳が放たれる。
「くっ……『開眼』」
俺の『開眼』は、動きを見る。
筋肉の動きを見て、全体的にどう動くかを先読みするんだが……先読みしても、爆発的な身体能力のせいで、先読みと現実のタイムラグがほとんどない。
速すぎる。拳を放つだけの速度なら、ルプスレクスの遥か上だ。
俺は、ビャッコの拳を辛うじて躱す。
「いいね、じゃあこれはどうよ!!」
ビャッコは態勢を低くすると、拳を地面スレスレに向かってアッパーを放った。
「『 爆岩弾(ばくがんだん) 』!!」
「!!」
地面が砕け、細かな岩や礫が飛んで来る。
俺は『閃牙』で斬り払う。
「飛び道具は効かねぇな。まあ、殴る方が楽しいぜ!!」
「この、単細胞野郎……ッ!!」
こいつは猛獣だ。
技もクソもない。接近し、バカげた腕力でただ殴る。
それが、こうも恐ろしい。見切る『眼』がなかったら、マジで殴り殺されている。
ビャッコは速い。そして───その速さは、どんどん上がっていく。
「テンション上げるぜ? ついてこいよルプスレクス殺し!!」
「───っ!!」
まずい。
『開眼』で見る先読みと現実の動きのタイムラグが完全に消えた。
あり得ない。クソ……そうだよな、俺が相手してるのは『七大魔将』なんだ。上級魔族が束になっても敵わない、魔族最強の七人、そのうちの一人なんだ。
でも───……俺は、負けるわけにはいかない。
「来やがれ。何度も何度も斬って斬って斬りまくってやるからよ!!」
俺は目を閉じる。
「『大開眼』!!」
先読みじゃない。『大開眼』は結果を見る眼。
昔ならともかく、今の俺に連続使用は厳しい……だが、『大開眼』ならビャッコに付いていける。
放たれた拳がどのような結果になるか。
真っすぐ放たれる。アッパーカットになる。フックになる。
筋肉の動きから、拳が放たれてどのような『結果』を引き起こすのか、『大開眼』なら見える。
唯一の救い……それは、こいつが両拳を使った格闘しか仕掛けてこないことだ。必ず拳で来るから、拳に注視すれば躱せる。
「『閃牙・ 乱(みだれ) 』!!」
「おお!?」
拳が放たれると同時に、俺はビャッコの懐に潜り込んで一閃。右腕を肘から両断する。
一瞬でくっつくなら───……斬った瞬間、腕を吹き飛ばす。
斬撃が腕に食い込んだ瞬間、刀身を回転させ腕を回転に巻き込むように斬る。すると、ビャッコの右腕は吹き飛んだ。
すると───吹っ飛んだ腕が空中で止まり、ビャッコの腕の断面に向かって飛び、再びくっついた。
「いい考えだったぜ。でも無駄……オレの身体はバラバラにされても、一か所に集まるのさ」
「……反則だろ」
ビャッコはゲラゲラ笑う。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「お、息切れか? ンだよ、人間ってのはすぐ疲れやがる……休みが希望か?」
「やかましい。クソ……」
ビャッコの言う通りだ。
俺は人間。体力だって無尽蔵じゃない……ビャッコは汗すら掻かず、口笛を吹いていやがる。
なんとか、呼吸を整えて───……。
「へいへい、隙だらけだぜ」
「!?」
速い。
一瞬で懐に潜り込まれた。
しまった、防御───……。
「───っぐ、っぁ!?」
鞘で防御したが、衝撃を完全に殺せなかった。
鞘で受けると同時に後ろに飛んだが、それでも鞘ごと殴られ、呼吸が止まりそうになった。
「っが……」
「オイオイ。ギアを上げただけだぜ? まさかと思うけどよ……オレの限界速度があの程度とでも?」
「……っぐ」
「それに、忘れてんのか? お前は今、オレの 理想領域(ユートピア) にいるんだぜ? ま、退屈だしネタバレしてやる。オレの領域内では、オレの身体能力が時間経過で上昇していく。さらに、その強化に上限はない……すげえだろ? 理想領域(ユートピア) を展開するだけで、オレは最強になるんだ。魔王だろうと敵じゃねぇ、無敵の力なんだよ」
「……無敵」
「そう、無敵だ!!」
ビャッコは両手を広げ、どこまでも楽しそうに笑う。
俺は胸の痛みから咳き込む……すると、驚くほどの血を吐いた。あー……こりゃ、内臓もいくつか傷付いてやがるな。
「さあ、ルプスレクス殺し!! まだまだルプスレクスの強さはそんなモンじゃなかったぜ!!」
「……なあ、一個いいか?」
「あ? 別にいいが、時間経過するとお前はますます不利になるぜ?」
「……お前、なんで俺のこと、ずっとルプスレクス殺しって言うんだ? お前……もしかして、まだルプスレクスにビビッてんのか?」
「……あ?」
俺は、賭けに出ることにした。
「俺は名乗った。お前は獣みたいなやつだが、闘士として礼儀あるヤツだと思ってた。でも……お前は、頑なに俺の名前を呼ばない。もしかしてお前、ルプスレクスを殺した俺を倒すことで、ルプスレクスへの恐怖を消そうとしてんのか?」
俺は、適当に思ったことを言う。
別に、こいつが闘士だなんて思ってないし、恐怖云々もそれっぽく言ってるだけ。
でも、ビャッコの顔色が変わった。
「オレが怯えてる? 無敵のオレが?」
「ルプスレクス、ルプスレクス、ルプスレクス……お前、今日何回ルプスレクスって言った? ルプスレクスはもういない。それなのに、お前はずっと拘ってる……お前は、怯えてるんだ。違うか?」
「……ンだと、てめぇ」
「安心した。お前の中にいるルプスレクスは、未だにお前の中で絶対的なんだな。じゃあなおさら、俺はお前に負けるわけにはいかない……ってか、負けないけどな」
「…………」
いい顔だ。キレそうになっている。
適当に言葉を並べたが、あながち間違ってなさそうだ。
こいつの中にいる『冥狼ルプスレクス』は、こいつよりも強い。
だからこそ、ルプスレクスを殺した俺に拘っている。
「来いよ、ケリ付けようぜ。俺の最強の斬撃で、テメェを屠る」
「……いいぜ」
ビャッコは両手を交差し、拳を握りこむ。
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ───っ!!」
すると、全身に体毛が生え、身体が巨大化していく。
目の色が変わり、四つん這いになり……骨格が代わっていく。
巨大化。その姿は、人間ではなく───『白い虎』だ。
全長四十メートル。高さも二十メートル以上ある。
純白の体毛、漆黒の斑模様。深紅の瞳。怒りで毛が逆立ち、俺に向かって威嚇する。
『やってみろルプスレクス殺し!! テメェは、この姿で殺し喰らう!!』
「あー……」
とんでもない威圧感。
この姿を見るのは二度目だ。
七大魔将のみが使うことのできる、魂に宿った魔獣の解放……『 完全獣化(オーバービースト) 』だ。
「あー……マズったなあ」
怒らせれば、雑に突っ込んでくると思った。
でも、ルプスレクスに対するこいつの想いを侮っていた。
まさか、完全獣化を使うとは……この威圧感、俺は確信してしまった。
「……死ぬな、こりゃ」
俺の切り札。最強である三つの斬撃。
「『 色即是空(しきそくぜくう) 』じゃ無理、あとの二つ……どっちも厳しいな。はは、やっちまった……ごめん、みんな」
死ぬ。
七大魔将を侮っていた。
ビャッコの力は『 理想領域(ユートピア) 』によって今も高まっているし、『 完全獣化(オーバービースト) 』によって力を完全開放している。
ちっぽけな、七大剣聖の中でも脇役である俺に、どうこうできるわけがない。
やっべ……俺、もう諦めそうになってる。なんだか力が入らねぇわ。
『ガァルルルォォォォォォァァァァァ!!』
「…………」
ただの咆哮で地面が砕け、俺も吹き飛ばされそうになった。
絶望的な体格差だ。ちっぽけな刀一本で、どうにかできる相手じゃ───。
「し、ししょう……!!」
「は?」
俺の隣に、サティが立っていた。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……て、手を貸します!! 何を、すれ、ば……」
「いやいやいやいや!! おま、なんで!? ってか立てるのか!?」
「気合です!!」
「……えっと」
嘘だろ。サティ、『臨解』を使って力をフル解放したばかりだぞ!? 立つなんて絶対に無理だし、剣を構えるとか奇跡!! 気合とか馬鹿か!?
「わり、まさか立てるとは」
「若いっていいわね」
「おま、ラストワン、アナスタシア!?」
ラストワンとアナスタシアが、剣を構えて俺の隣に。
「片手でも、剣は持てる。神スキルも使えるわ」
「ラスティス様、ご指示を!!」
「フル-レ、エミネム!? お前らまで……」
フル-レは片手で剣を構え、エミネムは槍を構える。
なんで、こいつらが。
「悪い、ラス。お前にだけやらせるとか、あり得ないよな」
「ラストワン……」
「最後まで一緒に戦うわ。ね、先生」
「アナスタシア……先生とか、いつの呼び方だよ」
「たぶん、一撃で限界……あとはよろしくね」
「フル-レ……」
「ラスティス様、ともに戦えて幸栄でした!!」
「エミネム……お前も」
全員、気付いてる。
俺が勝てないと、だからこそ、共に戦おうとしている。
でも───……一人だけ、違った。
「師匠、みんなでやればきっと勝てます!! ラクタパクシャさんも、きっと───!!」
「…………」
サティ。
ボロボロのくせに、勝ちを確信している。
その姿がまぶしく───俺は、泣きそうになってしまった。
でも、泣かない。
ああ、そうだ。俺はこいつの師匠だ。
サティだけじゃない。ラストワンも、アナスタシアも、フル-レも、エミネムも、みんな俺の教えを受けた、俺の大事な弟子たちだ。
「ははっ……そうだな。ああ、そうだ!! サティ、勝つぞ!!」
「はい!!」
「でも───俺はお前の師匠だからな、カッコいいところ、見せてやるよ」
「───はい!!」
俺はみんなから一歩前に出る。そして、『冥狼斬月』の柄に手を添え、半身で構えた。
『ゴァァァァァァァァァァァァァ!!』
ビャッコが飛び掛かってくる。
俺は目を閉じる。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
『そう。今こそ───僕と君の『牙』を、合わせる時だ』
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
頭の中で、声が聞こえた。
抜刀状態のまま、俺は自然と口を動かしていた。
「『 抜刀(ばっとう) 』」
『冥狼斬月』を抜刀した瞬間───俺の全身が、温かく、清らかな力に包み込まれた。
灰銀に輝く全身鎧。狼を模した兜。巨大な鉄の尾───異形に包まれたが、違和感はない。
そして、輝きを増した『冥狼斬月』による斬撃が放たれる。
「永久の誘い───『 燐音天消(りんねてんしょう) 』」
九千九百九十九の斬撃を、一撃で放つ奥義。
生身で使うと一か月は腕が上がらなくなる二番目の奥義。だが……この鎧姿なら使える気がした。
案の定、痛みはない。むしろ連発できそうだ。
『はっ、すげえ斬撃だが、オレを……マジかよ!?』
だが、ビャッコは回復した。
でも……右前足が、チリとなって消えた。
『さ、再生しねぇ!? 嘘だろ、テメェ……なんだその姿は!!』
「俺もびっくり。ははっ……お前の大嫌いなルプスレクスが、力くれたんだ」
『な、なんだと……!?』
「し、師匠……」
「大丈夫。あとは、俺に任せておけ」
鎧は暖かい。
物理的な意味もだし、精神的な意味でもだ。
俺は、ビャッコに向けて刀を向けた。
「さあ、ここからが本当の勝負……いや、幕引きだ!!」
さあいこう、ルプスレクス。
この『 冥狼斬月(めいろうざんげつ) ・ 夜叉神鎧武(やしゃじんがいむ) 』の力で、共に!!