軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

茶番

思えばずいぶん長かった。怪しい依頼の調査から始まった盗賊と盗品を追うという依頼が、ようやく終わった。王城に報告して報酬を貰えばこの依頼は完了だ。

しかし、今日は報告しないほうがいいと思う。今も盗品市の中では兵士が大暴れしていて、参加者たちが続々と逮捕されている。今日の王城は忙しいだろうからなあ。

後始末を兵士たちに丸投げし、エルミンスールに帰ってきた。と同時に、転写機が震えた。相手は王だ。要件は察しが付くが、一応読んでみるか。

「どうしました?」

「出頭命令だよ。どうせ例のアホ貴族の件だろう。明日、朝イチで来いってさ。行ってくるよ」

「あ、お待ち下さい。私も行きます」

ルナが手を挙げ、リリィさんがそれに続く。

「いや、今回は全員で行くべきだろう。多少なりとも全員が関わった案件だからな」

たしかに、今回の件はルナとリリィさんが深く関わっている。クレアとリーズも盗品市に同行している。というか、現場の全体を監視していたのはクレアとリーズだ。この2人の証言も必要だな。

「それもそうか。了解だ」

夜が明けて、朝食を済ませたらすぐに出発する。

今日もいつもの部屋に転移……というわけにはいかないようだ。転写機には、正規の手順で訪問するよう念を押す文章が記載されていた。

正規の手順ということは、王城の正門から入って謁見の間に向かえ、ということだろう。城門の門番は顔見知りなので、身分証を見せることなく顔パスで入れる。適当に挨拶をして城の中に入り、そのまま歩いて謁見の間へと移動する。

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

城の廊下を歩いていると、文官らしきおっさんが話しかけてきた。案内など無くても迷わないのだが、素直に従う。言われるがまま進んで謁見の間に入った。正規の手順なのに待ち時間ゼロか……珍しいな。

「騎士コーが参られました」

文官らしきおっさんは、そう言って片膝をついて頭を下げた。見慣れない挨拶だが、俺も真似をすればいいのかな……?

腕を組んで迷っていると、王が偉そうに言う。

「よい。事の顛末を説明せよ」

奇妙な挨拶は必要ないようだ。作法がわからないから助かる。

「まず聞く。諸君らはなぜあの場に居合わせた?」

質問したのは王ではなく、王の斜め前に立つ豪華な服を着た無表情なおっさん。様子を見る限り、今日の謁見は裁判のようなものなんじゃないかと思う。で、この無表情なおっさんは裁判官なんじゃないだろうか。

ボナンザさんのことを言うと面倒が増えそうだし、スマホやマップの魔道具は明かしたくないし……さて、どう答えるか。

「盗品の行方を追って、偶然行き着いただけだ。何か問題あるか?」

「それにしては、ずいぶんと長居したのではないか? 盗品の一部を手に入れるつもりだったのではないか?」

おお、痛いところは突かれなかったぞ。これなら答えやすい。

「購入者を記録していたんだよ。誰が何を買ったか、すべて記録してある。調査のために必要なら、あとでまとめて提出するぞ」

「ふむ……」

無表情なおっさんは、顎に手を当てて押し黙った。

しかし、若干俺も疑われているように感じるぞ。気に入らないな。

「首謀者は逮捕されたんじゃないのか?」

黒幕はドゥーリン子爵で間違いない。物的証拠は無いが、そう判断するに十分すぎるほどの状況証拠が出ている。

「一貫して無罪を主張している。それどころか、不当逮捕と騎士コーの越権行為を訴えているよ」

マジかよ。いくらなんでも無理すぎだろ。どう言い逃れするつもりなんだよ。

「騎士コーの言い分はわかった。ドゥーリン子爵の意見も聞かねばなるまい」

俺が呆れて口を開けなくなったところで、王が口を挟んだ。どうでもいいけど、今日の俺は騎士相当の身分として呼ばれているみたいだな。マジでどうでもいいけど。

しばらく待つと、数人の兵士に囲まれたドゥーリン子爵が現れた。

「ではドゥーリン子爵に問う。貴殿はなぜあの場に居合わせた?」

裁判官による尋問が始まる。ドゥーリンの無理やりな言い訳を聞かせてもらおうじゃないか。

「盗品の調査にございます。あの者らの邪魔がなければ、全員逮捕してみせたはずです」

ドゥーリンは、顔色ひとつ変えずにスラスラと答える。事前に準備していたかのようだ。

「あの市をバーナード商会が仕切っていたことは調べがついている。お主の親族が運営している商会であろう?」

「いやはや、まさか親族で犯罪に手を染める者が居るとは。私も驚いているところです」

なるほど、そう来たか。

「貴殿は商人ギルドの管理を任せられていた。それでも気付かなかったと申すか?」

「会頭は優秀な商人だと思っていましたが、まさか犯罪隠しまで優秀であったとは。人はわからぬものです」

酷い言い訳だな……。この芝居がかった態度にも腹が立つ。

「では質問を変える。貴殿があの市を仕切っていたという証言があるが、これはどういうことだ?」

「わかりません。すべてそのコーという男の差し金でしょう。私を陥れようとしているのです」

え? ちょっと待って? こいつ、俺に罪をなすりつけて逃げ切るつもりなの? いや、思えば最初に会ったときからそのつもりだったのだろう。こいつは俺が盗品を持ち逃げしたと騒いでいたからなあ。俺も口を挟んだほうが良さそうだ。

「だったら、盗賊が使っていた魔道具はどうなんだ? 素人に扱えるようなものじゃなかったはずだ」

ドゥーリンにとっては痛いところだったのか、顔を強張らせて声を荒らげた。

「知らんものは知らん! 結界を解除したのは貴様ららしいな! 貴様らが盗賊に使い方を教えたんじゃないのか!?」

おお、ついにボロが出たな。もう少し突っついてみよう。

「あれ? どうして盗賊が新型の結界を使っていたことを知っているんだ?」

「ぬぇっ? それは……調査で知ったのだ。私が作らせた魔道具が盗まれたのだから、調査するのは当然だろう」

もっともらしい言い訳だ。どう返そうか……考えているうちに、裁判官が質問をする。

「その魔道具は盗品市で使用された結界と同じであろう。それはどういうことだ?」

「私がバーナードに貸与したものです。まさか悪用されるとは思いませんでしたので。申し訳ございません」

ドゥーリンは、目を泳がせながら答えた。冷静を装っているが、かなり動揺しているのだろう。すると、次はルナが恐る恐る手を挙げた。

「あの……1つよろしいでしょうか」

「申せ」

「それを作った職人さんは、 一(・) 度(・) に(・) すべての試作品を送ったそうです。盗まれたのであれば、ドゥーリン子爵の手元にあるのはおかしいですよね?」

ああ、こうなってみるとわかる。あの結界はドゥーリンにとっての急所だったんだな。

ドゥーリンの今の返答が悪かったわけじゃない。例えば『すべて盗まれた』と答えたとすると、バーナード商会が結界を使っている時点で商会と盗賊の関係に気付かなければならない。どう答えても詰みだ。

「え? いや、嘘をつくな! 私は知らんぞ!」

ドゥーリンはまだしらを切ろうとしているが、ドゥーリンに耳を貸す人はもう誰も居ないだろう。

「陛下、ご判断を」

「うむ。ドゥーリン子爵が盗賊を利用し、私腹を肥やしていたことは一目瞭然である。ドゥーリン子爵家は取り潰し。余罪があるであろうから、引き続き調査せよ」

ようやく全容が見えたな。盗賊を操っていたのはドゥーリン子爵だ。窓口はバーナード商会。こいつらが盗品を売りさばいていた。連中がなかなか捕まらなかったのは、ドゥーリンが裏でもみ消していたからだろう。商人ギルドを管理していたからできることだ。

「はっ! 本日の謁見はこれにて終了だ。騎士コー、ご苦労であった。下がれ」

何だったんだ、この謁見は。ドゥーリンを逮捕するためだけに行われた茶番じゃなか。変なものに付き合せやがって。

「帰っていいの?」

文官のおじさんに訊く。

「いえ、コー様はこちらにどうぞ」

まだ帰れないらしい。案内されるまま進むと、王が待ち構えるいつもの部屋に通された。

「ご苦労であった。座るが良い」

「言われなくても座るけど……変な茶番に付き合わせるなよ。時給を請求するぞ」

「むっ……すまぬ。其方らを疑う気は無いのだが、ああしないと納得せぬ者もおるのだよ。貴族を逮捕するというのは本当に面倒なことなのだ」

王は気まずそうに答えた。貴族を逮捕する手順として必要なものだったらしい。

「まあいいよ、報酬さえ貰えるんならな」

「うむ。今回の報酬であるが、約束の金に加えてルナとリリィへの報酬もある」

ルナとリリィさんは、別件で魔導院と兵士に協力していた。俺が受けた依頼とは違う内容だったため、俺はそっちには一切関わっていない。

「ああ、それは俺は関係ないな。2人と直接交渉してくれ」

「え? 一緒でいいですよ?」

ルナが慌てて否定するが、2人が個人的に受けた仕事だ。俺が受け取るのはおかしい。

「いやいや、そうはいかないよ。魔導院に協力した分は2人の仕事なんだから。金貨100枚くらいでいい?」

「えっ? 高すぎ……」

ルナが声をつまらせると、王が威勢よく声を出した。

「いや、良いだろう。金貨100枚、承知した」

「話が早くて助かるよ。1人あたり100枚、合わせて200枚ね」

「ぬっ……! 違っ……」

おいおい、さっきの威勢はどこに行った?

「いやあ、王が太っ腹ってのはいいね。最高だよ」

「むぅぅ……余の言葉に二言はない! 合わせて200枚、支払おうではないか!」

若干ヤケになってる? まあ、貰えるものは貰うけど。

「そっちは2人に直接払ってね。パーティの報酬とは別に」

「わかっておる。それと、コーへの報酬であるが」

こっちも先手を打とう。王の言葉を遮った。

「盗品は全部回収できたんだよな? それと首謀者の逮捕。その分の上乗せもよろしく。関係者は山程居るから、多少割り引きしてもいいよ」

「……まさか、競売に参加した全員の分まで請求する気か?」

「え? まさか払わないつもり? 苦労して参加者全員分の情報まで手に入れたのに? マジ?」

当初の予定では、盗賊の情報が100枚、首謀者が200枚、関係者が1人あたり50枚だった。それに加え、追加調査費が20枚と追加の情報料、盗品回収の報酬がある。オークションの様子を見るに、盗品回収の報酬だけで数百枚になるだろう。

まともに計算したら、今回の報酬はたぶん金貨3000枚以上になると思う。これはさすがに貰いすぎだ。1000枚くらい貰えれば十分かな。

「えぇい! わかった! ただし!! 報酬はすべて合わせて金貨1500枚! これ以上は出せぬぞ!」

おお、思ったより高額だ。承諾しよう。

「ああ、俺の分は問題ない。ルナとリリィさんの分を合わせて、合計で1700枚だな」

「いや……え? すべて合わせて……」

「ん? 何か言ったか?」

おや、ルナたちの分も合わせて1500枚とでも言うつもりか? そっちの交渉は終わってるんだから、合わせて考えちゃダメでしょ。

「いや、良いのだ。クッ……王家の紋章なんぞが関わっていなければ、ここまで大事にはならなかったのに……」

王から本音がこぼれた。この件でここまで大規模な捜索が行われたのは、王家の紋章付きの布がヤバすぎたからだ。これさえなければ、冒険者ギルドに討伐の依頼を出して終了、といったところだろう。

その場合、国の出費は冒険者ギルドに支払う報酬と盗品回収の報酬のみ。せいぜい金貨数百枚で済んだはずだ。考えてみたら気の毒な話だ。若干同情するよ。

「まあ、アホな貴族をのさばらせたのが一番の原因だったな。人選ミスだ」

「耳が痛いな……そう責めるでない」

「責めるつもりは無いさ。誰にだってあることだろう」

ドゥーリンはどうして王家の紋章なんか狙ったのかなあ。たぶん調子に乗ったんだろうけど、それさえなければ自分だけは捕まらなかったのに。やっぱりアホだ。

「コーには苦労かけたな。もう帰って良いぞ」

「ああ、そうさせてもらうよ。報酬は改めて取りに来るから、準備しておいてくれ。じゃあな」

金貨1700枚なんて、すぐに用意できる量ではないはずだ。数えるだけでも大仕事だからね。待ちたくないからさっさと帰る。

ふう……これですべて終わった。報酬にも満足している。しばらく休んでも大丈夫だろう。でも、何か忘れているような気が……。

あっ! 盗品市にアーヴィンを連れて行ってない! というか、誘うのを忘れてた。ボナンザさんからのツッコミも無かったから、今の今まで忘れていた。どこかで埋め合わせしないとなあ。