軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第284話 天から舞い降りる聖女

総長と別れた俺はギルド本部を出発し、金雀の宿を目指した。

「しっかし、不確定要素だった総長は参戦せず、か」

マリア達と戦うのを嫌って辞退、って展開はまあ予想できていたけど、本当にあのまま大人しくしてくれるタマかねぇ? ツバキ様と同じく、俺が予想もしないような方法で絡んできそうな気もしない。まあ、それはそれで歓迎すべき事なので、俺から止めろとは言わんけどさ。

「っと、そうこうしているうちに宿に到着しちゃったか。考え事をしていると、時が経つのは早いもんだ―――」

「―――ケルヴィン様ぁ~~~!」

「へ?」

頭上から唐突に叫び声が聞こえてきたかと思えば、その声がドンドン近付いてくる。つうか、もう間近の距離にまで接近していた。状況からして、宿の上の階から俺に向かって飛び降りたんだろう。一体誰が、なんて言いたいところだが、声でもう分かった。

「うおっと……!」

背中からダイブしてきたところを、お望み通りキャッチしてやる。いやはや、なかなか無茶をなさる。

「コレット、何やってんだよ、お前……」

唐突なダイブをかましてくれたのは、いつもの巫女服ではなく、変装の一環なのかカジュアルな私服を纏ったコレットだった。率直に言って、かなり新鮮で可愛い。俺を見詰めるおめめがグルグルしてるけど、それもまたチャーミングである。或いは、えっと、ユーモラス……? 気配で何となく気付いてはいたけど、やっぱりパブに来ていたんだな。

「ケルヴィン様の匂いを逸早くキャッチし、上のフロアでタイミングを計っていました!」

「いや、そういう事じゃなくてだな」

なぜ飛び降りたのかを聞いているんだが。と、そんな俺の疑問が解消される前に、コレットは俺の胸元へと顔を突っ込んできた。

「ああ、ご無沙汰振りのケルヴィン様の芳香に囲われる至福、何と夢見心地のひと時なのでしょうか! この幸せを正確に言い表す事はできません! なぜならば人語を超越した、そう、私如きでは表現し切れぬ未知の幸せホルモンで溢れ返っているからです! 更に先ほど頂戴したメル様のフレグランスが加わる事によって黄金比率での調和が取れています! メル様ケルヴィン様メル様ケルヴィン様メル様――― 何と言う永久機関なのでしょうか……!」

「ああ、うん、そうだな。ご無沙汰だけど、コレットがいつも通りで俺も嬉しいよ」

止まらぬ食レポならぬ香レポを間近で耳にして、ある意味で安心する。鼻血を拭ってやりながらも、安堵する。良い意味でも悪い意味でも、今日もコレットはコレットのようだ。

「ああ、ケルヴィン様いけません。神々しいお召し物に私の血が!」

「そんな事気にしなくても良いって」

「ケ、ケルヴィン様……!」

そんな事よりも、宿の玄関口でいつまでもコレットを抱えていては、人の往来の邪魔になってしまう。と言うか、周りの目の方が気になってしまう。だからコレットさん、そろそろ胸に顔を突っ込むの、止めてもらっても良いですかね? そろそろ降ろしても良いですかね?

とまあ、気恥ずかしい思いをしつつも宿へと入り、皆が待つフロアへと移動する俺なのであった。その間、女将のオウカさんに微笑ましく眺められた気もしたが、構わず皆の下へと急ぐのであった。

「結局、ずっとコレットを抱えたまま来てしまった……」

「………」

「あれ、コレット? おーい、返事しろー?」

「………」

「……し、死んでる!?」

コレットはチャーミングなグルグルおめめを閉じ、俺の胸の中で安らかな表情を浮かべ、眠っていた。移動中、鼻血に加え吐血もしたようで、顔中に血が付着してしまっている。

「これは、もう―――」

「―――何を馬鹿な事をされているんですか、あなた様」

「あ、メル」

フロアの入口でちょっとした茶番を演じていると、メルが出迎えに来てくれた。その手には大きな大きな握り飯があり、現在進行形でお食事中だ。

「いや、さっきそこで天から舞い降りた聖女様を拾ってな。色々あって、幸せそうに衰弱しているんだよ」

「なるほど、いつもの事ですね」

「ああ、いつもの事だ」

ただそれだけの会話で、俺はメルは通じ合った。全てを理解したのだ。これが夫婦のなせる 業(わざ) である。まあ、 業(ごう) を背負った故の慣れとも呼べるかもしれないが。

「コレット、そろそろ目覚めなさい。まだ死に至るには早過ぎますよ」

「ハッ!? ど、どこからともなくメル様のお声がッ! そして目覚めからの素晴らしき芳香がッッ! 私を、殺す……(ガクリ)」

一瞬目覚めたコレットであったが、次の瞬間には再び気絶してしまった。俺とメルが対峙するこの状況、位置的にコレットが挟まれている。なるほど、このポジショニングだもんな。コレットの嗅覚には刺激が強過ぎたのか。

「俺ら三人が揃うの、まあまあ久し振りだったからなぁ。うん、これは仕方ないかもしれない」

「ハァ、そんな呑気な事を言っている場合ではありませんよモグモグ…… 良いですか? 半年後、コレットもあなた様と式を挙げるのでモグモグ? コレットは神皇国デラミスの象徴とも呼べる存在、このような醜態を民達に見せては、その信頼が失墜してしまいまモグモグ!」

「ああ、そうだな。その巨大握り飯がなかったら、俺も素直にメルの言葉を飲み込めるんだがな」

ともあれ、気絶したコレットをこのままにしてはおけない。魔法で起こしたとしても、起きた瞬間にフローラルショックで気絶するという、さっきの焼き直しになってしまうだろう。俺達の匂いに慣れるまでは、どこか落ち着ける場所にでも寝かせておこうか。

「今更だけどさ、何でコレットがこの迷宮国に? 念話の感じからして、昨日から一緒に居たみたいだったけど?」

主に飯関係で。

「フフッ、ちょっとした慰安旅行ですよ」

「慰安旅行? また急だな?」

「私が休めと指示しない限り、この子はどこまでも尽くしてくれますからね。責務から解放される事も、たまには必要でしょう?」

「確かにコレットなら、信仰心を糧にしてどこまでも働くだろうからな。仕事と趣味が丸っきり同じで、ある意味天職でもあるし。で、メルの方から旅行に誘ったって訳か」

「ですです。尤も私が念話で声を掛けたのは昨日で、時間が作れ次第予定を立てましょうと、軽いノリで誘ったのですが……」

「あー…… 誘って直ぐ来た感じか?」

「ええ、転移門を使って即こちらに来てくれましたよ。流石はメル様! 私の原動力である香り成分が、ちょうど今切れかかっていたところなんです! 嗅いで良いですか!? 嗅いで良いですよね!? ……とか何とか、出会い頭に平伏されながら言われましたっけ。モグモグ……」

メルはどこか遠い目をしながら、ちょっと後悔しているようでもあった。ただまあ、その後の食事はコレットが頑張って食べてくれたのもあって、普通に楽しめたんだそうだ。コレットにとっても、良い気晴らしになったんだろう。よし、めでたしだな!

「ケルヴィーン、いつまで入口で立ち話してるのよー? 結婚式の事で詰めておきたい話が一杯あるんだから、さっさと来なさーい!」

「っと、セラか。分かった分かった、今行くよ」

「ララノアも待ってるわよー?」

「ッ! そうか、分かった! 一分一秒でも速く行こう! 風神脚(ソニックアクセラレート) ・ Ⅶ(セプタ) ―――」

「――― 神聖天衣(ディバインドレス) 。あなた様、こんなところで本気のスピードを出さないでください。衝撃波で私の握り飯が吹き飛んでしまいます」

そんなお説教と共に、付与しようとした補助魔法がメルに解除されてしまう。

「い、いや、流石に冗談だからな? ほら、今はコレットを抱えている訳だし、そんな無茶はしないって」

「どうかしらね? 若干目が本気だった気がするわ」

「ええ、冗談半分残りは本気、といった感じでしたね」

クッ、そんな俺を親馬鹿みたいに言いやがって……! 少しくらい俺を信用してくれたって良いじゃないか……!