軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おばけ退治2

エルミンスールに戻るのは風情がないので、王都で一泊した。今日はこれからゴーストの駆除に向かう。と言っても、俺たちは専門家であるビバリーさんの補佐をするだけだ。

今はまだ夜明け前。移動時間を考慮して、できるだけ早く行動を開始する。

今日向かう先は、王都から徒歩1日の場所にある小さな農村だ。その村の近くの森で、ゴーストが目撃されたらしい。

その村では王都で消費される穀物類を生産しているという。この村が機能しなくなると、王都の食料が拙いことになる。冒険者ギルドとしては、急いでゴーストを駆除したいそうだ。

ビバリーさんとの待ち合わせ場所は、王都の正門の前だ。そこに到着すると、ビバリーさんがぼんやりと佇んでいた。待たせてしまったな。

「おはよう。待たせて悪かったな。さっそく出発しようか」

俺がそう声を掛けると、ビバリーさんは無言で頷いた。

王都の門を抜けて壁の向こうに出ると、ビバリーさんは不安げな顔で呟く。

「馬車……」

単語しか言わないから、何が言いたいのか分からない。

「え? 馬車を借りているのか?」

「違う……借りてないの?」

どうやらビバリーさんは、俺たちが馬車を借りていることを期待したらしい。馬車は金が掛かりすぎるくせに、速度は俺たちの徒歩よりも遅い。まったくの無駄だから、俺の選択肢には入っていない。

「ああ、借りていない。冒険者は徒歩が基本だろ?」

「うそ……」

ビバリーさんは絶望したような表情を見せる。

「まさか、徒歩移動に慣れていないのか?」

「慣れてるはずない……元神官だから……」

ああ、しまった。ビバリーさんは普通の冒険者じゃないんだった。今から馬車を借りようにも、朝早すぎて店が開いていないぞ。

おんぶして走るのがベストだと思うんだけど、ビバリーさんは女性だから、俺が背負うのはなんだか気が引ける……。クレアに任せるべきかな。体格的にはリリィさんが適任なんだけど、リリィさんは走り方が荒いからなあ。

「クレア。悪いんだけど、頼めないか?」

「……そうね。分かったわ」

クレアは何かを察したように頷いた。

ビバリーさんをクレアの背中に乗せて、出発の準備は完了だ。ビバリーに負担を掛けるのは拙いけど、できるだけ早く到着したい。これは最善の策だと思う。ある程度の速度も維持できるから、昼前くらいには現場に到着できるんじゃないかな。

「じゃあ、できるだけゆっくり走るから、振り落とされないように気を付けてくれ」

「はぁ……」

ビバリーさんは気のない返事をした。状況をよく理解していないみたいだけど、一応警告したから大丈夫だろう。

まっ平らな草原の中を疾走する。東には薄っすらと大山脈が見える。その山の隙間から太陽が顔を出した。朝日を浴びながらひたすら前進を続ける。あたりの魔物はウサギだけ。今日も全て無視だ。

「ひっ……」

時折、ビバリーさんは声にならない悲鳴を上げる。そんなにキツくないと思うんだけどなあ。

しばらく進んでいると、遠くに畑のようなものが見えてきた。村が近いらしい。ゴーストが目撃された森は、ここから徒歩3時間くらいの場所にある。

草原の真ん中で、一度立ち止まった。

「もうすぐ村に到着するんだけど、村の中に入る意味はあるのか?」

「無い……」

ビバリーさんは即答したが、クレアは何やら不満そうにしている。

「無くはないわよ。詳しい場所を聞かなきゃいけないし、冒険者が来たって知らせないと……」

「面倒……」

なるほど。ビバリーさんは人見知りを発動させているらしい。理由は違うが、俺もビバリーさんの意見に賛成だ。

村を見物したい気持ちもあるが、任務の最中では落ち着いて見物できない。それに、先に村に入ったら足止めされると思う。無駄な時間を過ごすことになるだろう。村としても、早くゴーストを駆除した方が嬉しいはずだ。

「いいんじゃないか? 任務はすぐに終わるだろうから、事後報告にしよう」

俺がビバリーさんに同意すると、クレアはため息を吐きながら答える。

「はぁ……。アンタに冒険者のお約束を言ってもしょうがないわね。いいわ。先に討伐しましょう」

意見が合ったので、村を無視して現場に直行する。そこに至るまでの草原は、アップダウンがかなり激しい。真っ直ぐに走っていると、景色は緩やかに上下する。

「待って……もうムリ……」

ビバリーさんが死にそうな声を出しているけど……もうすぐ到着だ。我慢してもらおう。

立ち止まってから十数分で、森と草原の境目に到着した。現場は目の前だ。ビバリーさんを下ろし、治癒魔法を掛けた。ビバリーさんはまだぼんやりしているが、そのうち復活するだろう。

森の中はオーガの住処だというのに、俺の気配察知ではオーガの気配を感じられない。リーズに確認を取る。

「リーズ、オーガはどこに居る?」

「たくさんいるよー。居すぎて答えらんない」

森の奥に生息しているようだ。そんなに居るなら、ゴーストどころではないな。

「了解。ゴースト駆除の前にオーガを間引こう。ゴーストの反応はどうだ?」

「ごめん、それは分かんない」

リーズは申し訳無さそうに言う。たぶん、ゴーストを見たことがないから判別できないのだろう。それなら俺も同じだ。

「そっか。マップで調べながら戦うしかないな」

マップを使うと片手が埋まるし、よそ見をしながら戦うことになる。できれば避けたかったんだけどなあ……。

まあ、そんなことは言っていられない。森に入るにあたり、専門家の意見を聞こう。

「ビバリーさん。悪いんだけど、ゴーストの特徴を教えてくれないか?」

「意思無い……生き物に寄ってく……」

要領を得ない説明だけど、なんとなく理解できた。機械的に生き物に寄っていくだけの存在ということだな。

やっぱりディエゴとは違うみたいだ。あいつは明確な意思を持っていた。だったらあいつはなんなんだ? ……考えるだけ無駄だな。

「なるほど。それで、どういう攻撃をしてくるんだ?」

俺がそう問いかけると、ビバリーさんは無気力な様子で答えた。

「魔法……」

それは以前聞いた。物理攻撃ができず、魔法で攻撃してくるそうだ。でも、俺が知っているのはそれだけ。詳しいことは何も分からない。

「他に特徴はあるか?」

「……病気……撒き散らす……」

うわ、嫌な攻撃だな。近付きたくない。

「なるほどな。それだけか?」

「ゴースト……増える。触れるとやる気が無くなる……これで全部」

ビバリーさんはゴーストの攻撃を受けているんじゃないかな。すでにやる気なさげなんだけど。まあ、それはいいか。それよりも聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。増える? 最悪じゃないか。やはり早く駆除しないと、拙いことになりそうだ。

俺とルナとリリィさんが森に入り、リーズとクレアがビバリーさんの護衛をする。イマイチ不安な布陣だが、バランスを考えるとこうするしか無い。魔物の接近にいち早く気付けるリーズと、接近戦に長けるクレア。この2人のペアなら、ビバリーさんを上手く護衛できると思う。

「上手くいくかわからないけど、ゴーストが居たらそっちに誘導するよ。戦闘準備だけはしておいてくれ」

「分かったわ。オーガは森の外に出ようとしないはずだけど、警戒しておく」

クレアの返事を聞いて、森の中に飛び込んだ。スマホで連携を取りながらオーガを蹴散らしていく。マップとスマホは部外者の前では使いたくないけど、ビバリーさんの性格なら大丈夫だと思う。こんな面倒そうな物を、第三者に報告するわけがない。

森の様子は南側と大差ない。クヌギなどの広葉樹が生えた、普通の森だ。奥に進むに連れ、オーガの気配が感じられるようになってきた。マップも確認しつつ、木の上でアンチマテリアルライフルでオーガを狙い撃つ。

数発撃った頃、オーガはこちらの気配に気付いて向かってきた。目視できたオーガは、木の高さと同じくらい。5メートル弱くらいだろうか。それをルナとリリィさんが迎え討つ。

やがて、おかしな気配が向かってきていることに気付いた。初めて感じる気配だ。マップには『不明』の文字。ディエゴのように薄っすらと透けている。でも、やたらに大きい。木の上にいる俺と目線の高さが同じ……どう見てもオーガだな。

「ゴーストって、あれか?」

ルナにそう訊ねると、ルナは複雑な表情を浮かべて答える。

「そうですね……」

「てっきり人型だと思っていたよ」

人型には違いないんだけど、大きさがなあ……。

「私もです。滅多に見られないと思います」

「まあいいや。外に誘導できそう?」

遠距離で無双できる俺が1人でここに残り、ルナとリリィさんにはゴーストの誘導を任せる。

「はい。大丈夫だと思います」

「悪いけど、そっちはお願い。俺はもう少しオーガを間引くよ」

しばらくは俺の単独行動だ。向かってくるオーガを撃ち抜きながら、倒れたオーガの回収をする。高級素材だから、持ち帰らないともったいないんだよ。

数匹を回収した頃、スマホからルナの焦った声が聞こえてきた。

『コーさん、すぐに戻ってください!』

「了解」

問題が発生したらしい。まだ大量のオーガが回収できていないが、諦めるしか無いな。

森の外に出ると、顔面蒼白のビバリーさんが草原の上に横たわっていた。ルナたちは、ゴーストを誘導してビバリーさんから遠ざけようとしている。

「大丈夫か?」

「ムリ……大きすぎ……聞いてない……」

ビバリーさんはもう虫の息だ。さすがの専門家でも、あの大きさには対処できないらしい。

「分かった。後は任せろ」

そう言って、バカでかいゴーストに向き直った。さっきさんざん倒したオーガだが、今は勝手が違う。どうやって攻めるべきだろうか……。

「俺が戦う! みんなは離れてくれ!」

そう宣言してゴーストの前に駆け寄ると、みんなは一斉に距離をとった。俺は拳に 浄化の魔法(エクソーサイズ) を掛けて構える。

ゴーストは大きな腕を振り上げ、そのまま俺に振り下ろした。とっさに避けたけど、ゴーストの腕は地面にめり込んで何事もなく止まった。ゴーストだから、何も起きないんだ。

どうやら、ゴーストの行動パターンは生前の姿に引きずられるらしい。今回のゴーストはオーガだから、アホみたいに拳を振り回すことしかしない。……ザコだな。でかいだけだ。適当に殴り散らせば勝てるだろう。

ゴーストに向かって飛び上がり、まずは腹に一撃。少し怯んでよろめいた。さらにもう一発! と思ったのだが、油断した。ゴーストの腕が俺の体をすり抜ける。

体中が嫌な悪寒と脱力感に襲われた。バランスを崩して地面に落下する。さらに、2発目の拳が俺を襲った。ゴーストの腕が俺を貫き、一瞬だけ意識が遠のく……。

気持ち悪い! 物理的なダメージはゼロだが、かなり嫌らしい攻撃だ。ゴーストとの交戦中に魔物に襲われたら、物凄く危険だぞ。

地面を転がって、一度距離を取る。油断禁物だ。物理で殴られるよりも数倍危ない。ガードできないから避けるしかない。しかも、ジャンプしたら避けられなくなるから、足元から攻撃するしかない。

ゴーストの足をチマチマと殴り、襲ってくる拳を避ける。足を殴り、避ける。ゴーストには痛覚が無いようで、何度殴っても効いている様子がない。それでも何発でも殴る。蹴る。蹴る……。

『パァン!』

突然、あたりに破裂音が響き渡り、ゴーストは風船が割れるかのように弾けた。破片はあっという間に霧散する。ゴーストが居たところには、何も残っていない。素材や魔石はおろか、討伐証明すら何もない。

ローキックだけで倒したような感じになったな……。絵面が地味過ぎるぞ。倒したという実感が全くわかないので、倒れ込んでいるビバリーに近付いて訊ねる。

「終わったのか?」

「凄い……! 勝った……! 私でもムリだったのに……」

ちゃんと倒せていたらしい。

「獲物を奪ったみたいになって、悪かったな」

「いい。全然構わない。凄かった。もう一度戦うところが見たい」

ビバリーさんは突然饒舌になり、目を輝かせて立ち上がった。

「もう一度って言われてもなあ……。ゴーストなんて、滅多に出るものじゃないんだろ?」

「……そう。滅多に出ない。残念……」

ビバリーさんは、意気消沈した様子で言う。

「まあ、次に出たらまた一緒になるかもな。今日のところはこれで終わりだ。さっさと帰って任務完了の報告をしよう」

まだ日が高い。今から帰れば今日中に終了の報告ができるだろう。次は転移で来られるから、村を見物するのは後日でいいかな。どうせなら、もっとのんびりできる日にしたい。