作品タイトル不明
追加調査5
ボナンザさんに連れられて来た盗品市は、これからが本番だ。間もなくオークションが始まる。露店風の店の商品は倒産品だったが、オークションの商品は全部盗品。売るほうも買うほうも犯罪になる。
もちろん俺たちは一切買わない。ここに足を踏み入れたのは購入者と出品者をチェックするためだ。
俺が王城から受けた依頼は『盗品を回収すること』ではなく、誰が盗品の輸送に関わったかを調べること。出品者がわかれば依頼達成だ。ついでに購入者のリストを作れば、追加報酬も期待できるだろう。
そう考えて、オークションに参加することを決めた。これから別行動しているボナンザさんと合流し、オークション会場に足を踏み入れる。
オークション会場はパーティションで区切られていて、特定の出入り口以外からは侵入できないようになっている。さすがにパーティションをぶち抜いて侵入するのは目立ちすぎるため、正規の出入り口から入る予定だ。ボナンザさんとは、その出入り口付近で待ち合わせをしている。
約束の集合場所に着くと、ボナンザさんが警備員らしき連中と揉めていた。
「……あの人、何やってるんだ?」
近付いて話を聞く。
「貴様、厄災のボナンザだろう! ここを通すわけにはいかない!」
「人違いだって言ってるでしょ! アタシは『厄災』なんかじゃないわよ!」
えっと……ボナンザさんは『厄災』なんて呼ばれてるの? それはいいとして、『人違い』という言い分には無理がありすぎるだろ。あの人に似た人なんて居ないと思うよ。というか、ボナンザさんは世界に1人で十分だろ。あんなのが何人も居たら恐怖を感じるわ。
「とにかく! ここを通すわけにはいかない! おとなしく帰れ!」
警備員は大声をあげる。あのボナンザさんが素直に帰るとは思えないんだけど……と思った瞬間、ボナンザさんと目が合った。そして、ボナンザさんは俺にウィンクをする。
なにかの合図のつもりだろうか……。
「わかったわよ。帰ればいいんでしょ!」
ボナンザさんはそう言って踵を返し、露店のほうへと歩いていった。
「どういうつもりかしら……」
クレアがボソリと呟いた。クレアの言う通り、なんだかしっくりこない。ボナンザさんが暴れずあっさり引き下がるとは……。
「わからない。でも、あまりいい予感はしないよな」
「岩の雨とか降ってきそうだねー」
降らせるのは、もちろんボナンザさんだ。遠くから岩とか槍とかを投げ込んできそう。
「それはさておき、どうするの?」
「とりあえず入ってみよう。危ないと思ったら、すぐに転移で逃げればいい」
一抹の不安は残るものの、俺だってかんたんに引き下がるわけにはいかない。今日のチャンスを逃したら、今回の依頼は達成不可能になるだろう。
警備員はボナンザさんに気を取られていたのか、俺たちはノーチェックで通過できてしまった。
会場は意外と狭く、100人分くらいの椅子がギッシリと敷き詰められている。決まった席は無いようなので、俺たちは一番目立たなそうな下手側の最後列に座った。
正面には一段高い舞台があり、照明の魔道具で照らされている。舞台は狭いようで、かなり窮屈そうだ。狭い舞台の割に、舞台の両脇にある舞台袖は広そうに見える。おそらく商品を置くために広くしているのだろう。
舞台の観察をしているうちに、人が集まってきた。まばらに空席があるものの、かなり盛況だ。空席は荷物置きとして活用されているところを見るに、もともとそういう予定で席を準備しているのだろう。
ふと気づくと、いつの間にかリーズが居なくなっていた。
「リーズはどこに行った?」
恐る恐るクレアに訊ねる。
「大丈夫。マップで確認してるわ」
クレアが持っているマップを覗き込むと、リーズらしき光点が縦横無尽に動き回っていた。マップを見る限り、今のところ目立った問題は発生していない。
「ひとまず安心かな……あれっ?」
リーズは問題ない。しかし、別の問題に気づいてしまった。舞台前の目立たないところに、とても嫌な反応がある。
クソ貴族、ドゥーリンだ……。最悪だな。どうしてこんなところに居るんだよ。いや、あいつも盗品を追っているはずだから、ここに居るのも不自然ではないか。
布の行く先を見てから帰りたかったが、今すぐにも帰りたい。
「どうしたの? 嫌な顔して……」
クレアが心配そうに話しかけてきた。
「困った貴族が居たんだよ。あまり関わりたくないヤツだ」
「それって……王城で会ったっていう?」
「そう。向こうは気づいてないだろうから、とりあえず無視だ。一応警戒を頼む」
クレアに監視をお願いして、俺はオークションに集中しよう。
俺もマップを取り出し、表示を拡大して範囲をこの会場に絞る。そして光点一つ一つを順番にマークし、注釈を入れていく。この機能は、もともとは危険な魔物をチェックするために付けたものだ。あまり活用していなかったが、ここでとても役に立っている。
注釈の部分には、対象の身体的特徴と入札履歴を書き込む。マップの特性上、見た目はただの光点だ。その光点が誰かを特定するためには、注釈の部分が必須となる。大変だが、ここは集中しよう。
マップの準備を進めているうちに、オークションが始まった。
「まずはこの商品! 金貨10枚から!」
最初の商品は、何の変哲もない普通のド派手なネックレス。王族のミイラの首に掛かっていそうな、金と宝石でガチガチに固められたものだ。どこで身につけるのが正解なのかな……凡人の俺には理解できない。
「20枚!」
「30枚!!」
金額が順調に上がっている。ここに来ている人全員、これが盗品だと知って参加しているはずだ。盗品は売るほうも買うほうも同罪……わかってて買っているのか、いささか心配になる。
ド派手なネックレスは、金貨55枚で決着がついたようだ。競り落とした人は商人風の中年男性。転売でも狙っているのかな……。
「あの人、行商人なんだってー」
背後から突然リーズの声が聞こえた。
「うわっ! いつの間にっ?」
「話してるのが聞こえたよー。ミルジアで売るって言ってた」
リーズはこともなげに話を続け、言いたいことだけを言ってまた去っていった。……忍者かな? リーズはボナンザさんから悪い影響を受けたんじゃないだろうか……。まあ、今回は役に立っているから気にしないでおこう。
オークションが一つ進行するたびに、リーズが情報を持ってくる。そのおかげで、オークションの約半分が終わるころには参加者全員の個人情報が集まった。以外なことに、ドゥーリン以外にも何人か貴族が混じっている。ドゥーリンの仲間だろうか。関わらないように注意しよう。
「クレア、貴族の動向に注意してくれ」
クレアもマップをこの会場内に絞り、貴族たちに目を光らせる。ドゥーリンの仲間でも厄介だが、そうじゃなくても厄介。こんなところに好き好んで来るような貴族は、ロクなもんじゃないからね。
軽い休憩を挟み、後半戦がスタートした。いまのところ、購入者は全員が商人だ。中には王都に店を構える商人も居る。売れないだろうに……。
開始と同時に、またリーズが帰ってきた。
「こんさん、こんなものを見つけたよー」
「何だ……?」
リーズから手渡されたものに目を向ける。ただの紙の束で、お宝の類ではない……のだが、実に興味深い。数枚の紙にズラリと並ぶ名前。これは参加者名簿だな。そして、名前の横にマルや模様が書かれている人が居る。これは何だろう……。
「招待した人の名簿なんだって。マルは、来た人」
無印の人は、招待したけど来なかった人。星がついている人は常連、三角の人は初参加だそうだ。リーズが聞いてきたかのように説明してくれた。
「いや、詳しすぎない?」
「聞いてないのに教えてくれたよ?」
本当に聞いてきたらしい。リーズがあまりにも自然にウロウロしてるから、スタッフと間違えられたのかな……。
「受付をやれ、とか言われなかった?」
「うん、言われた。なんだかすっごいバタバタしてて、違うって言えなかったんだぁ」
やっぱり。運営が人違いをしたようだ。
「へぇ。裏方はめちゃくちゃ慌ただしいんだな」
「なんかねぇ、『盗まれた』とか、『警備が足りない』とか、すっごい騒がしかった」
表には伝わってこないが、裏側では大きな問題が発生しているらしい。自分は盗品を売っているくせに、自分が盗まれると怒るのか……? うーん、身勝手な。
俺が勝手に納得していると、リーズは続けざまに一枚の封筒を差し出してきた。
「あと、こんなものも拾ったー」
渡された封筒には、『招待状』と書かれている。おそらく、ここに入るために必要なのだろう。送り主の欄は『バーナード商会』。これが盗品市の主催者と見て間違いないな。なんにせよ……。
「でかしたぞ。最高の情報だよ」
「あたし役に立った?」
リーズの自由すぎる行動が、これほどまでに役に立ったことはない。この情報を報告するだけで、依頼達成として認められるだろう。
「もちろんだ。ありがとう」
「やったっ! ボナンザさんの言った通りだったぁ。もっとボナンザさんのところで勉強するねー」
「えっ? いや、それはちょっと……」
と言いかけたところで、リーズは去っていった。
これ以上ボナンザさんに影響されるのは、あまり歓迎しないぞ……。あの人はいろんな意味で特殊だから。
「なあ、最近リーズはボナンザさんとよく会っているのか?」
恐る恐るクレアに訊ねる。
「そうみたいよ。ボナンザさんのとこの女の子たちとも仲良くしてるみたい」
「マジか……」
近頃、俺はずっと忙しかった。そのせいもあるだろう。暇を持て余したリーズはボナンザさんと遊んでいたらしい。その間に、ボナンザさんの常識に染まっていっているようだ。もともと気が合うようだったから、自然といえば自然なことか。
「止める?」
「いや、いい。危ないことをしようとしていたら報告してくれ」
ボナンザさんと関わっている時点で危険な気がするが、それは俺も同じこと。ボナンザさんがついていれば死にはしないだろう。
オークションは進んでいく。依頼を報告するに十分な情報は揃っていると思うが、贅沢を言うならまだ一つだけ足りない。バーナード商会のトップが誰なのか、わかっていないのだ。
裏方として動くスタッフはトカゲのしっぽ。頭を掴まない限り、切り捨てされて終わりだろう。今度こそしっかりと頭を掴む。
会場内を注視していると、リーズが帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり。どうだった?」
「飽きたー」
もう新しい情報は得られないな。主に、リーズのやる気の問題で。これでこそリーズだ。いつもどおりで逆に安心するよ。
リーズが俺の横でうたた寝する中、オークションは終盤に差し掛かっていた。すでにほとんどの商品を消化している。次の商品はちょっとした魔道具だ。
リリィさんが居たらテンションが上がるだろうな……と思ったとき、スマホにリリィさんから着信があった。
『コーくん、緊急連絡。なぜそこにいるのだ?』
リリィさんの声だが、どうも要領を得ない。リリィさんは驚き、戸惑っているようだ。
「ボナンザさんに連れられて来た。そっちこそ、どういうことだ?」
『そこは例の結界装置が設置されていた建物だ。マップで内部を確認したところ、コーくんたちの反応を発見したのでな。少々驚いている』
俺たちのマップは会場内に絞っているし、リーズは寝ている。リリィさんたちが居ることには気づかなかったな。
リリィさんとルナは、今朝早くから結界装置を回収するために出掛けていた。その目的地がここだったようだ。運営が『盗まれた』と言っていたのは、結界装置のことだったのか。
主催のバーナード商会が盗賊と深く関わっているんだな。だから同じ魔道具を使っていたのだろう。
「なるほどね。ここは盗品の市場だから、そういうことだろ。マップで確認って、なにか問題が発生したのか?」
『うむ。現在、王城の兵士たちが突入の準備を進めている。私は罠がないかを事前に確認しているところだった』
大問題だな……。今突入されたら、また首謀者に逃げられるかもしれないじゃないか。突入は待ってもらおう。
「兵士には潜入調査中だと言ってくれ。しばらく待機だ。それと、バーナード商会という店について調べてくれないか」
『了解。なにかわかったら連絡する』
リリィさんに調査を頼んだ。近くに大量の兵士が居るはずだから、調査に協力してもらえるだろう。俺はもう少しここに居座り、黒幕の調査を進める。