軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追加調査6

オークションは間もなく終わろうとしている。出品リストを見る限り、残すところあと5品だ。

このオークションの主催者はバーナード商会というらしい。ここのトップが盗品売却の黒幕ということで間違いないだろう。

そこまではわかっているが、誰がバーナード商会のトップなのかわからない。それがわかるまでは、俺はこの場を離れないほうがいいと思う。あと、外で待機している兵士たちもそのままだ。

本当の黒幕がわからないうちに突入されたら、どさくさに紛れて逃げられるかもしれない。確実にここで捕まえるため、もう少し調査を粘ろうと思っている。

「しかし……売れるもんだなあ」

盗品があまりにも売れているのが意外で、思わず声が漏れた。すると、クレアが俺の声に反応した。

「そうね。盗品の売買って、犯罪じゃないと思ってる人が多いのよ」

盗品の売買は軽犯罪くらいの感覚なのだろうか……。アレンシアの法律を見る限り、かなり厳しいものだと思うが。

日本のみならず、法治国家であれば盗品の売買は重罪だ。それを許すなんて、泥棒を喜ばせるだけだからな。

日本人である俺の感覚だと、盗品の売買がアウトなのはすぐに理解できる。ここにいる人達は、どうしてその意識が薄いんだろう。

「どうして犯罪じゃないと考えるんだ?」

「ミルジアでは合法だから。盗賊から奪ったものは、奪った人のもの。ここに居る人って、みんなその感覚なんじゃない?」

「なるほど……」

いや、盗品の扱いが雑すぎるだろ。今回の高級布みたいなパターンだと、どこの馬の骨かわからないただの冒険者が、王家の紋章を手に入れてしまうことになる。

売るのも自由となると……酷いことになる未来しか見えないよ。別の盗賊の手に渡って、王家の紋章を持つ盗賊の誕生だ。他にも、詐欺にだって使い放題だし、悪いことがいくらでもできる。危ないなあ。

ま、他所の国の問題だ。俺が口を出すようなことじゃない。気を取り直して、オークションに集中しよう。また1つ落札された。購入者をチェックだ。

雑談に気を取られているうちに、知らない人が舞台横に立っていた。ちょうどドゥーリンの正面あたり。中肉中背の嫌らしい顔をしたおっさんだ。

おそらく係員だろう。ここに居る客については、リーズが調べてくれたので全員知っている。だが、係員についての情報は皆無。偉そうにしているようだが……バーナード商会の責任者だろうか。

「あ! あの人!」

リーズが目を覚まし、その知らない人に指をさした。

「どうした?」

「あの人、ばーなーどっていうんだって。さっき紹介されたよ。どこかの貴族のオイッコ? とかで、なんだかめちゃくちゃ偉いって言ってた」

貴族の親戚は腐っても貴族だ。よほどの問題児でもない限り、騎士なり役人なりの国に関わる仕事をすると思う。商人にはならない。ただし、それは俺が知る上級貴族の話だ。下級貴族はそうはいかないらしい。たぶん下級貴族の三男とかだろう。

「おお、ナイス情報! 助かる!」

「えへへへへ」

リーズは照れくさそうに笑った。

バーナード商会の会頭、ゲット。マップに念入りにマーキングして兵士の突入に備える。最悪、あいつだけでも捕まえれば依頼達成だ。

目玉商品は目前だが、外に控えている兵士に突入してもらおう。リリィさんに連絡だ。

「もしもし。そっちの様子はどうだ?」

『コーくん、ちょうどよかった。バーナード商会について、商業ギルドで聞いてきたぞ』

「お、早かったな。どうだった?」

『かなりの大物だ。主な取引先は下級貴族と商業ギルド。個人向けの販売は一切行っておらず、紹介をお願いしたが断られた』

まあ、貴族の縁者だもんなあ。一見さんお断りは当然の対応だろう。そして、一部の貴族か商業ギルドもこの盗品オークションに関わっているかもしれない。注意しておこう。

「ありがとう。こっちは準備完了だ。突入はいつでもいいぞ」

『いや、それがな……一時保留だ。商業ギルドのギルド長に止められた。上から圧力が掛けられているようだ』

「ギルド長なんて関係ないだろ」

『うむ。そうなのだが、 上(・) か(・) ら(・) というのが引っかかってな』

なるほど、ギルド長より上……。国か貴族しかないだろ。ここで得た証拠を出せば突入できそうだけど、スマホの存在を明かしたくないから説明が難しい。強行突破するのは少し面倒だな。

「わかった。どうにかする」

俺はそう言って通信を切った。この状況を打破しなければならない。

兵士がここに突入する理由は、『怪しいから』というただ1つ。これでは弱い。貴族に出てこられたら帰らざるを得ないだろう。

今必要なのは、大義名分と権力だ。権力は、俺が王に言えばどうにかなると思う。まずは転写機を取り出し、王に現状を報告した。

王からの返事が来れば、兵士の突入は王命になる。あとは大義名分だが、状況証拠しか無いから少し心配。だが俺は、貴族の悪事を調査、逮捕できる騎士相当の身分を持っている。問題ないだろう。

転写機をマジックバッグに仕舞ったところで、今度はルナから通信が入った。ルナはリリィさんと一緒に居なかったようなので、別の急用だろうか。

『コーさん、聞こえますか?』

「ああ。どうした?」

『結界の所有者が割り出せましたので報告します。コーさんが先日おっしゃっていた、ドゥーリン子爵家の当主です』

ドゥーリンって、あのクソ貴族? 今日もここに来てるけど……どういうこと?

「マジ?」

『はい。先程開発者さんに会ってきました。ドゥーリン子爵から多額の資金援助を受け、試作品を数個贈ったそうです』

もしかして、本当の黒幕はドゥーリンなの? いや、あいつ俺を疑ってたじゃん。なんだったら、俺を逮捕しようとしていたくらいだぞ。待て待て、いくらなんでもそれはないだろ。

「了解。ありがとう」

頭が混乱する……。ひとまず通信を切った。幸い、ドゥーリン本人ならまだこの会場の最前列に居る。よし、ちょっと挨拶してこようかな。

すると、さらに頭が混乱する出来事が。

「こんさん、舞台裏の様子がおかしいよ。人が天井を突き抜けて飛んで行ってる」

リーズが会場の異変に気付き、声をかけてきた。飛行する魔道具なんか存在しないし、空を飛ぶ魔法だって知らない。ここでまた新発見の魔道具か?

「おかしなものでも出品されてるっけ?」

そう言って出品リストに目を落とすと、クレアが俺にマップを見せながら言う。

「そうじゃないわよ。これ、見て」

マップの中に、舞台裏で暴れるボナンザさんを発見した。ボナンザさん、帰ったんじゃなかったのか。

「ああ、なんだ。ボナンザさんじゃないか。いつものことだ。問題ない」

ボナンザさんが人を投げ飛ばしているだけ。街の中だから、配慮して投げ飛ばすに留めているのだろう。

舞台裏が慌ただしいものの、オークション自体は問題なく進行している。とはいえボナンザさんは絶対に場を荒らすだろうから、ドゥーリンへの挨拶を先に済ませておこう。

ドゥーリンに近づくと、ドゥーリンの声が聞こえてきた。正面に居るバーナードと談笑している。ずいぶんと仲がいいようだが……これはクロと思っていいのかな。

気配を殺してそっと近づき、声をかける。まさか俺から声をかけることになるとはね。

「よう、大事な魔道具が盗まれたんだって? 大変だったな」

「貴様、なぜそれを……いや、どうしてここに居るっ!」

ドゥーリンは取り乱している。怪しい……今のところ、限りなく黒に近いグレーだ。確証が欲しい。

「盗品を追っていたら行き着いたんだよ」

「……ああ、私も同じだ。ここで盗品を売られていると聞きつけて、調査をしていた」

言い逃れしようとしている? いや、この言い訳は納得できなくはない。もう少し揺さぶってみよう。

「へぇ? その割に、ずいぶん主催者さんと仲がいいみたいだな」

「私はそんな者など知らん!」

俺とドゥーリンが言い合いをしている間、バーナードはずっとオロオロしていた。どうしていいかわからない様子だ。

バーナードを攻めたほうが早いかもな。ターゲットを変えよう。

「あんたが主催者だな?」

少しの間、無言の時が流れた。しゃべる気は無い、ということだろうか。さらに攻めよう。

なんて思っていたら、舞台上にボナンザさんが現れた。

「コー! 楽しんでる!?」

ボナンザさんは俺を見つけ、大声で叫んだ。

「……カンベンしてよ。知り合いだと思われるじゃん」

「……知り合いでしょ? 残念なことに」

クレアの声だ。

気づけばリーズとクレアが俺の近くに居た。ボナンザさんが現れたことで、クレアはまとまっていたほうがいいと判断したのだろう。正解だ。何が起きるかわからないから、すぐに転移で逃げられる体制を整えておいたほうがいい。

「貴様! 厄災のボナンザだな! 貴様ら、仲間だったのか!」

叫んだのはバーナード……ではなくドゥーリンだった。

「誰が仲間だ!」

とりあえず否定しておく。

「そうよ。友達よ」

ボナンザさんからも訂正が入った。友達扱いもやめてほしいなあ。同類と思われたくないよ。

「そんなことはどうでもいい! おい! この4人を生かして帰すな!」

訂正できる空気じゃない……。それはいいとして、ドゥーリンが命令を出している時点で黒幕確定じゃないか。遠慮なく逮捕させてもらおう。

ドゥーリンに一歩近づくと、ドゥーリンは取り乱してあたりを見渡した。

「クソッ! 警備兵! 警備兵は何をしている! 誰か居ないか!!」

警備兵だったら、ボナンザさんが投げ飛ばしたよ。どこまで飛ばされたのかなあ。仕方がないなあ。俺が兵士を呼んであげよう。

「リリィ、責任は俺が持つ。突入だ。黒幕はドゥーリン子爵、絶対に捕らえろ」

『了解した。王からも連絡が来ている』

王への連絡はうまく通っていたようだ。兵士たちはドゥーリンの逮捕に動いてくれるだろう。

「頼む」

そう言って通話を切った瞬間。四方八方から倉庫の壁が打ち破られる音が鳴り響き、大量の兵士がなだれ込んできた。

兵士たちは一目散にドゥーリンへと向かい、2人に刃を向ける。

「何をしている! 私ではない! 早くこの不届き者共を捕らえるのだ!」

ドゥーリンは自分が捕らえられるとは思っていないようで、兵士に命令を下す。

「いや、しかし……」

俺は先頭に居る兵士と目を見合わせた。

一般の兵士や騎士は貴族に手を出せない。逮捕していいのは現行犯のときだけだ。状況証拠しか無い今の現状、一般の兵士が貴族を捕まえるのは難しいだろう。でも例外がある。

「俺の身分は騎士相当なんだよ。貴族を逮捕しても問題ないよね」

騎士相当の命令か、王の命令があった場合。騎士相当の身分は王直属の調査員という扱いなので、王命に近い扱いになる。

「な……そんな嘘が通用すると思ったか!!」

ドゥーリンはさらに語気を強める。俺の身分は有名だと思ったんだけどなあ。

「めったに城に来ないから、知らなかったんだな」

俺はそう言って、王から受け取った任命証を突き出した。だが、ドゥーリンは怯まない。

「どうせ偽造だろう! それとも盗んだか! おい、そこの兵士! この無礼者を捕らえよ!!」

ドゥーリンは叫ぶが、兵士たちはドゥーリンを羽交い締めにして地面に転がした。

「彼の身分は本物です。騎士コーの命により、ドゥーリン子爵を逮捕します」

ドゥーリンを拘束した兵士は、冷静にそう言いながらドゥーリンを縛り上げていく。ドゥーリンは恨みがましく叫んでいるが、猿ぐつわのせいで声になっていない。逃げられないようにぐるぐる巻にされ、兵士に引き摺られていった。

「最後まで往生際が悪かったなあ」

「まったくです! ご協力ありがとうございました!」

俺は独り言のつもりだったのだが、近くに居た兵士が元気に返事をして頭を下げた。

「いや、俺も仕事をしただけだ。あとは任せたぞ」

「はっ!」

兵士は顔を紅潮させて敬礼をし、駆け足で去っていった。

なだれ込んだ兵士の数は相当なもので、ここに居た客の数よりも多いかもしれないくらいだ。1人残らず逮捕するつもりなのだろう。俺たちの仕事はこれで終わりだ。

怪しい依頼を受けるところから始まった一連の仕事が終わった。黒幕の逮捕までできたのは、周りの協力があってのことだろう。みんなには感謝しかない。贈り物でも考えておこうかな。さて、撤収の準備だ。

「あれ? ボナンザさんは?」

いつの間にか居なくなっていた。気配も感じない。どこに行ったのやら。

「帰ったわよ。兵士が来た瞬間に」

ボナンザさん、兵士のことも嫌いなのかなあ……。まあいいや、帰ろう。