軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開拓3

開拓初日、俺たちは夜明け前から村に転移した。俺1人来れば問題ないというのに、今日も全員参加だ。

作業開始までまだ時間があるようだったので、今のうちに今後について軽く打ち合わせをする。

「今日は全員参加でいいんだな?」

「はい。今日1日の様子を見て、必要なものがないか確認します」

商売は断念したが、自分たちが使う道具は自分で揃えなければならない。そのための確認だろう。

「わかった。まあ、強制参加は俺だけなんだ。みんなは気楽にやってくれ」

俺だけは強制参加なので、ネスターの指示にある程度従う必要がある。それに、この開拓の作業は『代わりの冒険者が来るまで』という契約だが、その前に冒険者が必要なくなればその分早く終われるはず。昼間は開拓の作業に加わるつもりだ。

魔物の駆除は夕方以降にやるのがいいんじゃないかと思う。魔物は逃げるどころか襲ってくるんだから、そんなに急がなくてもいい。

今後の方針が決まったところで、テントの外にネスターの気配を感じた。テントの入口を開け、ネスターに顔を見せる。

「あ、おはようございます。皆さんお揃いですか?」

ネスターは若干疲れたような表情で言う。十分な睡眠が取れていないのだろうか。いくら忙しくても、睡眠時間は確保したほうがいいと思うぞ。俺も人のことは言えないけど。

「ああ、いつでも作業を開始できるぞ」

「それは良かった。これから全体朝礼を行います。そこで、コーさんには挨拶をしていただきたいのですが……」

朝礼? なんだか高校に戻ったような気分だな……。そういえば、俺はまだ高校生だったか。

今日の挨拶は転校生の転校初日にみたいなものだろう。人前に立つのは得意な方ではないけど、顔を覚えてもらうためには必要なことだ。

ここに転移する前に、朝食と着替えを済ませてある。すぐにでも出発できるのだが……テントが密集している付近の広場にはまだ人が集まっている気配がない。出発するのは人が集まり始めてからでいいだろう。

「了解。準備ができたら行くよ」

俺がそう返すと、ネスターは「お願いします」とだけ言ってこの場を離れた。

挨拶……できれば昨日のうちに言ってほしかったなあ。まあ、アドリブでどうにかするか。

のんびりとくつろいでいるうちに、広場にちらりほらりと人の気配が感じられた。まもなく朝礼が始まるのだろう。

「そろそろ行こうと思うんだけど、一応みんなも顔を出したほうがいいと思う。行けるか?」

「はい。大丈夫です」

ルナの返事でみんなが立ち上がった。みんなで揃って移動を始める。

今日の朝礼はこの村の住民全員が参加するらしく、村人の気配が広場に集中している。ざっと数えてみたが、この村は約60人で作業をしているらしい。男女比は8対2くらいだ。

よく見ると、ここにいる全員が同じ方向に向いている。おそらくその方向が前だ。俺たちは集団の隅っこに加わり、同じ方向を向いて朝礼の開始を待つ。すると、前方にネスターが現れた。

ネスターは一呼吸おき、大きな声を出す。

「みなさん、おはようございます!」

すると、ここにいる全員が「おはようございます!」と一斉に挨拶を返した。

驚いて周囲を見渡すが……ここにいる全員はそれを当然のこととして受け入れているようだ。俺も一緒に挨拶を返したほうがいいの? こういうの、苦手なんだよなあ……。

大声の挨拶を皮切りに、ネスターが連絡事項を告げている。俺はここに来たばかりなので、何のことを話しているのかさっぱりわからない。

適当に聞き流しているうちに、話題は俺たちについてに移った。そろそろ挨拶の時間かな。

「今日からは新しい作業員が加わります! コーさん、全員の前で挨拶をしてください!」

ネスターから前に出るよう促された。

俺はみんなに目配せをして、一緒に前に出るよう合図をした……つもりだったんんだけど、リーズがいない。勝手に集団を抜け出して、どこかに行ってしまったようだ。まあ、あのリーズがおとなしくしているわけないか。

気配察知で探りを入れると、少し離れたところで空に向かって石を投げているリーズに気づいた。 投石(ストーンバレット) の練習でもしているのかな? 朝礼が終わるころには飽きて戻ってくるだろ。

リーズを除く4人で前に出た。約60人の注目を浴びる中、挨拶を始める。

「冒険者のコーだ。今日から作業に加わる。それと、たまに俺の仲間が手伝いに来る予定だ。よろしく頼む」

アドリブの挨拶なんだから、こんなもんだろ。

「少しあっさりとしすぎですが……まあいいでしょう」

ネスターがボソリとこぼす。もっと長々を演説しろと? 無理無理。俺は素人なんだよ。人々を感動させる挨拶なんてできるわけない。

ネスターを無視して集団の隅っこに戻る。その時、敵対心剥き出しの何かが迫っていることに気づいた。おそらく鳥の魔物。空から真っ直ぐにこちらに突撃してきているようだ。

……リーズが何かやったな。石なんか投げるから、鳥の魔物を刺激したのだろう。

慌てて臨戦態勢に入る。ルナたちも動揺しつつ武器を取り出し、襲撃に備えた。

いつでも応戦できる。その間に魔物は視認できる距離まで迫っていた。ハゲタカのような魔物だ。始めは小さかったが、近づくにつれてその姿がどんどん大きくなっていく。おそらくアフリカゾウくらいのサイズだ。そんな図体で飛ぶなよ……。

俺たちが警戒を強める中、村人たちが魔物の襲来に気づき、あたりが騒然となった。

「うわぁ!!」

「武器を持て! 急げ!」

誰かが叫び、60人が一斉に右往左往し始めた。まとめ役のネスターは、目を白黒させてあたりを見渡している。なんだか頼りにならないなあ……。

オロオロするネスターを尻目に、ルディが大声で指示を出す。

「落ち着いてください! 武器を使えない人は木陰に隠れて!」

あたりはますますパニックになっていく。

鳥の魔物が相手なら、アンチマテリアルライフルで迎え撃つのが確実なのだが……こんな状況では使えない。この混乱のせいで弾丸の軌道上に飛び出す人がいそうだ。危なすぎる。

地上に接近したところで首を狩る、それしかない。マチェットを構えて魔物の襲来を待つ。

俺たちの真上まで来た大ハゲタカは、地上に向かって急降下してきた。目標地点らしき場所に移動する。

ちょうどその時、突如として横から飛び出してきたリーズが、落ちてきた鳥の首を空中でガッチリとホールドした。

「捕まえたぁっ!」

叫ぶリーズ。そしてリーズは空中で不自然に90°曲がり、俺たちのテントへと走り去った。

あまりの出来事に、あたりが静まり返る。その沈黙を破るかのようにネスターが怒鳴った。

「今のは誰だ!! 何だったんだ!!」

ネスターは気丈に振る舞っているが、膝がガクガクと震えている。俺はネスターに近づき、声をかけた。

「スマン……俺の仲間だ」

俺の言葉に、ネスターは顔を引き攣らせながら笑みを浮かべた。

「なるほど……それは頼りになりますねえ……」

たぶんおびき寄せたのもリーズのせいなんだけど、それは言わなくていいよな。被害なしで駆除できたんだし。他に近づいてくる気配は感じないから、もう安心だ。

「ひとまず危機は去った。朝礼を再開してくれ」

ちょっとした騒動にはなったけど、この一件で俺たちの戦闘力が示せたと思う。ちょうどいいパフォーマンスになった。……そう考えれば悪くなかったよね。たぶん。

「そうですね。そうしましょう。みなさん、集まってください!」

ネスターの号令で、隠れていた人たちが戸惑いながら広場に集まってきた。全員が戻る前に、リーズの話を聞いておこう。

人々がぽつりぽつりと広場に戻ってくる中、リーズを探して歩く。すると、バツの悪い顔をしたリーズがこちらに歩み寄ってきた。

「おい、さっきのあれは何だったんだ?」

俺がそう話しかけると、リーズは自分の顔の前で両手を合わせて頭を下げた。

「こんさん、ごめーん! 当てたんだけど、倒せなかった!」

リーズは遠隔で安全に倒すつもりだったようだ。相手が思いの外強かったのだろう。

と言っても、リーズが普段使っているのは槍のような武器で、投石には不慣れだ。遠く離れて、しかも動いている的に当てたんだから、それだけで大したもんだと思う。

ただね……もう少し安全な場所でこっそり戦ってほしかった。

今この村にいる大半の人は、戦い慣れていない一般人だ。そんな人たちに魔物を目撃されたら今みたいな騒動が起きる。倒すのは自由だが、できれば人目につかない場所で仕留めたほうがいい。

「……次からは村に近づく前に仕留めろ。村の住民に気づかれる前に倒すんだ」

「ここを離れてもいいの?」

リーズは不思議そうな顔で聞いてきた。以前教会の炊き出しに参加したとき、『勝手に持ち場を離れると怒られる』ということを学んだようだ。そもそも朝礼を抜け出した時点で怒られるということに気づいていないあたり、リーズらしいね。

ただし、今回は関係ない。リーズたちは依頼を受けたわけじゃないから、邪魔にさえならなければどこで何をしていても問題ない。

「リーズは開拓に参加しなくてもいいんだから、怒られる筋合いはないんだ。好きに動いていい」

「そっか……次からはそうする!」

リーズは笑顔で答えた。リーズの感覚は俺より優れているから、魔物の駆除に向いている。俺が自由に動けない分、リーズに頑張ってもらえるかな。

リーズと会話をしているうちに、村人たちは広場に戻ってきていた。動揺は隠しきれないものの、表面上はどうにか落ち着きを取り戻しているようだ。

ネスターが全員に声を掛け、朝礼が再開された。

「朝から大変なことがありましたが、今日も一日頑張りましょう! それでは、各部署の進捗を報告してください!」

朝礼の内容は、現在行われている作業についてだ。かなり事細かに説明された。新人の俺たちのための説明だろうか。ずいぶん丁寧なもんだな。助かるけど。

今進行している作業は、伐採と製材と整地だそうだ。開拓に関わる人員は、その3つの班のどれかに配属されている。

全体では、あと2つ班がある。炊き出し班と警備班だ。炊き出し班は食事の準備や洗濯などをやっている。警備班は国から派遣された兵士で、周辺の警備をしている。と言っても少数のため、積極的な魔物の討伐は行われていないらしい。

ざっとではあるが、開拓の現状を知ることができた。状況を聞く限り、俺は伐採か製材か整地の手伝いをすることになるだろう。

「朝礼は以上です! 今日も1日、頑張りましょう! 解散!」

ネスターがそう言って締める。ようやく作業開始だ。長い朝礼だった。たぶん俺たちを気遣ったものだろうから、あくびを噛み殺しながら耐えた。

朝礼は終わったが、俺への指示はまだない。何をしたらいいんだろう……。

この待ち時間を利用して、疑問に思っていたことを確認しておこうと思う。

さっき大ハゲタカを捕えたときの、リーズの不自然な動きだ。リーズが大ハゲタカを空中キャッチした瞬間、リーズの軌道は90°直角に曲がって飛んでいった。あの姿がどうしても気になった。

「ところで聞きたいんだけど……」

「なにー?」

「さっき、空中で軌道が変わったよな?」

そんな魔法があるのかは知らないが、もし空中浮遊の魔法を使ったとしても不自然な動きだった。まるで壁を蹴って方向転換したような曲がり方だ。

「うん? それがどうかしたの?」

リーズはキョトンとした顔で聞き返す。俺の質問の意図が伝わっていないらしい。改めて聞き直す。

「いやいや、何をしたんだ?」

「空気を蹴っただけだよ?」

リーズはこともなげに言う。 だ(・) け(・) って何? そんなことができるなんて聞いたことがないんだけど。

「ちょっと説明してくれないか」

「ほら、前に水の上を走ったよね? それと同じことをしただけだよー」

なるほど。おかしい。確かに、以前リーズは『水上で沈む前に足を出して沈まずに走る』という技をやってのけた。でも、それを空中でやるって……。発想も大概だけど、実行して成功させたのか。うん、異常だ。

「理解した。なかなかやるな」

「今度こんさんにも教えるねー」

「ああ、頼むよ」

とは言ったものの、どれだけ教わったところで、できる気がしない。やっぱりリーズの身体能力は少しおかしいよな。シモンに近いような気がする。……いや、一緒にしたらリーズが可哀想か。

リーズの怪しい特技が発覚したところで、気を取り直して作業に備えよう。話を聞く限り、そんなに難しい作業ではない。どうにかなりそうだ。