軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国民性

オマリィ邸の応接室の中。冷えたお茶が下げられ、新しいお茶が差し出された。アーヴィンとともに口を付け、一息入れる。

応接室には防音の魔道具が使われているので、会話の内容が外に漏れる心配はほぼ無い。

ほ(・) ぼ(・) と言うのは、音声を記録する装置や、音声を遠距離で飛ばす装置も、一般には出回っていないからだ。音声関係の魔道具は俺たちしか持っていないと思うのだが、カメラの件もある。もしかしたら未解明のエルフの魔道具の中に、そういった魔道具があるかも知れない。

「話を始める前に聞きたいんだが、ここでの会話が漏れる心配は無いのか?」

正直、俺は漏れても構わない。ヤバイ話を聞きすぎて、感覚が麻痺している。それに、自由な身だから、どこにでも逃げられる。しかし、こいつはそういうわけにもいかないだろう。仮にも貴族だ。自由は無いし、子どもながらに立場もある。

「うん。大丈夫だと思うよ」

アーヴィンは笑顔で答えた。オマリィの家でも、音声関係の魔道具は持っていないようだ。

「じゃあ話を始めようか。一から全部話してくれ」

「うん。話すよ。ただね、覚悟してほしい。過去に僕を召喚した術者さんなんだけどね、知りすぎてこの国から姿を消したみたいなんだ。今は生きているかすらも分からない」

どこかで聞いたような話だな……。パンドラ? パンドラがこいつを召喚した術者だったとすると、結構歳行っているんだな。若く見えるけど。

「ああ、問題無い。回りくどいのはいいから。早く話してくれ」

「じゃあ、僕が召喚された経緯から……」

アーヴィンの生前の名は、『 佐藤薫(サトウカオル) 』というらしい。召喚された歳は、俺と同じ高校三年生だったようだ。12年前に召喚され、10年前に神送り失敗。現在は10歳の少年だ。

ただ気になるのが、佐藤薫の生年月日。俺と同じ年の生まれだった。やっぱり時間の流れは同じじゃない。この世界の方が圧倒的に早い。転移で帰る時は要注意だな。

他の使徒との一番の違いは、同時に召喚された人数だ。普通は3人から5人が召喚される。アレンシアの時で2人だった。こいつの場合は、1人で召喚されたという。

成長チートが1人に集中したんだ。『最強の使徒』になったのも頷ける。でも、どれくらい最強だったかは聞けなかった。たぶん、当時調子に乗りすぎて、今話すのが恥ずかしいのだろう。

「へえ。それじゃあ、木彫りの熊とか将棋の駒を作ったのも、お前か?」

「ちょっ! それは違うよ! 僕が作ったのは、銃だけだよ。どうしてあんな物を作ったのか……。同じ日本人として恥ずかしいよ」

アーヴィンが顔を赤くして否定した。

それは言い過ぎじゃないかなあ。出来損ないの銃と、木彫りの熊。どっちもそこそこ恥ずかしいと思うぞ。

「まあいいや。続きを聞かせてくれ」

「これが一番重要な所なんだけど……」

アーヴィンは、そう前置きして真剣な顔で話を始めた。いちいち前置きが多くてクドい。話し方がクドいのは国民性なのかな。パンドラも、おっさんオマリィも、話し方がクドかったんだよなあ。

「使徒召喚の最後の仕上げ、神送りの儀式。僕が神送りを受けたのは、この世界に来てから2年後のことだった。多少は名残惜しかったけど、僕にとっては引っ越しくらいにしか思っていなかった。

でも、実際の神送りはそうじゃなかった。神送りの儀式ってさ、何の目的でやると思う?」

アーヴィンが人差し指を突き出して言う。

こういうミニクイズ、嫌いなんだよな。話のテンポが悪くなるだけだ。こういう話し方をされるとさ。

「いいから話せよ」

ちょっとイラッとして、言葉が荒くなっちゃうんだよ。

「……神送りって、使徒の力を 神(ミルズ) が吸収する儀式なんだよね」

「はあ?」

「見た目はキレイで神々しいけどさ。体をバラバラに分解されて、それを 神(ミルズ) が吸収していくんだ。僕は運良く抵抗できたけど、体は失ったよ」

ああ、なるほど……。カベルが絶対に拒否しろと言っていたのは、こういうことか。使徒は神のエネルギー源なんだ。

「じゃあ、お前はその体に憑依しているということだな?」

「憑依じゃないと思うよ。融合? ううん、なんというか、転生したっていう言い方が、一番しっくりくるかなぁ」

依代に憑依したわけじゃないようだ。基準がよく分からないな……。精神体にはなっていない。佐藤薫の記憶はあるけど、存在自体はアーヴィンということなのか。

しかし……神送りの儀式、この情報は漏らせないわな。たぶん教会すら知らないことだと思うぞ。いや、ミルジアの教会なら、それを分かっていても実行するか……。どの道、教会と神は害悪だ。

「それで、これまでの話とエルフの魔法に、何の関係があるんだ?」

「……僕は、神と戦おうと思っている。そのための……神と戦える唯一の手段が、エルフの魔法なんだ」

アーヴィンは目に力を宿して、力強く言う。

ミルジアに住んでいながら、神と戦うかあ……。国中を敵に回すつもりなのかな。ま、俺も人のことを言えないか。頑張れとしか言えないわ。

「お前は俺に、何を求めている?」

「エルフの魔法を教えてほしいんだ。見返りは、できる範囲で何でもする!」

子どものできる範囲なんて、たかが知れているだろうに……。教えるくらいは構わないと思うが、一朝一夕で身に付くような物でも無いんだよなあ。

「ルナはどう思う? 俺の魔法は覚えられるような物なのか?」

ルナとリリィさんは何日も訓練したが、未だに使えない。どれだけ頑張っても、詠唱魔法が先に発動してしまう。見た目には無詠唱で魔法を使っているのだが、魔法の中身は詠唱魔法と同じ。

炎を例に挙げると、俺は『炎』という現象を発生させて、温度や大きさを自在に変化させている。詠唱魔法はこの変化ができない。魔力に応じて、決まった大きさの炎が出るだけだ。

「ちょっと……いえ、かなり難しいと思います。まずは身体強化で様子を見て、それから判断するべきだと思いますよ」

「ねぇ。その前に、ミルジアの貴族に教えていいの?」

クレアから指摘された。俺の魔法はおおっぴらに使える物ではない。教えるのは、信用できる人間が相手の時だけだ。

「こいつなら問題無いと思う。もし悪用するようなことがあれば、俺が責任を持って始末するよ」

俺の『始末』という言葉に、みんなの顔がスゥっと青くなった。そんなに怖いことをするつもりは無いのに……。

でも、アーヴィンのことは信用してもいいと思う。流暢な日本語が喋れるというだけではなく、銃の構造に詳しすぎる。こいつが元日本人であることは確定だ。そのうえで神を殴りたいというのだ。協力してやってもいいだろう。

「悪用はしないっ! 普段は絶対に使わないよ!」

アーヴィンは、机を『ドンッ!』と叩いて身を乗り出した。

まあ、ちょっと身体強化を教えるだけだ。と言うか、身体強化強制ギプスを貸すだけだ。大した手間にはならない。

「ひとまずお前を信用する。これを貸すから、絶対に安全な時に、できれば1人で使え……いや、中身は大人だったか。絶対に1人で使え。死にたくなければな……」

身体強化強制ギプスを取り出し、アーヴィンに渡す。

子どもだったら、誰かが付いていた方が安全だ。しかし、こいつの中身は立派な大人だ。累計したらアラサーだからな。そんな奴が誰かの前でコレを使ったら……。社会的に死ぬことになる。

「そんなに危険なの……?」

「どれだけ危険かは、使ってみればわかる」

そう言って、使い方と瞑想を軽くレクチャーした。1週間もあれば、形だけは使えるようになるだろう。それまでこの街に滞在するのは面倒だな……。使えるようになったら、アレンシアに持ってきてもらおうかな。

説明を終えると、リリィさんがソワソワしながら立ち上がった。

「話は終わりか? 終わったよな?」

「どうした? ウンコでも我慢しているのか?」

「コーさん……?」

ルナからジト目が飛んできた。

「はっはっはっ。そんな物は今朝しっかりと出してきたよ」

「リリィさんも! 答えなくていいですっ!」

余談だが、野営中のトイレは穴を掘って済ませる。周囲から丸見えになってしまうのは拙いので、専用のカーテンを作った。防音の魔道具も仕込んである。今朝は兵士の監視のせいでやりにくかったが……。

リーズが買った結界の魔道具、あれはトイレに最適だな。今度からあれを使おう。

「魔道具だよ。『かめら』と呼んでいるらしいよね。是非見せてほしいんだ!」

リリィさんが興奮気味に、アーヴィンを覗き込んだ。

「あ……良いですよ。ちょっと待っていてください」

アーヴィンは、そう言って部屋から出ていった。すると、クレアが心配そうに口を開いた。

「ねぇ。良かったの?」

「何がだ?」

「 ア(・) レ(・) よ。あんなに簡単に渡してもいいの?」

確かに、俺の手元から離すのはリスクが高い。そこはアーヴィンを信用するしか無いのだが……。

「良くないかも知れない。でも、信用してもいいかなと思ったんだよ。同じ敵を追っているようなものだからな」

敵の敵が味方にならないことは理解している。しかし、少なくともあいつは敵ではない。これくらいの協力をしてもバチは当たらないだろう。バチを当てる相手と戦っているんだけどね。

「そっか……。まぁ、そうね。信用してみましょう」

冷えかけたお茶を飲みながら少し待つと、アーヴィンが荷物を抱えて戻ってきた。

「これがそうだよ」

アーヴィンが持ってきた魔道具は、B5サイズの金属板。リーズの予想が的中したようだ。

画像データを一時的に保存し、本体に木の板を押し付けて印刷する。インクで描くのではなく、高温で焼いている。そのため、紙に印刷することはできない。

「なるほどね。詳しく見てもいいか?」

「どうぞ」

アーヴィンに許可を貰うと、リリィさんが目を皿にしてカメラを観察し始めた。その横からリーズも顔を出し、舐めるように見ている。この調子なら、近いうちに解析が終了するだろう。

「なあ、他にはどんな魔道具があるんだ?」

「他は、あまり珍しい物は無いよ。アレンシアで買った物ばかりだから」

完全に密輸なんだけど、いいのかなあ。双方の国で違反している気がするけど……。まあ、俺には関係無いか。アレンシアの魔道具は、そのほとんどが便利グッズだ。軍事転用されて危険な物は少ない。

ちなみに、教会関係者以外の人なら、多少の魔道具を持っていることは珍しくないそうだ。冒険者は高確率でマジックバッグを所持している。おかしいと思ったんだよ。魔物は大きいのに、それを運ぶ手段が無いから。

でも、教会に魔道具が知られることは避けるそうだ。教会は、気に入らない人間を糾弾するために、魔道具を言い訳にするらしい。この国の教会は根性が腐っているな。

リリィさんとリーズがカメラに齧り付いている間に、おっさんオマリィが入室してきた。ここで今後の予定について話し合う。

俺としてはすぐに出発しても良かったのだが、アーヴィンとおっさんオマリィの強い勧めで、この館にしばらく滞在することが決まった。2部屋しかないゲストルームを借りる。

表向きの滞在の名目は、魔法の家庭教師だ。でも特に教えることは無い。実際は、カメラの解析のため。量産の可能性を示したら、おっさんオマリィが食いついた。

「解析が終わるまではァ出発するなァ。許可証ォ? そんな物はどうにでもなるゥ」

多少時間が掛かっても問題無いらしい。タダ飯とタダ宿をゲット。でも使用人たちは良い顔をしていないので、早いうちに出ようと思う。