軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おばけ退治4

ゴーストの駆除を依頼された俺たちは、再発防止策を講じるためにエルミンスールに帰った。物凄く大量に入るマジックバッグを持っていけば、ゴーストの大発生を回避できるはずだ。

俺たちが持つマジックバッグの容量は、市販のものよりも大きい。だが、今回はまったく足りなかった。仕方がないので、手持ちの高級素材を全力で使って超大容量のマジックバッグを作成した。

今回のマジックバッグの容量は、学校の体育館よりも大きい。大きすぎて使い勝手が悪くなった気がする。整理できるのかな……。

「準備できたわよ。いつでも行けるわ」

クレアの言葉にあたりを見渡すと、みんなはすでに立ち上がり、出発の時を待っていた。

「了解。じゃあ、行こうか」

そう言って、転移魔法を使った。

草原に転移すると移動が面倒なので、一気に森の中に転移する。前回オーガを駆除するために陣取っていた場所だ。ここからなら、取りこぼした素材も回収しやすいだろう。

「とりあえず、マップを出してくれ」

マップを取り出して確認すると、森の中のあちこちにゴーストの反応があった。ざっと数えただけでも10匹は居る。悪い予感が的中してしまったみたいだ。

「いっぱい居るわね……」

「そうだな。森の中ではゴーストに接近しないように気を付けろ。特にリーズとクレアはゴーストへの対抗手段が無いから、あまり前に出るなよ」

リーズならなんとなく大丈夫そうなんだけど、クレアはかなり心配。リーズにはディエゴを殴り飛ばした実績があるのに対し、クレアは本当に対抗手段がない。やられたい放題だ。

ゴーストから直接的なダメージを受けることは無いが、オーガだらけの森の真ん中で気絶するのは危険過ぎる。

「はーい」

リーズが分かったのか分からないのかよく分からない返事をすると、クレアは深刻そうに無言で頷いた。危機感の差が……。リーズには、もう少し緊張感を持ってほしい。

なんにしても、先にオーガを駆除しておかないと危険だ。ゴーストとの交戦中に生身のオーガが出てきたら、ちょっとした怪我では済まなくなる。

「ゴーストが出たら俺が対処する。みんなはオーガに集中してくれ」

こちらからはゴーストを避けるけど、向こうから接近されたらどうにもならない。その時は、俺が先頭に立って戦う。

「私も戦えます!」

「悪い、ルナはしばらく待機だ。オーガを間引いたら草原に誘導するから、そこで戦ってくれ」

ルナとリリィさんはゴーストとも戦えるけど、まだまだ不慣れだ。こんな森の中で戦うのは無理がある。

「分かりました……」

生身のオーガは前回よりもかなり少ない。危険を察知して、森の奥に引っ込んだのだろう。こちらとしては好都合だ。今のうちに死体の回収を進める。

「転がっているオーガを見つけたら、マジックバッグに放り込んでくれ」

前回のゴースト駆除から数日が経過している。若干腐敗が進んでいるような気もするのだが、細かいことは言ってられない。素材として売ることよりも、ゴーストの発生を抑えることの方が重要だ。

「あの……燃やしてしまったほうが早いのでは……?」

ルナはブヨブヨになったオーガを引き摺りながら言う。数日間放置されたオーガは、思いの外状態が悪かった。裂けた皮膚の隙間から、嫌な臭いが漂ってくる。

「確かにそうかもな。でも、せっかくマジックバッグを作ってきたんだから、持ち帰ろう」

状態が悪いと言っても、皮は無事だ。多少の金は入ってくるだろう。

前回はこの場所を基点に駆除をしていた。ここから半径1kmくらいの場所にオーガが転がっているはずだ。周辺を歩き回り、転がっているオーガを回収する。そして5匹分の死体を回収したのだが……。

「おかしいな……」

「何がです?」

「俺が放置したオーガは、こんな数ではなかったはずだ。誰かに拾われたのかな……」

ミルジアでサイクロプスを放置したときみたいに、火事場泥棒みたいなやつが現れたのかもしれない。

「いえ。それなら冒険者ギルドで報告を受けるはずです。オーガが数体持ち込まれて、噂にならないはずがありません」

冒険者は魔物を討伐したら冒険者ギルドで換金する。義務ではないのだが、ギルド以外で売るのは難しいため、みんなそうしている。そのため、誰が何を討伐したという噂はすぐに広まる。ルナが言うのは、ネコババしたやつが居ればすぐに分かるということだ。

「確かにそうだな……。それじゃあ、オーガの死体を食うような魔物が居る?」

「ウルフの中にはそういう種類も居るけど、この辺りには生息してないわ。ちょっと考えにくいわね」

となると……なんだ? 自然に還るにはまだ早いはずだ。

「考えていても仕方がないか。この辺りには生きたオーガは居ないみたいだから、ゴーストの駆除を始めよう」

生身のオーガを3匹ほど駆除して、辺りの反応はゴーストだけになった。森の中に留まる理由はない。優先すべきはゴーストの駆除だ。

「そうね。私とリリィとリーズの3人で誘導するから、コーとルナに討伐を任せてもいいかしら」

適任だな。誘導する方も安全とは言えないから、ゴーストに対抗できるリリィさんは誘導係に参加した方がいい。

「ああ、頼む」

そう言うと、森を抜けて草原に出た。

すると、草原と森の境界あたりに腐りかけたオーガの死体が積み上がっていた。誰かが集めていたようだ。そして、近くに覚えのある気配を感じる。ビバリーさんだ。木の陰に隠れて座っていた。

「あれ? ビバリーさん? どうしてここに?」

「活躍……見たい……」

ビバリーさんは俺の活躍が見たいと言っていたもんなあ。

それにしても、ずいぶんと早い到着だ。依頼を受けてから一晩明けたとは言え、早すぎるんじゃないだろうか。連絡を受けてすぐに移動したとしても、王都からここまでは馬車で1日掛かる。俺たちよりも早く到着するというのは考えにくいぞ……。

まさか、帰らずにオーガの死体を集めていたのか?

「このオーガはビバリーさんが?」

「そう。集めた」

ビバリーさんはゴーストの生態に詳しいから、再発の可能性を感じて対策してくれたのだろうか。

次の質問をしようとしたのだが、突然リーズの声が響いた。

「こんさん! 行ったよっ!」

「あっ! 了解っ!」

森の中から2匹のゴーストが飛び出してきた。今はのんきに話をしている場合ではない。拳と足に 浄化の魔法(エクソーサイズ) を施して、ゴーストの前に立った。

俺とルナがゴーストに対峙すると、リーズは再び森の中に入っていった。リーズは、ビバリーさんの気配に気付かなかったみたいだ。ゴーストに集中しているのだろう。なにはともあれ、今はゴーストの駆除に専念する。

ローキック、ローキック、ローキック、そしてローキック!

『パァン!』

ゴーストは弾けた。絵面が地味過ぎる!

これが格闘技のイベントだったら、大ブーイングを受けるだろう。でも、これ以外に戦いようが無いんだよなあ。

ルナはと言うと、まだ交戦中だ。ゴーストの足を蹴って空中に飛び、腹に掌底を当てる。ゴーストから振り下ろされた拳を掌底で受け止め、さらに腕にも追撃の掌底を当てた。ゴーストは怯みながらも、もう片方の腕でルナを殴り、ルナは腕でガードしながら着地する。

……ずいぶんと派手ですね?

どうやっているんだろう……。よく観察してみると、ルナは全身に 浄化の魔法(エクソーサイズ) を施しているようだった。たとえゴーストの攻撃を受けたとしても、 浄化の魔法(エクソーサイズ) がそれを阻む。無敵状態じゃないか。

そんな手段があったとは気付かなかったぞ。ルナみたいにすれば、もっと楽に戦えるのか……。早く言ってよ!

ルナは心配ないな。ルナがゴーストと戦っているうちに、ビバリーさんと話をしよう。

「まさか、前回の討伐の時から、ずっとここに居たのか?」

「そう。ゴースト出る。だから待ってた」

本当に、ずっとここに居たようだ。発生することが分かっていたなら、先に言ってくれれば良かったのに。

「再発することが分かっていたんだな」

「分かってた。魔石……砕いて死体に撒くとゴーストが生まれる」

「はぁ?」

ビバリーさんが不穏なことを言った。とても気になるのだが、次のゴーストが迫っている。

「コーさん!」

ルナがゴーストの接近を俺に知らせた。

「あっ! ちょ……くそっ! 話は後だ!」

ルナの戦い方を参考に、全身に 浄化の魔法(エクソーサイズ) を施した。ためしに一発殴られてみる。

『パァン!』

激しい破裂音が辺りに響くと、俺の体に強い衝撃が走り、戦闘中のルナの後ろに飛ばされた。生身のオーガに殴られたような衝撃だ。なるほど。 浄化の魔法(エクソーサイズ) は、ゴーストに対して実体があるかのように戦える魔法なんだな。

考察は後だ。このままではルナの邪魔になる。立ち上がってゴーストを……居ない?

「あれ? どこに行った?」

俺の独り言に、ルナがゴーストの攻撃を受け止めながら答える。

「コーさんを殴った衝撃で、消えてしまいましたよ……?」

マジ? 自滅かよ! 超楽勝じゃないか。

「この調子なら、何匹出てきても平気だな」

「……そうみたいですね」

森から出てくるゴーストに、片っ端から殴られる。そして、そのたびにゴーストが弾けて消える。かなり強い衝撃なので、多少は痛い。でも、これだけで倒せるなら物凄く楽だ。いくらでも殴ってくれ。

森の中に大量にあったゴーストの反応は、全て消滅した。ゴーストの駆除はこれで終わりだ。全員が集合したところで、改めてビバリーさんの話を聞く。

「ゴーストが生まれるって、どういうことだ?」

「私が研究した。ゴーストは魔力の塊。条件が揃えば勝手に生まれる……」

ビバリーさんはこともなげに言うが、それはゴーストを意図的に生み出したってことだよな……。

「まさかとは思うんだけど、この騒動はビバリーさんが仕組んだことだったのか?」

「……ゴーストが出れば会える……」

それはそうなんだけど!

「こんなことをしたらダメだろ……」

イタズラをした小学生に注意するみたいな言い方だが、これ以外に言いようがない。

「そんな決まりは無い」

「……そうなの?」

クレアに訊ねる。

「確かに無いわね……。ゴーストが意図的に生み出せるなんて、初めて聞いたわ」

前例が無いのか。それなら仕方がない……わけないだろ。

「決まりがないからと言って、こんな危ないことをするんじゃない」

「危なくない。コーが倒す」

結果そうなったけど!

「俺が倒せなかったらどうするつもりだったんだよ……」

「負けるわけない」

思想が危ない!

「負ける気は無いけど、絶対に勝てるとは断言できないぞ」

「コー、話しても無駄よ……。早く冒険者ギルドに連行しましょう」

「そうだな……」

嫌がるビバリーをリリィさんの背中に括り付け、王都に向けて走り出した。クレアじゃなくてリリィさんなのは、ちょっとした嫌がらせだ。ほら、リリィさんの走り方は荒いから……。今も、意味もなく飛んだり跳ねたり回ったりしているよ。

冒険者ギルドの中に入ると、エリシアさんにお願いしてギルド長を呼び出してもらった。防音の魔道具が効いた応接室の中で、事の顛末を報告する。

この報告にはビバリーさんも同席させたのだが、リリィさんの背中で気絶したまま、まだ目覚めていない。話が面倒なことになりそうだったので、ロープで縛って床に転がしている。

「というわけなんだよ……。どうする?」

一通りの報告を終えると、ギルド長は眉間にシワを寄せて天を仰いだ。

「まいったな……。こんなことが可能だなんて、聞いたこともないぞ」

「俺たちもだ。ビバリーさんが発見したらしい」

「本当なら大発見だよ……いや、事実、ゴーストが発生しているんだったな。これは国から表彰されるような大発見だが……」

まともな方法で発表すればな。今回の件は、ビバリーさんには悪意が無かったかもしれない。しかし、1つ間違えば大災害だった。

「ありのままに公表するわけにはいかないだろ」

「そうだな……。あとは我々に任せてくれ。どうにか上手い具合にまとめておくよ」

そのために連れてきたんだ。犯罪になるかどうかの瀬戸際みたいな行為だから、兵士では対処が難しい。冒険者ギルドなら、上手くやってくれるだろう。

「ああ。頼むよ」

気絶したままのビバリーをギルド長に託し、俺たちは冒険者ギルドを後にした。

しばらくした後、ゴーストの発生条件に新たな項目が追加された。その時に報告を受けたのだが、ビバリーは国の研究施設に預けられたそうだ。研究者としては優秀だから、それが最善だと思う。しかし、優秀過ぎる研究者は何をするか分からない。怖いなあ……。