軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

休暇1

大きな仕事を終え、暇になった。冒険者としての活動をしてもいいとは思うが、みんなも休みたいだろうからしばらく自由行動にしようと思う。

「仕事も終わったことだし、今日はどこか遊びに行くか?」

「あ……ごめんなさい。新型の結界を試作することになっているんです」

ルナが申し訳無さそうに言う。たぶん、自分たちで作るために調査の協力をしていたんだろう。これは邪魔できないな。となると、リリィさんとリーズもダメだ。忙しい。

「クレアはどうかな」

「ごめん、今日は無理。うっかりポーション作成の依頼を受けちゃったの」

クレアは自分たち用にポーションを作っていたが、最近は使う分が減ってきたので、外に売り始めていた。さらに、注文まで受け始めたらしい。ポーション作りはクレアの趣味だから、邪魔をするわけにもいくまい。

「そっか。それなら仕方ないな」

うぅん、みんな忙しそうだな。暇なのは俺だけか。

「ね、暇なら1つお願いしていい?」

「いいけど、なんだ?」

「ニュンパエアが足りないの。王都で売ってる店を探してほしいんだけど……」

ニュンパエア……たしか睡蓮みたいな植物だったかな。エウラとミルジアの境目あたりに群生している薬草だ。アレンシアではかなり珍しく、売っている店なんて見たことがない。探すとなると骨が折れるな。

「いや、採ってきたほうが早いだろ。行ってくるよ」

「え? ほんとに!? じゃ、アタシも一緒に……でも納期が……」

クレアは自分で採りに行きたいらしい。その表情から、葛藤が見て取れる。行きたいのだろうけど、納期に間に合わないのなら連れて行くわけにはいかないな。行こうと思えばいつでも行けるんだから、今回は諦めてもらう。

「その仕事が終わったら、連れてってやるよ」

「……わかった。約束だからね!」

クレアはどうにか納得した。俺だって、本当は連れていきたいんだよなあ。薬草採取は複数人でやらないと効率が悪いから……あ、もう1人、暇人居るじゃん。

「代わりに、今日はアーヴィンを連れて行くよ」

「えっ1? ボク!? なんでっ?」

アーヴィンは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。まさか、自分が駆り出されるとは思っていなかったようだ。

「お前は暇だろ。薬草採取は人手がいるんだ。それに、行き先はミルジアだぞ。案内を頼むよ」

「ううっ……仕方ないか……」

アーヴィンは不承不承に頷いた。

アーヴィンは、ミルジアの教会に追われていたので俺が匿っていた。しかし、もう追われる心配はなくなったとオマリィから聞いている。オマリィの都合でまだ俺が預かっているが、ミルジアの街をうろくつ分には問題ないはずだ。

「待って。エウラ側から行ったほうがいいんじゃない? ほら、越境許可証とか、面倒でしょ?」

クレアの言う通り、ミルジアの街に入ったり宿を取ったりするためには越境許可証が必要になる。街に入らなかったとしても、街道で兵士に見つかったら許可証を提示しなければならない。ミルジアとアレンシアは仲が良くないので、いろいろ面倒なのだ。

「そうなんだけど、ミルジアの街を見たいんだよな」

オマリィ領以外の街は素通りしているので、ほとんど知らない。塩以外にも交易のネタが転がっているかもしれないから、顔を出して損はないと思う。

「そっか。じゃあ、許可証を貰えるまで待たなきゃいけないのね……。材料、間に合うかしら」

「いや、なんとかする。アーヴィン、抜け道みたいなものはないか?」

一応、オマリィから偽造身分証を貰っているが、オマリィ直筆のサインが入っているから下手に使えない。他所で使って偽造がバレると、オマリィに迷惑をかけてしまう。

アレンシアに抜け道があるように、ミルジアにも抜け道があるはずだ。今回はそれを狙う。

「あるにはあるんだけど……」

アーヴィンは、深刻そうな顔で言う。

「歯切れが悪いな。もしかして、かなり無理しなきゃいけない?」

「ううん、その逆。金貨の2、3枚でも渡せば、すんなりと通してもらえると思う」

「なんだ、かんたんなことじゃないか」

「だから困ってるんだよね。裏金が横行してるから……」

裏金は犯罪の元だ。それを許せば治安はどんどん悪くなる。アーヴィンは一応貴族、為政者の生まれだから、思うところがあるのだろう。

目立たない安物の服に着替え、さっそく出発する。

「とりあえずオマリィ領に転移すればいいよな?」

「うちはダメだよ。厳しくしてるから。西部にゆるい街があるから、そっちに行こう」

オマリィは裏金を真面目に取り締まっているようだ。

「了解。適当に転移するから、案内は任せた」

「えっ? 適当って……」

何かを言いかけたアーヴィンの腕を掴み、ミルジア西部にある荒野の真ん中に転移した。

「……ここ、どこ?」

アーヴィンは、キョロキョロと当たりを見回しながら言う。

「どこって、ミルジアだよ。多少は詳しいだろ?」

「地図があればね! こんな荒野の真ん中で、どうやって方向を知ればいいの!?」

アーヴィンはムキになって声を張り上げた。

「仕方ないなあ。適当に走れば、いずれ気配が感じられるだろ。走るぞ」

アナログ時計でもあれば方角はわかるけど、そんなものはない。勘で進むしかないだろう。街道か、行商人か、何でもいいから目印を見つける。

しばらくまっすぐ走っていると、運良く街道を発見することができた。その街道沿いにさらに走り、大きな街を探す。そしてしばらく走ると、街道の向こう側にうっすらと街らしきものが見えてきた。

「あの街はどうだ?」

「……たぶんアバルカ領。大丈夫、賄賂が通用すると思うよ」

「よし、行ってみよう」

ダメだったら転移で逃げて、他の街を探せばいい。

街の周囲はいい加減な防壁で囲まれている。高さは5メートルくらいか。かんたんに飛び越えられそうだ。いや、見た感じ強度が無さそうだから、足をかけたら壊れるかもしれない。なんとも頼りない防壁だなあ。

まあ、不法侵入がバレると面倒が増えるから、真面目に門を通過する予定だ。賄賂だから真面目とは言えないけどね。

門に近づくと、木製の大きな扉が開けっ放しになっていた。そこを塞ぐように、1人の門番が突っ立っている。

「身分証」

門番は不機嫌そうにその一言だけを発して、右手を差し出した。その右手のひらに、2枚のアレンシア金貨を乗せる。

「んっ? 聞こえなかったか? 身分証を出せ」

門番は金貨に目を落として一瞬だけ笑みを浮かべたが、すぐにしかめっ面になって催促をした。たぶん金貨が足りなかったのだろう。さらに1枚上乗せする。

「ふんっ。いいだろう。そっちのガキは別だぞ。身分証を出せ」

1人3枚必要なのね。もう1人分、3枚の金貨を門番の手のひらに乗せた。

「いいだろう。身分は確認できた。街の中では問題を起こすなよ」

手荷物検査すら受けること無く街の中に入れたぞ。ミルジア、すげえな。

アレンシアではこんなあからさまな賄賂を見かけることがなかった。法整備がしっかりしているんだと感心したのだが……。ミルジアはしっかりと世紀末だったね。

「おい、こんなんで大丈夫なのか?」

他人事ながら、この状況は多少心配になる。

「大丈夫なわけないよね。でも、これが地方の現実。賄賂がすべてだから……」

アーヴィンが言うには、本来なら門番は2人以上居るはず、だそうだ。おそらくもう1人はサボっているのだろう、と。もちろん街によって対応が違うが、治安が悪い街はこれが標準らしい。

「あ、ついでに冒険者ギルドに行ってみたいんだけど」

「え? 本気?」

もし可能なら、ミルジアでも冒険者登録をしてみようと思う。本気で活動する気はないが、他所の国がどうなっているかは知っておきたい。

「そのつもりだ。まさか、ここまで来て賄賂が通用しないとか言うなよ?」

「その心配は無いんだけど……たぶんこの街の冒険者ギルドはめちゃくちゃ治安が悪いよ?」

「賄賂が通用するなら問題ない。せっかくだから行ってみよう」

この街はそれなりに大きく、ボロい家と豪華な家が混在して密集している。路上生活者も多いようで、異様な雰囲気が漂っている。見るからに治安が悪そう。この街は住みたくないな。

軽く街を散策しているうちに、冒険者ギルドを発見した。建物は多少ボロいが、アレンシアの建物と大差ない。木と石を組み合わせた一般的な造りだ。

さっそく中に入って観察する。中の設備も大差ない。ただし、内部には運動部の部室のようなにおいが充満している。空気が淀んでいるようだ。そして、やけに賑わっているのが気になった。

アレンシアでは、昼間はみんな仕事をしているので冒険者ギルドは閑散としている。それに対して、ここでは昼間から飲んだくれている冒険者らしき人が多くいる。仕事が少ないのだろうか。

観察を続けていると、ギルドの真ん中で昼間っから酒を飲む変なおっさんが声を出した。

「おお、ガキがガキ連れてお使いか? ガキが来るところじゃねぇぞ」

独り言にしては大きいようだが……まさか俺に言っている? ミルジア冒険者流の挨拶かな。返しておかないと失礼だ。

「たしかに、子どもには早すぎるかもしれないね。昼間から仕事もせずに酒を飲むおっさんがたむろする場所だ。教育に悪い」

「なんだと! てめぇ!!」

おっさんはそう怒鳴って勢いよく立ち上がると、こちらみツカツカと向かってきた。そして、俺の胸ぐらをつかむ。おっさんは身長2メートル近い筋骨隆々な大男。なかなか迫力がある。

胸ぐらを掴み返したいところではあるが、残念ながら身長差がありすぎて難しいな。

「見掛け倒しの筋肉で何をする気だ? 子どもだましにもならないから、その手をすぐに離せ」

胸ぐらを掴み返す代わりに、言葉で応戦した。すると、アーヴィンが俺の耳元でささやく。

「ちょっと、よしなよ……」

もう遅い。大男の拳が頭上高くに掲げられた。この街では握手の代わりにパンチが飛んでくるのか。最悪だな。

「騒ぐんじゃねェ!」

突然、冒険者ギルドのカウンターの奥から激しい怒鳴り声が聞こえた。

「チッ!」

大男は、面倒そうに舌打ちをして腕を下ろす。

「お前、だいぶ酔っているみたいだな。今日はもう帰れ」

カウンター奥には、みっともなく禿げ散らかした頭のしょぼくれたおっさんが堂々と立っている。見た目は情けないが、声と佇まいに迫力がある。それなりの実力者なのだろう。

「わかったよ。チッ。命拾いしたな」

大男は掴んだ手を話しながらそう吐き捨てると、ギルドの外に出ていった。

「そこのガキども、見ねェ顔だな。どこの誰だ? こっちに来て身分証を出しな」

俺とアーヴィンは無言のままカウンターに近づき、カウンターの上に金貨を5枚置いた。

「なるほど……そういうやつか。面倒事はゴメンだ。帰りな」

話が違うじゃないか。賄賂が通用する雰囲気じゃないぞ。いや、大幅に金が足りないのか。

「そこをなんとか……」

そう言いながら、さらに金貨を5枚積んだ。

「どうやらワケアリのようだな。そこまで言うならわかった」

おっさんはカウンターの上の金貨をポケットに仕舞うと、カウンターの下から小さな木の板を2つ、カウンターの上に置いた。その板には、それぞれレイトンという名前と、ジョナサンという名前が書かれている。

「この間死んだ冒険者の身分証だ。数日の間ならまずバレやしねェよ。それが使えるうちになんとかしな」

要はなりすましだな。ミルジアは魔道具が普及していないため、身分証の偽造防止が甘い。ということは、偽造やなりすましがとてもやりやすいのだろう。

「悪いな。助かるよ」

「オレは知らん。そいつらの身分証は紛失したんだ」

そういうことにしとけ、と。おっさんは責任逃れをしたかったようだ。

「数日の間ってのは?」

「そいつらが死んだってことはまだ知られてねぇ。そいつらが拠点にしていた街に、その情報が行くまでの日数だ。そんなに長くねぇぞ」

死人が活動していたら、さすがにバレるか。長くなくても大丈夫。今日と明日だけ使えればいい。

「十分だ。ありがとう」

ちょっと高い買い物だったが、普段できない経験をするためだと思えば我慢できる。大金を稼いだ後だし痛くはない。1日限りだが、ミルジアの冒険者として活動してみよう。

ところで、挨拶の途中で退場させられた大男の冒険者が、外で待っているようだ。挨拶の続きをしようということかな。

「やりすぎ注意だよ。騒ぎになったら面倒だからね」

アーヴィンから指摘されたが、ちょっと難しいなあ。ミルジアの流儀がよくわからないから。