軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出金5

塀を作るための魔道具は揃った。材料の土は適当にエルミンスール付近の森から持ってきた。さっそく作業に取り掛かろう。

「……境界線がはっきりしないなあ」

不動産屋の話では、道までのぬかるみはすべてこの家の土地だということだった。目印になるのは道路なのだが、その道路もぬかるみに侵食されて境界線が曖昧だ。

まあいいか。適当に決めてしまおう。若干道路が狭くなるかもしれないが、道路の整備をしない国が悪い。

塀の建設予定地を検分して歩く。実際に歩いてみると、思っていたよりも地面の状態が悪いことがわかる。ぬかるみどころじゃなく、沼のようになっている場所すらある。死んだ水の嫌な臭いが鼻を突く。

そんな中、水たまりの中に四角い石が落ちていることに気づいた。明らかに人工物だ。目を凝らしてよく見れば、伸び放題になった雑草の中にも、同じような四角い石がいくつも転がっている。

迷宮入りかと思われた謎が解けた……。塀はあったんだ。植物と水の侵食を受けて壊れたのか。植物と泥に埋もれ、跡形もなくなっている。状態保存の魔法が効かなくなるくらい壊れたのだろう。

「思ったよりも厄介だな……」

普通に塀を作っただけでは、たぶん同じように壊れる。ましてや俺は素人だ。素人が作った塀なんて、下手をしたら一年たたず壊れる可能性すらあるぞ。

しばし考える……。考える……。

よし、杭を打とう。できるだけ長くて丈夫な杭を打ち、それを支えにして石を積めば大丈夫だと思う。

そうと決まれば、製石機で石柱を作ろう。魔力を注ぎ続ければ、途切れることなく石が生成されるはずだ。難しいことではない。

材料の土が入ったマジックバッグを逆さにして、製石機の上に置いた。マジックバッグの中に詰められた土がドバドバと落ちてくる。すかさず製石機に魔力を通し、石を作り始めた。

製石機の口から、四角い石柱がにゅっと出てくる。製石機に魔力を通しながら待つこと約10分、長さ5メートルを超える石柱が完成した。

「よし、これを地面に突き刺せば……」

石柱を両手で抱えて目的の位置に移動、そのまま高く飛び上がり、パワーボムの要領で地面に突き立てた。

『ズドォッ!!』

激しい衝撃音が響き渡り、石柱が3メートルくらい突き刺さった。微妙に傾いている気がするが……まあ、許容範囲じゃないかな。

突き刺さった石柱を眺めていると、慌てた顔のルナが家の中から飛び出してきた。

「何事ですかっ!?」

クレアとリーズとリリィさんがルナに続く。

「何があったの? 事故? 爆発?」

製石機が爆発したと勘違いしたのだろう。みんなは心配して飛び出してきたようだ。

「ああ、音を立てて悪かった。作業は順調だ。問題ないぞ」

俺がそう言うと、石柱を見たルナが怪訝そうに呟く。

「石柱……? 塀を作っていたのでは……?」

「アンタとは、塀について議論する必要がありそうね……」

クレアが呆れ顔で言った。塀と石柱の区別がついていないとでも言いたげだな……。失礼な!

「違うって。普通に作ってもすぐに壊れそうなんだよ。だから、強い柱が必要だったんだ」

足元を指さして否定した。このあたりには以前塀だった残骸が転がっているから、すぐに察してくれるだろう。

「あ……なるほど。そういうことね」

「しかし、柱だけで解決するだろうか」

リリィさんが訝しげに言う。たしかに、四隅に柱を立てただけではあまり頑丈にならないと思う。

「柱の数を増やして対処するよ」

「柱だけで塀を作ることになるんじゃない?」

リーズが冗談交じりに言うが……ありえる! 拙い! 予想に反して十分な強度が得られなかった場合、最終的にそうなる気がする。

それで強度が得られるなら、機能的には問題ない。しかし、力任せに突き刺した石柱は、地上に出る長さも傾きもバラバラだ。見た目が悪すぎる。

「いや、そんなことは……」

俺は苦笑いを浮かべて言葉を濁し、ごまかした。すると、ルナがおずおずと手を挙げて言う。

「塀が壊れるのは、このぬかるみが原因なんですよね? だったら、ぬかるみをどうにかしたほうが早いのではないでしょうか」

「え? そんなことできるの?」

「はい。水を出す魔道具を応用すれば、地面の水分を除去できると思います」

俺たちが使っている水筒の魔道具は、空気中の水分を集めて水を作っている。ルナの言う通り、その機能を利用すれば地面の水も除去できそうだ。

「悪い、頼むよ」

「わかりました。これくらいならすぐに作れます。少々お待ち下さい」

ルナたちは、湿気取り装置を優先してくれるそうだ。魔道具が準備できるまでの間に、塀の材料を作る。製石機に土をセットし、石を作り続けた。

一心不乱に石を作る。3時間ほど経っただろうか。始めは不揃いだった石も、作っていくうちに形が一定になってきた。もう十分に準備できただろう。

あとは魔道具の完成を待つだけだ。改めて建設予定地を眺める。しかし、普通に塀を作るとなると……。

「この柱、邪魔だなあ」

ついさっき突き刺した石柱である。重要な角に突き刺したため、ものすごく邪魔。だからといって、引き抜けば穴が残るし、へし折っても中途半端に残りそうだし……。よし、気にしないことにしよう。

この柱の内側がうちの土地だ。柱が刺さっているのは道路。そういうことにしておけば問題ない。

思案しているうちに、ルナたちが家から出てきた。ちょうどよく湿気取りが完成したようだ。

「早かったな。ありがとう」

「いえ、単純な魔道具でしたから。他にお手伝いすることはありますか?」

「もう大丈夫だ。あとは任せてくれ」

ルナから魔道具を受け取り、ざっとした使い方の説明を受けた。この魔道具はテントのペグみたいな形で、地面に突き刺して使うらしい。地上に出る部分はL字に曲がっていて、そこから水が出てくる仕組みになっているようだ。

出てくる水は飲めるほどきれいなものではなく、流して捨てることになるという。

問題は、集めた水をどうするかだ。タンクに溜めるような仕組みにしたら、おそらくすぐにいっぱいになってしまう。水路を作ったとしても、排水する先がない。水を蒸発させるような魔道具は、消費魔力量的に無理だしなあ。

「かなり水が出るはずだよな。どうやって捨てようか」

「王都の下水道に流せばいいだろう」

リリィさんが答える。王都のトイレは簡易水洗だから、下水道があるであろうことは予想していた。

「簡単にできることなのか?」

「ああ。道路の近くに点検口があるはずだから、そこに水路を繋げばいい」

リリィさんの話では、下水道は道路の地下を通っているらしい。流れる水量は少なく、たまに詰まるという。その詰まりを取り除くために、多くの点検口が開けてあるそうだ。しかし、勝手に使ってもいいものなのだろうか。

「勝手に水を流して、誰かに怒られない?」

日本の場合、下水を流すにも金がいる。設備に金がかかっているのだから当然だ。

「おそらく大丈夫だ。国は水量を増やしたいくらいなのだからな」

王都の下水道が詰まりやすいのは、流れる水が少なすぎるからだそうだ。しかし、水量を増やしたくても、王都で使える水の量は限られている。下水に流すだけの余裕がないんだろう。

どうやら、怒られるどころか喜ばれる可能性すらあるっぽいぞ。日本とは事情が違うもんだなあ。

「了解だ。ありがとう。さっそく設置していくよ」

「うむ。問題があったら言ってくれ」

リリィさんがそう言うと、みんなは家の中に戻った。また1人になり、作業を再開させる。

まずは排水用の水路の確保をしよう。穴を掘るのは簡単だ。泥だから、サクサクと掘れる。でも、掘ったそばから崩れていく。掘ったらすぐに石を敷かないとダメだな。

不揃いなクズ石を使い、セメントで石を接着していく。邪魔にならないように、塀のすぐ内側を通す。道路から玄関までの通路は石で舗装し直すつもりだから、その通路の両サイドにも水路を作る予定だ。

作業を終える頃には、日が落ちかけていた。一息ついて、今日作った水路を眺める。我ながら器用に作業したつもりだったが、よく見ればガッタガタだ……。ま、素人仕事なんだからこんなもんだろ。水路として機能すればいい。

セメントはすぐに固まるものではない。たぶん2、3日かかるだろう。それまでは水を流せない。塀作りはその後になるかな。準備だけして、今日はこのへんで終わりにしよう。

玄関に足を向けたとき、遠くから不動産屋のおじさんが向かってきていることに気づいた。マジックバッグを返しに来たのだろう。家には入らず、庭でおじさんの到着を待つ。

「こんにちは。今、お忙しいですか?」

おじさんは俺の顔を見るなり、笑顔で頭を下げた。

「いや、ちょうど作業を終えたところだ」

「なるほど……水路ですか。趣のある、素晴らしい出来ですね。使う石の選択にこだわりを感じます」

おじさんは、水路を見て屈託のない笑顔を浮かべた。本心から褒めているのかと勘違いしそうだが……どう見てもガッタガタの不揃いな水路だと思うぞ。石だって、作るのに失敗したクズ石を適当に使っただけだ。

「ただの失敗作だよ。そんなに褒めるな」

「ふふふ。ご謙遜を……。それより、お預かりしていたマジックバッグをお返しに……おや? あんなところに石柱など、ありましたっけ……?」

おじさんは、石柱に目を向けて不思議そうに首を傾げた。俺が突き刺したなんて言ったら、国あたりから文句を言われそうだな。あそこは道路で、国有地である。俺は知らない。

「突然生えて……いや、もともとあったんじゃないか?」

突然生えてきたと言おうとしたが、途中で思いとどまった。あんな石柱が突然生えてきたら、国の一大事だと思う。余計な問題に発展しそうだ。だったら、最初からあったことにすればいい。どこかの誰かが勝手に突き刺したんだね、きっと。

「そうでしたっけ……? いや、あんな大きな石柱、見落とすはずが……」

おじさんはまだ腑に落ちない様子だ。話題を変えてごまかそう。

「そんなことより、今日は契約書を持ってきたんだろ?」

「あ、そうでしたね。まずはご説明をお聞きください」

おじさんの説明を聞く。主な内容は、土地や建物の所有権についてや、税金などの国とのやり取りだ。ざっくり言うと、税金が増える。前回の3倍くらいになりそう。

ちょっと気になったのは、土地は『所有』ではなく『占有』だったことだ。土地の持ち主はあくまでも国で、俺たちは借りているだけという状態。俺がこの家を買ったという情報は、国に筒抜けになるということだな。

王に知られるのは気に入らないが……まあ、普通に使えるから問題ないか。

「内容に問題がなければ、こちらに署名をお願いします」

「了解だ。あとはよろしく頼むよ」

家の契約は無事終わった。おじさんと別れ、家に戻る。すると、すぐにリーズに声をかけられた。

「こんさん! 終わったよ! 見て!」

どうやら転移装置が完成したようだ。

「もうできたのか。ずいぶんと早かったな」

リーズに案内されて、転移装置が設置された地下へと向かう。そこでは、ルナとリリィさんが待ち構えていた。

「お疲れさまです。作業はもうよろしいのですか?」

「ああ、今日は終わりにしたよ。まだ何日かかかりそうだ。それより、転移装置を見せてくれないか」

塀の進捗状況を軽く報告し、転移装置について訊ねた。

「常時起動型にすると魔力消費が激しすぎるので、使うときだけ起動するようにしました」

「え? エルミンスールでは常時起動していたよな?」

「はい。あそこはお城が巨大な魔力発生装置になっているので……。でも、ここでそれを再現するのは無理だと判断しました」

俺もすべてを把握しているわけではないが、エルミンスールは宮殿全体が魔道具になっている。あれだけ巨大な魔道具を動かすための魔力は、宮殿が空気中の魔力を取り込んで供給しているらしい。

この供給システムを再現するためには、それなりに大きな建物と複雑な仕組みが必要になる。1から城を建てるような勢いで設計しないとできないそうだ。

「そういうことなら仕方がないか。動くなら問題ないよ」

最低限の機能は確保できた。足りない魔力は 魔力を貯める魔道具(キャパシタ) で補えばいいだろう。家の魔改造はまだまだ続くが、ルナたちはこれで一段落だ。

明日は金を使うミッションに戻ろう。残すところあと金貨1000枚。この家に置く家具と、予備の服や武器を買い込めば、ちょうど無くなるくらいじゃないかと思う。張り切って使おう。