作品タイトル不明
第121話 ぽよぽよ、家族の仲間入り
「とりあえず、立ち話も何だ。中に入ろう」
俺がそう言うと、リリィは待ってましたと言わんばかりに靴を脱ぎ散らかし、ぽよぽよを抱えたまま真っ先にリビングへ駆け出した。
その後ろをレインが一歩遅れて続く。室内の様子をきちんと目で確認してから足を運ぶあたり、育ちの違いがよく分かる。
……もしかして他人事じゃないのか?
リリィの育ちは俺が決めているんじゃなかろうか。
いや、流石に貴族と比べるのは違うよな。頭を振って思考を打ち消す。
「ぽよぽよはここね!」
リリィは部屋のリビングの真ん中にぽよぽよを下ろし、得意げに説明を始めた。
どうやら、ここを拠点にするつもりらしい。
「だめだぞ、勝手に決めるな」
「えー」
「寝床と餌と、水場。それをちゃんと決めてからだ」
ぽよぽよは会話の内容など気にしていない様子で、ぷるりと身体を揺らしながら床を這い、家具の脚に軽くぶつかっては方向を変えている。とても知能の感じられないそんな様子を眺めながら、俺は頭の中で最低限の飼育環境を組み立てていく。
「なあ、ぽよぽよって、水いるんだよな?」
「いる! あとね、おひさまもすき!」
「日向か……窓際は却下だな。干からびる可能性がある」
「えー……」
不満そうな声を上げるが、こればかりは仕方ない。野生のスライムも日陰の多い森に棲んでることが多いしな。
ぽよぽよの世話について真剣に話し合っていると、ふと視界の端で別の光景が目に入った。
ソファの方で、レインちゃんがくまたんを抱えていた。以前来た時と同じように、ぎゅっと腕に抱き寄せながら、その柔らかさを確かめるように指先を沈ませている。
その隣に、ジークリンデが腰を下ろした。
「その魔物が好きなのか?」
「少しだけ……」
レインちゃんは恥ずかしそうにそう前置きしてから、ぽつりと零す。
「さわっていると、落ち着きます」
「そうか」
ジークリンデは否定も肯定もせず、ただ静かに頷いた。その視線はくまたんではなくレインの表情に向けられている。
「学校の方はどうだ?」
「せいせきは一番でした」
「それは何よりだ」
「ただ……」
レインは一瞬だけ視線を伏せ、それからくまたんを抱く腕に力を込めた。
「母からは、もっと上をめざすようにと言われています」
ジークリンデの表情が、ほんの僅かに変わる。
「……そうか」
短い返答だった。それ以上踏み込むことも、軽く流すこともせず、ただ受け止める。俺には分からない貴族独特の面倒な空気を感じ取っているのかもしれない。
それにしてもメディチの奴……自分はトップじゃなかったのに、子供にはトップを要求するとはなかなかやるな。俺には関係ない話だが。
「ここがいい!」
次にリリィがぽよぽよの住処に選んだのは、キッチンの戸棚の空きスペースだった。皿が五枚ほど収納出来るくらいの大きさで、リリィが椅子に上ってぽよぽよを乗せると、まるで初めからその為の場所だったみたいにピタッとハマった。
「ぴったり!」
「却下だ」
いくらなんでもフィットしすぎてる。動くスペースが全くないのは問題だ。
「なんでー!」
「危ない。落ちたら可哀そうだろ?」
俺とリリィが言い争っていると、ソファの方からはリリィの名前が聞こえてきた。どうやら学校でのリリィについて話し合っているらしい。是非とも聞かせて頂きたい話題だったが、俺はリリィに手を引っ張られてぽよぽよの寝床探しの為に家中を練り歩くことになってしまったので、聞くことは出来なかった。
レインちゃんが帰ったら、ジークリンデから聞かせて貰うことにしよう。きっと楽しい話が聞けるだろうな。