軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

教会からの依頼6

裸のまま大ムカデと対峙する。武器も防具も何も無いのは不安だが、入浴中に襲われたんだから仕方がない。ルナたちの着替えが終わるまで、俺1人で対処する。

とりあえず、アンチマテリアルライフルで応戦しよう。と言うか、それしかない。手っ取り早く終わらせるために、頭を撃ち抜きたい。

だが、大ムカデの動きはかなり速く、狙いが定まらない。命中精度はかなり上がっているが、それでも狙って当てるのは無理だ。先に体の分断を狙う。どこでもいいからとりあえず当てる。まずは一発……。

大ムカデの体に当たった弾丸は、『チュイン』と音を出して弾かれた。外殻は相当硬いらしい。この調子では、特大の弾丸すらも効くかどうか分からないぞ。

大ムカデの意識は俺に向けられ、体を大きく動かした。攻撃をしてくるつもりだろう。攻撃に備え、身構えた。すると大ムカデは、口と尻尾から白く濁った液体を水鉄砲のように噴射してきた。

俺がスルリと水鉄砲を躱すと、毒液は湯船を構成する石に当たった。石がドス黒く変色し、ボロボロと崩れ出す。毒液だ。魔物が使う魔法毒は治癒魔法で簡単に解毒できるんだけど、この毒液は浴びたくないなあ……。

「アタシに任せてっ!」

俺が攻めあぐねている間に、服を着たクレアが剣を構えて飛び出してきた。持っているのは、魔道具のファルカタだ。この剣なら、どんなに硬いものも豆腐のように斬れる。

「頼んだ! 毒液に気を付けろよ!」

「分かってる!」

クレアはそう言って、大ムカデに斬り掛かった。俺はまだ裸なので、この場をクレアに任せて脱衣場に飛び込んだ。ルナたちも服を着終えて、俺とすれ違った。4人居れば、それほど危険は無いだろう。安心して離れられる。

とは言え、のんびりしている時間はない。適当に体を拭いて、勢いよく服の袖に腕を通す。外からは、今も激しい戦闘音が聞こえてくる。大ムカデは相当暴れているらしく、何かが壊れる音が何度も鳴っている。俺は急いで服を着て、外に飛び出した。

「大丈夫か?」

「はいっ! 今クレアさんがトドメを刺しました!」

ルナの言葉に辺りを見渡すと、クレアの目の前に細切れにされた大ムカデが転がっていた。容赦なくバラバラにしたようだ。

「ちょっと気持ち悪い光景だな……」

「仕方ないじゃない。これくらいやらないと死なないのよ」

地球産のムカデもそうなんだけど、この大ムカデも頭を落としたくらいでは死なないらしい。放っておけば死ぬだろうけど、しばらくは体だけで動き続ける。この巨体で適当に暴れられたら、復旧どころじゃないからなあ。

「なるほどね。なんにせよ、お疲れ様。助かったよ」

「ふふっ。まぁ、当然っ!」

クレアは得意げに鼻を鳴らて胸を張ると、ファルカタを鞘に収めた。ファルカタは実戦ではあまり使っていないはずだが、ずいぶんと慣れた様子だ。普段から練習しているんだろうな。

大ムカデの残骸は散らばったままだから、後で焼却処分しなければならない。でもその前に、長時間裸で動き回って体が冷えた。もう一度温泉に……。

「なんだこれ?」

湯船の中を覗き込むと、湯船にあったはずのお湯が空になっていた。大ムカデが湯船を壊したらしい。しかも、湯船の中でムカデの死骸がウゾウゾと蠢いている。

「もう入れそうにないですね……」

「くっそ……本当に嫌がらせを疑うよ」

入浴中に襲われたのは、疑いようのない偶然だ。それは分かっているんだけど、どうもやるせない気持ちだよ。

壊された湯船は、修理をしなければならない。でも、俺たちにはその技術がないから、次に入れるのはここの復旧が終わった後だ。しばらくはおあずけだな……。

「ごめん、そこまでは気が回らなかったわ」

クレアがバツの悪い表情を浮かべて頬を掻いた。

「いや、これはしょうがないよ。こいつを逃したら面倒なことになってたんだし、一度は温泉に入れたんだ。良しとしよう」

もし俺たちがこのムカデに気付かずに帰っていた場合、魔物が残った状態で達成を報告していただろう。絶対に後からクレームが来る。それに、修理に来た民間人が怪我をしていたかもしれない。それを思うと、むしろ今出てきてくれて良かった。

気を取り直して作業を再開する。ルナと手分けをし、大ムカデの焼却処分を終わらせた。

「まだ日が高いから、王都に寄って報告を終わらせよう」

「そうですね。時間が空いたら、また魔物が寄ってきそうです」

「叔父さんはどうするの?」

クレアの叔父とは、レイモンドのことだ。あいつらはここに侵入して、勝手に魔物を駆除して湯船を修復した。とても良いことをやっているように聞こえるが、ただの不法侵入である。

このことも教会に報告しなければならなかったのだが、それはもう必要ない。

「レイモンドたちが居た痕跡はもう無いから、言わなくてもいいだろ」

レイモンドには言い訳を考えるように言ったけど、無駄になったな。言い訳が必要だったのは、湯船が修復されていたからだ。再度壊れたので、もう報告をしなくてもいいと思う。

「ああ、確かにそうね。叔父さんには、次に会った時に説明しましょう」

王都の冒険者ギルドでそのうち会うはずだ。もし会えなくても、エリシアさんに伝言を頼めばいい。

ワイバーンの売却を急ぎたいところだが、まずは本来の仕事を優先して教会に行く。近くに転移して歩くのだが、今日も監視の目が気になる。教会の回りって、ずっと監視してるの? 大変な仕事だな……。

教会の敷地内に足を踏み入れると、カムロンが大慌てで建物の中から出てきた。

「申し訳ない!」

カムロンは、そう言って突然頭を下げる。かなり焦っているようだ。

「ん? どうした?」

「依頼に関して、こちらに手違いがあった。まずは詫びをさせてくれ」

「……手違い?」

「報告にあった魔物が過小評価されていたのだ。1パーティに手に負えるような魔物ではなかった」

「過小評価? 話が見えてこない。整理して話してくれ」

返事がオオム返しみたいになって気持ちが悪いけど、カムロンの話が要領を得ないのが問題なんだ。とりあえず落ち着いてほしい。

「すまない。渡した資料には書かれていない、とんでもない魔物が居ることが分かった。最低でもワイバーン、下手をしたらそれ以上の魔物もいるかも知れない」

「なん……だと……?」

金貨500枚よりも上の魔物が居る? マジで? とても気になる。

「今回の依頼はすべて破棄だ。そのうえで、約束の報酬は渡す」

カムロンは、難しい顔で頭を下げながら言う。逆に困るんだけど……。

「いや、継続したらダメなのか?」

「申し訳ないが、それに見合った報酬が渡せない。我々だけで対処するよ」

今回出くわした魔物は、モリフクロウに始まって、火を吐く鷲、大きな羽つきトカゲ、最後は大ムカデだ。

モリフクロウは追い払っただけだが、他の魔物はどれも厄介で、それなりに苦戦した。それ以上の敵というなら、ちゃんと準備して向かわないと拙い。教会から提示された報酬では到底釣り合わないだろう。キャンセルは当然の処置だと思う。

「そうか……。それなら仕方がないな。まだ途中だが、これで終わりにするよ」

「途中? すでにどこかの施設に行ったのか?」

「ああ。温泉に行ってきた。そこに居たムカデは駆除したから、早く復旧に向かってくれ」

「何! 本当か!?」

カムロンは、険しい顔で叫んで俺に一歩近付いた。なんだか、圧が凄い。俺は一歩下がった。

「嘘を言ってどうする。早く知らせた方がいいと思ったから、急いでここに来たんだ。その上の社と、そこに向かう登山道もだ。早く行かないと、また魔物の巣にされるぞ」

「社……? 社もか? そこにはワイバーンが居たはずだが……」

「居たな。討伐したよ」

大事な収入源だからね。これだけは逃したくなかった。

「君たちは凄まじいな……なんの準備もできなかっただろうに……」

カムロンは額に冷や汗を垂らして慄くように言うが、俺たちは準備をしたぞ。敵が空を飛ぶことは分かっていたから、そのつもりで向かった。まあ、贅沢を言うなら、細かい情報を知っておきたかったけどね。

「しかし、どうして正確な情報が書かれていなかったんだ?」

「恥ずかしい話……私の方針に反対する者がいるのだ」

組織の決定に従わない人は、どこの組織にも少なからず居る。それは避けられないことだ。でも……。

「つい最近改革したばかりだよな?」

アレンシアの教会は、ミルズの騒動の時に一度崩壊している。その時に、ミルズに加担して俺と戦った一派は、全員処罰されたはずだ。今重役を任されている人は、みんなカムロンと同じような考えを持っていると思うのだが。

「君たちに敵対する勢力は左遷したよ。しかし……今私に反対している者は、もっと厄介なのだ」

どうやらカムロンは、同じ考えの人間だけを集めたわけではないらしい。明らかに俺と敵対した人間だけを排除して、それ以外の人は処罰されなかったようだ。

まあ、カムロンと意見が合わない人を全員排除したら、組織が回らなくなるんだろうな。そもそも人手が足りていないだろうし、イエスマンだけを固めた組織は健康とは言えない。

「なるほどね。それで、どう厄介なんだ?」

「彼らは、君たちを教会の管理下におきたいと考えている。神に仕える者が、教会に居ないということを不満に思っているのだ。今回の件も、君たちに押し付けようとしていた」

分からなくもない話だな……。ここで祀られている神はルミアだ。今は俺の別荘で食っちゃ寝しているから、俺が神に仕えているというのはあながち間違っていない。

面倒な話だ。嫌がらせのように思えた魔物の襲来は、半分くらいは本当に嫌がらせだったらしい。やっぱり、教会とは関わらない方が良かったのだろうか。

「しばらく、教会との付き合いを考えさせてもらうよ」

「すまないが、私としては困る……。君たちを縛り付ける気は無いのだが、良好な関係を続けたい」

カムロンの態度から、嘘を言っていないことは理解できる。少ないながらも、どうにか俺に支払う報酬を絞り出そうとしているんだ。カムロン個人としては、対等な立場で関わりを持ちたいと考えているのだろう。

「相手がカムロンだけだったら、全然問題ないんだけどな」

「そう言ってくれるのは嬉しいが……」

カムロンは、そう言って苦笑いを浮かべた。今回はキャンセルになったが、カムロンは今後も依頼を出したいのだろう。でも、教会とはあまり関わりたくないんだよなあ。

とは言え、完全に関わりを切るまでも無いような気がするのも確かだ。俺が嫌なのは一部だけで、カムロンは嫌いじゃない。

「個人的な頼みだったら、受けてもいいよ」

「……そうか。それは助かる。今後もよろしく頼むよ」

カムロンは、疲れたような笑顔を浮かべて頭を下げた。本意ではないんだろうな。でも、教会の面倒事に巻き込まれるのは勘弁してほしい。

とりあえず話はこれで終わりだが、俺にはもう一つ用事が残っている。依頼を受けた時に受け取った資料、これは欲しい。

「それはそうと、資料は貰っておいていいのか?」

「うむ、問題ない。不要であればこちらで処分するが」

捨てるだなんてとんでもない。ここには、貴重な情報が山ほど載っているんだよ。主な情報は、ワイバーン以上の強敵。この書類があれば、金と訓練相手に困らない。

施設を放棄するのであれば、魔物は居座り続けるだろう。俺は好きな時にその場所に行って、好きなように狩りができる。ゴブリンみたいな量産型の魔物と違って、単体で高値で売れる魔物は探すのが大変なんだよ。

「ねぇ、また良からぬことを考えてない?」

クレアが口角を上げて、いたずらっぽく聞いてきた。

「そんなことは無いぞ。この資料には夢が詰まっているんだ」

素材が売れない大ムカデみたいなのがいっぱい居ても困るけど、ワイバーンみたいな魔物がたくさんいるなら、それはもう宝の山だ。暇があったら行ってみようと思う。

不法侵入? 違うよ。俺が受け取った報酬は、『教会の施設に自由に入る権利』だから。封鎖されていても入るのは自由だ。

「ま、いいけどね。アタシも付き合うわ」

クレアは俺の狙いを理解しているらしい。行く時は一緒に、だな。

「とにかく、これでこの仕事は終わりだ。王都で買い物をして帰ろう」

もっと時間が掛かると思われていた作業だが、思いの外すぐに終わった。教会からの報酬は現金ではないが、素材が高く売れるのでまったく問題ない。貴重な資料も手に入った。成果は上々だったのではないだろうか。