軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開拓2

俺に与えられた罰として、農村の新規開拓に参加することになった。今日はさっそくその村に向けて出発する。

転移魔法で行ければ楽なのだが、残念ながらは万能ではない。転移魔法は一度行ったことのあるところにしか跳べないため、初日の今日だけは自分の足で向かう必要がある。

そして、今まで行った場所からは遠く離れていた。移動に数時間を要することになった。

昼を過ぎるころに指定された場所に到着したが、開拓中の村は、比喩でなく本当に何もない。建物らしきものは何も建っていないし、防壁どころか簡易的な柵すらない。木を伐って平にしたであろう広場があるだけだ。

そこには大小様々なテントがいくつか張ってあり、そこで寝泊まりしているらしいことが伺える。あちこちに焚き火や 竈(かまど) の痕跡があって、まるで日本のキャンプ場みたいだ。

テントの周辺には人の気配がある。まずはそこで挨拶をすればいいだろう。

テントに近づくと、1人の中年の男が不安そうに歩み寄ってきた。

「……どちら様ですか?」

「ここに派遣されてきた冒険者だ」

「ようやく来ましたか……」

男は不満げに言う。

「ようやく? 結構急いだつもりだったんだけど?」

他の冒険者と同じような速度で歩いていたら、移動に数日を要していたはずだ。俺たちは命令された次の日に到着できたのだから、かなり早いのは間違いない。中にはシモンみたいな例外もいるけど……あれは人間かどうかも疑わしいからノーカウント。

「いえ、開拓開始と同時に合流する予定だったじゃないですか」

どうやら他の冒険者が来ることになっていたらしい。たぶんそいつらは魔物の襲撃に対応している。彼らが来られなくなって、俺のところに回ってきたのだろう。

「なるほどな。そいつらはまだ来られない。俺は来るはずだった冒険者の代理だ。あくまで代理だから、本来の担当者が来たら帰るぞ」

「はぁ……それは失礼しました。私はこの開拓民の代表者、ネスターです。よろしくお頼いします」

「ああ、よろしく。俺はコーと、後ろにいるのはパーティメンバーたちだ」

ネスターは握手を求めてきたので、それに応じて右手を差し出す。それと同時にルナたちのことを紹介した。これで、みんながこの村にいても不審がられないだろう。

「ところで、他の冒険者は……?」

ネスターは右手を離しながら訝しげに言う。さっき説明したはずなんだけど、伝わってないのかな。

「他? 今日は俺たちだけだぞ?」

「たった5人……?」

「いや、厳密に言えば1人だ。この仕事は俺個人の仕事だから、他のみんなはただの付き添い。手伝ってくれるとは言っているが、毎日じゃないぞ」

「そんな……たった5人、それも男手は1人だけ! これではまったく足りませんよ!」

ネスターは声を荒らげた。昨日クレアも言っていたが、開拓の手伝いは複数のパーティが協力して行うものだ。5人しかいないのでは、不安になるのも仕方がない。

「さっきも言ったけど、俺はただの場繋ぎなんだよ。そのうち人数が増えるから、ちょっとガマンしてくれ。いないよりはマシだろ?」

「まあ……そうなんですが……」

ネスターは眉間にシワを寄せて苦笑いを浮かべた。明らかに不満そうだ。

これから一緒に仕事をするというのに、初対面で露骨に嫌そうな顔をぶつけるのはいかがなものなのだろう。俺としては愉快ではないぞ。というか、ちょっと帰りたくなっている。

不満なら帰る……そう言いかけたところで、クレアが一歩前に出た。

「まあまあ。アタシたちは一応Aクラスだから、役に立たないってことはないわよ」

クレアはネスターを諌めるように言うと、ネスターは不承不承に頷いた。

「……まあいいです。明日からは村の一員として、十分に働いてください」

なんだかまだ不満そうだなあ……。そんなに嫌なら帰るぞ。俺だって、来たくて来たわけじゃないんだよ。頼まれて嫌がられるなんて、誰も得しないだろ。

ネスターに文句を言おうとした瞬間、クレアが俺の肩をグッと引いた。そして、ルナが俺の代わりに答える。

「はい。短い間ですが、よろしくお願いします」

そして、クレアが俺の耳元でそっと囁く。

「……余計なことを言わないの。今回の仕事は強制なんだから」

うん、帰るのは拙い。今回の仕事は途中で降りることが許されないんだった。ましてや初日で帰るなんて、もってのほか。揉め事はできるだけ避けるべきだな。

「まず自分たちの寝床を確保してください。ずいぶんと荷物が少ないようですが、テントくらいは持っていますよね?」

「ご心配には及びません。野営には慣れています」

俺が答える前にルナが答えた。俺はまだ黙っておいたほうがいいみたいだ。

「そうでないと困ります。では、私は忙しいので……。何か質問があれば、そこの誰かに聞いてください」

ネスターは面倒そうな顔でテントの集団に人差し指を向けると、そのまま振り返って歩き去った。作業の途中だったのだろう。邪魔をしてしまったかな。

気を取り直して、さっさと拠点を作ろう。俺たちの拠点も他の人達と同じようにテントだ。ここでは寝泊まりしないが、休憩所兼転移先として使う。

改めて周囲を見渡した。地面はボコボコしていて、ここから少し離れたら木が生い茂っている。どの場所をを選んでも手間は掛かりそうだ……。

「……どこに設営しようか」

開拓の作業には予定があるだろうから、下手な場所にテントを張ると邪魔になる恐れがある。ネスターは何も指示しないまま行ってしまったため、設営場所に困る。

「どこでもいいんじゃない?」

「いや、ちゃんと考えたほうがいい。後で邪魔になって張り直すのは面倒だろ?」

「それもそうね。誰かに聞いてくるわ」

クレアはそう言うと、テントの集団に向けて歩き始めた。

「俺も行くよ。ついでに野菜も売りたい」

エルフの村で仕入れた野菜だ。高品質というわけでもなく珍しいというわけでもない普通の野菜。今日は様子見ということで、かなり少なめだ。

街で買えば金貨2枚分くらいだろうか。行商人だったら輸送費や管理費がかかるので、金貨5枚くらいになるはずだ。それと比べたら格段に安くできる。間を取って、金貨3枚くらいで売れればいいかな。

テントの集団に近づいたが、近くにはネスターの気配がない。別の場所で仕事をしているのだろう。誰でもいいから、適当に人の気配を探ってテントを開けた。

6人用くらいの広さのベル型テントだ。かなり年季が入っている。防水性が失われているのか、少し湿っぽい。そんなテントの中で、30歳くらいの青年がたくさんの書類と格闘していた。

「ちょっといいか?」

「あ、冒険者さんですね。ネスターさんから聞いています。ルディです。よろしくお願いします」

青年が名乗り、立ち上がって頭を下げた。顔立ちは幼いが、立ち振舞から知的な印象を受ける。

「コーだ。よろしく」

「それで……何か御用ですか?」

「テントを張りたいんだけど、どこなら邪魔にならない?」

「ここのすぐ横なら大丈夫ですよ」

テントの集団には若干の隙間があり、そこなら邪魔にならないと言う。でも、そんなに密接させたら転移先にしにくいんだよ。

「いや、悪いけど少し離したいんだ」

「……え? まぁ、そういうことでしたら、向こう側の森との境目は空いています」

ルディは一瞬不思議そうに首を傾げたが、すぐに笑顔を作って答えた。ルディが指示した場所は、俺たちがさっきまでいたあたりだ。いい場所とは言えないが、悪くはないだろう。

「ありがとう。ついでなんだけど、食料を持ってきたんだ。買い取ってくれないか?」

「え? それは助かりますが……」

ルディの顔が曇る。

「どうした? ありがた迷惑だったか?」

「いえ、我々は潤沢な資金があるわけではないので……」

金が無いのか。まあ、開拓中だもんな。無理もないか。

「量も少ないし、どれも安く売れる。心配ないと思うぞ」

「お気遣いありがとうございます。でも、まずはネスターさんに話を通さないといけません。少々お待ちいただいてもいいですか?」

ネスターはこの村の代表者だと言っていた。村長的な役割なのだろう。おそらく、金を管理しているのもネスターだ。ルディと直接取り引きができれば楽だったのだが、それを言っても仕方がないな。

「いいよ。聞いてきてくれ」

ルディは「すみません」と断りを入れ、机の上に積まれていた書類を自分のマジックバッグの中に仕舞ってテントから出ていった。

がらんとしたテントの中でしばらく待つ。すると、テントの外からネスターの声が聞こえてきた。

「私は忙しいんですけど、後にしてもらえなかった?」

「新鮮な野菜だったので、急いだほうがいいと思いまして……」

ルディの声も聞こえる。

そんなに忙しいのなら、取り引きをルディに任せればいいのに。ルディはそんなに頼りなさそうには見えないけどなあ。

「そうですか……仕方がないですね」

ネスターの弾まない声がどんどん近づいてきて、テントの入り口が開いた。

「お待たせいたしました。野菜を売っていただけると聞きました。わざわざ持ってきていただいたんですね」

「どれだけ必要かわからなかったから、少しだけだよ。とりあえず見てくれ」

机の上に野菜を積み上げていく。ネスターはそれをまじまじと見つめ、一言もらした。

「なるほど……この量だと、金貨2枚くらいですかね」

いい読みだ。でもちょっと待て。それは街で買った場合の金額だ。

ネスターに文句を言おうとしたところで、ルディが割って入る。

「ちょっと待って下さい! わざわざ運んでもらっているんですから、そんな金額では買えませんよ!」

「わかっています。だから、適正な価格を計算しているんです」

それがわかっているんなら、わざわざ市価を言う必要なんてなかったんじゃないかな。売る側としては、決していい気はしないぞ。まあ、利益を乗せていいなら問題ないけど。

「安く仕入れたものだから、今回は金貨3枚でいい。どうだ?」

「そんなに安く!?」

ルディが目を見開いて驚いた。ちょっと安く言い過ぎたようだ。もう少し吹っ掛けても良かったのか……。

ルディの驚く様子を見ていたネスターは、深く頷いて答える。

「そうですね……妥当だと思います。買わせていただきましょう」

今回の仕入れはタダみたいなものだったから、金貨3枚の黒字と言っていい。安すぎたっぽいけど問題ない。

ネスターは金貨3枚を俺たちに渡すと、足早に出ていった。

俺もすぐにテントの設営に向かいたいのだが、その前に言っておきたいことがある。

「最後に一ついいか?」

残されたルディに話しかけた。

「なんでしょう?」

「俺たちは夜間は外出するつもりだ。朝までに戻るが、夕方以降は居ないものだと思ってくれ」

「……え? いつ寝るんです?」

ああ、当然の疑問だな。まさか、テントよりもぐっすり眠れるところに行くとは思わないだろう。

「いつ帰るかは明言できないが、寝る時間は確保できる。問題ない」

「そうですか。承知しました、周知しておきます」

こう言っておけば、深夜のうちに帰ってくると誤解させられたんじゃないかな。夕方にフラッと居なくなっても不審に思われないはずだ。

ここでの用事がすべて終わったので、ルディのテントを後にした。

「ねぇ、コー」

拠点に向けて歩き出したところで、クレアが申し訳無さそうに話しかけてきた。

「どうした?」

「悪いんだけど、行商人の真似事はやめたほうがいいと思う」

「ん? クレアがそんなことを言うなんて、珍しいな」

この案を出したのはクレアなのに。それに、いつも商人の真似事に一番乗り気なのはクレアだ。

「今回はかなり安く売ったじゃない?」

「そうだな」

「あの金額を妥当とは言えないわ。あれを妥当だなんて、商人を舐めてるとしか……。今後、いい取り引きができるとは思えないのよ」

考えすぎのような気がするけど、一理あるのかな。輸送費がかからない俺なら問題ないが、普通の行商人なら確実に赤字だ。そんな金額を 妥(・) 当(・) の一言で片付けるのは若干引っかかる。

「そうか……。残念だけど、クレアの言う通りにするよ」

「計算が狂ったわよね。ごめん」

「クレアが謝ることじゃないだろ。まあ、魔物のほうで稼げるから大丈夫だ」

商人は本業じゃない。もともとオマケ程度にしか考えていなかったんだから、特に問題ない。利益は減るかもしれないが、その分の時間を魔物の駆除に当てればいい。

今日はテントを設営して終わりだ。明日から本格的に開拓が始まる。さて……うまくやれるかな。