軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔道具普及大作戦1

ルミアの声を放送した時から、俺たちはまだ王都に行っていない。と言うか、エルミンスールに引きこもったままだ。俺の顔は知られていないが、名前が世界規模で知れ渡っている。面倒な予感しかしないんだよ。

王はしきりに転写機で呼び出しをしてきているが、全部無視している。『今は忙しい』と誤魔化して返事をしているが、それもそろそろ限界が近い。王の所にも、いずれ顔を出す必要がある。……かなり面倒臭い。

ある日の朝、クレアが突然俺に話しかけてきた。

「ねぇ、実家に帰りたいんだけど、いいかな?」

「いきなりどうした?」

「ルミアが変なことを言い出したじゃない? ママが心配してるかもしれないのよ」

クレアの母は、俺とも面識がある。俺の名前を知っているわけで、ルミアの無茶な放送も当然聞いていたはずだ。わけが分からない無理難題を押し付けられた奴と一緒に居るんだ。そりゃあ心配もするよなあ。

王都に帰るためには、俺が転移魔法を使わなければならない。走って帰れなくもないが、3日ほど掛かるので面倒だ。

「そうだな……じゃあ行こうか」

「あたしも行きたーい!」

元気に手を挙げるリーズ。まあリーズの場合、どこに行くにも付いてきたがる。普段通りの反応だ。

「突然お邪魔して、迷惑じゃないですか……?」

ルナが遠慮がちに言う。親子水入らずの邪魔をしていいのか、という配慮だ。

「いいのよ。ただの顔見せだから。せっかくだから、みんなで行かない?」

クレアが提案をすると、ルナとリリィさんも同行の意志を示した。

「じゃあ、僕は留守番をしているよ」

アーヴィンはエルミンスールに留まるようだ。こいつもいずれオマリィの屋敷に帰らせる必要があるのだが、まだここに居座っている。いつまで預かればいいのだろうか。一度おっさんオマリィに会って確認する必要があるな。

結局、普段のパーティメンバーで行動することになった。ルミアはエルミンスールから出る気が全く無いらしいので、声も掛けない。

今まで着ていたコートはボロボロのまま修理していないため、金ボアコートを羽織り、出発の準備をする。

「そういえば、服屋にも行かないといけないわね。予備のコート、もっと買ったら?」

コートの袖に手を通していると、クレアが腕を組みながら言った。

「そうだな……。このコートを普段着にするのは勇気が要るもんなあ。

時間が空いたら、いつもの防具屋に行こう」

いつもの防具屋には、コートの修理の他にも保留している用事がある。そろそろ溜まった用事を片付ける時期かもしれない。

このコートはエグいくらい派手だ。生地も派手だが、デザインも派手だ。これを着て 街中(まちなか) を歩いたら、注目の的になる。

今日、金ボアコートを着たのは俺だけだ。全員の分の金ボアコートも仕立ててあるのだが、みんなはいつものコートを着ている。

俺1人でもかなり目を引くと思うのだが、全員で金ボアコートを着たら、さぞ目立つだろう。それで街を歩くのは相当の勇気が要るな……。

出発の準備が整った。マリーの店の屋根の上に転移し、地面に下りる。

店の扉を開けると、通路を占領するように大量の箱が積み上がっていた。荷物の隙間から、カウンターの向こうに座るマリーさんが見える。

「いらっしゃ……あ~クレアちゃんじゃなぁい。おかえり~」

相変わらず間延びをした話し方だ。

マリーさんがクレアの顔を見つけ、顔を 綻(ほころ) ばせた。すると、クレアが不満そうな表情を浮かべる。

「ちょっと、ママ。『ちゃん』はやめてって言ってるでしょ……ただいま」

荷物をかき分けて店の奥に到達した。

マリーさんは俺の顔を見ると、ニッコリと微笑んで口を開く。

「コーくんもぉ、お久しぶりです~。声を聞きましたがぁ……あれは何だったんですかぁ?」

やっぱりあの演説は突っ込まれるよな……。

「変なことに巻き込まれたんだよ。全てが予定通り進んでいたのに、最後にハメられたんだ。

まあ、概ねルミアの演説の通りだ。冒険者の延長みたいなものだから、心配いらないぞ」

「そうですかぁ……。私にお手伝いできることがあればぁ、何でも言ってくださいね~」

「ああ、ありがとう。何かあったら頼むよ」

「ところでぇ。いいコートを着ていますね~。よくお似合いですよ~」

金色のコートが目立ちすぎたのか、すぐに指摘された。カッコいいとは思うのだが、いかんせん派手すぎるんだ。いつものコートを修理したい。

「いつものコートをボロボロにされたんだよ。これは予備のコートだ」

「普段からそのコートで良いと思いますよ~」

マリーさんはニコニコと笑いながら言う。本心からそう言ってくれているのだろうが、俺は気が進まない。

「いやいや、ちょっと派手すぎて、普段着にはできないよ。

そんなことより……しばらく見ないうちに、またずいぶんと散らかったな」

店の中を見渡しながら言う。

初めてここに来た時と同じ、とんでもない魔窟になっている。「増えすぎた荷物はマジックバッグに詰めろ」と言ったはずなのだが、店の中は物で溢れていた。

「そうなの~。コーくんに教えてもらった方法も使っているんだけどねぇ。追い付かないの~」

マジックバッグに詰め込んだ結果が、この有様らしい。どうしようもないな……。

この人の一番の問題は、片付けができないことではない。商品を増やしすぎることだ。際限なく作るから、あっという間に店が商品で溢れる。それに加えて他所からも仕入れているので、散らかり方に拍車が掛かる。

「しばらく作るのを止めて、売りに専念しないと無理だろ」

「え~! 死んじゃう……」

ん? マリーさんは回遊魚か何かなのか? 動いていないと死ぬ的な。

「わかった、わかった。俺がどこかで売ってくるよ」

「え……いいの?」

以前、ここの商品を露店で売った。結構大変なことだったが、出会いもあって楽しかった。しかも、たった1日で結構儲かった。

報酬は売上の1割なので、売った分だけ報酬が上がる。このシステムは気に入っている。

「構わないさ。また露店をやってもいい。次はいつだ?」

「ありがとうございます~。次の露店には間に合わないのでぇ、2カ月後になります~」

うわ……結構先だな。2カ月もあれば、この店は物で埋もれるぞ。今すぐにでも対処しないと拙い。

「なるほど……露店は無理だな。他の手を使おう。心あたりがあるんだ。まずは余っている商品を選別してくれ」

「心あたり?」

クレアが訝しげに呟くと、リーズが元気よく声を上げた。

「わかったー! アーヴィンのお父さんだねー」

リーズは普段はアホの子のくせに、勘だけは鋭いな。

ルナとリリィさんはピンと来ていないみたいだ。説明が必要らしい。ほぼ正解を出したリーズの頭を撫でながら言う。

「オマリィにも売るが、本命はミルジア全土だよ。ミルジアで神が代わっただろ?

たぶん、魔道具も解禁されると思うんだよ。あれはミルズの方針だったからな」

「そんなに簡単にいきますかね……」

「多少面倒は起きるだろうが、元々法律で縛っていたわけじゃない。教会がうるさいだけだった。神が代わった今なら、またとないチャンスだよ」

ミルジアでは、長い間魔道具の使用が自粛されていた。ハッキリと禁止されていたわけではない。金持ちの間では、割と普通に使われている。おおっぴらに売ると教会がうるさいので、アレンシアに渡航した際にコッソリ密輸しているらしい。

ミルズが居なくなった今、魔道具を自粛する理由が無くなったはずだ。上手く事を運べば、一気に普及させることができるだろう。

具体的な方法は考えていないが、行けばなんとかなる。と思う。たぶん。

「しかし……相手はミルジアだぞ。そんなことをしたら教会が黙っていないのではないか?」

リリィさんが心配そうに言った。

「ミルズを信奉していた連中だぞ? 後ろ盾はもう無いんだ。心配ないだろ」

たぶん、ミルジアの教会は混乱の真っ只中だと思う。それこそ、魔道具なんかを気にする余裕が無いほどに。混乱に乗じて普及させることができれば、俺の勝ちだ。

「絶対に何かを言われると思いますが……」

ルナも不安げな表情を浮かべて言うが、今の俺たちの立場は『神の代行者』だ。この立場を利用できれば、たぶん上手くいく。魔道具の普及は悪いことではない。ミルジアの庶民には喜ばれるだろう。

「文句を言われても無視すればいいんだよ。俺たちはそれが許される立場なんだから」

「何か言われたら殴ればいいと思うよー」

リーズが物騒な提案をすると、ルナとリリィさんが「プッ」と吹き出した。

「うん。そういうことなら、私たちも品定めを手伝おう。店を見させてもらうよ」

リリィさんはそう言って、店の棚を漁り始めた。ルナとリーズがそれに続く。クレアは、マジックバッグに商品を詰め込む手伝いを始めた。

俺はみんなの状況を監督するために、カウンターの前に椅子を出して座る。品定めが面倒だからではない。まだ知らない魔道具も多いので、俺が手を出すと余計に時間がかかるのだ。決して怠けているわけではない。

椅子に座ったまま、みんなに指示を出す。

「できるだけ平和的な物を頼むよ。悪用されにくいやつだ」

「分かりましたぁ。魔物除けとか、草刈りですかね~」

魔物除けはかなり重宝されるだろうが……草刈り?

ミルジアって、刈るほど草生えるっけ? とても不毛な大地だった気がするけど……。まあ、西の方では農業もやっているらしいから、その辺りでは需要があるだろう。

「何を入れるかは任せるよ。魔道具が普及していない国だから、何を持っていっても売れると思うぞ」

ランタンや、着火具なんかがよく売れるはずだ。建設用の石を作る魔道具も喜ばれるだろう。

「あ~! これを入れてもいいですかぁ?」

マリーさんが見慣れた鉄の棒を持って言った。

俺達もから普段お世話になっている、携帯用ウォシュレットだ。

「これは……」

思わず声を出してしまった。マリーさんはそれに反応し、すかさず説明を始めた。

「ウンチをした時にぃ、お尻を洗う魔道具です~」

どストレートに言うなあ……。もしかして、客にもそう説明しているのか? 引くって。絶対、客が引くって。

マリーさんの説明を聞いたリリィさんが、興奮気味に駆け寄ってきた。

「私が開発した魔道具じゃないか! 作ってくれているんだね!」

この魔道具を最初に作ったのはリリィさんだ。

王宮魔道士が開発した魔道具は、特別な理由が無い限り公開される。それを量産して普及させるのが、一般の魔道具職人だ。この国で出回っている魔道具の多くが、そういった経緯を経て作られている。

ちなみに、俺たちは個人で開発しているので、作った物を公開する義務は無い。

「そうだったんですか~! これは凄いですよぉ! 凄かったのでたくさん作りましたぁ!

でも、全然売れません~……」

マリーさんは嬉しそうに話を始め、最後に落胆した。

なぜか普及しないんだよなあ。マジで良い物なんだけど、説明しにくいのが災いしているらしい。

いっそ便器に内蔵してしまえば売りやすいのだろうが、そうなると今度は便器ごと魔道具にする必要が出てくる。これはこれで売りにくいよなあ。

試しに1つ作って、勝手に王城に設置しようかな。一度試せば良さが分かるんだよ。

みんなは調子良く品定めをしている。俺も商品の詰め込みを手伝い、作業を進めた。

積み上がった荷物が消えて床が見えた頃には、マジックバッグが3つ分いっぱいになっていた。マリーさんの特製マジックバッグで、畳2畳分ほどの容量がある。結構な量だ。これを売り切るのは、なかなか大変そうだな。