軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

依頼の完了

教会を後にして、日用品を買い揃えた。エルミンスールの畑はまだ本格的な収穫が始まっていないから、食料が心許無いんだ。エルフの分も合わせて、少し余分に買った。

他にも、服を作るための生地も買い足した。かなり奮発して、すべて魔物素材だ。普段着からすべて魔物素材で作る。普段着用なので、蜘蛛の糸のような軽くてしなやかな素材を選んだ。

エルフたちは普段から手縫いをしているから、縫製の作業は全部エルフに丸投げする予定だ。その報酬として布の一部と食料を渡す。戦闘用は作れないけど、王都で頼むよりも安上がりだ。

一通りの買い物が終わったら、最後に冒険者ギルドに顔を出す。ワイバーンを換金するためだ。素材に加工して自分で使ってもいいレベルのものなんだけど、特に必要なものが思いつかないからさっさと売ってしまう。

なんせ金貨500枚だからなあ……。使わずに死蔵するのは心苦しいよ。

冒険者ギルドの扉を開けると、いつものようにエリシアさんが迎えてくれた。

「お久しぶりです」

「よう。久しぶり」

軽く挨拶を交わすと、エリシアさんは気まずそうに眉をひそめて言う。

「教会からの依頼を受けたと聞いていましたが……」

今回の依頼は冒険者ギルドを通していないんだけど、噂だけは聞いていたようだ。

「ああ、そうだな。もう終わったよ」

「お疲れさまです……。安い依頼だったでしょう?」

「いや、そうでもなかったよ。報酬は安かったんだけど、十分儲かる仕事だった」

報酬だけで考えると大赤字だが、ワイバーンのおかげで大きな黒字になりそうだ。山に登った甲斐があったよ。

「それは良かったですね。教会からの依頼はどれも安いので、心配していたんです」

エリシアさんはホッと胸をなでおろした。気にかけてくれていたようだ。まあ、ギルドの掲示板に貼られている教会からの依頼は、全部法外な安さだからなあ。特別な理由が無いと受けないような、ね。

この手の依頼は、ランクなしの新人か、教会から派遣されてきた冒険者が引き受けることになっている。普通の冒険者が受けるわけがないというのは、教会も承知しているということだ。

今回俺が引き受けたのは、魔物の買い取りが高額になりそうだったから。そうでなければ、たとえ王からの依頼であっても断っていた。

「ま、それもコレの買い取り金額次第なんだけどな。査定を頼むよ。結構デカイから、出す時は気を付けてくれ」

そう言って、ワイバーンを入れたマジックバッグを差し出した。今までで一番キレイな状態で仕留めたから、高値の買い取りを期待する。

「分かりました。少々お待ちください」

エリシアさんは、そう言って奥に引っ込んだ。大型の魔物を査定する時は、ギルドの裏にある訓練場を使う。はじめは俺も立ち会っていたのだが、最近は任せっきりだ。ワイバーンの査定が終わるまで、カウンターの前で待つ。

エリシアさんを見送ってすぐに、背後から声を掛けられた。

「よう、お疲れさん。仕事は終わったようだな」

レイモンドだ。ギルドに設置されたテーブル席で寛いでいたらしい。今日会えなければエリシアさんに伝言を頼むつもりだったんだけど、その必要は無くなったな。

「ああ。俺も会わないといけないと思っていたんだ。ちょうどよかった」

「ほう。温泉の湯船の近くに手紙を置いてきたんだが、気付いたか?」

「は? そんなの、あったか?」

みんなの方に振り向いて聞いた。すると、ルナが代表して答えた。

「……いえ、見当たりませんでした」

だよなあ。よりによって湯船の横なんかに置くなよ。屋外なんだから。風で飛ばされたか、湯船に落ちて流れていったか……。見つかるはずがないぞ。

「マジかよ……せっかく書いたのに……」

「何が書いてあったんだ?」

「お前に言われた、例の言い訳だよ。寝ずに考えたんだ」

レイモンドはかなり真剣に考えてくれたらしい。それは悪いことをしたなあ。

「実はあの後、温泉ででかいムカデに襲われたんだ。その手紙はもう絶対に見付からないだろう」

ムカデは湯船が壊れるほど暴れたから、残っているとは思えない。ムカデの被害を避けてどこかに落ちていたとしても、たぶん死骸と一緒に焼いちゃった。探すのは不可能だ。

「ん? ヒャクアシのことか?」

「やっぱり知っていたんだな。そうだよ」

「追い払ったから、もう来ないと思ったんだがなあ……。悪かった。俺たちの不始末だよ」

レイモンドは申し訳無さそうに言う。おそらく、大ムカデはレイモンドたちを脅威と見做して撤退したのだろう。その驚異が去ったから、元の場所に帰ってきただけだ。それを、俺たちが返り討ちにした。売れる素材がない、嫌な相手だったよ。

「まあ、それは別にいいんだけど、そいつが湯船を破壊したから、もうレイモンドの言い訳は必要ないぞ」

「はぁ? どういうことだ?」

「言い訳が必要だったのは、魔物が居なくて湯船が修復されていたからなんだ。魔物にも出会って、湯船は再度破壊された。今の温泉施設には、不審な点は見当たらないよ」

レイモンドが修復する前の状態に戻ったからね。教会には問題なく報告できた。温泉施設の修復が始まったとしても、怪しまれることは無いだろう。

そもそも、依頼はキャンセルになったんだ。俺に報告漏れがあったとしても、なんの問題もない。

「なるほど……。よく分からんが、もういいんだな」

たぶん俺の言いたいことは伝わってないけど、『言い訳は必要なくなった』ということは理解してもらえたようだ。俺の用事はこれで終わった。ついでに一言注意しておこう。

「そういうことだ。温泉施設は近いうちに修復が始まるから、行かない方がいいぞ」

「そうか……。残念だが諦めるよ。教えてくれてありがとう」

レイモンドは悔しげに口元を歪める。入浴料がバカ高いから、二度と入れないんだろうな。

しかし、さっそくレイモンドに会えるとは思っていなかった。わざわざ待っていてくれたのかな……。

「ところで、今日はどうしてここに?」

「出発の準備をしていたんだ。オレたちは、またしばらく王都を離れる」

俺たちに用事があって、ここに居たわけではないようだ。酒も飲まず真面目に働いていたんだな。

「次はどこに行くんだ?」

「北方だよ。今の時期、美味い魚が捕れるらしい」

レイモンドは得意げに言う。これは仕事というより趣味だよなあ……。前に会った温泉だって趣味だったわけだし、いつ働いているんだよ。

それはともかく、俺たちは北に行ったことが無い。海があり、その海辺まではアレンシアの領土らしいということを知っているだけだ。気にならないと言ったら嘘になる。

「へぇ……どんな魚が捕れるんだ?」

「くっくっ……興味があるようだな。このへんの川では見たことがないような、ドデカイ魚らしいぞ。気になるなら、お前も行ってみろ」

アレンシアは、東と北が海に面している。しかし王都からはかなり遠いので、海の魚が王都の市に並ぶことは無い。この辺りで売っている魚はすべて川魚だそうだ。まだ食べたことがないから、いずれ食べたいとは思っている。

「気が向いたら行ってみるよ」

「ああ、そうしろ。オレはそろそろ行くよ。クレアも、元気でな」

「うん。叔父さんも気を付けてね」

レイモンドを見送ってしばらく待っていると、エリシアさんが慌てた様子で戻ってきた。

「コーさん! あれはどこに居たんですか!?」

そう言って、カウンターを両手で『バンっ』と叩く。

「おいおい、いきなりどうしたんだ?」

「山奥にしか居ない魔物でしたので、つい……」

エリシアさんはバツの悪い顔で呟いた。ワイバーンはかなり珍しい魔物らしいから、驚いたのだろう。

「ああ、山奥に行ってきたんだよ。依頼で」

そう返すと、エリシアさんは不機嫌そうに俺を睨んできた。怒ってる……?

「こんな危険なものを……報酬は貰えたんですよね?」

「いや、これが報酬みたいなものかな。金は受け取っていないから」

「そんな……ちょっと教会に抗議してきます」

俺にじゃなくて、教会に怒っているようだ。エリシアさんは、苛立ちを隠す素振りも見せずに踵を返した。俺は慌てて制止する。

「待て待て。これが居たのは教会の手違いだったらしいんだ。それなりの措置は講じてくれたから、問題ないよ」

今回の依頼はギルドを通していない。教会からの直の依頼だ。そこで冒険者ギルドが口を挟んだら、話が拗れてしまう。せっかく上手くまとまったんだから、蒸し返してほしくないぞ。

「そうは言いましても、莫大な違約金が発生する案件です」

「そうなのか?」

「ギルドを通した依頼でしたら、そうなっていましたね」

俺たちはかなり損したようだ。まあ、違約金が発生するのも分からなくはない。

依頼を受けた段階では、ワイバーンと大ムカデが居るなんて聞いていなかった。そういうことは事前に教えてくれないと、かなり危険だと思う。ギルドを通さない依頼はダメだな。

「次からは気を付けるよ……」

「コーの立場では難しいかもね。今回の依頼だって、王から来たみたいなものでしょ?」

クレアの言う通り、簡単にはいかないだろうな。『教会からの依頼は受けない』と明言したけど、直の依頼は教会以外からも舞い込んでくると思う。知り合いから受ける分には構わないんだけど、国から指名されるのは面倒だな……。

「王にはギルドを通すように言っておくよ。それ以外は受けない」

「その方がいいと思います」

手間は増えるけど、直の依頼が増えすぎるのは良くないと思う。問題が起きた時は自力で対処しないといけないから、結果的に面倒が増える。それを避けるためにも、客との交渉はギルドに任せた方がいいだろう。

ただし、マリーさんやボナンザさんのような知り合いは例外だ。世話になっているから、無下にすることはできない。多少無理なお願いでも受けようと思う。ま、その時が来たら考えよう。

言葉が途切れ、変な間が空いた。気まずい空気を察したのか、エリシアさんはマジックバッグの上に手を置いて話しを始める。

「……では、こちらの査定なんですけど、規定通り金貨500枚での買い取りになります。どうされますか?」

おっ! 珍しく規定通りの金額だ。いつもはついやりすぎちゃうから、査定金額がダダ下がりなんだよね。

「ありがたい。その金額で頼むよ」

「あっ……角……」

クレアが思い出したかのように声を漏した。

「どうした?」

そう聞き返すと、クレアは急に畏まった態度を見せる。

「ごめん……ワイバーンの角は薬の材料になるっていう噂を思い出したの……」

「へぇ……?」

クレアのポーションが改良されるということかな? だったら角は回収するけど……。

エリシアさんもその話を知っていたようで、軽く頷いて口を挟んだ。

「そういえば、そんな噂がありましたね。成功したという話は聞いたことがありませんが……」

都市伝説的なものなのかな。とにかく、確実な情報ではないらしい。しかし、この角はめったに手に入る材料じゃない。これはチャンスだぞ。

「気になるなら、試したらいいんじゃないか?」

「でも、買い取りが安くなっちゃうわよ?」

「そうですね……金貨80枚の値引きになります」

エリシアさんは少し迷いながら答えた。金貨80枚は安くない金額だけど、今を逃したら次はいつになるか……。俺たちは金に困っているわけじゃないから、チャンスを優先したい。

「それくらいならいいよ。ルナたちも、いいよな?」

「もちろんです」

「うむ。魔石の代用になるという噂も聞いたことがある。私にも少し試させてくれ」

「あたしは魔道具の効率を上げるって聞いたよ?」

ルナに続き、リリィさんとリーズが立て続けに返事をした。めったに採れない材料だからなのか、無数の都市伝説が存在するらしい。益々興味が湧いてきたぞ。噂の検証をするのも楽しそうだ。

「面白そうな素材じゃないか。これは回収しよう」

「分かりました。では、差額の金貨420枚をお渡ししますね」

エリシアさんから金貨と角が入ったマジックバッグを受け取った。マジックバッグを覗き込むと、大量の金貨と大きな角が2本確認できた。金貨は数えていないが、エリシアさんのことを信用しているので、わざわざ数えたりはしない。

「ありがとう。じゃあ、俺たちは行くよ」

「はい。お気を付けて」

エリシアさんに見送られ、冒険者ギルドを後にした。王都での用事はすべて終わった。北の海も気になるところだが、まずは角の検証だ。エルミンスールに帰って、さっそくいろいろ試してみよう。