軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査能力

構えた武器を下ろすと、ルナとリーズが大慌てで駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!」

「ああ、何とかな。やっぱりヤバイ奴だったよ」

使える魔法が俺とカブっている。それだけに、とてもやりにくかった。改めて俺の魔法は反則だと思ったよ。どれも使われたくない。

特に身体強化は最悪だ。殴っても効かない、蹴っても効かない、斬っても斬れない。エクソーサイズが効いたのは良かったが、たぶん依代だから効いただけだ。対策を練っておいた方が良いだろうなあ。

「結局、何だったのでしょうか……」

「わからない。カベルに聞けば、何かわかるかもしれないな」

「ねー、ちょっと気になったんだけど、いいかなぁ?」

リーズがそわそわとしながら言う。

事は終わったのだが、まだ警戒を続けているようだ。

「うん? どうした?」

「どうして消えたのかな?

ゴーストなら、大聖堂の変な人みたいになるはずだよー。もし見えなくても、気配はわかると思う」

頑(かたく) なにディエゴの名を呼ばないな。

確かに変だ。まるで転移でもしたように、気配だけが消えてしまった。気配察知でも感じなかった。リーズは俺よりも感覚が鋭いから、余計に気になったのだろう。

気配を消して潜んでいる可能性は無くはない。今日一晩くらいは警戒を続けた方がいいだろうな。でも、サルマンも急いでいるはずだ。早く依代を探す必要がある。ここに長く留まるようなことは考えられない。

「どういうことかわからないが、消えたのは間違いないと思う。でも、一応警戒を続けてくれ」

カベルは自分のことを『ゴーストじゃない』と言っていた。感覚的に似たようなものだと錯覚していたが、本当に全くの別物らしい。詳しいことは、本人に聞くしか無いな。

ミイラの後片付けを始めようとしたところで、周囲の警戒を任せていたクレアとリリィさんも部屋から出てきた。

「ちょっと! 今の何だったの?」

「かなり……いや、物凄く危険な気配だったじゃないか」

2人は部屋から出てくるなり、興奮した様子で詰め寄ってきた。

「さっき言っていた、ヤバい奴だよ。たぶんまた会うことになるだろう」

「え……」

クレアが絶句している。それほどの威圧感だったのだろう。とすると、この宿周辺が、とんでもない騒ぎになっているのではないだろうか。

「この威圧感って、どれくらいの距離まで届くんだ?」

「そうね……今のだったら、隣三軒くらいは届いてるでしょうね。ま、普通なら気付かないけど」

クレアは顎に手を当てて少し考えながら言う。

「どういうことだ?」

「威圧を感じるのも、技術の一つなのよ。普通の人は気付かないわ。勘のいい人なら、ちょっとソワソワするかもね」

そういえば、ルナも以前そんなことを言っていたな。これも上級者の技術らしい。

やはり訓練を優先しておいて正解だったな。何も無いまま外に出ていたら、危険に気が付く前に死んでいたかもしれない。

2人と話をしているうちに、ミイラが撤去されていた。店主が片付けたようだ。マイラは眠ったままらしく、ここには居ない。

「後始末を任せてしまったな」

「いいんだ。こちらこそ世話になったよ。

あんな化け物の相手は、ボナンザか君くらいにしか務まらない」

正直あまり戦いたくない相手だった。普通の人間は、殴られれば痛いはずだ。涼しい顔で受け続けるサルマンは、化け物を通り越して狂気だったよ。

逆に、ボナンザさんとは相性が良さそうだな。笑顔で殴るボナンザさんと、にこやかに殴られるサルマン。うん、気持ち悪い。

「アレは元々俺の敵だからな。俺が相手をするのは仕方がないさ」

今回は流れで戦闘になったが、審問官は俺の敵だ。リーズを狙っていたということもある。いずれ戦う相手だったんだ。比較的安全に倒せて良かったと思う。俺がいつもやっていることだが、気配を消して奇襲する作戦を取られたら、かなり危険だ。

サルマンは気配察知と身体強化、そして威嚇の魔法が使えるようだった。俺と同じ魔法だ。それならば、気配を消すことも可能だったはずなのだ。そうしなかったのは、サルマン自身の自惚れだと思う。

できれば消された気配も拾えるマップを作りたい。リーズの気配が察知できれば満点だろう。

「今度何か礼をする。欲しいものはあるか?」

無いな。大抵の欲しいものは自分で買える。わざわざ店主に貰わなければならない物……思い付かない。

強いて言うなら情報かな。宿屋の店主なら、いろんな情報を持っているはずだ。必要になったら頼ろう。

「今は無いぞ。今度何か質問するかもしれないから、その時に頼む」

「……なるほどな。良いだろう。任せておけ」

店主は深く頷いてニヤリと笑った。その姿から、潜入調査をしてでも調べようという気概を感じる。

この人はこういう安請け合いをするから、大変な目に遭うんだよ。もっと軽い気持ちで居てくれてもいいのに。知っていることを教えてくれるだけで十分だ。

「あの……それなら1つ質問させてください」

ルナは遠慮深そうに背中を丸め、おずおずと手を挙げた。

「どうした?」

「サルマンさんが最後に呟いた言葉が、どうしても気になりました。

教会を調査していた店主さんなら、何かご存知かと思いまして」

「ん? 体を入れ替えてまた来るって言っていたが、それがどうかしたか?」

「そこではありません。彼は『ミルズ』と言いました。『ルミア』ではなく、『ミルズ』です」

ミルズというのは、ミルジアが崇める神だ。あの場でなぜミルジアの神の名を言ったのだろう。アレンシア教会ならルミアのはずだ。

「同じ名前の他の誰かじゃないのか?」

「いえ。どこの国でも、神と同じ名前を付けることは禁忌とされています」

ということは、サルマンは最後にミルジアの神の名を呟いたんだな。怪しさがメーターを振り切ったぞ。アレンシアの神官で、ハインズ教会と関わりを持ち、ゴースト的な何かで、ミルジアの神とも何かがあって……。ダメだ、不審な要素が渋滞を起こした。

「店主はなにか知っているか?」

「いや、俺の調べでは何も……」

店主は申し訳無さそうに首を横に振った。

「サルマンのことは見たよな?

教会の中ではどうだった?」

「普通の、勤勉な神官だったはずだ。目立った行動は取っていなかった。

傷だらけの仮面を被っていたのは奴で間違いないだろうが……おそらく正式な審問官ではないな」

「そうなのか?」

「ああ。本部の審問官は全員を確認した。その中に、奴の顔は無いよ」

審問官の正体は公表されていない。教会内部でも、誰が審問官を務めているかは一部の重役しか知らない。店主は、教会に潜入して調べ上げたそうだ。無駄に調査能力が高いな。

「となれば……ミルジアの教会かな。でも、繋がっていたのはハインズ教会なんだよなあ」

「フッ……。任せろ」

店主が不敵な笑みを浮かべた。ヤバイ。潜入する気だ、この人。

「止めとけ。そこまでは望まないぞ」

「そうか……、残念だ。何かわかったら知らせよう」

落胆した様子で洩らす。もしかして、潜入したかったの?

うーん、この人は宿屋の店主に向いていないわ。冒険者を続けた方が良かったと思うよ。

店主と話をしているうちに、尋問中の小部屋で何か動きがあったようだ。部屋の中で気配が動く。

小部屋の中から、ボッコボコに殴られた男を引き摺って、1人の若い女性が出てきた。男の頭をガッチリと掴み、ボウリングでも始めるのかのようだ。

「 尋問(ごうもん) が終わったのか?」

「 尋問(じんもん) だよ。間違えないでくれるかな」

女性冒険者は、爽やかな笑みを浮かべて言う。

年齢は25歳くらいかな。 額(ひたい) に汗を光らせながら左手で長い髪をかき上げる姿は、大人っぽくてとても魅力的だ。が、右手で鷲掴みにされた襲撃犯が気になる。

「え……それはどう見ても拷問……」

「尋、問、だっ! ほら、まだ死んでないだろ?」

襲撃者の頭を目線の高さにまで持ち上げる。襲撃犯が白目を剥いて、ブツブツと何かを言っている。問題無い。ただの虫の息だ。

死ななければ拷問じゃないのか……。この世界の価値観がわからない。

「まあいいや。何かわかったのか?」

「その前に、君は?」

若い女性は怪訝な顔をした。

そういえば初対面だな。俺が帰ってきた頃には、既に尋問が開始されていた。俺のことを説明するのは面倒だな。サルマンとの関係とか、襲撃についてとか。

「まあ、ここの常連だよ。彼女たちのリーダーだ」

「なるほど、大活躍だね。君たちが戦っていたのは、今の威圧感の主だよね? たった3人で、よく勝てたね」

実質1人なんだけどな。3対1で戦ったら、暴れすぎて宿屋が崩壊するよ。本当は外で迎え撃つ予定だったんだ。庭なら数人で多少暴れても平気だ。サルマンが敵意無しで接近してきたから、こんな場所で戦うことになった。

「結構キツかったけどな。嫌な敵だった。

それで、そいつは何か喋ったのか?」

「うーん……。さっきのが親玉だってことはわかったんだけどね。あまり深くは知らないみたいだ。

ただね、獣人を狙っているのは間違いないね。それも、純血に近い獣人だけ。帝国で繁殖させるって言ってた。あぁ、自分で言っても胸糞悪いっ!」

そう言いながら襲撃者を踵でガシガシと蹴る。さすがにやりすぎじゃないかな……。

と思ったら、リーズも一緒に殴っている。ボコボコに腫れた顔面に向かって、真顔で何度も。でも、一応手加減しているらしい。手加減無しなら首がもげるはずだからな。

「なぜそんなことを?」

「そこまでは知らされていないみたいだね。こいつらは資金調達くらいにしか思っていないよ」

襲撃者の体が大きく揺れた。蹴る力が少し強くなったようだ。容赦ないな。

「そうか。参考になったよ。ありがとう」

すべてが終わった頃、他の客がホールに出てきた。あまりの威圧感に、怯えきって出てこられなかったようだ。気持ちは分かる。裸足で逃げ出したくなるはずだ。俺だったら逃げるかな。無関係だし。

まあ、今出てきた連中は全員が上級者なのだろう。威圧感に気が付いた人たちだ。逃げ出さないのはプライドなんだろうな。

後の始末は他の客に任せよう。壊れたテーブルとか、椅子とか、壁とか。修理が得意な冒険者が居ればいいんだけど。

店主と冒険者たちに一声掛けて、全員で部屋に戻った。

結局面倒事に巻き込まれたなあ。きっとカベルの件にも絡んでいる。一度話を聞こう。ついでにミルジア観光だな。アレンシアに居ると教会に絡まれそうだ。

「しばらく国外に行こうと思うんだけど、どうかな?」

「また行くのー? 次はどこ?」

リーズが尻尾を振りながら言う。旅は割と好きなようだ。リーズは狙われやすいみたいだから、行き先には注意が必要だ。しかし、ミルジアや他の国の教会の動向も調べたい。

「教会が面倒だからな。昇級試験でミルジアの近くに行くだろ? そのついでだよ」

「試験の後ならちょうど良いね。骨董市が始まる時期だよ」

「ねぇ、それならガザルにも行きたいわ」

ということで、昇級試験が終わったらミルジアに行く。その後は、クレアのリクエストでガザル連合王国にも行く。

越境許可証が必要なのはミルジアだけ。その隣のガザル連合王国は、アレンシアの身分証で通れる。簡単な手続きだけで1年間滞在できるそうだ。そんなに長居するつもりは無いが、楽でいい。