軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開拓1

冒険者ギルド本部から言い渡された開拓の手伝いは、かなり急ぎだという。すぐにでも出発してほしいらしい。それなのに、ここでは細かな情報を聞くことができなかった。王都のギルドで聞け、という話だ。

もうここには用がない。冒険者ギルド本部の壊れた扉を押し倒し、シモンとともに建物の外に出た。

「僕は街に戻ります! 開拓、頑張ってください!」

「他人事みたいに言うなよ……」

シモンは、俺の返事を聞く前に歩き出した。流れるような所作で建物の屋根に上る。相変わらずすごい速度だ。明らかに門とは違う方向に向かっていったけど……門を無視する気なのかな。

シモンと会うことは、もうないだろう……ないよね? ないといいなあ……。

シモンの行方を目で追っていると、クレアがボソリと呟く。

「ひとまず詳細を聞いておきたいわね。冒険者ギルドに寄っていきましょうか」

「いや、もっと詳しそうな奴が近くにいるだろ。隣なんだから、そっちに寄っていこう」

村の開拓なんて、明らかに国の事業だ。たぶん王なら詳しく知っていると思う。王城は目の前なんだから、こっちで聞いたほうが手っ取り早い気がする。

というわけで、いつものように王の休憩室に転移した。すると、珍しく部屋に王と王の付き人が部屋に居た。いつもは無人なのに……。今日は暇なのか?

「よう、久しぶりだな」

そう声を掛けると、王は難しい顔で頷きながら言う。

「……うむ。いつもいつも、なぜ来る前に連絡せぬのだ」

「面倒」

この一言に尽きる。転写機で事前連絡をすることは可能だが、それすらも面倒。どうせ城に居ることはわかっているんだから、連絡なんていらないだろ。

何も言わず適当に空いている席に座った。それとともに、俺たちの目の前にお茶が運ばれてきた。ずいぶんと用意がいいなあ。まるで来客があることを予測していたかのような手際の良さだ。

出されたお茶に口をつけると、王は俺に鋭い目を向けて言う。

「まあ良い。今日は何の用であるか」

「冒険者ギルド本部からの依頼で、村の開拓を手助けすることになった」

「ほう、それは良い心がけだ」

王の口角がニヤリと上がった。

……さっきから王の言動に違和感がある。まさかとは思うけど……今回のこの罰則は王の差し金だったりしないか?

そう考えると、いろいろ辻褄が合うんだよな。王がこの部屋に待機していたのもおかしいし、すぐにお茶が出てきたのもおかしい。いつもは帰り際くらいに運ばれてくるのに。

俺の転写機は王城を経由して通信するから、王が今回の呼び出しのことを知っていても不自然ではないんだよなあ……。

「……なあ、どこまで知っているんだ?」

「はて? 何のことかな?」

白々しい顔で答える王。あくまでもシラを切るつもりか……。問い詰めてやりたいところだが、今回の罰則は俺の責任でもあるんだから、大目に見てやろう。

「まあいいや。それより、俺が行く村はどんな村なんだ? 王なら詳しく知っているだろ?」

「うむ。ゆくゆくは砂糖を作る村になる予定だが、今は本当になにもない。開拓民が土地を耕している最中だ。本来なら冒険者や兵士を派遣するのだが、魔物の襲撃で出払っておる。そのため、一般市民だけで開拓しておる状態だ」

はい、王の差し金ということで確定です。俺は状況を説明していないのに、スラスラと情報が出てきたよ。こちらの情報が筒抜けになっていないと、こんなに早く答えるのは不可能だ。

まあ、話が早くて助かったかな。

ちょっとした力仕事や周辺の警戒は兵士や冒険者の仕事。土木仕事は一般市民の職人が指揮を執るが、雑用や小間使いは冒険者が請け負うのが通例だ。最近兵士や冒険者達が忙しかったため、開拓の手伝いにまで手が回せなかったのだろう。

「だったら、開拓の時期をずらせばよかったんじゃないか?」

「それは無理である。開拓の予定はずいぶん前から決まっておったのだ」

王の話では、開拓に携わる一般市民たちは、開拓のために住居や家財道具を売り払ったり、道具を買い揃えたりして準備を進めていたらしい。確かに、「今忙しいからちょっと待っててね」とは言いにくい状況だ。

「最低限の兵士は派遣してあるが、魔物の駆除も開拓の手伝いも全く足りておらぬ」

王はそう言って眉をひそめた。かなり切羽詰まった状況なのだろう。……王は俺のことを便利屋か何かと勘違いしているのだろうか。迷惑な話だ。

「俺はいつまで滞在すればいいんだ?」

「十分な人手が確保できるまでだ」

曖昧だなあ。この村にずっと縛り付けておくつもりではないだろうが、それでも長期間滞在しなければならないかもしれない。

「具体的に、それはどれくらいの期間だ?」

「はっきりとは言えぬよ。其方が望むなら、其方に領地として授けても良い」

「うわ、いらねえ」

思わず声が漏れた。土地は持っておいて損はないかもしれないが、領地ということは村を管理しなければならない。そんな面倒なことは絶対に勘弁だよ。

「む……そこは『ありがたく頂戴する』と答えるところではないか?」

「そんな常識は知らない。とにかく、領地なんかいらねえよ」

「く……気が変わったら、いつでも申すが良い」

王はよほど領地をあげたいのか、まだ食い下がってくる。なんでだろう……それほど俺を一箇所に留めておきたいのか? 嫌だって。

その後、村の現状や詳しい位置など、聞きたいことは一通り聞いた。もう王には用がない。さっさと帰ろう。冒険者ギルドに寄る必要もないから、直接エルミンスールに転移だ。

エルミンスールに転移したところで、クレアに愚痴をこぼす。

「まったく……領地なんて欲しいわけないじゃないか。ここだけで十分だよ」

「たぶん、アンタが動くたびに問題が起きるからだと思うわよ」

クレアは疲れたような笑みを浮かべて言う。

「……否定はできないけど、仕方がないぞ。俺だって、好き好んで問題を起こしているわけじゃないんだ」

「そうでしょうけど、王様も苦労してるんじゃないかしら」

考えてみれば、確かに俺が動くたびに王の仕事が増えている。どこかでじっとしていてほしいのだろう。……領主になったとして、本当に問題が減るかはわからないけどな。むしろ増えるんじゃね?

「なるほどな。王への嫌がらせのために、領主になってみるのも面白いかもしれない」

「やめといたら? あの王様のことだから、他に狙いがあるかもよ?」

「……確かに」

俺が嫌がらせのつもりでやったことは、ことごとく王の思惑通りになってきた。変な下心を持つとロクなことにならないな。自由に動くことが一番の嫌がらせになりそうだ。

雑談をしながら宮殿のリビングに入ると、ルナたちは勢揃いして休憩していた。

「ただいま」

俺の声に、ルナが心配そうな顔で反応した。

「おかえりなさい。どうでした?」

「ちょっとした罰を命じられたよ。開拓の手伝いだってさ」

ここで、みんなに罰則の概要を説明した。場所は王都からかなり遠く、ガザルの国境付近の森の中だ。サトウキビを育てるのに最適な土地らしい。

「大変そうですね……。いつまでですか?」

「わからない。代わりの冒険者が見つかるまでだと思う」

「曖昧だな」

リリィさんは俺と同じ感想を抱いたようだ。そうなんだよ、曖昧なんだよ。そこが厄介なところだ。とはいえ、ずっと滞在し続けるわけではない。いつもの外出より、少し長いくらいだろう。

「心配ないぞ。とにかく人が集まれば帰れるんだ」

俺がそう言うと、クレアが口を挟んだ。

「ちょっと違うわよ。夜になったら帰ればいいじゃない」

「あ……」

なんだか気が付かなかったけど、活動するのは昼間だけだ。夜は自由なんだから、エルミンスールに帰ればいい。これは思ったよりも楽な作業になりそうだぞ。

「あたしも行きたーい!」

リーズが張り切った様子で手を挙げた。

「いいんじゃないか? 気軽に帰れるんだから、暇な日は一緒に行こう」

リーズだけじゃない。日替わりで誰かを連れて行ってもよさそうだ。俺と違って他のみんなは毎日何かしらの作業をしているから、連れて行くのはその日暇な人だけだが。

「みんなで行ったほうがいいんじゃない?」

「いや、これは俺個人への罰則なんだから、みんなが参加する義務はない。基本的には俺1人で行くよ」

だって、全員参加しろとは聞いてないからね。王はどういうつもりか知らないけど、そんなことは言われてないから。

「そう? 大変じゃない?」

「まあ、行けばどうにかなるだろ。それより、クレアには何か考えがあるみたいだったけど……」

この罰則を受けるとき、クレアは何か案があるようだった。まだ詳しく聞けていないから、出発前に聞いておきたい。

「そうそう。開拓にはアタシも何度か参加したことがあるんだけど、開拓中はとにかく物資が足りないの。行商人はめったに来ないし、買い出しに行く暇なんてないし。だから、日用品を持っていったら飛ぶように売れるわよ」

「へぇ……。どんなものが売れるんだ?」

「新鮮な食料が一番喜ばれるんだけど、石鹸や開拓に使う道具なんかも売れるわ。あとは、最近作ったポーションもね」

「なるほど……。儲かりそうだな」

仕事自体はタダ働きのようなものだが、ついでの商売で十分な利益が得られそうだ。なんだか最近、冒険者よりも商人をやっているみたいだな。まあ、金が儲かるなら何でもいいんだけど。

「それに、魔物は狩り放題よ。狩れば狩っただけ喜ばれるから」

未開の地だけあって、魔物は多いらしい。安全のために周辺の魔物を殲滅する必要があるらしく、しばらくは獲物に困らないそうだ。ますます儲かる匂いがする。

「思ったより好条件だったな」

「普通は複数のパーティで請け負う仕事だから、取り合いになるの。今回はうちらだけでしょ? たぶん独占できるのよね……」

クレアはそう言って口角を少し上げた。今回の罰則を受けるにあたり、クレアなりの計算があったようだ。儲けることに関しては俺よりも鼻が利くと見える。いや、その片鱗はずいぶん前から見えていたか。薬草のインサイダー取引を画策したりとかね。

「よし、悪くない条件だとわかった。さっそく明日出発しよう」

とにかく早急に現場に向かってほしいようだったが、今日は準備にあてる。まずはエルフに頼んで野菜を確保してもらおうかと思う。

長老の家には行ったことがある。直接転移して話をつけよう。転移すると同時に長老に声をかける。

「急で悪いんだけど、野菜を分けてくれないか?」

「ぬおっ!」

床に座っていた長老は、驚いて体勢を崩した。

仕返しだよ。俺はこの長老に何度も驚かされたからな。この機会を伺っていたんだ。

「驚かせて悪かったな。余っている野菜があれば、譲ってほしいんだ」

「ふむ……我々を頼って貰えるのは嬉しい。いくらでも持っていけ」

長老はそう言うけど、限度というものがある。ゴッソリと持って行ったら、この村の食料が足りなくなってしまう。

「余っている分だけでいい。金もちゃんと払うぞ」

「む……どうせ儂らは金を貰っても使えぬ。配慮は要らぬぞ」

エルフたちは引きこもり集団だから、金なんか貰っても意味がないらしい。もっと実用的なもののほうが喜ばれるようだ。だったら……。

「ルビーとか、魔道具の素材と交換でどうだ?」

「ふむ……良いのか? かなり高価だと記憶しておるが……」

「他に交換できるものがないんだ。それに、俺たちだって余らせている。対等な取り引きだと思うぞ」

金が要らないなら物々交換だ。魔道具の素材は高価なものが多いが、俺たちは多くの素材を自力で調達している。ルビーは俺の手作りだし、魔物の素材は俺たちが狩ったものだ。野菜と交換するならちょうどいいんじゃないだろうか。

うぅん……やっていることが商人っぽい。我ながらあまり冒険者っぽくないなあ。

「すまない。有り難く頂戴しよう」

交渉は成立し、野菜を確保することができた。他にも売れるものがあるだろうが、今回はこれだけにしておく。本格的な商売は、現場で必要なものを確認してからだ。

そして翌日。初日は全員で行くことにした。軽く挨拶をして、明日からは人数を減らす。メンバーが毎日変わるのは不自然に思われそうだが、「買い出しに行っている」とか言っておけば問題ないだろう。

「じゃあ、行こうか」

「はーい!」

リーズの元気な声を筆頭に、全員が返事をする。いつものようにアーヴィンは留守番だ。こいつ、いつまで引き篭もっているつもりなのかな……。俺が現場に慣れたあたりで、開拓に強制参加させよう。