作品タイトル不明
139 連撃のマーラ3
「久しぶりだなエクス」
「そうですねマーラさん。皆さん外で待ってますから、お見送りしますよ」
秒速で冷たく突き放すと、ルカの顔がぱああと明るくなり、くま吉が親指?を立ててきた。
ふぅ。
少し申し訳ない気持ちで、ちらりとマーラを見るとまさかのノーダメージ!
「私はエクスと離れて分かった」
「えっと?」
こいつ、まさか僕の話を聞いていない?
戦闘後の極度の興奮状態は、視野を狭くするとかなんとか。
「完璧な人間など存在しない。男女で別れている仕組み上、必ず世界のどこかに片割れが存在する。超効率化を求めた代償に魔力総量が激減してしまった私の欠点をピタリと埋める運命の相手は、エクスをおいて他ならないと今日確信した」
「ええー?」
確かに相性はいいとは思うけど。
「連撃が聞こえただろう。私はエクスのサポート1があれば、高速で移動する弾の尽きない移動砲台になれる。理不尽と理不尽を掛け合わせた最強の存在に! それを今日強く実感したんだ」
「良かったですね」
「エクス、私達はベストパートナーだ!この金持ち人形遣いに囲われているようだが、もっと幸せにすると約束するから私と共に来てくれっ」
これって告白だよね?
本人は自覚無さそうだけど。
恵まれた体躯、燃えるような赤い髪、鋭さのある整った顔に、じっと見つめられる。
期待の眼差しが痛い。
でも、僕は。
「ごめんなさい。·····僕はマーラとは歩めません」
拒絶するとマーラが驚いた顔をして、しゅんとした。
口をパクパク。
ようやく言葉が出る。
「す、すまない。興奮しすぎて1人で盛り上がり我を見失っていたようだ。あれ?変だな涙が」
僕も調子に乗るからよく分かる。
僕達は似ているとそっとハンカチを差し出す。
「いえ、この度は街を奪還しに来てくれて、ありがとうございました」
「うん」
しょんぼりしたマーラに慰めの言葉は響かない。
なんだか、あまりに可哀想すぎてルカがおろおろしだす。なんとかしなさいよって言ってるみたい。
僕は笑った。
任せて!
「だから、マーラにはお礼にこれからもサポート1をかけてあげるよ」
「エクス!」
うるっと嬉しそうに見つめられた。
体はあげられないけど、面倒みてあげる。
感動したマーラが、巨乳を揺らしながらハグをしたそうに近寄ってきた。
「くっ、そういうところだ。もがっ」
カウンターの掌底を顔に叩き込むもののまるで効かない。どうやらマーラは惜しげも無くバフを常用しているみたいで、その効果は1段強くてさながらサポート2。
つまり、馬鹿の一つ覚えのようにおっぱいホールドされた。
「エクス!大好きっ」
く、くそう。
悔しいけど、この重厚感溢れる弾力、気持ちいいーー。
さながら最高級スライム。
意識が。
「相棒から離れろい!」
くま吉の介入により、暴力的な幸せタイムを耐えきった。
危なかった。
まるで木漏れ日の中、ハンモックで揺られているような心地良さ。
「おっと。すまない。生まれて初めてフラれてしまったが、私のスペックは高い。またリベンジするから覚悟しろ」
涙を拭きながらマーラは無理して笑った。
さすがはS級冒険者。
彼女は諦めない心で上り詰めたのだろう。
「紅茶を出しますよ。少し休んでいってください」
「·····ありがとう」
この酷い顔のまま同僚の前に突き返すのは気が引けるしね。
つい悪い癖が出た。
調子に乗った。
「そうだ! こたつって知ってます?」
「こたつ? 何だそれは?」
それは最近、セーラから借りた転生者の自伝に書いてあった冬のお気に入りアイテム。僕の魔法で簡単に再現。
「こちらです」
隣の部屋に移動すると、テーブルに毛布をかけたこたつを見てマーラが首を傾げる。
「なんだ?これは。全く無意味な」
「まぁ騙されたと思って真似してみてください」
驚かせる自信がある。
使い方を教えるためにこたつに入ると、ルカが隣に滑り込んできた。
いや、使い方を間違ってるよ?
ルカは小柄だから良いけど。
「普通に入れば良いのか、あっ温かい。これは良いな!」
子供のようにはしゃぐマーラ可愛い。
「ごしゅ、ごしゅ、旦那様は凄いんです」
なぜかライ姉が自慢げだ。
ニトラがマーラに怯えながらライ姉の隣に入ると、リラックスしたマーラがテーブルに突っ伏して巨乳が潰れる。
「壮行会行きたくない」
「なんで?」
「だってエクスを連れてくるって討伐隊の皆の前で大見得をきったんだぞ私は」
「それは、諦めてください」
「ぶぅ」
カチャカチャとカップの音がする。
「はい、マーラ。邪魔だから起きて」
「ええー」
うさぎ達が紅茶の準備をしてくれたからテーブルに乗った巨乳を片付けると、心の落ち着く茶葉が開く香りが部屋を満たす。
「甘い物でも食べて元気を出してください。今日は林檎パイがあるのでどうぞ」
4個しか無いから諦めようなんて考えてたら、ルカが半分くれた。
ルカ·····。
マーラが林檎パイを食べると少し元気になった。
「ありがとう。美味しい」
「良かった」
「そうだ!エクスは何か欲しい物はあるか?」
「どうしたんですか?急に」
「生涯サポート1のお礼にフール討伐の報酬をあげるから考えておいて」
「うっ」
マーラにやり返された。
男前すぎる。
ちょっとキュンとしてると、ぐぐーっと背伸びをして気合いを入れたようだ。
「んー、元気出た!エクス行ってくるよ。私がエクスの街を護る」
「頑張ってください」
カラーン、カラーン!
丁度タイミング良く痺れを切らした付き添いの冒険者達がベルを鳴らし始めた。
立ち上がろうとしたマーラの爽やかな表情が固まる。
「うっ」
「え?大丈夫?」
困った表情で見つめられる。
「不味いぞエクス。私、こたつから出られない」
しまった。
これは人をダメにする道具だった。
カラーン、カラーン!
響くベル。
どうしよう?