作品タイトル不明
旅は道連れ5
俺たちが今相手にしているのは、恐竜みたいな見た目のトカゲ的な魔物だ。サイズはそれほど大きくないが、素早くて大群で連携をとってくる厄介な相手。しかし、シモンと協力して半数以上を片づけたため、敵側の連携は崩れている。残すは混乱して連携が取れない雑魚100匹くらいと、どこかにいるであろう群れのボスだ。
雑魚の相手はシモンに任せ、俺はボスの捜索に向かった。
シモンの話では、ボスは他よりも少し大きいらしい。シモンの言うことだから、話半分に聞いておいたほうがいいだろう。あいつの情報は、どうも参考にならないんだよなあ。
俺の気配察知だと、遮蔽物が多い森の中では精度が極端に落ちる。そのため、俺がいる位置からはボスがどこにいるかわからない。
「マップを出したいところなんだけど、雑魚はまだたくさんいるし……そんな余裕はないなあ」
マップの索敵範囲はリーズと同等なので、マップで確認すれば確実だと思う。でも、マップに気を取られている間に雑魚に狙われるのは避けたい。『雑魚』なんて言っているけど、囲まれたらかなり危ない。油断は禁物だ。
勘を頼りに進むか……。俺の位置からでもわかる、敵が密集している方角を目指そう。ボスというくらいなんだから、集団の真ん中にいるんじゃないかな。とりあえず行ってみよう。
集団の全体が目視できる位置まで移動した。来てみたはいいものの……どれがボスなんだ?
見た目でわかるほどにボスっぽい奴はいない。真ん中にいる奴だけは他よりも少し強そうだけど、どれも同じような大トカゲだ。この集団はハズレだったか……。
「いいや。適当に殲滅しておこう」
いくら雑魚といっても、この集団に近づいたら危険。十分に距離を取り、ありったけの弾丸を打ち込んだ。
弾丸は周辺の木の幹を削り、なぎ倒していく。遮蔽物を壊しきった弾丸は、大トカゲに向かっていく。おそらく破壊音で警戒されただろうが、だからどうしたという話だ。遮蔽物がなくなった分だけ弾丸が当たりやすくなった。
ひたすらに直進する弾丸は、容赦なく大トカゲを襲う。数匹は逃しただろうが、逃げ遅れた大半の大トカゲは蜂の巣になった。
やりすぎて魔力が枯渇気味だ……。なけなしのポーションを取り出し、ぐいっとあおる。
大量にあったポーションは売ってしまったため、新しく作った数本だけが手元にある状態だ。長引くとヤバい。できるだけ早めに済まそう。
集団の中心に向かって歩きだすと、うまく逃げたうちの1匹が近づいてきた。
「クァァァ!!」
大トカゲが甲高い鳴き声をあげる。と同時に、急突進してきた。かなり素早い動きだが、1匹程度なら難なく避けられる。迫りくる大トカゲの鼻先を、当たる直前でスルリと避けた。
『バチィ!』
避けたはずだったのに、左肩に強い衝撃が走る。レスラーにぶん殴られたような衝撃だ。しかし、大トカゲの攻撃が当たっていないのは間違いない。
「まさか、魔法か……?」
この衝撃には覚えがある。練習中に何度も自爆した、スタンガンの魔法だ。自然界にこれを使う奴がいたとはね……。
ドヤ顔で「俺のオリジナル魔法だ」なんて言わなくて良かった。「それ、トカゲの魔物が使うよ?」なんて言われて恥をかくところだったよ。
しかし、見た目的に脳筋の魔物だとばかり思い込んでいたが、魔法も使えるのか。しかもこの魔法。こいつらとは相性が良すぎるぞ。
スタンガンで相手の動きを止めて集団でボコボコにするという、かなりいやらしい攻撃だ。ゲームでなら俺もたまに使っていた戦法だけど、これをリアルでやられたらたまんねぇな……。
ま、俺には効かないけど。俺たちが普段身につけている魔法無効化の魔道具の効果で、高熱と電撃を遮っているんだよね。
「クェ……?」
大トカゲが不思議そうに首を傾げ、小さく鳴いた。おそらく、俺が耐えていることに驚いているのだろう。
無効化の魔道具を持ってしても強い衝撃が感じられたってことは、相当強い電撃だったんだろうと予想される。この魔道具、作っておいて良かった……。不意打ちの電撃って、かなり有効な手段だからなあ。まともに食らっていたら、痛いでは済まなかったよ。
「残念だけど、電撃は効かないんだ」
というわけで、反撃に移る。だって、隙だらけなんだもん。キョトンとしている暇があったら、次の攻撃に備えるべきだと思うよ。
大トカゲの隙をつき、特大の弾丸を浮かべて発射する。弾丸は大トカゲの中心に大穴を空け、森の奥へと消えていった。
電撃には驚いたけど、倒してしまえばあっさりだったな。
改めて周囲をうかがうが、周辺の大トカゲは逃げ出してしまったようだ。また新たな集団を探さなければならない。一度シモンと合流しよう。
倒した大トカゲをマジックバッグに仕舞い、シモンの元へと急いだ。
シモンのところに来たのだが、こちらも片づいていた。あたりには生きている大トカゲはいないように見える。
「シモン、そっちはどうだ?」
「粗方終わりましたよ! 何匹かは逃しましたが、親分がやられたので逃げたのでしょう!」
シモンは、俺がボスを倒して戻ってきたと思っているらしい。
「いや、ボスは倒してないと思うぞ。俺も何匹か倒してきたけど、ボスらしき奴はいなかった」
「本当ですか!?」
「ああ、いないはずだ」
そう言って、俺が倒した大トカゲをマジックバッグから取り出した。すると、シモンはそのうちの1匹をまじまじと見つめて呟く。
「……これが親分ですね!」
「見た目同じじゃないか!」
「違いますよ! よく見てください、ほら。他よりも鼻の穴が大きい!」
「わかんねぇよ!」
そんな微妙な差、この暗がりでわかるわけないだろ。ましてや戦闘中だぞ。のんきに相手の顔を観察している場合じゃない。
「そうですかね……? とてもわかりやすい特徴だと思います!」
俺には違いがわからないが、たぶん最後に倒した奴だ。思えば、魔法を使ってくる奴なんて1匹しかいなかったもんなあ。
「……まあいいや。どうりで他よりも強かったわけだ。雑魚が逃げたってことは、もう終わりってころでいいのか?」
「はい! 終わりです! それでは、素材を回収してしまいましょうか!」
そうだった……。戦闘は終わったけど、これからもっと大変な作業に取り掛からなければならない。戦闘がどれだけ早く終わったとしても、この作業だけは短縮できないんだよ。
「わかった。とりあえず、俺のマジックバッグはかなり余裕があるから、そこに詰め込んでいくよ。シモンは遠くの大トカゲを回収してきてくれ」
「お任せください!」
一番面倒な作業をしれっとシモンに押し付けた。シモンは大樽を直進に投げて押しつぶすような攻撃をするから、近くからの攻撃でも遠くに行っちゃうんだよな。自業自得なんだから、自分で回収してくれ。
俺はそのへんに転がっている大トカゲをマジックバッグに入れていく。俺の攻撃なら遠くに飛んでいくことはない。ただし、その代償に損傷が激しい。無数の弾丸が貫いているから、かなりボロボロだ。買取金額が下がる……。
結局、すべてを回収するまでに数時間を要した。俺たちは一睡もしないまま、次の日の太陽と目があった。
「やっぱり徹夜だったか……」
「人間は10日くらい寝なくても大丈夫なようにできていますから、心配ありません!」
「それはお前だけだよ!」
俺は毎日ちゃんと寝たい。一日や二日の徹夜なら普通に活動できるけど、眠いものは眠いんだ。今日は帰って家で寝よう。もうキャンプをするような気分じゃない。
そうと決まれば、すぐに冒険者ギルドに移動して報告を済ませる。向かう先は最寄りの街の冒険者ギルドだ。ここは製塩ギルドの騒動のときに行ったから、場所は覚えている。
冒険者ギルドに入ると、以前にもいたギルド職員がカウンターに立っていた。
俺は軽く会釈をしてマジックバッグを職員に渡し、一歩引いた。今日報告をするのはシモンで、俺はただの荷物持ちという立ち位置のつもりだ。
職員はマジックバッグを持って奥に引っ込んだのだが、すぐに戻ってきた。しかも、顔面蒼白で。
「あの……シモンさん。依頼は『調査のみ』でしたよね……?」
職員の声は震えているが、シモンは気にもとめず元気よく答える。
「はい! 調査をしてきました!」
「『倒せ』とは言っていませんよね……?」
「はい! しかし、『調査は敵の殲滅までが仕事だ』と聞いています!」
「そんなこと誰が言っていたんですか!」
グラッド隊の教えだな。以前、ギルバートに「斥候とは?」と聞いたとき、そんな答えが返ってきた。そのときはこの国の常識だと思って納得したが、やっぱり非常識だったようだ。
シモンが相手では話が進まなそうだぞ。ちょっと口を挟むか。
「なあ、倒すと拙いのか? 早めに敵を殲滅できたんだから、良かっただろ」
厄介な敵が集団でこの街に迫っていたんだから、早めに対処できて良かったと思う。問題があるとは思えない。
「……すでに冒険者への緊急招集を終えているのです。彼らへの補償金や依頼料は誰が払うんです?」
聞くと、周辺で活動している冒険者たちはこの街に向かっているらしい。そのうちの何人かは、すでにこの街に到着して準備を始めているそうだ。
冒険者に支払われる金、1つは補償金。緊急事態中、この街に滞在するだけで貰える金だ。戦力にはならなくても雑用などの仕事があるので、新人冒険者の収入源になっていたりするらしい。
そしてもう1つ、依頼料。これは作戦の危険度に応じて支払われる。中でも、最前線に送り込まれる予定の冒険者には、敵に遭遇しなくても支払われるらしい。
例えば魔物の行動パターンが変わったなどの理由で、派遣された先に魔物が出なかった場合。それでも冒険者たちはそれなりの準備をしているだろう、という理由で支払われるという。
これらの金は、作戦中に討伐した魔物の売り上げから支払われる。そのため、魔物の群れが出ないと冒険者ギルドが大赤字になるらしい。
「いや、それを早く言ってくれよ。それなら無理して討伐しなかったのに」
「そんなことを言われましても……」
「敵がいたら倒す! 僕はそう教わりました!」
キャリアは長いはずなのに、どうして知らないんだよ。こいつの情報は本当にあてにならないな。
「シモンは少し黙ってくれないか。話がややこしくなる」
「はい! すみません!」
シモンは寂しそうな笑みを浮かべて頷いた。黙っていてくれるようだから話を進めよう。
なんだか面倒なことになってきたけど、買い取ってもらえるなら問題ない。
「それで、これは買い取ってもらえるんだよな?」
「できれば、討伐した地竜の一部を寄付していただけませんか……?」
ギルド職員は涙目で言う。
「無茶言うなよ。寄付をする理由が見当たらないぞ」
前回は俺たちの到着が遅れたのも原因の一つだったから、冒険者ギルドに協力した。でも今回は違う。俺には緊急招集の依頼が来ていないし、誰よりも早く群れを討伐したんだ。文句を言われる筋合いはない。
「わかりました……買い取ります。その代わり、ギルド本部にもそう報告させていただきます。よろしいですね?」
「は? 本部?」
職員は有無を言わさぬ態度だ。ギルド本部に報告なんて言われたことないぞ。何があるんだろうか。
「今回の件で事情聴取があると思いますので……」
なんでも、『招集したけど魔物が出ませんでした、でも依頼料は支払います』なんて話は、ギルド本部が通さないらしい。原因をはっきりとさせる必要があるそうだ。
「面倒だな……。書面で十分だろ」
「そうはいきません。製塩ギルドで不正があったばかりですから、不正に敏感になっているんです」
製塩ギルドの不正はこの街の話だ。冒険者ギルドの不正だって、やろうと思えば簡単にできるだろう。敏感になるのも仕方がないな。帰りに寄るか。
「なるほど……わかったよ。行けばいいんだろ。いつでもいいか?」
「いえ、近いうちに連絡があると思いますので、呼ばれたら行ってください」
向こうの都合で呼び出しかよ……面倒くっせえええ。マジで行きたくないわ。でも、行かないともっと面倒になるんだろうなあ。
そう言えば、出掛けにクレアから「面倒事に巻き込まれるな」って釘を刺されたっけ。見事に巻き込まれたぞ。ただソロキャンプを楽しみたかっただけなのに。
シモンと出かけるの、最初で最後にしておこうかな。こいつといると、余計な面倒に巻き込まれるような気がするよ。十分な利益は出たけど、代償がなあ……。