軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第129話 やさしさのまほー

「せ、せんせー……?」

リリィの目の前に現れたのは、担任のエスメラルダ先生だった。何が起きたか分からずリリィはパニック状態。

「なんできょーしつにいるの! おやすみなのに!」

「それはこっちの台詞だねえ。ヴァイスは一緒じゃないのかい?」

学校に侵入してきた魔力は一つ。ヴァイスがいないことは分かっていたが、念の為の質問だった。

ヴァイスなら魔力を完全に遮断出来てもおかしくない──エスメラルダはヴァイスをそう評価している。

「うん……りりー、ひとりできた……くまたんにがっこーみせたくて……」

「なるほどねぇ。優しい子だよ、まったく……でも、勝手に入っちゃいけないだろう?」

「うん……ごめんなさい」

どれくらい怒られるのか分からず、リリィはドキドキしていた。ぱぱやままにもバレて怒られるかもしれない。悪い想像ばかり膨らんでいく。

「まあそう縮こまる事もないさね。別に怒ったりするつもりはないからね」

「……ほんと?」

「勿論だよ。休みの日に学校に来るなんて可愛い悪戯みたいなものさ」

エスメラルダの脳裏に去来するのは遠い昔の記憶。あの騒がしい毎日の中心にいた男は、今頃何をやっているのかねえ。慌てて娘でも探しているような──何故だかそんな予感がするよ。

「さて、せっかく来たんだ。ちょっとした『内緒の授業』でもしてやろうかね」

「ないしょの……じゅぎょー?」

「そうさ。お休みの日の特別授業。ヴァイスにも内緒に出来るかい?」

エスメラルダが人差し指を立ててウインクする。リリィはぱっと顔を輝かせて、こくこくと何度も頷いた。

「やる! りりー、じゅぎょーする!」

「よしよし、元気がいいねえ。じゃあ窓の外を見てごらん。ほら、あそこのお花畑が見えるだろう?」

窓際に立ったリリィの視線の先には、校舎の裏庭にある花壇があった。白い花がいくつも咲いている。

「この魔法はね、『ありがとう』を伝えるおまじないだよ。風に乗せて想いを届けるんだ」

エスメラルダは杖を軽く回して、杖先にふわりと光を灯した。風の粒がキラキラと舞い上がり、白い花びらを包み込むように回る。

「きれー……!」

「さあ、リリィちゃんもやってごらん。難しく考えなくていい。『ありがとう』って気持ちを胸に思うだけさ」

「う、うん……! ありがとう、ぱぱ……」

リリィの小さな声が響いた瞬間、教室の空気がふっと揺れた。

風が窓から吹き抜け──白い光の花びらが一つ、空へと舞い上がる。

「……! とんだ!」

リリィの瞳がまんまるになった。

「ヒッヒッヒッ、上出来上出来。やっぱり、ヴァイスの娘だねえ……」

そう呟いた声は、どこか懐かしさと、ほんの少しの切なさを帯びていた。

(パパ……か。どうやらあの子の苦労はまだまだ続きそうだね)

「せんせー、いまのまほー、またできる?」

「勿論さ。だけどね、今日はここまでにしようじゃないか。魔法は腹八分目が丁度いいんだよ」

「うん……」

少し名残惜しそうにうなずいたリリィの髪を、エスメラルダは優しく撫でた。

「さ、そろそろ帰んな。私以外の先生に見つかったら大変だからね」

「はーい!」

リリィはくまたんとぽよぽよを抱きしめて、ちょこんと頭を下げた。

「ありがと、せんせー! りりーがんばるね!」

「おうとも。立派な魔法使いになるんだよ」

リリィが教室を出ていった後、エスメラルダは暫く窓の外を眺めていた。

(私はね、ヴァイスと同じくらいお前も可愛く思ってたんだ。精々頑張んなよ、ジークリンデ)

リリィの放った白い花の花びらは、まだ高く空を舞っている。心を少しだけ温かくする風の魔法がゆっくりと青い空に溶けていく。