作品タイトル不明
お化け退治3
ゴーストの駆除が終わったので、早々に王都に帰って完了の報告をする。ビバリーさんの歩調に合わせたら、日が暮れてしまう。帰りもクレアにおんぶをしてもらおう。
「クレア、ビバリーさんを頼んでもいいか?」
「いいわよ」
クレアが快く承諾すると、ビバリーさんは即座に首を横に振って否定した。
「いらない……1人で帰る……」
「え? 報告は一緒の方がいいだろ。報酬の受け渡しもあるし」
「大丈夫……」
ビバリーさんは、そう言って俺の言葉を遮った。
「別にいいんじゃない? 私たちの報酬とは別みたいだから」
クレアはあっけらかんと言う。確かに、ビバリーへの依頼は『討伐』で、俺たちへの依頼は『護衛』だけだ。報酬は別々に渡される。結果、俺が討伐してしまったが、先に提示された報酬が変わることはない。
「そっか。じゃあ、ビバリーさんとはここでお別れだな」
「では、また……」
ビバリーさんは、そう呟いて歩き出した。草原の真ん中で単独行動……決して褒められたことではないが、もともとソロの冒険者だ。一人旅に慣れているのだろう。クレアも以前はソロの冒険者だったから、それほど危険は無いのかもしれない。
いや……無いのはビバリーさんの協調性だな。たぶん、1人で居る方が楽なんだろう。無理に引き止めることはない。
王都に転移して、冒険者ギルドに直行した。あまりのスピード解決に、エリシアさんはとても驚いていたが、「コーさんですからね……」と達観したような表情を浮かべて納得した。
ついでにゴーストの詳細と俺が討伐したことも伝えたのだが、「コーさんですから……」と、遠い目をして諦めたような顔で報告を受け付けた。まあ、いつもの光景だ。
その後、報酬とオーガの買取金額を受け取り、エルミンスールに帰った。
そして数日が経ち、俺たちは例の農村へ行くことにした。すぐに行かなかったのは、ゴーストの騒動が落ち着いていないかもしれないと考えたからだ。今なら普段通りの村を見ることができるだろう。
村の近くに転移して、村の中に足を踏み入れた。村は広大な畑に囲まれていて、ボロい木造住宅が数件並んでいる。中には王都内にあるような石造りの家もあるが、多くはボロい木造だ。
そして、村人は家の中に籠もっているようだ。よそ者に警戒しているのだろうか……。農作業があるはずなのに、家の外に出ようとしない。まあでも、俺には関係ないかな。俺はただ村を見て歩くだけだ。しかし……。
「何も無いな……」
「農村なんて、こんなものよ。何を期待してたの?」
「いや、特に期待していたものは無いんだけど……」
強いて言えば、風車や水車が見たかった。この国は小麦の文化だから、製粉施設があると思っていたんだ。以前、テレビで壊れた風車の石臼を見たことがある。現役で動いているものが見られるかと思ったんだけど、あてが外れた。
「あたしの村もこんな感じだったなぁ……。なんだか懐かしい」
リーズが感慨深く呟いた。農村のことなら、農村出身のリーズに解説してもらえばいいのかな。
「作った作物はどうしているんだ? 加工しないで出荷するのか?」
ここで生産されているのは、主に麦だ。王都に出荷されるらしいが、粉になっていない状態ではかなり嵩張る。それに、麦わらは肥料にもなる。この村で製粉しないと効率が悪いはずだ。
「ほら、あそこ。あの建物の中で粉にするのよ」
リーズに代わり、クレアが答えた。クレアは冒険者のキャリアから、こういったことに詳しいらしい。クレアの指の先には、石造りの大きな建物がある。どう見ても、普通の倉庫だ。
「ん? 普通の建物だよな? どうやって粉にしているんだ?」
俺が疑問を呟くと、リリィさんが得意げに答える。
「魔道具に決まっているだろう。過去の宮廷魔導士が開発した製粉機を使っている」
魔道具かよ。風情がないけど、この国なら当然か。
「なるほどね。風車が無いことに納得したよ」
「……このあたりの風は不規則なのに、どうやって風車を回すのよ」
クレアが呆れ顔で言う。このあたりは山に囲まれていて、風向きがコロコロと変わる。風車を回すには向いていないな。
じゃあ、魔道具で回す……? 本末転倒じゃないか。意味がないな。
「なるほどね。他に見どころは無いかな?」
ヤバイ。もう飽きそう。思っていた以上に何もない村だった。
「無いと思いますよ?」
ルナが平然とした態度で言う。
「無いの?」
「何も無いからいいんじゃない。のんびりとしてて、気持ちが落ち着くわ」
クレアはそう言って、大きく深呼吸をした。まあ、その気持ちは分からなくはない。この村には、まるで時間がゆっくりと進んでいるかのような雰囲気がある。
とは言え……かなり退屈。見るところがないなら、どこかにテントを張って寛ぎたい。
「それじゃ、村を一周りしてテントを設営できる場所を探そうか」
「……たぶん無いわよ?」
クレアが気まずそうに言う。
「え? それも無いの?」
「そんな空き地があるんなら、荷物置き場に使うわよ。村への訪問者なんて限られているから、普通は村長さんの家に泊めてもらうの」
うわあ……絶対に落ち着かないわ。夜になったらエルミンスールに帰ろう。
「そっか……。とりあえず、村の中を見て歩こう」
諦め半分で村の散策を続けていると、マジックバッグの中から何かが震える音に気が付いた。スマホか転写機のどちらかだが、この震え方は転写機だ。
「まただよ……」
思わず不満が漏れてしまった。すると、ルナが怪訝そうに俺を見る。
「何がです?」
「たぶん、王都からの呼び出しだ。今度はなんだろうな」
前回の報酬は受け取ったし、不備もなかったはずだ。いったい、なんの用だろうか。
マジックバッグから転写機を取り出し、書かれている内容を読む。
相変わらず時候の挨拶から始まったので、適当に読み飛ばす。そして要点をまとめると、『魔物が出没したから王都のギルドに顔を出せ』という内容だった。余計な文字は多いのに、今日も重要な情報が書かれていない。
だから、どこだよ! 何が出たんだよ!
「どういう内容ですか?」
「また、王都のギルドに顔を出せってさ。用件は前回と同じだったよ」
なんだか、王にいいように使われているような気がする。若干気に入らないから、良きタイミングで拒否してみようかな。まあ、今日は断る理由がないから、引き受けてやろう。
「それはいいんだけど、せっかく来たのにゆっくりできなかったわね」
クレアがため息交じりに呟いた。
「まあ、いいんじゃないか? 見るところも無いし、泊まれそうな場所も無い。長居するような村じゃないだろ」
宿屋が無いのは当然として、テントが設営できそうな空き地すらない。畑の真ん中とか道路の真ん中にテントを張ってもいいのなら、いくらでも泊まれると思う。でも、さすがに迷惑だろうからなあ……。
「それもそうね。私はこういう村が好きだけど、泊まれないなら帰るしかないわ」
意見がまとまったところで、王都に転移する。少し名残惜しい気もするんだけど、この村は本当に何もないんだよなあ。
王都には一瞬で到着することができた。転移魔法は、人目につかない場所を選ぶのが大変だが、それ以外はとても楽だ。
王都での転移先は、冒険者ギルドの屋上にしている。俺たちは普段から屋根の上を移動しているから、屋根から降りてきても不自然ではない。
というわけで、屋根から飛び降りてギルドの中に入る。
「こんにちは」
扉を開けて中に声を掛けると、エリシアさんはいつものように笑顔で迎えてくれた。
「コーさん、来ていただいてありがとうございます。随分と早いご到着ですけど、まだ王都にいたんですか?」
「違うよ。例の村で観光していたんだ」
俺がそう答えると、エリシアさんは急に顔を曇らせた。
「あ……それは申し訳ございません……」
邪魔をしたことを心苦しく思っているらしい。だが、観光はもう大丈夫だ。一通り見終えたから、いつ帰っても問題なかった。
「まあ、気にしなくていいぞ。見どころが少ない村だったから、もう用は済んだよ」
「いえ、そうではないんです。またあの村の近くで、ゴーストが目撃されまして……」
エリシアさんは気まずそうに言う。ゴーストは、つい先日討伐したばかりだ。
「また? 見間違いじゃないのか?」
俺たちが討伐したゴーストのことを、時間差で報告してきた可能性がある。と言うか、そうとしか考えられない。
「いえ。目撃されたのが、昨日の夕方なんです。村の住民の方が、さっき大慌てで報告に来られました。ギルドでも確認しましたから、間違いないと思います」
「そうか……。じゃあ間違いないんだな」
ゴーストの目撃があったせいで、村人が家に籠もっていたんだな……。
発生源を根絶したわけじゃないから、再出現しても不思議ではないか。
「はい。前回と同じ、オーガのゴーストみたいです」
エリシアさんの口調から、緊張感が漂う。あのデカブツのゴーストだ。かなりの脅威になるだろう。
でも、ゴーストの出現条件が分からない。今日ゴーストを駆除したとしても、原因を根絶しないと何度でも湧いてくるぞ。
「待ってくれ。ゴーストの発生は珍しいんだろ? こんな短期間に、同じ場所で2度も出現するなんておかしい。何か原因があるはずだ」
「なるほど……。確かにそうですね。一説によると、多くの死体が放置されている場所に発生しやすいそうです」
……あれ? これ、俺のせいじゃね? 狩ったオーガ、ほとんど森の中に残してきたよ?
「えっと……他には何か条件は無いか?」
「そうですね。なんでも、強力な魔物が出現しやすい場所ほど発生しやすいとか……」
そうだね。オーガが大量にいる森だもんね。死体を大量に放置したら、そりゃゴーストも湧いてくるよね……。原因は俺だわ。
オーガ1匹に対して1匹のゴーストが発生したとすると……30匹くらい発生するかも? 拙いな。張り切って後始末をしよう。
「ありがとう。よく分かったよ。今回は原因も根絶してくる」
要は、素材を全て持ち帰ればいいんだろ? 分かったよ。マジックバッグを量産してから向かえばいいんだ。
「引き受けていただいて、ありがとうございます。ビバリーさんを呼び出しますので、王都で待機してもらってもいいですか?」
ビバリーさんは今どこに居るのか分からない。のんきに待っていたら、ゴーストは無限に湧いてきそうだ。
「いや、時間の無駄だな。俺たちは先に現場に向かうから、後から追うように言ってくれないか」
「あ……そうですね。前回も、コーさんがとどめを刺したんでしたよね」
エリシアさんは、腑に落ちたような表情を見せる。
「そうだな。前回は初めてだったから、勝手が分からなくて手間取ったんだ。今回は2度目だから、もう少し上手くやれる気がするよ」
一度戦っているから、攻撃パターンや対処法が分かっている。数匹のゴーストに囲まれたとしても、ある程度は上手く対処できるはずだ。
「頼もしい限りです。それでは、ビバリーさんには私から通達をしておきますので、コーさん方は先に現場に向かってください」
エリシアさんがそう言うと、ルナが控えめに手を挙げた。
「コーさん、ちょっといいですか?」
「なんだ?」
「ビバリーさん、コーさんと一緒に行きたがっていたじゃないですか」
ビバリーさんは、俺がゴーストと戦うところを見たいと言っていた。そのことを忘れているわけではない。でも、今日は討伐を優先した方がいい。
「大丈夫だろ。まだ遠くには行っていないだろうから、急いで来てくれれば合流できる」
ゴーストの駆除を開始する前に、今回もオーガの駆除が必要になるはずだ。それに、湧いているゴーストが1匹とは限らない。どうせ時間が掛かるんだから、すぐに向かってもらえば共闘できると思う。
そもそも現場が分かっているんだから、ここに集まるのは時間の無駄なんだよなあ。現地集合、現地解散でいいじゃないか。
「……それもそうですね。では行きましょうか」
「じゃ、そういうことで、俺たちは先に行くから。ビバリーさんにはそう伝えておいてくれ」
「分かりました。よろしくお願いします」
先に行くとは言ったけど、村に向かうのは明日にしよう。今日はエルミンスールに帰って、マジックバッグを量産する。大量に入るマジックバッグがいくつもあれば、討伐したオーガを全て持ち帰れるはずだ。
素材を放置するとゴーストが無限に湧いてくるみたいだからなあ……。ゴーストの討伐依頼で金は儲かるけど、やっちゃダメだろ。モラル的に。