軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルミンスールの日常

シモンに同行してのキャンプは散々だった。目的だったはずのシモンのキャンプスキルはほとんど見られなかった上に、面倒事にも巻き込まれた。シモンのキャンプスキルは気になるところだが、しばらく会いたくない。

大トカゲを売って金は手に入ったものの……いずれ冒険者ギルドから呼び出しが来るらしい。ああ、面倒くさい。

冒険者ギルドでシモンに別れを告げ、ため息を吐きつつ家路につく。帰りは転移の魔法で一瞬だ。

みんなを驚かせると悪いから、まずはエルミンスールの庭に転移。そこから歩いてリビングに移動する。みんなはちょうど朝食の時間だったようで、リビングに集合していた。

「おかえりー」

俺がリビングに入るなり、リーズが声をかけてきた。俺が来たことにいち早く気づいていたのだろう。

リーズの顔を見て思い出した。土産としてボアの肉を残してきているんだった。 氷室(冷蔵庫) に移しておかないと腐るな。

「ただいま。ボアの肉を持ってきたよ。今回の土産だ。マジックバッグに入っているから、出しておいてくれ」

そう言ってリーズの頭にポンと手を置き、マジックバッグを渡す。すると、ルナがニッコリと微笑んで言う。

「お帰りなさい。早かったですね」

「ああ、ただいま。訳あって徹夜なんだ。これから少し寝るよ」

「どうしたんですか? 魔物にでも襲われました?」

ルナが顔を曇らせる。と同時に、みんなが心配そうな顔を俺に向けた。

説明が必要だけど、すべて話すと長くなるから、要約して話しておこう。

「そうなんだよ。話すと長いんだけど、シモンと一緒に行動することになってな。その流れで、魔物の群れを駆除することになったんだ」

「え……詳しく聞かせてくれる?」

クレアがひどく不安げな表情を浮かべて聞く。詳しく話していいものなのかな……。まあ、呼び出しのことは説明しておいたほうがいいだろう。

「リナーレスの街で冒険者の緊急招集があったらしいんだけど……」

今回の一連の流れについて、要点だけをまとめて話した。緊急招集があったこと、調査中に襲われたこと、殲滅して帰還したこと。どう説明したとしても、冒険者たちから魔物を横取りしたような感じになってしまうのが心苦しい。

「巻き込まれてるじゃない! 面倒事に!」

クレアは険しい表情で声を荒らげると、「はぁ……」とため息を付いて呆れ顔を見せた。そうなんだよね。言い訳のしようがないよ。

「いや、気をつけたつもりだったんだけど……」

「だから言ったのに……。それで、もう大丈夫なの?」

これはどっちの意味かな? 街のことであれば、もう大丈夫だ。ほとんどの魔物は駆除できたし、残党たちも解散した。

「ああ。街が襲われる心配 は(・) 無いよ」

「何か含みがありそうね。本当にそれだけ?」

クレアは怪訝な表情を浮かべて念を押す。もう一つのほうの意味だったようだ。俺のことなら全然大丈夫じゃない。

「……後日、冒険者ギルドから呼び出しがあるらしい。事情聴取がどうのって言っていたよ」

「うわ……」

クレアは面倒くさそうに顔を歪めた。

「何か問題でもあるのか?」

「大アリよ。ネチネチと文句を言われるわよ。それに、発言に気をつけないと、降格や除名処分なんてこともあるわ」

思っていた以上に面倒なことになっているたしいな……。素直に半分くらい寄付しておいたほうが良かったか? いや、やっぱりそこまでする義理は無いよな。面倒だけど、これがベストだったと考えよう。

「まあ、今から心配しても仕方がない。今はとりあえず寝るよ」

「あ、徹夜したんだったわね。ごめんなさい。今日はゆっくり休んできて」

「そうさせてもらうよ」

こうして面倒事を残したまま、俺のソロキャンプは終了した。特に用事があるわけでもないし、昼頃まで仮眠を取らせてもらおうと思う。

……夢と現実の狭間から、少しずつ現実に移行していく。まだ確実に眠い。ボーッとする。窓から差し込む光から察するに、今はちょうど昼くらいだ。ちょうどいい時間に起きられたようだ。重い体を強引に起こし、リビングに移動した。

すると、やはり昼だったらしく、みんなが昼食を食べていた。

「おはようございます。もういいんですか?」

ルナは俺の顔を見て、心配そうに言う。たぶん俺の顔色が悪いからだろう。疲れはまったく抜けていないし、まだかなり眠い。でも、起きるなら今だ。

「ああ。本格的に寝ると夜寝られなくなるからな。少し眠いくらいで起きておきたいんだ」

地球にいた頃から、徹夜は何度も経験している。そのときに得た経験だ。夕方まで寝ればスッキリするが、それだと昼夜が逆転してしまう。逆転させるのは簡単だけど、戻すのは大変なんだよなあ。

「そうですか……それならいいんですけど……。では、昼食を準備しますね」

ルナはそう言って立ち上がり、キッチンに向かって歩いていった。そのルナに声をかける。

「悪い、少しでいいぞ。パンだけでもいい」

みんなにとっては昼食でも、俺にとっては朝食だ。あまり大量には食べられない。重い料理を断って、少しだけ食べた。

ちょっとだけ目が覚めたかな? まあ、ものを食べたことでまた眠くなりそうなんだけど。動いていれば目が覚めるか。かといって、俺は何もすることがないし……。ダメ元で聞いてみよう。

「今日は何か手伝うことはあるか?」

「そうね……まずはアタシの手伝いをしてもらおうかしら」

「クレアの? 俺に手伝えることなんてあるか?」

まだ若干寝ぼけているから、細かい作業は自信がない。ポーション作りなんて細かい作業の連続だろうから、寝不足状態の俺にできることは限られているだろう。いや、そもそもポーション作りは未経験だったな……。俺に手伝えることなんて思いつかないぞ。

「大丈夫よ。とりあえずアタシの作業部屋に来て」

この宮殿には大量の部屋が余っているため、クレアは余った部屋を専用の作業部屋として使っている。ここはポーションを作るためだけの部屋だ。

扉を開けると、ツンとした臭いが鼻を突いた。クレアが改良したポーションはそれほど臭くないが、それでも嫌な薬品臭が籠もっている。

鼻をつまみたくなるほどの臭いではない。少し苦しいが、気にせず部屋の奥へと足を踏み入れる。すると、作業台の上には所狭しとポーションが並んでいた。昨日から今日にかけて、相当な量のポーションを完成させたらしい。

「またずいぶん作ったな……」

「そうね。でも、瓶の在庫がなくなったから、しばらく作れないわ」

「そっか。じゃあ、次に王都に行ったときにでも追加しよう」

ポーションの瓶は割れるまで再利用するのだが、売ってしまったのでなくなってしまった。

「じゃあ、お手伝いよろしく。完成品の整理をしたいの。アタシが失敗作を除けるから、コーはマジックバッグに入れていって」

ポーションはすべて手作りのため、品質にはかなりバラツキがある。材料の質が悪かったり、クレアがミスをしたりすることもあるため、10本のうち1、2本くらいの割合で不良品が出てくるそうだ。

不良品といっても効きや味が悪い程度なので、捨てるようなことはしない。でも、一応ちゃんと分けておかないと、使うときに困る。緊急時でなければ不良品でも十分だから、使うときのためにちゃんと分けておきたい。

クレアが光に透かして検品し、俺は不良品にタグをつけていく。それが終わったら、整頓してマジックバッグに詰め込む。

作業は一時間くらい続いただろうか。机の上が空になり、クレアが声を弾ませた。

「これで終わりっ。ありがとう。おかげで早く終わったわ」

「いや、こちらこそいい暇つぶしになったよ。ありがとう」

感謝は受け取るが、俺が手伝わなくてもすぐに終わっていたような気がする。だから、お礼を言うのは俺のほうだろう。おかげで眠気が吹き飛んだよ。今ならどんな作業でも問題なくこなせるだろう。

作業を終え、クレアとともにリビングに移動した。ルナたちもリビングにいて、小忙しく歩き回っている。邪魔をしたら悪いよな。

「さて、次は何をしようかな」

俺はボソリと呟いた。すると、すかさずルナが手を挙げる。

「暇でしたら、こちらを手伝っていただけませんか?」

魔道具作りなら慣れている。未経験の魔道具でなければ大丈夫だ。

「ああ、いいよ。何をしたらいい?」

「一般的な消臭の魔道具があるんですけど、どうも効きが悪くて……一緒に改良案を考えていただけませんか?」

どうやら今日は既存の魔道具を改良するらしい。現物があるのなら、俺でも十分手が出せる。

「了解。ちょっと見せてくれる?」

「これなんですけど、大丈夫ですか?」

ルナは待ってましたとばかりに、マジックバッグから謎の金属棒を取り出した。

さすがに見ただけではわからない。まずは動かしてみよう。

部屋の中に小さな竜巻が発生し、あたりの紙や筆記用具を吹き飛ばした。同時に、全員のスカートが捲れ上がる。

「きゃっ!」

ルナ(白色) が小さな悲鳴をあげ、スカートを両手でおさえた。 リリィさん(赤色) と リーズ(黄色) は我関せず。思いっ切り見えてたけど……いいのかな。そんななか、 クレア(水色) が1人顔を険しくして抗議する。

「ちょっと! 何するのよ!」

「悪い、わざとじゃないんだ」

「わざとだったら殴ってるわよ……。起動するときは一声かけてよね」

「いや、こんな魔道具だなんて知らなかったからな。次から気をつけるよ」

クレアとルナをなだめ、ひとまず丸く収まった。

ひと悶着あったけど、この魔道具の仕組は理解できたぞ。この魔道具は、風で臭いを吹き飛ばすことを目的に設計されているようだ。

「……それで、何かわかりました?」

「風なのが問題なんだろうな。ウォッシュを使えば解決するんじゃないか?」

「はい、人についたニオイを消したいときはそうしています。でも、部屋には使えませんから。部屋に籠もった嫌なニオイを消したいんです」

なるほど。クレアの作業部屋のことだろうな。確かに、あの部屋のニオイはなんとかしたい。

「それだと、やっぱり風で吹き飛ばすことになりそうだ。ブロアを改造したらどうだろう?」

「……部屋がめちゃくちゃになるわ。もっと穏便に済ませる方法はないかしら」

現状、クレアは消臭するたびにすべての道具を仕舞っているらしい。それは面倒だから、そのまま使える魔道具が欲しいようだ。

あれ? そんな便利道具、地球にはあるよな……空気清浄機を作ればいいのか。仕組みは知らないけど、試していけばどうにかなるだろ。

「空気を循環させて、臭いを何かに吸着させればいいんじゃないか」

「どういうことです?」

「前にいた世界にはそんな道具があるんだよ。ざっと紙に書くから、とりあえず作ってみよう」

確か、高性能なフィルターを重ねてあるんだったよな。そんなものは作れないから、あるもので試行錯誤するしかないか。

試作を開始した空気清浄機だったが、一日では終わらなかった。循環させるだけなら簡単なんだけど、それだとただのサーキュレーターだからなあ。今後も研究を続けていくとして、今日のところは作業を終了した。

夕食後、いつものように雑談をする。

「昨日は何も手伝うことがなかったっていうのに、今日はずいぶんと忙しいんだな」

「えっと……それは……」

ルナが少し口籠った。すると、リリィさんが口を挟む。

「コーくんを1人にさせると、ろくなことにならない。だから、みんなで話し合って、コーくんに仕事を与えることにしたのだよ」

「え……?」

わざわざ俺の仕事を作ってくれたの? なんだか複雑な気分だ。

「ちょっと、リリィ! なんで言っちゃうのよ!」

「陰で動かれたら気分が悪いだろう。こういうことは言っておいたほうがいい」

いや、その意見は間違っていないんだろうけどさ……。

「気遣いは嬉しいけど、そこまでしなくてもいいよ」

「いや、出かけるたびに面倒事を持ち帰られては困るからな」

それを言われちゃうと何も言い返せないよ……。日本には「旦那元気で留守がいい」なんて言葉があるが、俺には適用されないらしい。元気であればあるほど、うちに居てほしいようだ。

「わかったよ。1人での外出はできるだけ控えることにする」

「たまにならいいわよ。どうしても行きたくなったら、気軽に言ってね」

クレアがそう言うと、みんなも優しく頷く。

どうやら、みんなは面倒事が積み重なることを心配しているらしい。それなら俺も納得。出かけるたびに呼び出しの予約が入るなんて、まっぴらゴメンだよ。少しでも面倒を減らすために、外に出るときは誰かを連れて行くことにしよう。