軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開拓4

初日の朝礼が終わり、これから作業を開始する。とはいったものの、何をしたらいいか……。指示がないと動けない。ネスターからの指示を待っていたのだが、ネスターは俺がリーズと話をしている間にどこかへいってしまったようだ。

「俺は何をしたらいいんだろうな。待ってろってことか?」

「そうですね……勝手に動くわけにもいきませんし……」

ルナが困り顔で答えた。

他のみんなもただボーッと立っているだけで、退屈そう。当のネスターは、俺の気配察知では探れないくらい離れている。このまま待っていても埒が明かないな。

「まあいいや。ルナたちは自由にしてていいぞ。あとは俺の問題だ」

「え……? でも……」

「どうせだから、近くの魔物でも狩ってきてくれないか。どうせいっぱいいるだろ」

そう言ってリーズに目配せをすると、リーズはにっと笑って答える。

「いるいるー。1日じゃ狩りきれないくらいいるよー」

俺の索敵範囲外に、大量の魔物がいるらしい。どうせいずれ開拓の邪魔になるんだから、今のうちに駆除しておきたいな。

「よし、任せた。適当に間引いてくれ。無理はするなよ」

「はーい!」

任せたはいいものの、リーズ1人で行かせるのはかなり不安なんだよな。

「リーズくんだけでは心配だ。私もそっちについていこう」

リリィさんも俺と同じことを思ったのか、魔物駆除に同行するようだ。リーズは迷子になる心配も雑魚魔物相手に不覚を取る心配もないのだが、もっと別の何か……予想もつかないトラブルを持ち帰る心配がある。引率者は多いほうがいい。

「4人で行っていいぞ。そのほうが捗るだろ」

「……待って。アタシはこっちに残るわ。開拓作業は始めてじゃないから、少しは役に立つと思うわよ」

クレアは村に残るつもりのようだ。それは有り難いが……。

「それなら、ルナは魔物駆除の援護を頼む」

リリィさんも調子に乗るタイプだから、リーズと2人で組ませるのは少し不安。予想もつかないトラブルが大きくなる心配がある。その点、ルナとクレアはうまくブレーキになってくれるから、二手に分かれるときは2人を分けておいたほうがいいと思う。

「わかりました。行ってきます」

ルナたち3人は、駆け足で村の外に出ていった。万が一重大な問題が発生しても、ルナがすぐに連絡してくれるだろう。ひとまず安心だ。

話をしているうちに結構時間が経ったと思うのだが、ネスターはまだ来ない。こっちから行動を起こすしかないようだ。残ったクレアに話しかける。

「もう待てない。ルディなら近くにいるみたいだから、あいつに聞こう」

そう言って足を踏み出すと、クレアは「そうね」と頷いて俺の後を追ってきた。

ルディは近くのテントの中にいる。今日もたくさんの書類と格闘しているのだろう。邪魔をして悪いが、あいつのほうが話が早い。

ルディがいるテントの入り口を開け、中に顔を出した。

「あ、おはようございます。何か御用ですか?」

ルディは笑顔をこちらに向け、机の上の書類を片付けた。

「ネスターが俺に指示を出す前にどこかに行ってしまったんだ。俺はどうしたらいい?」

「ああ……なるほど。忙しい人ですから、コーさんのことを忘れているのでしょう」

ルディは苦笑いを浮かべて言う。日常茶飯事、とでもいいたげだ。ネスターは無責任なやつだなあ。

「ネスターを連れてきてくれないか。何も指示をされていないから、暇を持て余しているんだ」

このまま放置するつもりなら、魔物の駆除に合流するぞ。自由時間と見做す。

「……いえ、僕が案内しましょう。朝から不機嫌になられたら、仕事に差し支えますから」

ルディはそう言って立ち上がり、俺たちを避けてテントの外に出た。そして「ついてきてください」と言ってツカツカと歩き出した。

「不機嫌ってなんだ?」

「ははは……。あの人、自分の作業の邪魔をされると、ものすごく不機嫌になるんです。昨日も大変だったんですから」

ルディはうんざりした顔で答えた。ネスターは相当気難しい人間のようだ。……そんな奴を代表者にしていいのか? 人選ミスを疑うけど……。まあ、俺には関係ないか。俺はすぐにこの村を離れるんだし。

「なかなか大変そうだな」

「いえいえ。ネスターさんが言い出さなければ、開拓が始まらなかったんですから。文句を言っても仕方がありませんよ」

この開拓事業はネスターの働きかけでスタートしたらしい。一応リーダーらしいこともやっているみたいだな。

ちょっとした雑談をしながら前に進む。ルディが向かう先は広場と森の境目だ。

俺が任される作業は、伐採か製材か整地のうちのどれかだと思う。向かう先から予想するに、俺は伐採班に合流することになりそうだ。

「ところで、先程は5人いらしたようですが、他の方は?」

「朝礼でも言ったが、常駐するのは俺だけだ。今日は別行動をしている」

「そうでしたか。失礼しました」

ルディは軽く聞き流した。そういう態度はとても助かる。いちいち説明するのは面倒だからなあ。

森に足を踏み入れようとした瞬間、ルディがスッと立ち止まった。俺たちもそれに倣って立ち止まると、ルディがこちらに振り向いて言う。

「この先は気をつけてください。あれに巻き込まれたら死にますよ」

ルディが目を向ける先で、無人の装置が大きな斧をバットのように振り回していた。刃先は木に向かい、木の幹をガツガツと削っている。

「……何をしているんだ?」

「伐採用の魔道具です。木を伐採しているんです」

まさかとは思ったけど、やっぱり伐採だったか。木の伐採は魔道具でやるらしい。チェーンソーではなく、斧を自動で振り回す装置だ。見るからに危ないって……。さすがに死にはしないだろうけど、めちゃくちゃ痛そうだ。

「ノコギリじゃダメなのか?」

「木の太さに耐えられないんです。どうしても斧じゃないと」

止めるときはどうするんだろ? 勝手に止まるまで待つの? 超危険じゃないか。あの装置にはあまり近づきたくないなあ。

「伐って、その後はどうするんだ?」

「伐った木を製材所に運んで、切り株を抜きます。ここからは手作業ですね」

この村は森を切り拓いて作るので、住居や畑になる予定の場所にも木が生えている。その木を伐って住居や柵を作るのだが、木を伐ったあとには根っこが残るため、地面を均す前に取り除く必要がある。

これは魔道具ではどうにもならないようで、人力で掘り起こして取り除くしかないらしい。これは大変だ。

「もっと楽にできないか?」

「無理ですね……。土を掘るような複雑な作業は、魔道具には向いていません」

一瞬地球のバックホーが頭をよぎったのだが、あんなでかい重機はこの国では作れそうにない。大量の鋼鉄が必要だし、動かすための動力も思いつかない。

そして地面を均すのも人力だ。これもまたホイールローダーが頭をよぎるのだが……やっぱり無理だ。地球の土木工事、チート過ぎない?

「これは時間がかかりそうだな……」

「ですから人手が必要なのです」

開拓はこんな作業が大量にあるらしい。拙いぞ。もっと楽な方法を考えなければ。土いじりが嫌いなわけではないが、一日中穴を掘り続けるなんて、苦行以外の何物でもない。

腕を組んで考えていると、クレアがいたずらっぽい笑みを浮かべて俺をつついた。

「コーだったら、こんな切り株くらい持ち上げられるでしょ?」

「え? いくらなんでも無理だろ」

「いいからやってみて」

クレアに促され、足元の切り株を両手で抱えた。力を入れて引き上げるが、少し動いたところで止まる。

切り株の見えている部分は小さいが、地面に木1本分くらいの根が埋まっている。これを持ち上げるなんて、相当大きな重機でも難しいはずだ。ましてや人力なんて……。

「ほら、無理じゃん」

「……全力を出してないでしょ?」

クレアが訝しげに俺を見た。戦闘モードで全力を出せと言いたいのだろう。言われた通り、身体強化を全力で掛けて切り株を引き上げた。

『ボゴォッ!』

切り株は、勢い余って宙を舞う。周囲に土をばらまきながら、地面にドサリと落ちた。

「……抜けたな」

「でしょ? だから言ったじゃない」

なぜか得意げなクレア。全力のクレアは俺よりも力があるんだから、もっと簡単に引き抜けるだろうに。

「あの……今何を?」

ルディは怯えたような声を出した。戸惑いが隠しきれない様子だ。言葉に出して説明したほうがいいのかな。

「見ての通り、切り株を引き抜いたんだ」

「そんなことができるんですね……」

「まあな。これだったら、伐る前に抜いたほうが楽だ。もう伐らなくていいぞ」

切り株になってしまうと、持つところが減って難しくなる。だったら、多少重くても持ちやすい木の状態で抜いたほうが負担が少ないだろう。

「ははは。そうみたいですね」

俺たちは伐採班に回されるだろう。適材適所だし、そのほうが作業が早く進む。

一息ついたところで、ネスターの気配が近づいてくることに気づいた。そちらに目をやると、大声で叫びながら駆け寄ってくるのが見えた。

「勝手に動き回られると困るんですが!」

ネスターの到着を待ち、言葉を返す。

「あんたが勝手にいなくなったんだろ。困ったのはこっちだ」

「にしても、離れるなら私に一声かけていただかないと……。ところで他の方は?」

言いたいことはまだあるが、話が進まないから流しておこう。今はそんなことよりもさっさと作業を進めたい。

「今日は別行動だよ。周辺の魔物を狩りに行っている」

「勝手なことをされると困るんですが……それなら安心です。それではコーさんの仕事なんですが」

ネスターがそう言ったところで、ルディが口を挟んだ。

「伐採班に入れてください。コーさんは木を引き抜くことができるんです」

「は? 引き抜く?」

ネスターは気の抜けた声を出した。言葉の意味を理解していないのだろう。やったほうが早いな。

「こうだよ」

近くに生えていた木を全力で引いた。『ボゴォ』と音を立て、周囲の土が盛り上がる。『ブチブチ』と細かい根が引きちぎれる音がして、根っこが地面から離れた。

「……え?」

「もう少し大きい木でも大丈夫だな。あまりにも大きな木は伐るしかないが」

「そんなことができるなんて……予定が狂いますね……」

ネスターは難しい顔で頭を抱えた。

「何か問題でも?」

「いえ、作業が早くて助かります。しかし、製材が間に合いそうにないので……」

ネスターは他の作業のことを気にかけていたようだ。製材班も人手が足りていないのだろうけど、それは大した問題じゃない。

「木を積んで貯めておけばいいだけだろ」

「……そうですね。私のほうで調整しておきます。それではそちらの女性なのですが、調理を担当してもらおうと考えています。私と一緒に来てください」

話題はクレアの作業内容に移った。ネスターはクレアを調理班に回したいようだが、それは困る。せっかく予想以上に早く終われそうなのに、連れて行かれたら作業が遅れる。

「いやいや、クレアも伐採班だ。クレアの馬鹿力は俺より凄いぞ。クレア、やってくれ」

「アタシも一応か弱い女の子なんだけど。わかってる?」

クレアはグチグチと文句を言いながら、軽々と木を引き抜いた。

俺たちに出会ってすぐの頃のクレアは力がなかったのになあ。片手剣がうまく扱えないくらい非力だったのに、今では大剣を片手で振り回せるくらいの馬鹿力だよ。

「はぇ……?」

ネスターは、口を半開きにして間の抜けた声を出す。

「な? 料理ができないわけじゃないが、この力を使わないのはもったいない」

「しかし……女性は調理か洗濯に、というのが常識でして……」

ネスターには目の前で起きたことが理解できなかったのかな? 理解できるまでやってやろうじゃないか。

「クレア、もう1本いこう」

「はいはい」

クレアは面倒そうに返事をすると、近くにあった木を引っこ抜き、誰もいないところに放り投げた。

「というわけだ。伐採班を手伝うべきだろ」

「……わかりました。調整し直します」

ネスターは、そう言ってトボトボと歩き去った。

ようやく作業を開始できる。ルディにお礼を言い、クレアと2人で作業に取り掛かった。

その後、木を引き抜くことに没頭した。2人で何本引き抜いただろうか。たった今日1日で、広場は倍以上に拡大している。しかし、無理やり引き抜いたため、地面はボッコボコだ。これを均すと思うと気が滅入るな……。

よし、明日はアーヴィンに手伝わせよう。ずっと引き篭もっているんだから、たまには体を動かさないと体に悪いからな。