作品タイトル不明
第128話 りりー、せんにゅーする
リリィは三叉路に立っていた。片方は学校へ続く道、もう片方はまだ行ったことがない道だ。今日は勿論、行ったことがない道に行く予定である。
「こっちいくとね、りりーのがっこーがあるんだよ」
では何故リリィは立ち止まっているのかというと──リリィはずっとくまたんを学校に連れて行きたいと思っていたのだ。自分とぽよぽよだけ学校にいることを気にしていた。
そして今日はくまたんを学校に連れて行く絶好のチャンスだった。
「くまたんもがっこーいきたい?」
「きゅ~」
「そっかぁ」
ただ鳴いただけなのに、リリィにはくまたんが「行きたいよ!」と言ったように聞こえた。子どもの想像力は、ときに魔法より自由だ。
「うーん……」
学校が休みの日に入っていいのか。
分からない。
けれど──もし門が閉まっていても、リリィくらい小さければ隙間を通れる気がした。
そして侵入……いや、『潜入』するのも、それはそれで冒険らしくて胸が高鳴る。
「……よし! がっこーせんにゅーさくせん!」
どこかで聞きかじった難しい言葉を使ってみると、気分はすっかり冒険者だ。
「いまからはばれちゃだめ。わかった?」
「きゅ~」
「ぽよん」
一人ではちょっと心細いけれど、今日のリリィには仲間が二匹もいる。それだけで世界が広く、明るく見えた。
リリィたちは壁沿いにこそこそと進み、学校の正門へと向かった。想像通り正門は閉まっていたが、リリィは門の隙間を潜り抜けることが出来た。リリィが門の向こう側に行くと、くまたんとぽよぽよも器用に後へ続く。
「えへへ、せんにゅーできた」
誰もいない校庭は、まるで別世界のように静かだ。
普段はざわざわと子どもたちの声が響くはずの場所なのに、今日は風の音すら大きく聞こえる。
その静けさが、リリィの胸に妙な高鳴りを生んだ。
「ここがりりーのがっこーだよ」
「きゅ~?」
胸を張ってくまたんに説明するリリィ。くまたんはきょとんと見上げ、ぽよぽよは日差しを受けてきらきらと光っていた。
「きょーしつまでいけるかなあ……」
リリィは足音を忍ばせて校舎へ向かった。
──しかし、リリィは知らなかった。
いくら足音を消しても、それだけでは消せないものがあるのだと。
そしてそれを感知するのが──他でもない魔法使いだということを。
◆
(あいてる……?)
リリィの想像とは裏腹に校舎にはすんなり入ることが出来た。しんと静まり返った廊下には人の気配がまるでなく、リリィの小さな足音だけがいつまでも反響している。毎日過ごしていたはずなのに、何だか知らない場所みたいだった。
(なんか……ちょっとこわい……)
明るいのに怖いと感じたのは初めての経験だった。
リリィは暗いのがちょっと怖い。夜にトイレに行きたくなってしまった時はくまたんについてきて貰うのが日常だったが、今は同じくらいの不気味さを感じていた。 くまたんとぽよぽよがいなければ一目散に逃げだしていたかもしれない。
────教室にいけば、怖くなくなるはず。
その一心でリリィは歩を進める。さっきまで胸をいっぱいにしていたワクワクはもうすっかりどこかにいってしまい、今は早く教室をくまたんに紹介して学校から出たかった。
「とーっ!」
恐怖を振り払うように、リリィは勢いよく教室のドアを開ける。いつも朝は最後の方にやってきて放課後はすぐに帰るので、無人の教室を見るのは初めてだった。見慣れた教室に入ると、思った通りリリィはちょっとホッとした。自分の席に座ると余計にそう感じた。
「りりーはいつもここにいるんだよ。せんせーがそっちにたっててね、れいんはここにいるの」
机の上にくまたんを乗せて、リリィは学校について知ってる事を矢継ぎ早に語る。
「きゅ~!」
くまたんはリリィが楽しそうにしているので、つられて楽しい気持ちになった。ぽよぽよは定位置である机の下の収納スペースにすぽんと収まってリラックスしている。何となく楽しい雰囲気がリリィたちを包んでいた。
「くまたんもがっこーこれたらいいなあ」
一通り話し終えて、リリィは机の上にぺたんと突っ伏した。丁度太陽の光が差し込んでいて、ぽかぽかとした温もりがリリィのほっぺたに伝わってくる。リリィはなんだか眠くなってきて──
「何をしてるんだい?」
思いっきり、飛び起きた。