作品タイトル不明
開拓9
ネスター排除案である王からの任命書は受け取った。しかし、今すぐに渡すのは拙い。開拓村から王都まで、転移を使わずに走って移動したら片道1日以上かかる。日帰りなんてしたら怪しまれるだろう。
というわけで、今日は開拓村には顔を出さず、周辺の魔物を狩ることにした。熊の群れも半分逃しているし、周辺にはまだ大量の魔物がいるはずなんだ。
開拓村から離れたところに転移して、周辺の様子を伺う。
「このあたりにはどんな魔物が生息しているんだ?」
ルナたちは一足先に森に入っているから、ある程度は把握しているはずだ。情報を共有しておきたい。
「熊の他は……ウルフ、ゴブリン、ボアなどです。王都付近の森と大差ないみたいです。ただし、上位種が多い印象ですね」
ルナは考える素振りをしながら言う。王都とはかなり離れているのに、棲んでいる魔物はほとんど同じなのか……。ただ、ちょっと聞き慣れない言葉が出てきた。
「上位種って?」
「特徴はよく似ているのに強さが全然違う個体のことを指します」
「例えば、やたら大きかったり群れを率いていたり。元は同じ魔物なんだけど、成長して強くなった個体よ」
ルナの答えにクレアが補足する。
そういえば、いつか倒したウルフの群れのボスは、同じ種のはずなのにめちゃくちゃ大きかった。ああいうやつのことを言うのか。
「じゃあ、色違いは? 金色のボアみたいな」
いつかの金色のボアは、かなり苦労して倒した覚えがある。魔法は弾くし皮は硬いし……同じボアとは思えない。
「ああ、あれは変異種。上位種ではないわよ。ただし、冒険者ギルドでは全部まとめて『特殊個体』って書くことが多いの。遭遇してみないと判断できないからね」
「なるほど……だから聞き慣れなかったんだな」
特殊個体という言葉なら聞き覚えがある。ギルドの掲示板にもそう書いてあった。たしか、『緊急』が付く危険な依頼だったような……。気を引き締めたほうがいいな。
「金色のボアほど危険な魔物は見ませんでした。でも、全体的にやや強いようです」
「なるほど……了解。5人で固まって行動したほうがいいな。みんな、はぐれないように注意してくれ」
オーガやサイクロプスのときみたいに散開して個人戦に持ち込むのは得策じゃないようだ。
「熊の群れのこともある。それがいいだろう」
リリィさんが俺に追従すると、みんなも納得したように頷く。
「よし、じゃあ行こうか。リーズ、索敵を頼む。できるだけ魔物が密集しているところを狙いたい」
「はーい」
いつものように索敵をリーズに頼み、森の中を進む。すると、リーズはすぐに反応した。
「居たっ! たぶん熊!」
リーズの耳がピクッと動き、口角が少し上がった。リーズはリベンジに燃えているようだ。前回は敗走に近かったからかなあ。
「状況は?」
「固まってて、こっちに気づいてない。今なら不意打ちできそうだよ」
「それなら、まずは俺が接近して狙撃する。動きがあったら合図をするから、全員で群れの中に突撃だ」
森の中は熊のテリトリー。正面からぶつかるのは俺たちが不利だ。狙撃で数を減らして戦いやすくする。
「わかりました。お気をつけて」
俺はみんなに目配せをして走り出した。熊の気配が察知できるところまで移動し、適当な木の上でアンチマテリアルライフルを展開する。
一際大きな反応の回りに、大小様々な反応がある。弱いやつを大量に間引くか、一番強そうなやつを真っ先に仕留めるか……どっちがいいだろう。
殲滅が狙いなんだから、弱いやつを大量に狩るべきかな……いや、一発撃てば音でバレる。撃てるのはせいぜい5発程度だと思ったほうがいい。となると……。
「一番強そうなやつを狙うとするか」
訓練の末、命中精度は格段に向上している。100m以上離れていても狙い撃ちすることが可能だ。群れの真ん中で偉そうに寛いでいる熊に向けて、弾丸を発射した。
一撃で頭を粉砕。不意打ちだったこともあり、あっさりと仕留めることができた。
熊の群れは落ち着きなくあたふたしているように見える。やっぱりあれはボスだったのだろう。統率者が居なくなって、群れは混乱している。
今がチャンス! 大量の弾丸を浮かべ、撃てるだけ撃つ。とにかく大量に撃つ。ほら、スコールみたいだろ? これ、全部弾丸なんだぜ……。
準備した弾丸を撃ちきったところで、状況を確認してみる。ボロボロの熊が大量に転がっている。調子に乗ってやりすぎた……素材が台無しだよ。
しかも、木の葉は全部落ち、木の幹もボロボロだ。この周辺の木は、建材としては使えないだろう。開拓村では大量の木が必要なのに……まあ、いいか。言わなきゃバレないだろうから、俺が怒られることはない。
気を取り直して熊の様子を見たが、木陰に隠れている熊以外はすべて仕留めきれたと思う。だいぶやりやすくなったぞ。みんなに合図を出し、残った熊に襲撃を掛けよう。
熊の数は、最盛期の4分の1程度まで減っている。その上、ボスが居ないから連携がうまく取れていない。不利なフィールドだが、割と簡単に倒しきることができた。
リーズは少し物足りなさそうな顔をしていたのが気になる。手応えがなさ過ぎたのかな……。もう少し数を残しておいてあげれば良かったか。
みんなで手分けをして、きれいな熊とボロボロの熊をマジックバッグに詰め込む。また査定が下がるよ……。
熊の回収を終わらせた。熊の総数は、開拓村で狩った分も合わせて80匹くらいだ。一部原型を留めていない個体もあるため、正確な数はわからない。出てきた魔石の数で判断するしか無いな。
「熊はこんなところだろう。他にも居るよな?」
「うん、あっちにいるよ」
リーズはすでに次のターゲットに目星をつけていた。リーズの案内で、次の獲物に向かう。しばらく進むと、リーズが突然立ち止まった。
「待って。この先に行くと人が居るよ」
「こんなところに?」
「うん、20人くらい居る」
ここは森の真ん中で、この先に進んでも開拓村しか無い。ということは、派遣された冒険者か行商人だろう。いや、行商人で20人は無いか。
あと、考えられるとすれば盗賊だ。もし盗賊だったら拙いな。行商人が狙われたら開拓村への物資の供給が止まってしまう。確認しておいたほうがいいだろう。
「行ってみよう。案内してくれ」
「はーい」
現場に行くと、ちょっとした荷馬車が停まっていた。そのまわりに、20人くらいの人が腰を下ろして休んでいる。
小綺麗なおっさんが3人と、冒険者風の男女。気配察知の反応は『敵対』だが、警戒中の冒険者や兵士の正常な反応だ。これだけでは判断できない。
少し近づいて探りを入れよう。草むらに潜んで接近すると、話し声が聞こえてきた。
「村まではあとどれくらいだ?」
冒険者風の男が、小綺麗なおっさんに話しかけている。
「明日の昼の鐘が鳴る頃に到着できそうです」
「そうか……片道だけの護衛で悪かったな」
「いえ、こちらこそ。移動のついでに護衛していただいているのです。感謝していますよ」
開拓村に向かう行商人と、その護衛の冒険者だったようだ。話の内容から察するに、冒険者の一部は開拓村に残るのだろう。ということは、俺の代わりに派遣された冒険者だ。彼らが村に来れば、俺たちは開拓村から開放される。
それは有り難いんだけど、ちょっと拙いな。彼らが村に到着したら、ネスターが忙しくなるだろう。行商人との取り引き、新しく来た冒険者への説明や指導、どれもネスターの仕事だ。王からの任命書を渡すタイミングを失ってしまうかもしれない。
みんなのところに戻り、声を掛ける。
「彼らは開拓村に向かているようだ。悪いが予定変更だ。先にネスターを排除する」
まだ早い時間だが、すぐに村へと向かう。だが、転移は使わない。彼らがスムーズに村まで来られるように、彼らが通るであろう道の近くの魔物を残さず狩り尽くす。
移動中、ゴブリンの群れを発見したので潰しておいた。他所よりも一回り大きくて全員が武器を所持していたが、所詮はゴブリン。手こずるはずがない。サクッと討伐した。
次はグレイウルフの群れだ。以前戦ったウルフの群れよりも小規模な群れで、1匹1匹は強いが難しくはない。苦戦することなく討伐できた。
いやしかし、群れが多いな……。村が襲われていたら危なかったぞ。開拓の前に周辺の危険度くらい調査しておけよ。
村の中に入ると、都合よくネスターを発見した。俺の顔を見るなり、すぐに声をかけてくる。
「あれ? お忘れ物ですか?」
「いや、もう行ってきた。俺たちは走るのが早いんだよ」
「ずいぶんと早いですね……。本当に王都まで行ったんですか?」
ネスターは俺を疑っているようだ。自分でもちょっと早すぎない? って思うくらいだから、疑うのは仕方がないか。
でも、シモンは実際にこれくらいの速度で 早(・) 歩(・) き(・) するから、無理なことではない。ボナンザさんも、図体の割に走るのが異常なほど早かった。たぶんAクラスのベテラン冒険者の標準速度なんじゃないかな。俺たちもAクラスなんだから、不自然ではないはず。
「ああ、王に直接報告してきた」
「は? 王様に? 謁見の申請をしていたのですか?」
申請? たかが王に会うために、何か手続きが必要なの? 面倒だなあ。やっぱり連絡なしで押しかけるのが正解だわ。
でも、今はそんなことを言うと話しが長引く。簡潔に済ませたいから、ネスターに合わせておこう。
「そんなところだ。ついでに開拓の状況も報告してきた」
「……それで、王様は何と仰っておられましたか?」
ネスターは怪訝そうに言う。
「開拓については別に何も。状況を説明して冒険者の増員を頼んだんだ。許可は得られたぞ」
ネスターはニヤリと口角を上げ、深く頷いた。
「なるほど。十分に励めということですね。頑張りましょう」
うん? よくわからない返答が帰ってきたけど、話通じた? まあいいか。本題に入ろう。
「そこで、ネスターに重要な任務を任せたいという打診があったのだが、どうする?」
「……任務といいますと?」
「ネスターの手腕を見込んで、高価な本の管理をしてほしいそうだ。王から任命書を預かっている。詳しくはそれを見てくれ」
ネスターの特徴や正確を伝えて、王が自ら選出した仕事である。良いように言い換えたが、嘘ではない。
「……なるほど。光栄です。しかし、私にはここの責任者としての仕事が……」
ネスターの顔が少し曇る。あまり乗り気じゃないのだろうか。それは困るぞ。
「いや、それはネスターじゃなくてもできる。王からの仕事はネスターにしかできないんだ」
「私にしか……」
ネスターは複雑な表情を浮かべて口ごもる。あとひと押しかな。
「責任ある仕事だ。大変だろうけど、王が是非にと言っている」
「しかし、ここの責任者は……代わりを探さなければなりません」
うおっ! ヤバい! 完全に忘れてた! ネスターを辞めさせるんだから、代わりを立てなければならない。拙いなあ……考えてなかったぞ。
何かを思い出すふりをして目をそらすと、ふとルディが視界に入った。もう面倒だから、ルディでいいんじゃないかな。若いけど割と頼りになるし、リーダーの素質はあると思う。
「ルディに任せればいい。彼なら大丈夫だ」
「ルディに? 彼はまだ若く……」
ネスターは納得しきれない様子。だったら、遠回しにネスターを褒めておこう。
「いや、指導が良かったのだろう。若いが頼りになる」
「そうですか……わかりました。ルディに任せましょう」
「ルディ、ちょっと来てくれ!」
こちらに気づかず歩き去ろうとするルディを呼び止め、現在の状況を説明した。すると、ルディの顔が青ざめる。
「え? ちょっ! 待ってください! 僕がそんな大役を……」
ルディにとっては寝耳に水。ネスターのことを煙たがりながら、自身が村長になろうとは考えていなかったようだ。俺はルディの耳元に顔を近づけ、小声で進言した。
「観念しろ。ネスターがこの村から出ていくんだぞ。そのために必要なことだ」
「う……承知しました……。拝命いたします」
ルディは不承不承に頷き、頭を下げた。暗い表情のルディとは対称的に、ネスターの顔はどこか晴れやかだ。喜んでくれてなによりです。
この開拓村で俺が担当した作業はほとんど終わっている。明日の昼には冒険者たちが到着するから、その時点で俺は開放される。
ネスターは排除し、村長の役目はルディに押し付けた。悪いようにはならないだろう。後日王の悔しそうな顔を見に行けば、完全に任務完了だな。