軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 くまと留守番

「じゃ、アーヴィン。ダイキチのこと、悪いけど頼むよ」

コーくんは、そう言って出掛けていった。転移魔法で一瞬だ。今日はアレンシアの王様に会いに行くって言ってたけど、アポなしで行っても会えるのかな……。でも、コーくんだもんね。大丈夫か。

コーくんは前世の僕と変わらない歳のはずなんだけど、僕とはずいぶん違う。使徒だった僕よりも明らかに強いし、堂々としている。正直うらやましい。

今日の同行者はルナさんとリーズちゃん。クレアさんとリリィさんはこのお城に残ったけど、2人とも忙しいみたい。

僕は熊のダイキチの世話をすることになったんだけど、いつまでやればいいんだろう……。前回コーくんが出掛けた時は、数日間帰ってこなかった。「今日中に戻る」なんて言っていたけど、とても当てにできる言葉とは思えない。

せめてクレアさんかリリィさんが手伝ってくれたら……。でもクレアさんはすぐに1人で出掛けていったし、リリィさんは部屋に籠もって作業に没頭している。それが僕に任された理由なんだけど……。僕の手に負えるのかな……?

コーくんが飼っている熊は、ディザスターグリズリーという危険な魔物。人に懐くなんて聞いたことがなかったけど、コーくんたちには懐いているみたい。僕も近くで見たけど、魔物っぽい感じがしなかった。

そんなに怖くもないし、襲おうとする意思も感じない。不思議な魔物だ。

でも、放し飼いはやりすぎだと思う。コーくんは中庭で放し飼いにしているんだよね。コーくんはダイキチに、「エルフに近付くな」って命令しているけど、僕はエルフじゃない。だから、ダイキチは僕には普通に近寄ってくる。

コーくんには「ダイキチに近付く時は身体強化を怠るな」と注意されているので、今日は一日中強化しっぱなしになると思う。

とりあえず中庭に出て、ダイキチの様子を見る。いつ見ても大きいなあ……。熊の常識が塗り替えられる大きさだと思う。よく覚えてないけど、トラックくらい?

『ぐぁ?』

あ……ダイキチが僕に気付いた。ダイキチは僕を見つめてキョトンとしている。

「おはよう」

ダイキチに声を掛けてみる。コーくんが言うには、人の言葉が理解できるらしいけど……。

『ぐぁぁぁぁ!』

こっちに突進してきた!

「ちょ! 待って! 待って!」

ダイキチはその場でピタリと止まった。言葉を理解しているのは本当みたいだ。

『ぐぁ?』

止めたはいいけど、ダイキチは不思議そうな顔でこっちを見ている。

熊って、どうやって世話をしたらいいの? ご飯をあげて……遊んであげたらいいのかな……。でも、どうやって? この大きさの熊が突進してきたら、僕の力では防ぎきれないよ?

「おなか、すいてる?」

『ぐぉ』

ダイキチは首を縦に振った。空腹ということでいいのかなあ。でも、熊って何を食べるんだろう……。笹? 違う! それはパンダだよ。蜂蜜とかかな……。まあいいか、食料庫から適当に持ってこよう。

食料庫から、余り物のパンと腐りそうな果物を持ってきた。本当にこれでいいのかな……。

「食べる?」

『ぐぉぉ!』

恐る恐る差し出すと、ダイキチは勢いよく果物に飛びついた。果物が正解だったみたい。すごい勢いで食べている。大きさにさえ目をつぶれば、可愛いものだね。でも大きさが全然可愛くないんだよね。トラック並だからね。

僕が見ているうちに、目の前の果物はぜんぶ無くなった。次はパンに手を伸ばす。

結局食べるんだ……。雑食なのかな。熊なんて飼ったことがないから、何が正解なのか分からないよ。

『ぐぉぉぉ』

あ、食べ終えたみたい。今の雄叫びは「ごちそうさま」ということでいいのかなあ。こっちの言葉は理解しているみたいだけど、僕にはダイキチが何を言いたいのか分からないよ。

「おなかいっぱいになった?」

『ぐぉ』

ダイキチは首を縦に振る。たぶん「はい」なんだよね。さっきもその動作をやってたし。

僕の仕事はこれで終わりでいいはず。最低限ご飯のお世話だけしておけば、後は勝手に歩き回って遊ぶよね。僕が遊んであげなくてもいいでしょ。

「じゃあ、僕は城の中に戻るね。またおなかがすいたら呼んでね」

僕がそう言うと、ダイキチは雄叫びを上げて突進してきた。

『ぐぉぉぉ!』

「待って! ストップ! 止まれっ!」

『ぐお?』

ダイキチは僕の叫びに合わせて急停止した。まさかとは思うんだけど……。

「もしかして、遊んでほしいの?」

『ぐぉ!』

ダイキチはブンブンと首を縦に振る。

これ、「はい」だよねえ……。嫌な予感が的中したよ。確かに、僕は暇だよ。暇だけどさ、僕の手には余るよ……。でも、このまま立ち去るわけにはいかないよね。

「何をして遊ぶの?」

恐る恐る聞いてみる。もし僕でも可能な遊びだったら、付き合ってあげてもいいよ。

『ぐぉぉぉ!』

ダイキチはまた雄叫びを上げて突進してきた。

すぐに全力でガードする。でも、ダイキチの勢いには勝てない。衝撃で飛ばされて、お城の壁にぶつかって止まった。

……コーくんに習ったこの身体強化、凄いよね。あの勢いで飛ばされたのに、ケガ1つ無いよ。痛いけど。

「ダイキチ、不意打ちはナシだよ。危ないよ」

立ち上がって余裕を見せたけど、痛いものは痛い。これはエルフのみんなでは相手をできないなあ。身体強化ができないと、ダイキチは遊びのつもりでも大怪我しちゃう。

『ぐぉ……』

ダイキチはちょっとションボリしたみたい。反省したのかな……。来るとわかっていれば受け身を取れると思う。もう少し付き合ってあげよう。

「次はちゃんと耐えるから、掛かっておいで!」

『ぐぉぉっ!』

ダイキチは、勢いを増して突進してきた。これは分かってても耐えられないよ……。そして飛ばされ、木にぶつかって木が折れた。痛い。

でもこの身体強化、本当に凄いなあ。僕の体はまだ子どもなのに、使徒だったときよりも頑丈みたい。あのときにこの魔法が使えたら、もっと上手く立ち回れたのかな……。ま、そんなことを考えても仕方ないんだけどね。念願だった神の討伐は、コーくんが成し遂げちゃったし。

それはともかく、今は目の前の問題に立ち向かおう。今のところ怪我をしていないけど、時間の問題だと思う。

「もう少し手加減してくれると嬉しいなあ」

『ぐぉっ』

今の返事は分からない。どういう意味だったんだろう。「はい」じゃなかったから、手加減してくれるわけじゃないみたい。

「じゃあ、遊ぶのはもう少しだけね」

怖いから、さっさと切り上げるよ。だって、手加減する気が無いみたいなんだもん。死んじゃうって。

『ぐぉぉ!』

ダイキチの勢いは少し弱まった。優しいタックルで吹き飛ばされる。手加減してくれたのかな? なんて思った僕が馬鹿でした。飛ばされた先には、すでにダイキチが待ち構えていた。前足で弾かれて、地面を転がる。

そのまま壁に激突。そして追い打ち。猫がボールで遊ぶかのように、ダイキチは僕を投げ飛ばす。これ、避けないと死んじゃうよね?

「ダイキチ! ストップ! 止まって! やめて!」

何度叫んでも止まらない。ダイキチは遊びに夢中になっているみたい。自力で避けるしかない。

必死で避ける。何度か殴られたけど、どうにか避けられるようになってきた。全神経を集中させる……。体が思い通りに動いてくれるみたい。自分が想像した通りに体が動いて、的確に避けられる……。

こんな感覚は初めて。使徒だったときより、確実に体が動く。体力や魔力は大幅に落ちているはずなんだけど、感覚は今の方が凄い。

必死で避け続けていると、ダイキチの突進はまったく当たらなくなっていた。でも……そろそろ限界。そう思ったその時、ダイキチがようやく静かになった。遊び疲れて眠くなったみたいだ。助かった……。

改めて中庭を見渡すと、地面は穴だらけ、何本もの木がへし折れて、大型の魔物が大暴れした後みたいになっている。……みたいじゃないよ! 事実だよ!

とにかく大変だった……。ダイキチは静かに寝息を立てている。ようやく解放されたよ。もう服はボロボロ。体も擦り傷だらけ。

これだけ大変だったのに、リリィさんやルミアさんは助けてくれなかった。リリィさんは熱中すると回りが見えなくなるから仕方がないとして、ルミアさんは助けてくれてもいいと思うよ。たぶんのんきに寝ているんだろうなあ。

ダイキチは、何度か大きなあくびをした後、眠りについた。コーくんが無事帰ってきたら、僕の任務は終わりかな。早く帰ってこないかな……。ダイキチが起きる前には帰ってきてほしいよ。でも、コーくんの「今日中に帰る」は信用できないからなあ……。

夕方。日が暮れそうになっているところで、約束通りコーくんが帰ってきた。ダイキチと僕が居る中庭に、突然転移してきた。いつものことだから驚かないけどね。

「ただいま。ダイキチの様子はどうだった?」

疲れた顔をしているけど、王様とのお話が大変だったのかな。でも、こっちの方が大変だったと思うよ。

「……見て分からない?」

僕が中庭を見渡して言うと、コーくんが呆れたように返す。

「ずいぶんと散らかしたなあ。掃除が大変そうだ」

「そうじゃないっ! 何度も死にかけたんだから!」

もう! どうしてそんな感想が出てくるかなあ。コーくんはいつもそう。ちょっと抜けてるっていうか、ズレてるっていうか。僕がどれだけ苦労したと思っているんだよ。

「ああ、なるほどね。いい訓練になったんじゃないか?」

コーくんはこともなげに言う。すっごい大変だったのに……。

「軽く言わないでよ……」

訓練になったとは思うよ。でも、こんなハードな訓練は求めてないよ。剣の素振りをして、模擬戦をして、地道に頑張っていくのが訓練じゃないか。

これはスパルタどころじゃないと思う。獅子だったら、我が子を千尋の谷じゃなくて溶鉱炉に突き落とすみたいなものだから……。

「悪かったな。約束通り、リボルバーを改造してやるよ」

あ、少し僕の思いが通じたみたい。これのために頑張ったんだよ!

「本当に!?」

「ああ。今からでいいか?」

「お願い!」

やった! 念願のバージョンアップだ! 今のリボルバーにも満足しているんだけど、実戦で使うにはまだ少し不安なんだよね。

僕の魔力では、一度に撃てる数は6発まで。6発撃ち切ったら、しばらく待たないといけない。これだと練習が捗らない。やっと慣れてきたけど、もっと練習して命中率を上げたいんだ。

「アーヴィンはどうしてほしい?」

「使用回数を増やしてほしいんだ。6発で打ち止めだと、全然練習にならないから……」

「了解。俺もそれを考えていたんだよ。すぐに終わると思うから、しばらく預かるぞ」

コーくんにリボルバーを渡すと、コーくんはマジックバッグの中に無造作に突っ込んで城の中に入っていった。

これで僕の役目は終わりかな。静かに寝息を立てているダイキチを一瞥して、コーくんの後を追った。

コーくんにリボルバーを渡して一晩。次の日の朝には改造が施されて返ってきた。

朝食の前に庭に出て、さっそく1発撃ってみる。弾丸は『パァン』と乾いた音を立て、的にしていた木を貫通した。……強すぎない?

次は大きな岩に向けて撃ってみる。すると、大きかった岩は次の瞬間に無数の小石になった。……強すぎるよ……。

パワーアップは望んだ覚えが無いんだけどなあ。それよりも回数だって。何発撃てるかの方が重要! とりあえず、可能な限り連射する。3発目、4発目、5発目……さらに連射! って、10発くらい撃ったかな……。的が無くなっちゃった。

強力になって効率も上がったの? 射撃練習のためのバージョンアップだったのに、気軽に使えない武器になっちゃったよ……。どうしよう。もう一度頼んで、威力の調整機能を付けてもらおうかな。

今日はもう頼めないから、また今度。次にコーくんが外出する時に、また交渉してみよう。リボルバー改造のためだったら、ダイキチの世話くらいはいくらでも引き受けるよ!