作品タイトル不明
開拓10
ネスターを追い出した次の日、冒険者たちは無事に開拓村に到着した。俺の予想した通り、彼らは俺の 後釜(あとがま) だった。軽く引き継ぎをして、俺の任務は終了だ。
ルディは名残惜しそうに「残っていただけませんか?」と言ってきたが、丁重にお断りした。俺はとにかく早く終わらせるために頑張ったんだから、早く帰らせてもらう。
任務完了後、数日を掛けて周辺の魔物を徹底的に駆除した。食料になるボアとウサギは見逃したが、その他の魔物はもういない。開拓村周辺はとても安全だ。冒険者の仕事は減ったけど、その分開拓を頑張ってほしい。
狩った魔物だが、まとめて売るつもりだったのでまだ手元にある。鮮度はよくないが、氷室で冷やしているからそれほど傷んでいない。今日はこれを売るつもりだ。
冒険者ギルドが空いている昼ころを狙い、みんなで冒険者ギルドにやってきた。いい仕事があれば、ついでに受けてもいいかな、と思っている。
カウンター係は今日もエリシアさん。俺たちを見るなり、元気に声をかけてきた。
「コーさん、お久しぶりです!」
そういえば、しばらく顔を出していなかったな。
「久しぶり。買い取りなんだけど、いいか?」
「もちろんです!」
エリシアさんは笑顔で答えた。俺は魔物が入ったマジックバッグをカウンターの上に置く。
「頼むよ。今日は少し多いぞ」
狩った魔物をいちいち並べるのが面倒なので、俺はマジックバッグに詰め込んで渡すことにしている。今日はいつもより多く、3つのマジックバッグがいっぱいだ。
「また、ずいぶんと大量ですね……」
「ああ、開拓村で大量に狩ってきたんだ」
「なるほど……。それなら納得です。それでは査定してきますね」
数えるのが面倒だから数えていない。熊とゴブリンとウルフと……あと何が居たっけ? とにかく大量だ。数えるのは冒険者ギルドに任せる。
閑散としたギルドの中でしばらく待つ。待っている間に依頼を確認したが……面白そうな依頼はなかった。残念。
「討伐依頼でもあれば良かったのになあ」
「王都でそんなに頻繁に出てたら、国が滅ぶわよ……」
クレアが呆れ顔で言う。
討伐依頼は危険で緊急性が伴う場合にしか出ない。国土の中央あたりにある王都で大量発生していたら、辺境はどうなるんだ? っていう話だ。少ないのも無理はないか。
依頼は諦めて、査定を待つ。ギルドの奥が少し騒がしい。どうやらギルド総出で頑張っているらしい。量が多いからなあ……。
待つこと数十分、エリシアさんが戻ってきた。
「お待たせして申し訳ございません。ひとまずマジックバッグ1つ分の査定が終わりましたので、お支払いさせていただきます」
マジックバッグ一つ分で金貨600枚。現金で受け取った。ものすごく重いはずだが、金貨はマジックバッグの中なので重さは感じない。
これがあと2袋……。マジックバッグの中身全部が同じ金額ではないだろうが、今回の査定額は余裕で金貨1000枚を超えそうだ。 安(やっす) い任務だったが、かなり儲かった。
もともとは俺へのペナルティだったはずだけど、何の罰にもなってないな。むしろありがたかったよ。……いや、ネスターの排除は少し面倒だったか。それによってこれだけ儲かったと思えば、安い苦労だ。
査定はあと2袋。一袋査定するのに数十分だったから、まだ1時間以上待たなきゃいけないっぽい。
「ありがとう。かなり時間がかかるみたいだな」
「それだけ大量なんです……」
うわ、なんだか申し訳ない。放置すると腐るから一気に売り飛ばしたんだけど、価格崩壊が少し心配になる。
「こんなに大量に売って、値段が下がったりしないか?」
「心配ありません。今はミルジアとの貿易が盛んで、これでも足りないくらいなんです」
「なるほど。それなら大丈夫だな」
エリシアさんの話では、特にオーガ系の革が人気だそうだ。ミルジアは暑いから、毛皮の人気はそれほどないらしい。と言っても、ミルジアでは革が取れる魔物が少ないので、それなりに需要はあるようだ。
俺に皮なめしの技術があれば……直接ミルジアに卸すんだけどなあ。まあ、ないものねだりは良くない。自分にできることをやろう。
「では、査定の続きをやってきます。すみませんが、もうしばらくお待ち下さい」
ここでぼーっと待ち続けるのか……。ちょっと時間の無駄だなあ。先に他の用事を済ませておこう。
「悪い、ちょっと出てくる。後でまたくるから、査定を進めておいてくれ」
「わかりました。責任を持って、お預かりさせていただきます」
エリシアさんは、そう言ってギルドの奥に帰っていった。
時間はたっぷりある。みんなの方に向き直り、声を掛ける。
「まだ時間がかかるみたいだから、王城に顔を出しておこうと思う」
「わかりました。行きましょう」
実は、王から呼び出しが来ているんだ。いつもなら後回しにするところなんだけど、今日はちょっと事情が違う。きっと王は悔しさに地団駄を踏んでいることだろう。是非見に行きたい。
王城のいつもの部屋に転移した。王は一応仕事中なので、今はここにはいない。王の仕事が終わるまで、ゆっくりと寛いで待つ。
適当に寛いでいる間に、王が部屋に入ってきた。軽く挨拶をする。
「やあ。久しぶり」
王は一瞬ぎょっとした顔をしながら、すぐに平静を装って答える。
「……うむ。よく来た」
そう言ってソファに腰を下ろす王の額には、うっすらと青筋が浮き出ている。
そうだよ、これこれ。これが見たかったんだ。
「今日は何で呼び出されたんだ?」
どうせネスターの件だろうけど、気づいてないフリをする。
「非常に有能な人材の紹介、ご苦労であった」
王は顔を引き攣らせながら言う。嫌味かな? だったらそのつもりでお返ししてやらないと。
「いやいや、感謝は及ばないよ。当然のことをしたまでだ」
王の青筋が順調に成長している。だいぶイラッとしているみたいだ。
「ふむ。しかし、あの者は開拓村で重要な役割があったのではないのか?」
王の足が小刻みに震えている。イライラが最高潮に達しているのだろう。
「心配ないぞ。あいつはもともとたいして役に立っていなかったからな。もっと優秀な奴に任せてきた」
「問題ないのだな? 開拓民の反発はなかったか?」
「それは本当に心配ない。みんな喜んでくれたぞ」
俺がそう言うと、王は小さく舌打ちをして頭を抱えた。
「そうか。承知した。こちらも書籍管理官の選出には苦労しておったから、助かったのは事実だ……」
王は目をそらしたまま言う。降参のポーズかな? 久しぶりの勝利だぜ。
しかし、ネスターに与えられた仕事、やっぱり超不人気職だったんだなあ。一年中馬車の中っぽいから、人気がないのも仕方がないけど。
「喜んでいただけて何よりだ。今日はそれだけか?」
俺の用はこれで終わり。王の悔しがる顔が見たかっただけだ。十分楽しませてもらったから、もう帰りたい。
「いや、まだだ。其方に申した領主の件であるが、心変わりはないか?」
あれ? ネスターを排除したんだから、俺に押し付ける必要なくなったはずだよな? 答えはもちろんノーだけど。
「変わらないな。領主なんかをやる気はない」
「であるか……。一つ相談なのだが、聞いてもらえないだろうか」
「相談? 王が?」
相談なんて、王が言うようなセリフじゃない。
「いや、一友人としての相談である。聞いてもらえぬか?」
王と友人になった覚えはないんだけど……強いて言うなら、アポ無しで訪問するような仲だ。あ、ちょっと友人っぽいな。
「いいだろう。何だ?」
「……単刀直入に聞く。其方、今金貨を何枚持っておる?」
「おい、俺の懐事情を知って何がしたいんだよ。金なら貸さないぞ」
金の貸し借りは友達でもダメだ。どうしようもなく困っているんだったら、あげるつもりで貸すけど。
「そういう意味ではない。其方は銀行にも預けず、使うこともせず、大量の金貨を抱えているであろう」
「それがどうかしたか?」
「今は問題ない。しかし、このまま貯められると困るのだ。使って経済を回してほしい」
王の言い分はわからなくもない。今は問題なくても、このまま貯め続けたら流通する金貨の総量が減る。そうなってからはもう遅い。金貨は金地金がないと鋳造できないから、足りなくなったからと言って簡単には作れない。深刻なデフレが起きるだろう。
なるほどな。領主にこだわる理由がわかったぞ。領主になれば、街道の整備や村内の設備投資で大金を使うことになる。王は俺を領主にして金貨を吐き出させるつもりだったのか。
俺は王を困らせるのは好きだけど、国民を困らせたいわけじゃない。俺が金貨を貯め続けたら、近い将来国民が困ることになる。今回ばかりは王に協力しよう。
「今いくら持っていたっけ?」
俺は把握していないから、ルナに聞いてみた。
「数えてみないとわかりませんが……最低でも4000枚はあったと思います」
そんなに稼いでいたのか。いつの間に……? いや、使っていないんだから、貯まるのも当然か。
「やはり、其方はずいぶん稼いでおるのだな」
王は俺の稼ぎの一部を把握している。マリーさんの店からの入金は王城に預けているし、王城からの支払いもあるからだ。王はそれで危機感を抱いたんだろうな。
「でもさ、これくらい稼いでいる冒険者は他にも居るだろ?」
たしかに大金ではあるが、国庫を揺るがすほどではないだろう。
俺たちが特殊というわけではない。冒険者なら誰でも、これくらい稼ぐ可能性がある。上手く大物を倒すことができれば、1匹で金貨数百枚の報酬を得ることもあるんだ。
「稼ぐ速度が違うであろう。それに、其方は金を使っておらぬ。そんな冒険者は他におらぬよ」
一人前の冒険者は、 一月(ひとつき) あたり金貨15枚くらい稼ぐらしい。最低でも250ヶ月分くらい貯まっている。
ちなみに、俺たちの1ヶ月の生活費はポーションや魔道具の材料費込で金貨4枚くらい。1000ヶ月以上生活でき……寿命を超えるな……。稼ぎすぎた。
言われてみれば、たしかに今持っている金は使い道がない。エルミンスールはほぼ自給自足だから、服以外に金を使うことはないんだよなあ。
しかし、突然「使え」と言われても困る。無駄使いをする気はないぞ。
「商売でも始めればいいか?」
「それでも良い。いくら儲けても構わない。とにかく流通させてほしいのだ」
俺の言いたいことは伝わったようだ。王の意見も俺と同じらしい。金貨を死蔵しているのが拙いだけで、手持ちが増えるのは問題ない。
まあ、そうでなければ「領主になれ」とは言わないよな。たぶん、領主は商人以上に金が入ってくるだろうから。
「売るなら、ポーションと魔道具かしら」
クレアが口を挟む。まあ、俺たちが売るものと言えばこの2つだよな。
「そうなるだろうけど……材料は自分で調達できるし、結局あまり使わない気がするぞ」
どちらも売値の大半が技術料だ。しかも一部の材料を自分たちで調達できるから、かなりローコストで作ることができる。多少の加工費や材料費がかかっているものの、どちらも8割以上が利益。王が望む『金を使うこと』は叶わない。
「ぐぅ……もっと何か使い道はないのか? 王都の一等地に店を構えてはどうだ?」
「え? いや、面倒。人を雇わなきゃいけないじゃん」
「むぅ……商人の夢だと言うのに……」
王都の一等地に店を構えるのは商人の夢なんだそうだ。商人ならそれでいいと思うけど、あいにく俺は冒険者だ。店よりも自由がほしい。
「わかった、わかった。使い方を考えるから、時間をくれ。近いうちに何とかするよ」
「うむ……。方法は其方に任せる。頼んだぞ」
王に別れを告げ、冒険者ギルドに戻った。すると、エリシアさんがすでに待ち構えていた。
「コーさん、お待たせしました! 査定が終わりましたよ!」
すべての査定が終わったらしい。意外と早かったな……。
「こちらこそ、待たせたみたいだな」
エリシアさんから残りの金貨を受け取った。これも現金だ。使うべき金貨が1000枚増えたよ。マジか……。全部で6000枚を超えたぞ。
「改めて考えると、凄い額よね……。使い切れるかしら」
クレアが不安げに呟く。
「すべて使い切る必要はないだろ。1000枚くらいは残しておきたいから、使うのは5000枚だ」
ただ使うだけではダメだ。必要なものに必要なだけ使う。使った分以上に回収できなければ、金を使う意味がない。まあ、多少は遊びにも使うけど。
とりあえず、消耗品の武器と服を買い漁るか……。これで数百枚使って、残りはその後考えよう。