軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出金6

セメントが固まるまでの間、買い物をして待つことにした。今日は武器屋と服屋に行くつもりだ。行き慣れた店だから、特に不安はない。……いや、金貨1000枚を使いきれるかが心配だな。どちらも案外安いから。

というわけで、みんな揃って買い物に向かう。まずは武器屋だ。

「そういえば、移転したんだったな」

「そうでしたね。場所は覚えています?」

「ああ、大丈夫だ」

以前の店舗はめちゃくちゃ狭かったが、今はそれなりに広い店舗に移っている。店があるのは王都の南側だ。ここからは多少距離があるので、転移魔法で近くに移動した。

前回来たときは移転して間もなかったため、棚もない状態だった。今日はちゃんと棚がある。しかし、商品数が極端に少ない気がする。棚の半分くらいが空いていて、棚がスッカスカだ。

店内を眺めていると、店主がこちらに気づいて寄ってきた。居ないかも、と思ったが、心配なかったようだ。

「久しぶりじゃねぇか。元気してたか?」

「ああ。変わらないよ。ところで、商品が少なすぎるんじゃないか?」

「まぁな。近々移転することが決まったから、在庫をそっちに移している最中なんだ」

店主は気まずそうに頬を掻きながら答える。この店は移転したばかりだったはずだが……。

「また移転するのか?」

「おうよ。ここでも手狭になってきたってのと、冒険者ギルドの近くにいい物件が空いたんでな」

ここも冒険者ギルドに近いと思うが、もっと近くて広い店舗を発見したのだろう。儲かっているようで何よりだ。しかし、これだけ在庫が少なければ、目的の商品があるかどうか……。

「なるほど、今日は大変そうだな。日を改めたほうがいいか?」

「構わんよ。これでも必要最低限は揃えている」

問題ないようだ。もとよりおかしな商品ばかりを扱っている店だから、よりおかしな商品から先に移動させているのだろう。

「わかった。何でもいいから、うちのメンバーの剣を数本見繕ってくれ」

今日探しているのは予備の剣だ。特にこれが欲しいという希望はない。おっさんのチョイスに委ねるつもりだ。おかしなものを持ってきても受け入れる。

「何でも? 折れたりしたわけではないんだな?」

「そうだな。折れたら困るから、予備が欲しいんだ」

「ふむ……わかった。待ってろ」

おっさんはそう言って店内を歩き回り、大小様々な武器を数本抱えてきた。

「予備だというなら、今の武器と同じ形状のものにしたほうがいいだろう。あんたら全員分の、同じ剣だ。材質はこっちのほうがいいから、今使ってるのを予備にしてもいいかもな」

おっさんの気遣いで、今使っている武器と同じようなもので、さらにグレードアップしてくれたらしい。同じ形状と言っても重さや拵えが若干違うため、全く同じようには扱えない。それを差し引いたとしても、今回の剣に替えたほうが良さそうだ。

「ありがとう、助かるよ。全部買おう」

「はっはっ! やはり稼いでいるようだな! 本来は全部で金貨240枚なんだが……今日は半額でいい。金貨120枚だ」

「は? 何を言っているんだ? ちゃんと全額払うぞ」

このおっさん、値引きしたい病にでも罹っているのかと疑いたくなるぞ。どうしていつも過剰に値引こうとするんだよ。

「お前なぁ……前回もそう言って聞かなかっただろ? 借りが残ったままで、ずっと気持ちが悪いんだよ。今日は素直に値引かせろ」

ああ、前回タダにするって言ったのを、全力で拒否したんだった。律儀にも覚えていたのか……。今日もできれば正規の金額で払いたいのだが、拒否できそうな雰囲気ではない。

「そっか……悪いな。じゃあ、ありがたく買わせてもらうよ」

おっさんから武器を受け取り、金を払って店を後にした。受け取ってから気づいたのだが……見慣れない片手剣があるんだよなあ。これ、たぶんアーヴィンの分だわ。絶対持ち腐れになるぞ。これだけは失敗だったかも。

気を取り直して服屋に向かう。

「次は服だな。いつもの服屋でいいよな?」

「大丈夫です」

ルナの返事を聞き、いつもの服屋に向かった。

武器屋は目まぐるしく変化していたが、こっちは至って普通。若干品揃えが増えているような気がするものの、いつもと同じ様子だ。

店に入るなり、店員さんから声をかけられた。

「お久しぶりですね」

店員さんは、俺たちの顔を覚えていたようだ。

「やあ、ご無沙汰してたな。ちょっと見せてもらうぞ」

さらっと「接客につかなくてもいいよ」という意思表示をして、買い物を始める。

「あ、はい。ごゆっくりどうぞ」

店員さんはニコリと笑い、陳列棚に手を差し出した。さっそく見させてもらおう。

今回は既製品で揃える。いつも狩っている魔物の皮は、大半を冒険者ギルドに売ってしまって残りはエルフの村に押し付けた。そのため、手持ちの皮はサイクロプスとオーガと金ボアが少しずつ。全員分の服を仕立てるには少々足りない。

俺の分はすぐに決まった。カジュアルスーツっぽい、おおよそ戦闘用とは思えないような真っ黒い革の服だ。他にもロングカーデを数点、やたらに派手なパンツを数点。全部真っ黒だ。他にも色があることは理解しているが、やっぱり黒が一番なんだよな。

俺の分は終わったが、他のみんなはどうかな……。武器屋とは違い、女性陣が目を輝かせている。長引きそうだぞ。

「ねぇ、これなんかどう?」

クレアは淡いピンクのワンピースを右手に持って自分の前に掲げ、機嫌よく声をかけてきた。

「……いいんじゃないか?」

としか答えられない。それなのに、クレアから追撃が来る。左手にも淡いピンクのワンピースを持っていたのだ。

「これとこれ、どっちがいいと思う?」

どっちも同じだと思う。とは答えられないよな。俺にはそんな度胸はない。

「どっちも似合うんじゃないか?」

「……そう?」

無難な答えをしたはずなのに、クレアは少し不満げだ。どう答えればいいんだよ。この答えがわからない問答は、クレアだけが相手ではない。ルナやリリィさん、リーズまでもが服を抱えて待ち構えている。

……なんの苦行かな? 早く逃げたい。みんなの買い物はいつ終わるのかなあ。

すると、マジックバッグの中から震える音が聞こえ始めた。転写機だ。

「おっと、王から呼び出しが来たみたいだ。悪いけど、ちょっと行ってくるよ」

「……どうして嬉しそうなの?」

「そんなことはないさ。面倒でたまらないよ。みんなは好きに買い物していいから、全額使い切ってくれ」

ルナに金貨が入ったマジックバッグを渡し、そそくさと店を出た。向かう先は王城だ。面倒なのは本心だが、みんなの買い物に付き合うのも大変そうなんだよな。どっちがいいかと言われたら、慣れている分王城のほうがまだマシ。

王城にあるいつもの部屋へと転移した。いつもは真っ暗で誰も居ない部屋なのに、今日は珍しく明かりが灯って人が居る。この部屋のソファに座っていて、不自然ではない人物。王だ。

「よく来た。待っておったぞ」

見ればわかる。わざわざこの部屋で待機していたんだろう。

「待たせたようだな」

「うむ。いつも待たせておるから、今日はこちらが待たせてもらった」

王はしたり顔でニヤリと笑みを浮かべた。なんだか先手を取られた気分だ。まあ、何の勝負をしているわけでもないのだが。

「で、今日はなんの用だ?」

俺の一言に、王の顔が曇る。

「順調に金を使っておるようではないか。今日はその確認である」

俺が買った家のことを、もう知っているような口ぶりだ。昨日契約したばかりだというのに、ずいぶんと情報が早いな。

「知っての通り、手持ちの金はほぼ使い切ったぞ」

しかし、王の顔が曇った理由が読めない。頼まれたとおり、かなりの額を使ったはずなのだが。

「うむ。まさかあの家を買うとは思わなかったが……家に問題はないか?」

「うん? 特にないが、何か問題でもある家なのか?」

「いや、噂の絶えぬ屋敷だったからな。突然塀が消える、一晩で蔦に覆われる、最近では突如として石柱が現れたそうではないか。土地に問題があるなら、早急に対処せねばならん」

塀が壊れたのは、おそらく水はけが悪いせい。石柱は俺が突き刺したものだから問題ない。蔦は……なんだ? たぶん、前の住民が変な実験でもしたんじゃないかな。魔法の研究をしてたらしいから。

家には問題ないが、土地に対してはいくらかの文句がある。この際だから言っておこう。

「石柱は知らないが、他の噂は土地のせいというのが大きいと思うぞ。水はけが悪すぎて、建物を作ってもすぐに壊れるんだよ」

家もすぐに壊れるんじゃないかと思う。俺が買った家は状態保存が掛かっているおかげで大丈夫だが、一般的な家は湿気の影響をモロに受けるだろう。木造ならあっという間に腐るし、石造りでも劣化が早いはず。

あの石柱だって、本来は塀の支えにする予定だったんだから、土地のせいだと言えなくもない。

あの周辺が水浸しになるのは、微妙に窪地になっていて水が溜まりやすいからだ。根本的に解決するなら、建物を全部撤去して埋め立てないといけない。まあ、水路と下水道を増やすだけでも多少は良くなりそうだけど。

「ふむ……その件については、かねてより協議しておる。区画整理の段階からやり直しになるから、すぐには対処できぬ問題だ」

ということは、区画整理の時点でミスっていたということだな。当時の担当者は何をしていたんだよ……。

「おかげで安く買えたってのはあるが、住みにくい環境だとは思う」

ただし一般住宅に限る。うちは空調完備、空気清浄機完備だから、湿気やカビに悩まされることはない。もしあの環境で普通の家に住めと言われたら、その日のうちに魔改造を施すと思うよ。

「であろうな。安すぎる地価も、余の代で対処する」

王は、得意げな表情を浮かべたまま今後の展望を話した。土地を埋め立てて段差を無くし、庶民向けの住宅地にする計画があるらしい。

今住んでいる住民は比較的貧しい人たちなので、その人たちのために国営の集合住宅を建設し、そこに安く住まわせるそうだ。

壮大な夢物語のようにも聞こえるが、計画には目立った穴がない。強いて言うなら、とんでもない金がかかりそうなくらいか。だからかな、俺に金を吐き出させたの。

……いや、ちょっと待てよ。その計画って、俺の家の土地も対象になってる?

「なあ、まさかとは思うけど、いずれ家を明け渡せってことか?」

「うむ。そうなる可能性は高い。まさかあの家が売れるとは思わなかったのだよ。それも、其方が買うとは……」

今日俺が呼び出されたのは、『いずれ家を明け渡せ』という事前告知のためだったようだ。せっかく買った家なんだから、安々と手放す気はない。

「すでに改造に手を付けているんだ。簡単には渡せないぞ」

「タダとは言わぬよ。それなりの金額を準備する」

にしても、明け渡す気にはなれないんだよなあ。魔道具の家を一から作るのは大変すぎるんだよ。金も手間もかかりすぎる。それに、環境に目をつぶれば立地も悪くない。

「同じ場所に同じ建物を建ててくれるんなら、喜んで渡すんだけどな」

「うぐ……無茶を言う。余にそんな無茶を言うのは、其方くらいのものだぞ」

「脅しのつもりか? まあ、計画を実行に移すときが来たら、改めて相談してくれ。その時の状況で考えるよ」

「うむ。其方には損をさせないだけの額を提示する」

あ……これ、買ったときよりも高い金額で売れるやつだ。今のタイミングで周辺の土地を買い漁ったら、ものすごく儲かるのでは?

この思いが顔に出たのか、王はすかさず言葉をつなげた。

「この計画は極秘である。他言は無用だ。それから、其方もあの周辺の土地を買うことを禁ずる。申請が来ても許可せぬからな」

「……わかってるよ。必要ないものを買う気はない」

先手を打たれてしまったから強がった。本当はめちゃくちゃ買い漁る気だったんだけどなあ。これ以上買われると出費が増えるから、王は俺に釘を差しておきたかったんだろう。

さらに話を聞くと、この計画を知っている人は土地の購入を禁止されるらしい。万が一情報が漏れた場合、国を挙げて全力で犯人を探した上で、厳罰が下されるそうだ。それでも不正購入は発生するという。困ったものだな。

有無を言わさず強引に計画を聞かされた気がするが、知って損するようなことではなかった。珍しく実のある対談だったのではないだろうか。ところで、まだ買い物終了の連絡が来ないんだけど……まあいいか。買い物はルナたちに任せ、俺は先に家に帰る。