作品タイトル不明
お化け退治1
王城に行ってから数日。何事もなく平和に過ごしている。もっと面倒なことになるかと思って先送りしていたけど、これだけ何事も無いんだったら、もっと早くに行っておけばよかったなあ。
そう考えていた矢先、転写機が突然震え始めた。メッセージの受信だ。相手は王で、何か頼み事がある時に使われる……。
「コーさん、鳴っていますよ?」
転写機を無視する俺に、ルナが訝しげに言う。
「そうだな」
「見ないんですか?」
「うん。どうせ面倒事だからね」
俺は無視を決め込むつもりだったのだが、クレアがそれを許してくれなかった。
「ねえ……放置したらもっと面倒なことになるだけよ?」
クレアが呆れたように言う。まあ、確かにそうなんだよな。後回しにすればするほど、事態は悪化していく。仕方がない……読むか。
またいつものように時候の挨拶から始まる。長い……。本題に入るまでに数分を要した。そして本題も回りくどい。要約すると、『魔物が出て困っているから、冒険者ギルドに協力して駆除してくれ』というだけの話だった。1行で終わるじゃん……。
読み終えた転写機を、そっとテーブルの上に据えた。
「どういうお話でした?」
ルナが興味ありげに言う。
「冒険者ギルドに協力しろってさ。魔物退治だ。詳しいことは書かれていなかったから、冒険者ギルドで聞けってことなんだと思う」
「そうでしたか。では、私もご一緒しますね」
「ああ、頼むよ。たぶん今回は、アーヴィンを除いた全員で行ったほうがいいと思う」
敵の数が不明だし、相手の詳細も分からない。期限も書かれていなくて、現場がどこかすらも分からない。重要な情報が何も無いんだ。外部に漏れたら拙い内容だとしても、不親切すぎるぞ。
どうなるか予想もつかないので、念のために全員で行ったほうがいい。
「そんなに大変な内容なの?」
クレアが心配そうに言う。
「何も書いてないんだよ。そのくせ、報酬だけはハッキリと書かれている。成功報酬金貨200枚だってさ」
「え? 高すぎじゃない?」
「そうなんだよ。これで内容が書かれていないから、怪しくて仕方がない」
転写機で自分の顔を扇ぎながら言うと、クレアはうんざりした顔を俺に向けた。
「……その命令、読むべきじゃなかったわね……」
だから言ったじゃないか、面倒事だって。
この金額は、クレアとリーズが手こずった『エルク』の2匹分。かなり手強い相手だと予想される。それどころか、敵を探すことすら大変かもしれない。
「まあ、読んでしまったものはどうしようもない。行くしか無いよ」
確か、読んだからと言って既読が付いたりすることは無かったと思う。でも、知ってしまったからには、無視をするのは気持ちが悪い。
「今から行くんですか?」
「そうだね。面倒事は早く済ませた方がいい。リーズとリリィも呼んで冒険者ギルドに行こうか」
アーヴィンに熊のダイキチの世話を任せ、王都に向かう。アーヴィンは複雑な表情を浮かべて引き受けてくれた。今回の報酬も、リボルバーの改造である。
全員で王都に転移し、その足で冒険者ギルドに向かった。サクッと終わらせて、サクッと報酬を貰ってさっさと帰るつもりだ。
冒険者ギルドの中に入ると、俺の顔を確認したエリシアさんが焦ったように立ち上がって叫んだ。
「あ! コーさん! お待ちしていました!」
「こんにちは。俺たちに依頼があるんだって?」
「詳しくはギルド長から聞いてください。会議室にどうぞ」
カウンターに立ち寄らず、そのまま会議室へと案内された。何かと言うとこの部屋だな。ここは防音の魔道具で遮音されているので、会話の内容が外に漏れることはない。重要な話をするときは、いつもここだ。
中に入ってソファに座った。すると、すぐにギルド長が部屋にやってきた。
「やあ、ずいぶん早かったね。王都に居たのかい?」
ギルド長は、そう言いながら俺の向かいに座った。
「いや、すぐに来られるところに居たんだよ。それで、何があったんだ?」
「単刀直入に言う。王都の近くでゴーストが目撃された」
「ゴースト? 教会の仕事じゃないか」
ゴーストには物理攻撃も通常の攻撃魔法も効かない。効くのは特殊な魔法のみだ。以前ルミアに教わったが、実戦で使ったことはない。
そもそも、ゴーストは冒険者からは敬遠されている。魔石や素材を落とさないので、関わるだけ損なのだ。普段は教会が対応している。
「その教会が機能していないから、我々のギルドに仕事が舞い込んできた」
あ……教会は絶賛崩壊中だもんな。建物と一緒に指示系統も崩壊しているから、手を出したくても出せない状態なんだろう。少し責任を感じ……ないな。俺は流れに身を任せただけだ。
「まあ、報酬は貰えるみたいだから、別にいいんだけど。それで、どこに行けばいいんだ?」
「待て待て、ゴーストには通常の攻撃が効かない。君たちはゴーストと戦ったことが無いだろう?」
ゴーストみたいな奴(ディエゴ) と対峙したことはあるが……あれをゴーストと呼んでいいのかな? しかも討伐してないし。
もう一種類、ゴーストみたいな奴が居たか。 自称神(ミルズとハインツ) も、ゴーストみたいなものだ。でも、微妙に違うらしいんだよな。
「そうだな。 普(・) 通(・) のゴーストと戦った経験は無いよ」
「専門の技術が必要なんだ。専門家を呼んである。今回は、彼らの補佐を頼みたい」
ただの補佐で金貨200枚? 美味しすぎるぞ。おかしい。絶対に裏があるだろ……。
「待ってくれ。補佐をするのは構わない。でも、どうして報酬がこんなに高額なんだ?」
「……悪いな。ゴーストが目撃されたのは、オーガの生息域なのだ。ゴースト討伐を専門にしている冒険者は、普通の魔物と戦うことに慣れていない。だから、魔物戦に長ける冒険者の協力が必要だ」
言いたいことは分かるけど、俺じゃなくてもいいんじゃないかな。グラッド隊は暇しているはずだぞ。依頼者は王なんだから、あいつらに任せた方が早いし安いはずだ。
「それなら、兵士でもいいんじゃないか?」
「兵士だと大人数になってしまうだろ? ゴーストは人が多いところを嫌うから、兵士では無理なのだよ」
グラッド隊の小隊は2人~5人くらいのはず。それで十分な気が……いや、オーガの群れと戦うには小隊では足りないな。あの部隊、個人の力はたいしたことないから。
「なあ。そんな危険地帯なら、無理して討伐しなくてもいいんじゃないのか?」
「そういうわけにもいかんよ。ゴーストは移動するから、放置したら被害が広がるだけだ」
ギルド長は困ったような顔をして言う。俺はゴーストの生態をよく知らないが、どうやら自由に動き回るらしい。ディエゴみたいな奴が野放し……。考えただけでも危険だと分かる。
「なるほど。理解した。それで、俺たちはどこに行けばいい?」
「もうすぐゴースト専門の冒険者が王都に到着する。それまで待機していてくれ」
ええ……? 待つの? 俺たちだけ前乗りして、先にオーガの駆除をしたいんだけど……。
「先に行ったらダメなのか?」
「そうだな。ここで顔を合わせてもらいたいと思っている。先に行かれたら困るよ」
面倒だな……。これがお役所仕事というやつなのか? 無駄に時間が掛かるだけだと思うんだけどなあ。
「いつまで待てばいいんだ?」
明日まで待てと言われたら、この後コッソリ出掛ける。明日の朝、何食わぬ顔でここに戻ってくればいいだけだ。転移魔法があれば、容易にできる。
「事前の連絡では、今日中に到着するという話だった。もうすぐ来るだろうから、ここで食事をしながらでも待機していてくれ」
おう……抜け出せないじゃないか。腹は減っていないから、お茶でも飲みながら待たせてもらおうかな。
「分かった。食事はいらないから、お茶を貰うよ。みんなはどう? 食事を頼む?」
「お茶だけで大丈夫です」
「私も」
「アタシもお茶だけで十分よ」
みんなが口々にお茶を頼む中、リーズが元気に手を挙げた。
「ご飯はいらないけど、お菓子が欲しいなー」
遠慮が無いな……。まあ、お茶だけだと寂しいもんなあ。
「悪い。頼めるか?」
「承知した。焼き菓子を出そう」
ギルド長はそう言って立ち上がり、部屋から出ていった。俺たちはこのままこの部屋で待機する。
しばらくすると、エリシアさんがお茶とクッキーを持って入室してきた。
「ありがとう」
「いえいえ。ここのお菓子とお茶は評判がいいんですよ。おかわり自由ですから、なくなったら言ってくださいね」
エリシアさんは、それだけ言って出ていった。
時間がもったいないので、お茶を飲みながら俺たちだけで軽く作戦会議をしよう。
「なあ、ゴースト用の魔法は覚えているか?」
全員に向けて聞く。
「 浄化の魔法(エクソーサイズ) ですね。私は覚えていますよ」
「私もだ。でも、あれから使っていないから、効果は保証できないな」
2人とも、ディエゴに対抗するために覚えた。その後は使う必要がなかったので、使い慣れているわけではない。
「そっか。リーズは?」
「え? あたしは魔法なんて使えないよ?」
あれ? おかしいな……。確か、ディエゴを殴り飛ばしていたはずでは? ディエゴへのストレスで起きた奇跡だったのかな……。
「了解。クレアも魔法が使えないんだよな?」
「……わざわざ確認しなくてもいいじゃない。使えないわよ」
「いや、ごめん。役割を決めようと思ったんだよ。万が一専門家だけで手に負えなかった場合、俺たちの手助けがいるかもしれないからさ」
ゴーストと戦えるのは俺とルナだけだな。他の3人にはオーガの駆除に集中してもらうとして、いざという時は俺とルナはゴースト駆除に協力しよう。
作戦会議をしているうちに、会議室の扉が開いた。ギルド長と、見覚えのない1人の女性が入ってくる。20代後半くらいだろうか。暗い茶色の髪で天然パーマ。髪の手入れをしていないらしく、ボサボサのアフロみたいになっている。やや猫背で、暗い印象だ。
「待たせたな。彼女がビバリー、元神官の冒険者だ。ゴーストを専門にしている。しばらく行動をともにしてもらうから、頼むよ」
「……よろしく……」
ビバリーさんはボソリと言う。声が小さくて、よく聞き取れない。
「よろしくお願いします」
笑顔で挨拶を返したが、ビバリーさんはそっぽを向いて仏頂面をしている。
「彼女はこういう性格なのだ。本人には悪気はない。仲良くしてやってくれ」
人見知りなのかな……。連携に問題がありそうなんだけど、まあいいや。直前で考えれば大丈夫だろ。
神官から冒険者に転向するケースは少なくない。「教会が強引にねじ込む」と批判されているが、一方で誰もやりたがらない仕事を受けるので、ギルドとしては助かっている部分もあるそうだ。ゴースト駆除なんかもその1つだと思う。
まあ、上手く倒せばゴーストからでも魔石や素材が取れるらしいから、仕事としては十分成立するのだろう。
「それはいいんだけど、せっかく揃ったんだ。早く説明をしてくれないかな」
「そうだな。目撃があったのは、北東の農村の近く。ビバリーがゴーストとの戦闘に集中できるよう、彼女の護衛をしてもらいたい」
聞けば聞くほど簡単な仕事。こんなんで金貨200枚も貰っていいのかな……。
「了解。本当にそれだけでいいのか?」
「それだけだが……オーガは1匹や2匹ではないぞ?」
オーガと言っても、大きなゴブリンとしか思えないんだよな。ミルジアでサイクロプスの一斉駆除を経験しているから、大したことじゃない。
「それは問題ないよ。でも、オーガの相場が下がりそうだ。混乱しないかな?」
ミルジアでサイクロプスを駆除した理由がそれだ。泥棒への嫌がらせのために、乱獲して一時的に取引価格を暴落させた。
「……何匹狩るつもりなんだ? 追い払うだけで十分なんだぞ?」
「追い払うだけだと、時間をおいてまた襲われる。確実に駆除した方がいいぞ」
「……できるもんならやってみろ。責任は私が取る」
おお、有り難い。全部一気に売らないと、なめす前に腐ってしまうからなあ。
サイクロプスの時は、市場価格が半値以下まで下がったはずだ。たぶん、オーガでもそうなる。商人は大混乱だ。ギルド長が責任を取ってくれるなら、遠慮なく狩ろう。
「よし。さっそく移動を開始しようか」
そう言って立ち上がると、ビバリーさんが不満げな顔で俺を見た。
「待って……。私、今来たばかり。休ませて……」
それはもっともだな。徒歩か馬車かは知らないが、今まで移動中だったんだ。少しは休まないと仕事ができない。行動開始は明日だな。