作品タイトル不明
155 黒幕はゼノ
「ここを死守しなさい。儂は子爵さまへ増援の直談判をしてきます」
「は、はい」
イゼルが部下に短い指示を出し足早に消えると、残された者は不安そうにお互いを見合わせた。
「ど、どうする?」
「増援が来るまで耐えよう」
魔王の圧倒的な力を前に、誰一人として抵抗する気力は残っていないもよう。
「そうだな。スタンピードはまだ起きていないし」
「魔王が空を飛ぶ。その情報を持ち帰っただけでも成果はあった」
「ああ!とりあえずそれで街の人には説明しよう」
なけなしの成果を作ろうとし、負け犬どもは解散した。
「おい!何があった?魔王は?」
「·····」
当然、凱旋待ちの人々の歓待の視線から逃げるように、散り散りに寄せ集めの討伐軍は無言で宿へ。街の人達の疑問は、無言の敗北者たちから領軍へ。
「答えろ領軍!何があったんだ?」
「我々は、負けました。魔王が空を飛ぶとは想定外でした。ですが、イゼルが援軍を要請中ですので、それまで耐えてください」
街の人々はきょろきょろと。
「マーラ様は??」
「·····魔王に負けました」
領軍は、泣きそうな顔。
「重症なのか?」
「·····」
無言で答える。
その時、大きな繭が虚空から忽然と現れた。
「なんだ?これ?」
「拙いッ!これは転送魔法だ!誰かが何かを送ってきた!皆さま離れてくださいっ」
馬車サイズの繭が割れて徐々に何かが見えてくる。領軍が警戒して取り囲み、中身が現れるのを待つ。
送り主はフール。
勇気を望み、正常な判断力を奪われた魔導師。
そんな愚か者が、街をぐるりと囲う大魔法を使い泥のような感情エネルギーが抜けた事で、久しぶりに正気を取り戻したようだ。
「くそっ、私は何をしていた?」
呆然と記憶を手繰りながらゼノを見ていると、氷漬けになったマーラに触れた。
「うぷぷぷ、そうだ! 死骸を使おう。僕ちん天才かも~!」
「ゼノ! その女から手を離せっ」
フールの中に怒りがこみあがる。まさか死体を穢す気か?
それだけは許せない。
「な、何もしないよ。返そうとしただけだよ」
「・・・・」
信用できない。
「ほら僕ちんは手を離したよ。嫌ならフールがやってよ」
「·····分かった」
しぶしぶ従うフールを見て悪魔は嗤う。
「うぷぷ。さぁ早く送ってあげよ♪死者を降伏勧告の使者になんて洒落てない?」
「黙れ。テレポート」
街の中に転送されたのは、氷漬けのマーラ。
「いやぁぁっぁぁーーーーーーーー!!!!」
ゼノの計画どおり悲鳴が響き、大量の濁った色の感情が流れ込んできた。
「おいちぃぃぃぃ」
「く、苦しい」
人間に良くない感情を食らいフールの目が再びギラギラと狂気を帯びて知力が低下すると、ゼノはフールに向かって切れかかっていた魔法を掛け直した。
「マインドコントロール!!!」
「うがぁ」
フールはゼノの操り人形へと戻る。
「もうっ!言う事聞かないと駄目じゃないか。影の支配者計画は、やめやめ! これからは僕ちんが表に立つから、フールはそこで魔物でも作ってて」
「エクスゥゥゥx」
「あー洗脳の弊害が。もうエクスはいいよ、どうせザコだし。でも、延長なんてザコを追いかけてきて良かった。やっぱり僕ちん天才!」
慌ててゼノは反対側の門へと飛びたった。
「あわわ、人間を逃がさないようにしないと。うぷぷ。今度は長く生かして楽しむんだ~。ダークスケルトン」
うんちのように、ぷりぷりと眷属を空から産み落として囲みを強化。