軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

138 連撃のマーラ2

気分が良いのでお土産を買って帰ろう。

菓子店の扉を開くと林檎の甘い香りが押し寄せて幸せな気持ちに。

ううん。どれにしようかなと悩んでると、顔馴染みになったパティシエ姿のお姉さんの声がした。

「いらっしゃい、エクスさん!アップルパイが丁度焼けましたよ」

「4切れください!」

小食なのでこれで買い物は終わり。

後は、袋詰めを待ちながら噂好きのお姉さんの世間話に付き合う。

「救援がようやく来てくれましたね。森林警備隊には少しガッカリですけど」

「そうですね。良かったです」

「ところで知ってました?防衛拠点でスラムの人たちが頑張ってくれてるらしいのを」

「実は知り合いの子供が参加してるので、誇らしいです」

噂の真相に近づき、お姉さんの目がキラキラと輝いた。

暇なのか彼女の娯楽は噂話だったりする。

「そうなんですか!会った時にサービスするからお店を宣伝しといてください」

「分かりました」

スラムドッグのメンバーに伝えたら喜ぶだろうか。

単純だからお姉さんに恋に落ちそう。

少年達は英雄になれるかもしれないという触れ込みで、森林警備隊からの防衛特別クエストに参加しているらしい。

頑張れ!

◇◆◇◆◇

その頃、

エクス達は知らないのだが美味しい話に乗ったスラム民達は外壁の上に閉じ込められていた。

地上へ降りる扉は塞がれ、定時に黒パンと水が支給されるのみで、本来はモンスターから身を守るためのはずの高い外壁がさながら牢屋のようだ。

現実はかくも非情である。

苛立ちが溜まった少年が声を上げるが虚空へと響く。

「なあ!開けてくれよ。アジトが心配なんだ。頼む、ここから出してくれ」

「無駄じゃ、森林警備隊の使いは飯の時間にしか来んわい。飯がでるだけマシじゃろ」

諦めきった顔の老人が疲れた顔でセーラの作ったエレキ箱をぐるぐると回す。

エクスの持続スタンを無能力者でも代用出来るセーラの画期的な発明は、24時間誰かが回し続けないといけないとういうちょっとした欠点があった。

欠点は誰が補うか?もちろん弱者である。

ドンドンドンドン!

さらに今日は朝から反対側の領軍の守っている他の街への外門から不明な爆撃音が響く。

ここには領軍のお知らせは来ないため、スタンピードが始まったのかと不安を掻き立てイライラは頂点に。

「なあ!誰か教えてくれ。あの音は何なんだよ???向こうの門もしっかり守れよ!」

「知らぬし、どうせ教えては貰えんじゃろう。げほっごほっ」

老人が苦しそうに手を止めると、スラムドッグのリーダーは慌てて装置を引ったくった。

「ああっ!爺さん。俺がやるから変われって」

「しかし儂はまだ持ち時間を」

「爺さんに死なれちゃ困るんだよ。残飯の拾い場所を譲ってくれた恩は忘れてねーぜ。うぉぉぉぉっこっち来んな!モンスター」

場所を強引に変わり、ぐるぐるとエレキ箱を勢いよく回すと青白い光が先ほどより数段強くなり、電線を通って森がパリパリと光りゴブリンの断末魔が響く。

彼らがいなければスタンピードは既に起きていたかもしれない。

「ありがたい。やはり若者は頼りになるのう」

「だけど、エクス兄はこれを一人でやってたらしいぞ。俺らなんて」

「人間なのか?」

老人が乱食い歯を開いて驚き心臓が一瞬止まり震えた。

「しっかりしろ。じいさーーん!」

頑張れ、救援はすぐそこまで来ている。

応援に来たA級冒険者の一団は、今夜は街で盛大に歓迎と決行を兼ねた宴をして、早ければ明日にでも、英雄として彼らの前に現れるだろう。

◇◆◇◆◇

何も知らないエクスはスキップ再開。

「ふんふふーん。魔人フールなんて関係ないね!」

なんて思ってました。

ちょっと前までは。

まさか、

家に帰ると、一仕事終えた風の怖そうな人たちが玄関前で待っているなんて。

誰かを待ちながら雑談しているようだ。

「マーラさん。今夜のエースなのになかなか出てこないな」

「しかし我らは知り合いではないから入って待つわけにもいかんだろ」

「そうですね」

応援に来た歴戦の冒険者って感じ。

知らないふりして家に入ろうとしたけど見逃してくれないらしく、その中からリーダーと思われるこれみよがしに金色のA級プレートが光る金属鎧の男が声を掛けてきた。

「すまない坊主。エクスさんがいつ帰るか知らないか」

「あの。僕がエクスです……けど」

びっくりした顔をされた。

ぽりぽりと頭を掻いて恥ずかしそうに言い直すようだ。

「あー違う違う。びっくりしたな。お父さんはいつ帰ってくるのかな」

「え?両親は死別しましたが」

「……」

黙らせてしまって気まずい。

「あ、あの。10年も前の話なので大丈夫ですよ」

「すまなかった。それでお師匠様はいつ頃お帰りに?我らは大魔導師さまに挨拶に来たんだ」

ううっ言わなきゃダメなパターンか。

「おそらく大魔導師エクスを探しているのなら、僕で合ってます」

ほら、微妙な顔をされた。

姫様の悪戯でうっかり大魔導師さまになった僕。

大金を貰えてウハウハだったけど、この称号をお返ししたい。

芸術家枠で飼われているとはいえ、この一大事に参加してないのは後ろめたいし。

不審そうに相談しながら見てくる冒険者達に、身分を表す証明のメダルをチラ見せすると青ざめた顔で敬礼された。

「す、すみません。てっきり老人かと思い込んでおりました。失礼致しました!」

「気にしないでください」

僕が悪いんですから。

いや姫様が悪いな。

「それで、初対面なのに申し訳ありませんが・・・・実は大魔導師さまにお願いがあって」

「何でしょう?」

働きませんよと、ちょっと警戒したけど意外なお願いだった。

「街に着くなり貴方の家に入って出てこない連撃のマーラへ、今夜の祝勝会へ出るようにお願いしては貰えないでしょうか。主役の華がいないと格好がつかなくて」

「はは、分かりました」

色々と頼み事をされた僕だけど、これは初めてかな。

中に入ると、びくびく震えたライ姉が現れた。

「旦那様。助かりました」

嫌な予感しかしない。

「エクス!待っていたぞ」

「……」

ぶるんっと胸が揺れる。

マーラだ。

で、その後ろで無言の見えない青い業火を纏ってるのがルカ。

くっそ!フールめ。

浮気バレたみたいな状況を作りやがって!

僕は何も悪くないのに。