軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界転生

オマリィというおっさんとの話を終え、このまま応接室で待つように言われた。オマリィは退室済みだ。

貴族のおっさんが堂々と魔道具を使っているので、俺たちもマジックバッグを出して荷物を仕舞った。

この街でも骨董市は開かれているのだが、さっき歩いた感じでは人通りは少なかった。なんでも、アレンシアに近いグントゥールに客と出品者を持っていかれ、この街の骨董市の規模は縮小したらしい。隣街だからなあ。

「これ……凄い絵ですよ?」

ルナが机に上に放置された木の板を手にとって呟いた。絵というより、プリントアウトした写真だ。事実、そういう魔道具なんだと思う。

「ねー、これってさぁ……」

リーズが何かに気付いたように、マジックバッグを漁る。取り出したのは、解析中の金属板だ。その金属板と木の板を重ねると、サイズがほぼ一致した。

「似たような大きさですね。それが何か?」

「ああ、リーズが言いたいことはなんとなく分かった。これがカメラだと言いたいんだな?」

「そう! 実物を見ないとわかんないけど、同じだと思うよっ!」

俺がイメージするカメラと違うんだよなあ。カメラと言えば、レンズとファインダーが付いていて、箱型の物をイメージする。これだとタブレットだ。

「どうしてそう思う?」

「うーん……なんとなく?」

説明を求めた俺が悪かった。でもリーズの勘は結構当たるからなあ。参考にしておこう。まあ、それは後で考えるとして、今は……。

「しかし、こんな物が欲しいとはね……」

マジックバッグからリボルバーを取り出して呟く。

「武器……でしたよね? どういう武器なんですか?」

「俺の魔法に、アンチマテリアルライフルってあるだろ? あれと同類の武器だよ」

「今すぐ破壊するわよ! さあ、早く!」

クレアがリボルバーを引っ手繰りながら言う。

「いや、威力が違うぞ。これはそんなに強くない」

クレアからリボルバーを奪い返して懐に仕舞う。

俺も詳しいわけではないが、ハンドガンの限界は自動車のエンジンを貫通する程度だったはずだ。普通のハンドガンと、装甲車を貫通して破壊するライフルを比べたらいけない。

話をしていると、出入り口が開けられた。そこから、10歳くらいの少年が入ってくる。中性的な顔立ちの、金髪の美少年だ。

少年は、上品にお辞儀をした。

「失礼します。オマリィ子爵家六男の、アーヴィン・オマリィです。はじめまして」

喋り方が普通だ。良かった。

オマリィって、家名だったのか。てっきりあのおっさんの名前だと思っていた。

「ご丁寧にどうも。アレンシアから来た、冒険者のコーだ。よろしく」

俺達も一応立ち上がって礼をする。

「あ、お気遣いなく」

アーヴィンは、爽やかな笑顔で答えるてソファに座った。子どもにしては大人びた印象だ。やっぱり転生者かな……。

「それで、何の用なんだ?」

確認のため、日本語で聞く。

「え……? あなたは……使徒?」

アーヴィンは、戸惑いながら日本語で返した。

「ああ、やっぱりな。あんた、中身は日本人だな?」

「ははは。元日本人というのであれば、確かにそうかな。君こそ、使徒だったんだね」

今思えば、確認するなら英語の方が確実だったな。日本人が転生しているとは限らないじゃないか。勝手なイメージで日本語を使ったが、通じてよかった。

ちなみに黒髪の東洋人風の人間は、少数だが存在する。使徒かどうかは、直接聞かないと分からない。

「いや、俺は使徒じゃないぞ」

もうこのやり取りは飽きた。説明書を作って渡したいくらいだよ。

巻き込まれたこと、使徒ではない理由、現在の境遇。ざっと俺の状況を説明した。

「へぇ……。そんなことってあるんだね。僕も特殊だと思ったけど、君もなかなか特殊だね」

「俺の事はもういいだろう。お前のことも教えてくれ。転生なんだろ?」

「厳密には……違うね。僕は使徒としてこの国に召喚された。神送りに失敗して、死産するはずだったこの体に乗り移ったんだ。誰にも言っちゃダメだよ。僕のお父様にも、君のお仲間にもね」

アーヴィンは日本語で言う。防音の魔道具で外に漏れることは無いが、ここに居る俺とアーヴィン以外には理解できない。とアーヴィンは考えているだろうが、残念。俺たちは全員、翻訳の指輪を装備しているんだよ。エルミンスールで付けたまま、外していない。

「神送りに失敗? そんなこともあるのか……」

「だから特殊な例なんだよ。僕が強くなりすぎたんだ。『最強の使徒』なんて呼ばれていたからね」

最強の使徒ねえ……。オマリィ……は家名だったな。おっさんオマリィの憧れの使徒じゃなかったっけ。そして、リボルバーを作った犯人がそいつだ。

テーブルの上に、出来損ないのリボルバーを置く。

「お前の父親から、これを買い取りたいって打診があったんだ。これをどうするつもりだ?」

「ぅげ……君が持ってたんだ……」

アーヴィンは、あからさまに嫌そうな顔をして言葉を漏らした。

「なんだ、知らなかったのか?」

「先に買われたから買い戻すとしか聞いていないよ。よりによって、同郷の人に買われたかぁ……。恥ずかしい」

照れくさそうに笑う姿には、年相応の幼さが見える。

「ははは。まあ、ゴミだもんな」

「そんなストレートに言わないでくれる? それでも一応、当時の技術の最高峰なんだよ?」

アーヴィンは日本語からこの世界の言葉に切り替えた。俺もそれに倣って言語を切り替える。

「最高峰ねえ……。それで、これをどうするつもりなんだ?」

「中は見たかい?」

アーヴィンは、リボルバーを指先でつつきながら言う。

「中?」

「ああ。その様子だと、バラしたりはしていないみたいだね。リボルバー式の銃の仕組みってさ、結構単純なんだよ。

とりあえずバレルの中を覗いてみてほしい」

そう言われて銃身の中を覗き込む。何の変哲もない、普通の鉄パイプだ。特に問題は見当たらない。それだけ確認して、リボルバーを机の上に戻した。

「これがどうかしたか?」

「ライフリングがね、無いんだ。テレビドラマなんかで 線条痕(ライフルマーク) なんて言葉を聞いたことがあると思うんだけど、弾丸にその痕を付ける溝のことだよ。弾丸に回転を付けて、直進しやすくするために付いている」

アーヴィンが突然饒舌になった。もしかして……ガンマニア?

俺たちは唖然としているのだが、アーヴィンはお構いなしに話を続けた。

「それにね。火薬。これもね、この世界の技術では黒色火薬が限界だ。高性能な無煙火薬なんて、何年掛かっても開発できないと思う。そして一番重要なのが……」

そう言って懐からダガーを取り出し、銃身を軽く叩いた。小さく『コンコン』と鈍い音が鳴る。

「材料が良くない。炭素鋼ですらないんだ。チタン合金やアルミ合金なんて夢のまた夢だね。この銃を使ったら、5回のうち1回は暴発すると思うよ。

だいたいさ、この世界の合金の技術って、真鍮でさえも怪しいんだよ? 薬莢が作れないよ」

ヤバイ、話が止まらない。合金がどうとか言われても、理科の授業で習う以上のことは知らない。真鍮は銅と亜鉛の合金だっけ? それが銃とどう関係しているか、なんて知らないぞ。とりあえず話の流れを止めよう。

「え……と、悪いんだけど、簡潔に言ってくれるか? 何を言っているのかサッパリ分からない」

「あ……ごめん。簡単に言うと、技術の限界。どれだけ頑張っても、リボルバー式の銃は作れない。オートマチックなんてもっての外。せいぜい、原始的なマスケット銃が限度だね」

うーん、マスケット銃が分からないぞ。火縄銃みたいな物と思っておけばいいのかな? 原始的と言われると、それしか思い付かない。

シリンダーの軸を直せば動くかも、なんて思っていたが、物凄く甘い考えだったということは伝わった。

「要するに、銃は作れないということでいいのか?」

「そうだね。真っ直ぐな筒を作るだけでも高度な技術なんだ。更に内側に加工してくれ、なんて言ったら、職人さんに殺されちゃうよ」

アーヴィンは、ハハハと乾いた笑い声を上げる。

これは元最強の使徒本人で間違いないな。何の疑いもなく本物だ。そうでなければ、こんなに詳しいわけない。

まだ話し足りないという様子だが、この話は終わりだ。こいつに銃の話を振るのは止めておこう。すっごい面倒臭いことになる。

「よくわかったよ。でもそれなら、これの研究をするなんて時間の無駄じゃないか」

「お父様の夢だからね。無駄だと分かっていても、協力してあげたい」

キッパリと引導を渡すのも優しさだと思うのだが……。まあ、そういう理由なら渡してもいいかな。どうせ無駄だから、なんて無粋なことは言わない。成功を祈るよ。技術に罪は無い。

「お前から渡しておいてくれ。金は……まあいいや。どうせガラクタだ」

リボルバーは金貨1枚だった。これに高値を付けたら、アホな冒険者と同じになってしまう。それは自分の中でちょっと許せないからなあ。だったらタダでくれてやるよ。

「いいの?」

「ああ。これが戦争のためだって言うなら、目の前で破壊するつもりだったぞ」

自分の軽口に、自然と俺の口元が緩む。

「どんなキレイ事を言っても、戦争の道具だからね。管理は徹底するし、資料は秘匿するよ」

アーヴィンは真剣に答えた。俺が思っている以上に真面目な奴なのかも知れないな。

「話は以上で良かったか?」

「あ……いや、本題を何も喋っていないじゃないか。エルフの魔法だよ。誰が使えるんだい?」

そういえば、銃の話をしに来たわけじゃなかったな。脱線しまくっていたわ。

「俺だよ」

なぜかリーズも少し使える。身体強化は全員。でも、ちゃんと使えているのは俺だけだ。

「え……どうして?」

アーヴィンはそう言って固まった。

「どうしてって言われてもなあ。俺は逆に詠唱魔法が使えないんだよ」

「指輪は? 神託の指輪をしていたら、勝手に詠唱が流れてくるはずだよ?」

神託……? あ、翻訳の指輪の正式名か。確かそんな名前だった気がする。善と一条さんは一度の手本で即座に魔法が使えていたが、それが指輪の効果だったのか。レプリカの翻訳の指輪には、翻訳以外の効果は無い。

「残念。俺は み(・) そ(・) っ(・) か(・) す(・) だから、指輪を貰えなかったんだ」

「え……みそっかす? でも、言葉……この世界の言葉を喋っているよね?」

あれ? みそっかすが通じなかった。方言だったのかな……。

「気合で覚えたんだよ。仲間にも手伝ってもらった」

ルナが居なかったら、正直キツかったと思う。リリィさんから借りた、追加の指輪も効果的だった。短期間で言語を習得できたのは、運と仲間に恵まれたからだな。

「さすがだね……。僕には真似できそうにないよ。

詠唱の代わりに、エルフの魔法を覚えたのか……」

「覚えたと言うより、教本に書いてあったことを勝手にアレンジしただけだ。それで、エルフの魔法がどうかしたのか?」

「うーん……どこから話せばいのかな……。君は、国と戦うつもりはある?」

ねえよ。とんでもない質問に、呆れてしまった。何の意図があって国と喧嘩するというのか。

「どんなスケールの話をしているんだよ。たかが魔法で国を敵に回してたまるか」

「ははは……。そうだよね。じゃあ、話せることだけ話そうか」

知ったら命が狙われるってか。聞き飽きたぞ、それ。もうどうでもいいや。

パンドラの話を聞いてミルジアの教会、カベルの話でアレンシアの教会。今俺に目を付けているのは、帝国の神。もう既に、この世界の三大教会の危ない話を聞いたんだ。敵対する国が増えたところで、どうということは無い。

「悪い。洗い 浚(ざら) い喋ってくれ。

よく考えたら、いろんな所でヤバイ話を聞きまくっていた。今更1つ増えても変わらないわ」

元使徒というのなら、詳しい話が期待できる。知っていることはすべて話してもらおう。