軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大自然

冒険者ギルドから依頼を受けたゴーストの駆除を終え、エルミンスールに帰ってきた。ゴースト騒ぎは元凶を潰したので、しばらくは王都からの呼び出しは無いと思う。

報酬が美味しすぎる依頼だったうえに、オーガの買い取りもあって大幅な黒字だった。こんな依頼ばかりなら、今後も積極的に受けようかと思う。

心配していたオーガの買取価格の大暴落だが、これは少し下落した程度で済んだ。腐りかけで状態が最悪だったので、買取価格が激安だったのだ。でも、これはいいことなのかな……? まあ、市場が混乱しなかったから良しとしよう。

帰ってきたのはいいのだが……。

「暇だな……」

「そうだねー。何かすること無いの?」

リーズが退屈そうな顔で両手を伸ばし、テーブルに突っ伏した。

「そうだな……またキャンプにでも行こうか?」

「いいよー! 行くー!」

リーズが諸手を挙げて賛成を表明すると、リリィさんが何かを思い付いたように言う。

「それなら、先日森を散策していた時に、ちょうどいい場所を見つけたのだ。そこでどうだろうか」

エルミンスールの森の中は、木や草が多すぎてテントの設営場所に困る。いい場所があるのなら、そこを利用する方がいいだろう。

「へぇ、いいじゃん。そこに行こう」

俺はそう言って立ち上がった。

「すぐに行くんですか……?」

ルナは困惑したような表情を浮かべる。

「ああ、そのつもりだ。拙い?」

「あの……相談なんですけど、今回は私のやりたいようにやらせてもらえないですか?」

「……え?」

「ちゃんと準備をしてから行きたいんです」

ルナに任せると、たぶん物凄く快適なキャンプになると思う。訓練にはならない、ただのレジャーだ。

俺はハードなキャンプのほうが楽しいと思うんだけど、これはこれで楽しいかな。いつもは俺のペースに合わせてもらっているから、たまにはルナの意見を尊重しよう。

「了解。俺は極力口を出さないから、好きなようにやってくれ」

「ありがとうございます。では、出発は明日にしましょう。それまでに準備をしておきます」

いつもの装備で出掛けるので、俺は特に準備することは無かった。

しかし、ルナたちは夜遅くまで料理の下ごしらえをしていた。今回は快適なキャンプを目標としているので、下ごしらえは楽をするための準備だ。現地での調理時間を短縮することができる。

夜明けとともに出発だ。今回もアーヴィンはお留守番。今回のキャンプはただのレジャーだし、ダイキチの世話も任せたい。ちなみに、ルミアには話すらしていない。どうせ宮殿から出る気は無いだろうからね。

宮殿を出てしばらく歩いていると、だんだんとツタや草が減ってきた。木もまばらで、木の種類も違う。

「ここだ。このあたりは何故か草が生えていないんだ。私はここでいいと思うんだが、どうだ?」

地面を触って確認する。粘土質の土がガチガチに固まって、ひび割れているようだ。少しだけ草が生えているが、地面のほとんどはチャコールグレーの地肌がむき出しになっている。

「……どうして草が生えないかは気になるけど、草刈りの手間が省けるな。とりあえず設営を開始しようか」

背の高い草が生い茂る場所には、テントを設営することはできない。毒蛇の存在に気付けないし、虫が寄ってきやすいからだ。この世界ではそれほど心配ないと思うが、用心するに越したことはない。

他にも、テントの設営場所を選定するにはいくつかの条件がある。

まずは水辺から離れていること。これはもっとも重要で、やむを得ず水辺の近くで設営した場合、雨が降り出したらすぐにテントを放棄して撤退しなければならない。さらに、水はけが悪い土地も避けたい。雨が降ったらテント内が水浸しになる。

次に、強風が吹き抜ける場所は避ける。テントは簡単に吹き飛ぶし、風で木の枝が折れてテントに直撃する可能性も考えなければならない。

ただし、風避けになるからと言って、崖の近くに設営するのは危険だ。崖の上から岩が転がってくるかもしれない。崖の上もダメだ。崩れる恐れがある。

他にも条件はあるが、重要なのはこれくらいだ。

改めて立地を確認する。ここの地面は水はけが物凄く悪そうだな。それ以外は問題ないと思う。

「では、コーさんはテントの設営をお願いします。私たちは食事の準備をしますね」

「了解。頼むよ」

テントはみんなで設営したほうが早いが、それだと料理中に俺が物凄く暇になる。暇つぶしのためにテントの設営を任せてもらえると、俺としても助かる。

まずはテントを張る。水はけが悪そうなので、防水布を下に敷いてから設営する。地面にペグを打ち込んで固定。固いように見えた地面は、意外と柔らかかった。抜けそうで心配だが、1日くらいはもってくれるだろう。

テントが終わったら次はタープだ。テントを覆うように設置したいので、木に登ってロープを掛けた。木の上からは、せっせとテーブルや焚き火台を設置しているルナたちが見える。今日の料理は期待できそうだ。

最後にテント内。暗くなったら中に移動するので、中敷きを敷いてテーブルを設置する。最後に入口付近に靴を脱ぐためのマットを敷けば、テントの設営は完了だ。

「こっちは終わったぞ。料理の調子はどうだ?」

「もうすぐ終わりますよ。出発の前に下ごしらえを終わらせましたから」

ルナが笑顔で答えた。今回の食材は、火を通すだけで完成という状態にしてある。俺に手伝うことは何も無さそうだ。

「じゃあ、テーブルで待っていてもいい?」

「はい。待っていてください」

しばらく待っていると、脂が焦げる香ばしい匂いがあたりに立ち込める。料理が完成したようだ。やっぱり、下ごしらえをしてあると早いなあ。

サラダは出発前に切ったもので、皿に盛り付けてドレッシングを掛けただけ。

次にシチューを見る。肉は謎肉だが、普通のホワイトシチューだ。調理時間が短時間だったにも拘らず、シチューはよく煮込まれている。たぶん、ある程度は宮殿で煮込んできたのだろう。

料理が次々と運ばれてくる中、ルナが大皿に乗った肉塊を持ってきた。

「今日のメインは、冒険者らしく骨付き肉のローストです」

なんの肉かは知らないが、ラムラックみたいな骨付き肉だ。十数本の骨が突き出た大きな肉塊が、まるごとローストされている。リリィさんが目の前で切り分けて、それぞれの皿に乗せていく。

塩コショウで下味を付け、トマトと玉ねぎがベースのバーベキューソースで仕上げた様子だ。手が込んでいて、普段食べられるような料理ではない。

さっそく一口目を……。

そう思った瞬間、突然背後からルミアの声が聞こえてきた。

「あの……皆様は何をなさっているのですか?」

「え? なんでここに居るんだ!?」

ルミアは普段は自室で食っちゃ寝をしているので、外出に同行させるようなことはしない。どこかに出掛けた時も事後報告だ。今回も、ルミアには何も言わずに出発した。それが何故か、ひょっこりとここに顔を出したのだ。

「なんだかいい匂いがしましたので……」

匂いが届くような距離じゃないぞ。身体能力を凌駕するほどの食い意地……。単純に凄い。

「まあ、来たものは仕方がない。ルミアも食べていくといいよ」

俺が声を掛けた時には、ルミアの手には肉が握られていた。食い意地の化身みたいなやつだな……。

「ありがとうございます。いただきます」

ルミアは遠慮する素振りをまったく見せず、俺の横に座った。当然、ルミアは椅子を持参しているわけもなく、予備の椅子を出してリリィさんを座らせる。

それはいいとして、俺も早く食べよう。

「さて。気を取り直して、食べようか」

俺がそう言うと、突然『ボスン』とタープに大粒の水滴が当たる音が鳴った。その音はすぐに激しくなり、バケツの水をひっくり返したような勢いで雨が降り出した。

「スコールだ!」

アレンシアは雨が少ないので忘れがちだが、エルミンスールはよく雨が降る。天気予報なんて無いから、降りそうな雰囲気を肌で感じなければならない。しかし、俺はまだこのあたりの気候に慣れていないんだ。降りそうな気配は分からない。

「どうしましょう……」

ルナが心配そうな目で俺を見た。俺も急いで指示を出す。

「テーブルと焚き火台を急いで撤収! テントの中に入ろう!」

みんなは返事をしたが、その声は雨の音にかき消されて聞こえなかった。雨はさらに激しさを増す。焚き火台に雨を当てて強引に火を消し、料理は一時的にマジックバッグの中に押し込む。とにかく大急ぎで荷物を仕舞った。

水はけが悪そうという予感は見事に的中し、撤収を終える頃には地面が水浸しになっていた。粘土質の土はドロドロになって靴に絡みついている。テントの中は土足禁止だが、それでも少し汚れてしまった。

「ぬかるみが酷いな……」

俺は少し愚痴をこぼした。すると、ルミアは肉を頬張りながらこともなげに言う。

「それは仕方のないことです。このあたりは、雨季になったら水没しますから」

「はぁ!? それを早く言えよ!」

「え? 今は雨季じゃないですから大丈夫ですよ?」

「そういう問題じゃない! ここは水が溜まりやすい地形なんだ! 少しの雨でも危険だ! すぐに撤収するぞ!」

地面に微妙な傾斜がついていることはよくある。どうやら低い場所にテントを設営してしまったらしい。

こういった場所では、短時間に集中して雨が降ればあっという間に水没する。今はまだぬかるんでいるだけだが、水が溜まり始めたら手遅れだ。

「えぇ……? まだ食べてる途中……」

「そんなのは後だ! 今ならまだ間に合うから、テントは回収する!」

まだテント内までは浸水してきていない。今すぐに全員で撤収作業をすれば、テントを持ち帰る余裕はあるはずだ。

本来なら、今の時点でテントを放棄して移動を開始しないと拙い。だが、俺は転移魔法が使えるので、ギリギリまで粘ろうと思う。

テントの中をさっと撤収して外に出る。足元はグチャグチャだが、まだ水溜りにはなっていない。

次にテントのペグを引っこ抜く。幸い雨で地面が緩んでいるので、少し引っ張ったらすぐに全部抜けた。支柱を倒してテント内から引き出す。長い支柱は4分割して仕舞うのだが、ネジ式なので無駄な時間がかかる。長いままマジックバッグに放り込んだ。

天幕や下敷きの布も、きれいに畳んでいる場合ではない。くしゃくしゃに丸めてマジックバッグに突っ込んだ。ペグやロープも全部適当にマジックバッグにぶち込んで、残すはタープのみ……。

ふと振り返ると、ルミアがのんきに肉に齧りついていた。

「食べてないで手伝えって!」

「冷めちゃいます……」

ルミアは静かに首を振る。手伝う意思は無いか。それは別にいいんだけど……。

「手に持っていたら、料理が濡れるだけだぞ……」

どうなっても知らないぞ。雨よけのタープはすぐに撤収できるから、ルミアは雨ざらしになる。肉に施された味付けなんて、あっという間に洗い流されてしまうだろう。

タープとロープをマジックバッグに投げ入れ、撤退の準備が整った。間一髪というところだった。水位は足首まで来ていた。本来ならテントを放棄して撤退するような状況だ。

「忘れ物は無いか?」

「大丈夫です」

「よし、転移で帰るぞ!」

全員でびしょ濡れになりながら、宮殿へと転移した。宮殿の辺りも酷い雨だ。すぐに宮殿内へと移動する。

「あれ? 早かったね」

アーヴィンが不思議そうに声を掛けてきた。

「雨が酷かったから撤退したんだ。アーヴィンも食事にしよう」

「はぁい」

さっと着替えて一息ついた。いつものテーブルに料理を並べ直し、改めて食事を再開する。

「なんだか、いつも通りになっちゃったな」

「あの状況では仕方がないわ。気にしないで食事を続けましょう」

少し冷めた料理を再度配膳し、食事の続きを楽しむ。そんな中、ルミアはずっと手放さなかった肉を齧りながら、悲しげな顔を浮かべていた。

「……味が無いです……」

雨に打たれてソースが流れ落ちてしまったようだ。

「だから言ったじゃないか……」

「ルミアさん。代わりのお肉をあげますから、元気を出してください」

ルナがルミアを甘やかしている。自業自得なんだから、放っておけばいいのに……。

「まあ、今回はいい勉強になったな。テントを設営する場所は、しっかりと安全確認をしよう」

今回は魔物が出ない森だったから、油断していた。俺のミスだ。魔物なんかよりも自然の方が怖いし危ない。今回はそのことを再確認した。慣れてきたからと言って、油断するのは拙いな。