作品タイトル不明
182 スタン8 友好の握手
通せんぼする森林警備隊の人の手にするりと指を絡める。
こちらから攻撃するのは初めてかも。
「うへぁ、なっなんだ?少年!俺にそんな趣味は」
「嫌だな、握手ですよ」
恋人繋ぎじゃないよ!?
「握手?」
「勇者マッスルは言いました『たとえ敵でも笑顔で握手すれば分かってくれる。もし分からない奴がいたらそいつはスライムだ』と」
絵本の筋肉勇者は、ラストのキングスライム以外は全て握手で解決していく。
「あのなあ、少年。世の中はそんなに甘くないぞ。家に帰ってママのミルクでもぉぉぉ、痛ッ。くそっ!なんだ?お前意外と力が強いな??」
にっこり笑い、勇者のようにギリギリと握力を加えていく。
「もう一度言います。ここを通してください」
直前に掛け直して貰ったルカの上級バフでインチキする僕。
「うぐぐぐぅ。痛ええええ。ちくしょう。笑いやがって!だが俺はエリート!こんなもやし野郎にっ絶対!負けないッ」
うーん、笑わない方が良かったか。
それにしても、我慢強い。
魔法VS一般人。
だんだん顔色が怒りの赤から紫に変わってきたけど大丈夫かな。
「うっ」
ボキンッ!
「うひぇー。ごっごめんなさい」
「·····」
ゴツゴツした手の感触がサンドスライムに変わって慌てて手を離したけど少し遅かった。
心臓がバクバクする。
あああー、知りたくなかった!·····スライムの本当の意味なんてっ。
うえっ失禁して失神してる。
もう一人は、
「うひえっ! よ、寄るなっ化け物」
目が合うと、まるで化け物を見るかのような目で、手を伸ばすと
「えっと?」
「うわわわわわ」
脱兎のごとく逃げ出した。
「おにーさんつよい」
「やるじゃねえか相棒!」
「素晴らしい!圧倒的な暴力です!」
「う、うん」
褒められてもルカの魔法があれば、さっきのは誰でも出来るのでちょっと複雑だけど。
「閃いたぜ、相棒!」
「なにを?」
「この握手で、フールを分からせようぜ」
ニトラだけがうんうんと頷く。
ルカは悲しそうに横に首を振り、レビジョンさんは出来るの?って顔。出来ないよ。
「あのね、くま吉。こんなの一般人にしか効かないから。魔法で完治するし、相手も同じ魔法を使ったら·····僕は負ける」
あー、可愛そうって目が痛い。
なんなら、ニトラにも負けますけど?
「あー、そのなんだ相棒。一般人なら勝てるんだろ?」
「そうだけど」
くま吉が悪い顔をした。
「なら握手会に行こうぜ。中でファンがお待ちかねでい」
「ははは」
乾いた笑いが出た。
手に残るあの感触は嫌だーーー。
子爵家へ足を踏み入れると以前より暗い。
どうやら僕の明かりはすっかり消えてしまったようだ。
「クレイジーベア」
「がってんでい」
ビガッ!
と鋭い光がくま吉より放たれる。
ルカがアイテムバックから出したネオランタンで探検モード。
大事にしてくれてて嬉しい。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「それより平気なの?ルカ」
「ちょっと暗いからかな?」
部屋が暗いのがレビジョンさんの視線を遮ってくれたみたいだ。
「暗いのもいいね」
この家のマップは完璧なので、僕が先頭でてくてく歩く。
「相棒、人を殺した事は?」
「無いよ」
「無理すんねい。トドメは俺っちに任せろい」
「ありがとう、頼るかも」
この世界では悪人は殺してもいい。
むしろ殺せって言われるけど、僕はちょっと躊躇してしまう。
理由は分からない。
「サーチ」
「ルカ、何か分かった?」
「なんだか、わざと離れて守ってるみたい。次の曲がり角にたぶんオーク1」
「話の通じる人達で良かった。オークはネオランタンで先制攻撃しよう」
「がってんでい」
レビジョンさんのショッキング映像で、分からせ握手をしたくない僕と、分からせ握手をされたくない元森林警備隊の思惑が合致したのかも。
モンスターはそうもいかないみたいだけど。
ぬっと出てきたオークにくま吉のネオランタンが目潰し。
「ぐぎゃっ!?」
「ナイス!くま吉。ていっ」
電撃棒でビシッと叩けばたちまち魔石に。
「あっ!次はニトラがやってみる?」
「むり」
「そっか、フールは僕がやっつけるから」
ニトラはまだ怯えてるみたいでぎゅっと引っ付いてきた。
「それにしても自分の後ろ姿を見るのって変な感じだね」
「慣れない」
「主、俺っちは楽しいぜ」
「クレイジーベア、貴方はいい子ね」
「よせやい」
むぎゅうとくま吉を抱きしめてるルカを見てほっこり。
暗い廊下の明かりが、ネオランタンと時おり壁に映る僕達の動画ってのは変な気分だ。
「おっと、着いたよ。それじゃ行こうか」
「いいわ。ついていってあげる」
「俺っちに任せろい」