作品タイトル不明
183 必殺技
子爵さまの椅子には知らない人が座っていた。
彼がフールだろうか。
子爵さまが転がされてるのに森林警備隊の人達は魔物の支配下に入ったみたいでがっかりしていると、裏切りのお爺さんが握手を求めてきた。
「よく来たな。君がエクス君か。噂に名高い魔導師レビジョンの大魔法で君の活躍は見させて貰った。儂は森林警備隊の隊長イゼル。どうやら魔王様に挑みに来たようだが、既に友好協定を結んでおるから安心しなさい」
ぷいっと無視する。
「うぷぷー。ねえ、初級魔法しか使えないのは本当? それでまさか僕ちんに勝てるとでも思ったの?」
もちろん小さな悪魔も無視してビシッと指を突き付ける。
「魔王フール。貴方は少しやりすぎました。何か弁明はありますか?」
?
「·····」
あれ?
嘘だよね。今度は、僕が無視された·····だと。
うううあー。
「うぷぷー」
「なに?」
ちょっと涙目。
「あのねー。そいつは、抜け殻なの!勇気を求めて知能を捧げた愚者なんだ。だから、質問はこの僕ちんにしてねー」
「そうなんだ。·····人間辞めたんだ」
小さな悪魔の顔だけが大きくなり、邪悪を煮詰めたようにニタリと笑った。
「当ったり~だからぁ、強いよぉ~」
「良かった」
僕も思わず笑う。
「は?何があ?」
「なんか、色々と悩んで損した」
くいーと伸び。
「あ? おまえ、魔王の僕ちんを舐めてるの?」
「うん」
対等だよね。
「むっかー。そうだ! 立場が分かってない君に見せてあげるよ、新生魔王誕生の瞬間を!!!」
悪魔が邪悪に笑い口を大きく開き、
バクンッ!
「ひいいいっ」
宿主を喰ったように見えたのか子爵さまの悲鳴が響く。
「げふっ。支配率100%!これからはこの僕ちんが街を管理するんだ。安心して!君たちは命令に従う限り殺さないよー。大事な大事な餌だからね」
顔が黒くなり新生魔王に生まれ変わったみたいで低い声だ。
「初めまして魔王さま」
「うぷぷー」
「そして、さようなら」
「は? 君は初級魔法しか使えないんでしょ??まさか、違うの?」
違わないよ。
「ファイヤーボール」
これは子供にも使える初級魔法で、燃える小さな炎がゆらゆらと顔を照らす。
「アナライズ!むっきー!ふざけんなしっ。やっぱりただの初級魔法じゃんか」
「えいっ」
構わず投げた火の玉はへろへろと飛んでいき、裏拳でパンッと弾かれた。
よしっ!命中。
「·····」
だけど、シーンと静まり返り、勝ちを確信したのか魔王が愉悦に、お爺さんが嘲笑に、子爵さまが怒りに歪む。
「うぷぷー、まさか!それで終わり?僕ちんにはオートリジェネがあるから初級魔法なんて効かないよ」
「あははは、エクス君!ハッタリだけは一流だったようだね。そろそろ諦めて大人になりなさい」
「この欠陥魔導師が、少しだけ期待させおって!」
僕の必殺技は、FIRE!!!
対象に当たらないとミス判定で消滅するショボイ魔法だけど、
「ターンエンド」
拳にぺちょっと引っ付いた炎は、取ろうとしても取れないのだ。
ほらね?イライラしてももう遅い。
臆病心を捧げる前のフールなら負けてたかも。
「ねえ!この炎、ウザイんだけど。消さないと何人か殺しちゃおうかな?分かったらさ、さっさと消せ」
「そうだぞエクス君。今なら魔王様に許して貰えるよう儂も一緒に謝ってやるから」
「エクス。もうよい。さっさと消してお前も領軍のいる地下牢に行くように」
僕が形勢不利と見るや畳み掛けてくる3人にニッコリ笑って、
「お断りします」
「はあ?ムッかつくー!!!この馬鹿が!僕ちんが消せって言ったのが分からないかなぁ??」
睨んでくるけど怖くない。
僕はもう誰も怖れない。
今までは、作られた空気に飲まれるだけだったけど。
「馬鹿はお前だよ」
これからは僕が空気を作っていく。
人の顔色を伺うのはもう辞めにしよう。
あっ、魔王がキレた。
「ふざけんなしっ!この初級魔法使いがッ!!」
次の瞬間。脳が揺れた。
たぶん、殴られた。
部屋からバンされ、浮遊感のあと地面をバンバン跳ねてボロ雑巾みたいになったけど、不思議と気分だけは爽快で言ってやったぞ!みたいな感がある。
「げふっ」
動きにくい指先で姫様から貰ったマジックバッグからポーションを探す。
「うぐああ。うっうっうっ·····美味っ!?」
思わず瓶のラベルを読む。
「特級ポーション!? これが金持ちの味」
全身から立ち上る回復煙が温泉のように心地よい。
ふー極楽。
後は逃げ切れば僕の勝ち。
追いかけてきたのは心配性なルカ。
「エクスッ!」
ふふっと微笑み手をひらひら。
「ルカ、お待たせ。終わったよ」
「何が!ぼろぼろじゃない」
どすっと抱きつかれた。
コケなかったけど、泣いてるのか熱く濡れた感触がする。
「いや、でも傷はポーションで治ったし別に何も」
「心配したんだよ。うぐ、ひぐぅ」
ぐさっと刺さる。
魔王のパンチより何故か心にめり込む。
「ご、ごめん」
「危ない事しないで!逃げたって良いんだから。もう貴方は無理しなくていいの」
どうしたものやら。
僕は平気なのに、これくらい慣れてるのに、ルカは何故か泣いている。
「えっと、次から気をつけるから」
「約束」
困惑して見回すと、くま吉も、くま吉を抱いてるニトラも心配そう。
「う、うん。約束する。だから元気だして、ね?」
「うん」
帰り道、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「でもよ、漢を見せたな相棒」
「ありがとう、くま吉」
なんだか慰めてくれるらしい。
ふわふわしてんな。