軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開拓5

1日目を終え、狩りに出ていた3人と合流した。マップで確認することは可能だったのだが、木を引き抜くことに集中していたため3人の状況を見ていない。まずは成果を確認したい。

「今日はどうだった?」

「ごめんなさい。思ったよりも少ないです……」

ルナが申し訳無さそうに言う。開拓が終わったあとで狩りに合流してもいいんだから、急ぐことはない。むしろ少し残しておいてほしいくらいだ。どんな魔物がいるのか、少し気になる。

「別に謝ることじゃないさ。別に1日で狩りつくそうって話じゃないんだ」

「いや、我々が考えていたよりも強敵だったのだ。思いの外手こずった」

リリィさんが首を横に振りながら言う。ルナとリリィさんとリーズの3人がいて苦戦するなんて、ちょっと考えにくい。巨大サイクロプスでも瞬殺なのに。

「え? 3人で?」

「まあ、そうだな。森の中で障害物が多く、目にしたことのない相手だった……いや、言い訳にしかならないが」

リリィさんはバツの悪い顔で言いにくそうに答えた。しかし、俺もつい最近大トカゲに苦戦したばかりだから、人のことは言えない。

「相性の悪い相手は居るさ。怪我はないか?」

見た感じ、3人ともいつもと変わらない。怪我をしたとしても治癒魔法で治る程度だったのだと予想できるが、危険であることには違いない。確認しておくべきだろう。

「怪我はありません。でも……」

「かなりヒヤッとさせられたよ」

ルナが答え、リリィさんが補足する。すると、リーズが必死な形相で訴えた。

「クマが群れてるなんて、聞いたことないよー!」

どうやら大量の熊に囲まれたらしい。それは確かにかなり危険だ。

熊が群れるというのはあまり聞かない話だが、絶対に群れないというわけではないと思う。日本のクマ牧場なんかは思いっ切り群れているからなあ。

「なるほど。対策ができるまで、しばらく狩りはおあずけだな」

残念だけど、しばらく狩りは禁止したほうがいい。

「はい、そうするつもりです。明日はダイキチさんを観察して、対策を練ろうかと考えています」

うちのペットのダイキチは、熊の魔物だ。単独行動派だから参考になるかは微妙だが、観察して無駄になることはないだろう。

……あれ? 明日はルナたちがダイキチの世話をするということだよな? ということは、アーヴィンを連れ出しても問題ないじゃないか。ちょうどよかった。

「そっか、了解。それなら、明日はアーヴィンを連れて行くよ」

もともとアーヴィンに開拓を手伝わせるつもりではあったが、ダイキチの世話をする人が居なくなるから、それが心配だったんだ。ルナたちが代わりに世話をしてくれるなら、心置きなくアーヴィンを連れ出せる。

エルミンスールに転移し、夜を迎えた。そして次の日の朝。寝ぼけ眼でパンに齧りつくアーヴィンの肩を叩き、声をかけた。

「アーヴィン、行くぞ」

「は? え? どこに?」

アーヴィンはわざとらしく瞬きをしながら聞くが、行き先はわかっているはずだ。外出する前に、アーヴィンにも行き先と目的を告げている。

「前に話しただろ。アレンシアの開拓村だよ」

「……いや、僕はダイキチの世話が……」

アーヴィンはそう言って目を背けた。全身で「行きたくない」を表現している。ダメだよ、俺は連れて行く気満々なんだから。

「問題ない。今日はルナたちがやってくれる」

俺がそう言うと、ルナがすかさず追い打ちをかける。

「いつもありがとうございます。今日は私達がやるので大丈夫です」

「え……」

アーヴィンは引き攣った笑みを浮かべた。どう見ても行きたくなさそう。当初は自分から「訓練したい」と言ってきたくせに、今はゴロゴロと本を読んでいるばかりだ。どうしてそんなに引きこもりたいんだよ……。そんなにここが好きか?

「いいから行くぞ。たまには外に出て体を動かせ」

「いつも結構動いてるのに……」

アーヴィンは不満げに呟く。どうやら庭で軽い運動するくらいのことはやっているらしい。とはいえ、ずっと家の敷地内で過ごし続けるのはしんどいだろうに。

「エルミンスールから出るのは久しぶりだろ? たまには誰か別の人と喋ったほうがいい」

「……わかった。行く」

アーヴィンは不承不承に頷き、同行が決定した。今日の同行者はクレアとアーヴィンだ。2人を引き連れ、開拓村へと転移した。

今日は昨日空けた穴を埋めるという大変面倒な仕事をしなければならない。それをアーヴィンに手伝わせ、終わったら再度木を引き抜く作業に戻ろうと思う。

テント内でざっと今日の予定をまとめていると、広場に人が集まる気配を感じた。朝食だろうか。俺はエルミンスールで済ませてきたから、行かなくていいかな。

作業開始までテントでのんびりしていよう、そう考えていた矢先、テントの外から声をかけられた。

「コーさん、朝礼が始まっていますよ」

ルディの声だ。

「朝礼? 昨日長々とやったばかりだろ」

「朝礼は毎日やるんです」

昨日の朝礼は必要以上に丁寧で、長ったらしいものだった。時間にして2時間くらいだろうか。新人の俺たちに向けて丁寧にしたのだと思っていたが、違った。毎日クソ丁寧な報告会を開催しているらしい。無駄の極みじゃないか。

「は? 無駄すぎない?」

「ネスターさんの方針です。作業の進捗状況は、全員で把握したほうがいいだろうと」

「……俺は欠席で。先に作業を始めているよ」

意味を感じられない朝礼に参加するなんて、苦行以外の何物でもない。その分長く寝ていたほうが、よっぽど建設的だ。

「そうはいきません……。みんなも我慢しているんですから……」

「我慢しているなら言えばいいだろ。誰かが『無意味ですよ』って言えば済む話だ」

「そんなに簡単じゃないです。人の意見なんて聞く人じゃないですし、ものすごく不機嫌になりますから……」

ネスターはかなりの厄介者らしい。こんなやつの下で働くなんて、拷問に近いぞ。俺は絶対に勘弁だ。俺はそれほど接点がないから別にいいが、ルディたちにとっては死活問題だろう。

「まあいいや、顔くらいは出そう」

俺はそう言って重い腰を上げた。全然気が乗らないから、足取りも重い。クレアも気が乗らない様子。アーヴィンは何かを察したようで、面倒そうな表情を浮かべている。

「あの……急ぎませんか?」

ルディは俺たちに歩調を合わせながら眉間にシワを寄せるが、これが今の俺の最高速度だ。

「これでも急いでいるよ。前から思っていたんだけど、なんでネスターが村長を気取っているんだ?」

「ネスターさんが開拓を発案して、国に通したからです……正直、あんな人だとわかっていたら、僕たちはここに来なかったかもしれません」

ルディから本音がこぼれた。ネスターの方針に、かなりうんざりしている様子だ。

「だったら、やめればいいじゃないか。義務ってわけじゃないんだろ?」

「いえ、ここに来るために、家やすべてを処分したんです。後戻りはできません」

聞けば、ここに居るほとんどの開拓民が同じ状況だそうだ。追い出されたら行く宛がないので、嫌でも文句を言わず従っているらしい。可哀想に。

話が終わって少し沈黙が続いたところで、ルディはアーヴィンに目配せをしながら言う。

「……ところで、そちらの方は?」

「手伝いだよ。今日の作業は2人では大変そうだったからな」

「なるほど……了解です。周知しておきますね」

ルディにアーヴィンのことを紹介できてよかった。これで、アーヴィンが村をうろついていても不審に思われないだろう。

雑談をしている間に、広場に到着してしまった。特に役職がない俺たちは、何もせずに突っ立っているだけだ。無駄な時間が無駄に流れていく。苦痛だ。

あまりにも暇だから、マップを使って周辺の調査をしようと思う。ルナたちが苦戦した熊はどこに居るのかな。

「何してるの?」

クレアがそう言って俺の手元を覗き込む。

「熊の群れを探していたんだ。ヤバそうな相手なら、俺もそっちに加わろうと思ってな」

「なるほど……どんな感じ?」

「数は多いが強くはない。小さいオーガが群れている状態に近いかな。準備が万全なら、俺は居なくても平気だと思う」

たぶん場所と戦略が悪かったのだろう。数は先日の大トカゲの半分くらい、強さは同じくらい。少し苦戦するだろうが、負けるような相手ではないと思う。

「そっか。念のため、次の狩りにはアタシも同行するわ」

「そうだな。頼む」

4人いればさらに安心だ。危なげなく駆除できるだろう。

雑談をしているうちに、長い長い朝礼が終わった。抜け出そうと思っていたんだけど、なんだかんだで最後まで参加してしまったよ。話は聞いてないけど。

雑談タイムは終了だ。さっさと作業を進めよう。そう思って昨日量産した穴ぼこに向かおうとしたのだが、ネスターが慌てて駆け寄ってくることに気づき、足を止めた。

「コーさん、今朝は遅かったですね。夜間は外出しているそうですが、朝礼に間に合わないのは困りますよ」

ネスターは不機嫌そうに言う。

「朝礼が毎日あるなんて知らなかったんだ。時間の無駄だからやめたほうがいいぞ」

「……は? 朝礼は毎日やるものでしょう」

「挨拶程度の朝礼ならな。あんなに長時間やる意味はない」

はっきりと言ってやった。すると、ネスターの顔が真っ赤に染まる。

「口を出さないでいただけます? 素人考えが一番危険なんです」

「確かに俺は素人だが、素人でも気づくことを放置しているほうが問題なんじゃないか?」

「黙れ! 黙って私に従っていればいいんですよ!」

ああ、ルディが言っていたのはこういうことか。言葉が通じないわ。これは何を言っても無駄だな。

「まあいいや。俺はさっさと作業を始めたいんだ。話があるなら後にしてくれ」

「私は忙しいんです! そんな時間は作れません!」

「じゃあ話は終わりだ。そんなに忙しいなら、俺に話しかけないでくれ」

そう言って背を向けると、ネスターは「最近の若い者は……」と吐き捨てて去っていった。と同時に、ルディが近くに寄ってくる。

「コーさん、ネスターさんを刺激しないでくださいよ」

ルディのほうに振り向くと、ニヤニヤを必死で噛み殺すルディが目に飛び込んできた。

「ずいぶん楽しそうだな」

「言いたいことを言っていただけましたので、つい。足止めをして申し訳ございませんでした」

ルディは深く頭を下げて踵を返し、自分のテントに帰っていった。あいつはかなり鬱憤が溜まっているんだなあ……。

なんだかネスターに出鼻をくじかれた気分だ。気が乗らないままゆっくりと現場に向かった。そして到着するやいなや、ネスターが息を切らしながら駆け寄ってくることに気づいた。

「コーさん! ルディに聞きましたよ! その子どもはなんですか!」

さっきから俺と一緒に居たのに、ネスターの目には映っていなかったらしい。

「朝から居ただろ。今日の手伝いだよ」

「どうしてこうも予定にないことばかり……段取りする身にもなってくださいよ!」

「ネスターには関係ないだろ。俺の手伝いをするだけだ」

アーヴィンは俺に与えられた仕事の手助けをするだけだから、ネスターは関係ない。もちろん、アーヴィンがネスターの指示に従う必要もない。

「私はこの村の代表者です! すべてを把握して指示を出す義務があるのです!」

「ねえよ、そんなもん」

「あります! 代表者をなんだと思っているんですか!」

意見の相違というやつだろうか。俺とは考え方が違うようだ。

村長や代表者には全体的な状況を把握する義務はあるが、事細かに指示を出すことまでは求められないと思う。関わる人数が増えたらどうせ不可能になるんだから、できるだけ早くから責任を分散したほうがいい。

「やっぱり話が噛み合わないな……。話をしても揉めるだけだ。俺は勝手にやるぞ」

「いえ! そういうわけにはいきません! 今日は作業を止めて、徹底的に話し合うべきでしょう!」

ネスターは血相を変えて怒鳴る。

「だから、それが無駄なんだよ。作業が遅れるから後にしてくれ」

思わず怒鳴り返しそうになったが、ここで感情的になったらネスターと同レベルの人間になってしまう。それは恥ずかしいから、ぐっとこらえた。

「無駄な話し合いなんてありません! すぐに広場に来てください!」

ネスターは、そう言ってこの場を後にした。当然、俺がその後を追うことはない。さっさと作業を開始するつもりだ。

去りゆくネスターを目で追う。すると、アーヴィンがネスターを睨みながら俺に耳打ちをした。

「ねえ。あいつ、どうやって 始(・) 末(・) する?」

はい?