軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王城に行こう4

グラッド隊の面々と別れた後、目立たない場所まで歩いて立ち止まった。これからの打ち合わせをするためだ。ここに来た目的でもある、王への面会を済ませなければならない。

立ち止まったまま少し考え事をしていると、リーズが怪訝そうな表情で俺に話し掛けてきた。

「どうしたの? 王様に会いに行くんだよね?」

「そのつもりだが、どうする?」

俺の問に、ルナが不思議そうに聞き返す。

「と言いますと?」

「表から謁見の間に行くか、裏口から休憩室に行って待つか。俺はどっちでもいいんだけど」

表から行けばすぐに会えるから、早く帰れる。でも、王以外の人がたくさん居てちょっと面倒だ。裏口から行けば、王が来るまで少し待たなければならない。そのかわり、王しか居ないから気楽だ。

「謁見の間は少し居心地が悪いんですよね……」

ルナは裏口派だな。居心地が悪いというのは同感だ。部外者が多すぎて、話したいことが話せない。

「でも、見晴らしは謁見の間の方がいいよ?」

リーズはあっけらかんと言う。謁見の間で人目をはばからず景色を眺められるのは、リーズだけだと思うぞ。普通なら、空気を読んでおとなしくしている。

「よし。裏口から行こう」

今日はリーズを連れているから、ちょっと心配だ。偉そうな人がたくさんいる中で、リーズはとても自由に振る舞う。気付いたら謁見の間で遊んでいるんだ。クレアが居れば多少は安心できるんだけど、今日は居ないからなあ。

それに、おおっぴらに話せない話題になるかもしれない。ルミアのこととか、エルミンスールのこととか、深く突っ込まれたらヤバイ。

転移魔法を使い、城内にある王の休憩室に移動した。真っ暗な部屋に明かりを灯し、いつものように一番高そうなソファに座る。

「コーさん……そこに座ったら、王様の座る席が……」

ルナは3人がけソファの隅に座り、心配そうに言う。

「大丈夫だって。俺たちは3人しか居ないんだから、王は適当に空いている席に座るよ」

「そうですかね……」

ここには何度も来ているが、来るたびに調度品が変わっている気がする。部屋の真ん中にあるソファは以前と同じだが、隅に設置されていたはずの丸椅子が撤去され、代わりに高級そうなソファが設置されている。さすがは王だ。金を持っているな。

「来たはいいけど、やっぱり退屈だな」

「寝てていい?」

リーズが誰も座っていないソファに寝転がりながら言う。ここのソファはフカフカで、寝心地が良さそうなんだよなあ。寝たくなる気持ちは分かるぞ。

「王が来るまでな。来たら起きろ」

と言いながら、毎回起こしていない気がする……。リーズは気持ちよさそうに寝るから、起こしにくいんだよ。

特にやることもなくぼーっとしていると、誰かが近付く気配に気付いた。王ではなさそうだな……。

ノックもなく扉が開き、1人のメイドが入ってきた。メイドは俺たちの存在に気付くも、平静を装って挨拶をしてくる。

「あ、お久しぶりです。来ていらしたんですね」

ここに来るたびに見かける、若いメイドだ。この人は俺が王城で世話になっていた時からの顔馴染みなので、気を使うことなく話せる。

「どうも。あ、お茶とかは結構ですから。あと、王も呼ばなくていいですからね? 適当に待っています」

「承知しました。お茶は只今お持ちします」

あれ? なんだか催促したみたいになったぞ? おかしいなあ……。

メイドが退室して少し経ったところで、この部屋に向かって走る気配を感じた。すると、勢いよく扉が開き、王が転がり込んできた。

「うぉぉい! コーよ、其方は何故そんなに急に来るのだ!」

言葉遣いが崩れているなあ。何をそんなに焦っているんだ。

「ごめん、連絡を忘れていたよ。でも、さっきまで訓練場で騒いでいたから、来るとは思っていたんじゃないのか?」

「そうだな。だが、其方のことだ。ここを素通りして帰るかもしれないと考えていた」

それ、許されたんだ……。だったら帰ればよかったよ。でも、いずれは話をしないと拙いからなあ。すでに先送りしすぎだったんだ。今日を逃したら、次にいつ来られるか分からない。

「それで、話なんだけど」

ちなみに、王への敬語はやめた。流れで敬語をやめた時に喧嘩を売られたので、イラッとしてそのままだ。今は知り合いのおじさんだと思って接している。もともと敬意があったわけじゃないし、今の話し方のほうが自然な気がする。

「うむ。用件は分かっておる。例の放送の件だろう?」

王は苦笑いを浮かべてそう言うと、隅に置いてあったソファを部屋の真ん中に寄せて腰を下ろした。

例の件とは、ルミアに巻き込まれて世界中に俺の声が放送されてしまった事件のこと。この事件から、約2カ月が経つ。あれからも何度か放送をしているが、最後の放送は1カ月以上前だ。人々の関心も薄れ始める頃かと思ったので、ようやく王のもとに来た。

「そう。概ね放送の通りなんだけど、何か質問ある?」

いざ来てみたものの、何を話していいか迷う。使徒として活動することになるのだが、具体的なことは俺には何も分からない。

「質問って……まず、その娘はそれでいいのか?」

王はリーズに目配せして言う。リーズはソファですやすやと眠ったままだ。起こす気は無い。

「帰る時に起こすよ」

「うむ、分かった。では単刀直入に聞く。ルミア神は本物ということで良いのだな?」

「証明のしようがないけど、間違いなく本物だよ。連れてきた方が早かったかな……」

俺の呟きに、王は一瞬嬉しそうに笑顔を見せたが、すぐに表情を暗くした。

「それは……喜ばしいことだが、今はやめてくれ。もてなす準備が整っておらぬ」

ルミアはそんな大層な人物じゃないのに。リンゴとモモを与えておけば、ずっと上機嫌だぞ。美味しいパンと料理があれば、なおよしだ。

「まあ、会いたくなったらいつでも言ってくれ。あいつの気が向けば、来てくれると思うから」

「……そんなに気安い仲なのか?」

王は不安げな表情を浮かべて言う。

「本人は神扱いしてほしくないみたいだからなあ。それに、見た目は普通の人間だよ」

「なるほど……。本物であるということは理解した」

どこで理解したの? 証拠になりそうなものは何も提示していないのになあ。

「証拠が欲しかったら、今度何か持ってくるぞ?」

俺がそう言うと、王は疲れたような笑顔で答える。

「いや、必要ない。はじめから疑ってなどおらぬよ。それより、もう1つ重要なことを聞く。ルミア神から言い渡されたコーの役目はなんだ?」

「それがさあ、俺にもよく分からないんだよね。ルミアには何も言われていない」

俺に面倒を押し付けたルミアは、エルミンスールの自室でゴロゴロしている。やる気はゼロだ。本人は「下手に手を出さない方が上手くいく」って言っていたけど、きっとサボりたいだけだな。

「ふむ……そうか。では、我々が何か依頼すれば、引き受けてくれるのか?」

「報酬と内容次第かな。戦争に手を貸せとか言われたら、いくら積まれても無理だ」

「そんなことは言わぬよ……。教会が荒れておるのでなあ。コーの手助けがあれば、ある程度おさめられると考えておるのだよ」

アレンシアの教会は、物理的にも組織的にもガタガタだ。建物は俺が壊したんだけどね。どちらも、立て直すのは大変だろうなあ。

でも、俺は手を出さない方がいいんじゃないかな。神官たちを軒並みぶっ倒したから、恨まれているような気がする。

「悪いけど、それは無理だと思うぞ。ちょっと派手に暴れちゃったから、俺のことを良く思っていない人が多そうだ」

「……そうでもないと思うのだがなあ。嫌だというのであれば、無理強いはせぬよ。其方の教会嫌いは心得ておる」

俺は別に教会が嫌いなわけじゃないぞ。神官たちの態度が気に食わなかっただけでさ。態度を改めてくれるんだったら、表面上は仲良くできると思うよ。まあ、向こうが俺のことを嫌っていそうだから、たぶん無理だけど。

「悪いな。教会関係は断るよ。で、質問はそれだけ?」

「うむ……いや、最後に1つ聞かせてくれ。其方は今何処に住んでおるのだ?」

王は複雑そうな表情を浮かべて聞いてきた。

「どこでもいいじゃん。そんなに気になる?」

「王として、聞いておかねばならん。まさか、他所の国で家を買ったとは言わぬよな?」

どうしよう……エルフの国にいるとういうことは、安全のために教えていない。エルミンスールは軍事機密の塊だし、エルフの遺跡が発見されたというだけでも大騒ぎになるはずだ。さらにエルフの生き残りが居るなんて知られたら、世界中がエライことになる。

王くらいには教えた方がいいんだろうけど、もし「研究のために明け渡せ」とか言われたら、たとえ王でもぶん殴る自信があるぞ……。

言うべきかどうか迷っていると、ルナがそっと俺に耳打ちをした。

「コーさん、いいんじゃないですか?」

「大丈夫かな……?」

「はい。もし場所が知られたとしても、コーさん以外が到達するのは不可能ですから」

あ、確かにそうだな。周囲のジャングルには、エルフの結界が張られている。正規のルートを通って結界を解除しないと、侵入するのは不可能だ。

例外は、ジャングルを魔法で一気に焼き払うことと、空を飛ぶこと。このどちらかの方法を使えば侵入可能だが、そんな技術はこの国には存在しない。それに万が一のことが起きたとしても、侵入する方法が分かっているんだから、予め対策しておけば問題ない。

攻撃魔法は 雪隠結界(せっちんけっかい) で防げるし、空からの侵入は地対空ミサイルを作ればいい。アンチマテリアルライフルを魔道具化すればいいだろう。……危険かな? まあ、防衛設備は大事だから、作っておこう。

「王を信用して教える。結構ヤバイところに住んでいるから、絶対に他言しないでほしい」

「うむ。心得ておる。それに、其方がどこに住んでいたとしても、余は驚かぬよ」

よし。言質は取った。言いふらした場合のペナルティを決めていないが、そこは王を信用しよう。

「詳しい場所は言えないけど、俺たちはエルミンスールの宮殿に住んでいる」

「エルミン……?」

この名前は知られていないのかな……。そういえば、この名前は俺たちも現地で知ったんだっけ。

「エルフの国があった場所だよ」

「なっ! はぁ? エルフだとぉ!?」

王は酷く驚いて、目を白黒させている。どこに住んでいても驚かないんじゃなかったっけ?

「そう。偶然見つけて、ちょうどよかったからそのまま住んでいるんだ」

「待て……そのことは誰かに言ったか?」

「言うわけ無いじゃん。もし知られたら、面倒なことになるのは間違いないから」

「うむ。そうだな。今後も、誰にも言うでないぞ……。余も、墓場まで持っていく」

大げさすぎない? まあ、黙っていてくれるのなら助かるんだけど。

「あと、『調査したい』とか『エルフの技術を寄越せ』とか、面倒なことは言わないでくれよ」

「見くびるでない。余がそんなことをするわけがなかろう」

王は冷や汗を垂らしながら言うと、蚊の鳴くような小さな声で「そんなことをしたら、国が滅ぶわい……」と呟いた。

今のエルミンスールには、国が滅ぶような技術は無いぞ。有り得るとしたら、俺がアレンシアを攻撃するくらいかな。もし余計な詮索をされたら、攻撃せざるを得ないからなあ。そうならないことを切に望む。

「まあ、近況報告はこんな感じだ。他に聞きたいことはあるか?」

「そうだな……今はそれくらいだ。また頼み事をするかもしれぬが、引き受けてくれるか?」

「だから、内容と報酬によるって。なんだか役目がボンヤリしているから、今までと変わらないと思ってくれ」

「そうか……分かった。今日はご苦労であった。もう下がって良いぞ」

王は急に偉そうな物言いをする。でも本当に王なんだから、偉そうなのは仕方がないか。これで用事は終わったし、リーズを起こして帰ろう。

「じゃ、またな。用事ができたらまた来るよ」

王にそう言って、リーズの肩を叩く。

「リーズ、帰るぞ」

「ぅえ? ふぁぁい……」

寝ぼけたリーズを抱えると、ルナを引き連れて転移魔法でエルミンスールに飛んだ。今日はいろいろあって疲れた。ご飯を食べてさっさと寝よう。