作品タイトル不明
第283話 見送りと出迎え
翌日、帰還の時。ありがたい事にトラージ城の転移門を使わせてもらえる事になった。これで帰り道は一っ飛びである。
「ケルヴィンよ、もっとゆっくりして行っても良いのだぞ? 妾が許すぞ? 秘密のライブ練習特別見学権も付いてくるぞ? 今ならとってもお得じゃぞ?」
「大変にありがたいですし、私もそうしたい気持ちで一杯なのですが、生まれたばかりの我が子が家で待っていてですね」
ただまあ、ツバキ様が掴んだ俺の腕をなかなか離してくれないなど、朝から熱烈なアピールを受けてしまっている訳だが。しかも仲間達が居ない分、いつもより積極的な気がする。
「むう、そう言われてしまっては、これ以上引き留める訳にもいかんの。ケルヴィンよ、式の日を楽しみにしておるぞ。妾のデビュー日の方が、ひょっとしたら早いかもしれんがな」
「れ、例の新ユニットデビューの話ですが。怖いもの見たさで――― いえ、私も是非拝見したいと思っていますので、その時はご連絡ください。必ず時間を作ります」
「うむ、約束じゃ。その際は最前席を用意しよう」
最前席、最前席か…… ゴルディアーナの目の前でない事を祈ろう。
「シルヴィアと久遠もまたな」
「ん、またね」
「またねー。模擬戦はいつでも大歓迎だから、気軽に誘ってよ」
ちなみにエマは二日酔いの為、見送りは欠席。ツバキ様の厚意で衣食住がタダで賜れるという事で、久遠は暫くトラージに滞在するんだそうだ。久遠の奴、次に会った時にはトラージの戦力に組み込まれていたりしないだろうな? いや、別に俺は全然構わないんだけど、ツバキ様の口車にまんまと乗せられていそうで怖い。マリア、お前の友達、吸収合併される寸前っぽいぞ。
「転移門、起動します」
「っと、そんな心配をしている場合じゃなかった。ではッ!」
俺は起動した転移門に飛び込み、トラージを後にした。
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「やあやあ、お帰りだね、ケルヴィン君。それで聞いたよ、ケルヴィン君。何でも結婚式で面白そうな取り組みをするんだってね、ケルヴィン君。私も参加しようか迷うなぁ、ケルヴィン君?」
「出会い頭だなぁ……」
転移門を使い目的地に辿り着くと、そこには素敵な笑顔を携えたシン総長が待ち構えていた。なぜ総長がここに? なんて言葉を口にしたくなるが、ここは迷宮国パブに唯一存在する、ギルド本部の転移門前。この門の使用許可を出すのは責任者であるシン総長である為、俺が来る事を事前に知っていたとしても、全く不思議ではない。まあ、早速“ちょっと待った”を耳にしている様子なのは、予想外ではあるのだが。昨日の今日だってのに、まったく、耳が早いものである。
「俺は歓迎するけど、良いのか? 希望枠は有限だから、マリアやアダムスとそれを取り合う事になるかもしれないぞ?」
「ケルヴィン君、私は君の結婚を心から祝福するよ! よくよく考えてみれば、我が古巣の出身にして、我がギルドに大いに貢献してくれた、あのアンジェ君とも結婚するんだしね! これはふざけていないで、素直に祝福するしかないな、うん!」
「ハハッ、何とも調子の良い事で」
さっきまでと発言内容が見事に逆転していらっしゃる。超自由人であるシン総長も、あの二人と争うのは御免被りたいようだ。
「ところでその話、誰から聞いたんだ? 例の飲み友からか?」
「いんや、残念ながら飲み友はこっちに来ていなくてね。その代わり、ユーのお嫁さんからチラッと聞いたりしたのだよ。いやー、嬉しそうに教えてくれたっけ」
「チラッとじゃなくて、ガッツリ聞いてるじゃねぇか……!」
犯人はセラ、もしくはアンジェ辺りだろうか。まあ聞かれて不味い話でもないし、むしろガンガン参加してほしいくらいなのだが。
「総長、やっぱ参加しないか? 総長なら相手があの二人でも、ワンチャンあると思うけど?」
「おだてたって私は参加しないよ。ケルヴィン君と違って、私は戦闘狂って訳じゃないからね。て言うか、勝つ見込みが欠片もないって事は分かり切ってるじゃん。参加しない自由を選択させてもらう!」
「そ、そこまで言い切っちゃう?」
「ああ、言い切っちゃうね。今更の忠告だけどさ、自由人な私の目から見ても、あの二人と戦うのはどうかと思うよ? ケルヴィン君ほどの実力があったとしても、たとえそれが余興であったとしても、デラミスの巫女の秘術があったとしても、決して安心はできない。相手にとってはちょっとした遊びで繰り出した攻撃が、私達にとっては致命傷になり得てしまう。あの二人とは、それくらいの実力差があるよ」
「あー、やっぱ総長もそう思う?」
「超思うね。んでもって、今は全然笑うタイミングじゃないよ?」
いやー、こればかりは不可抗力なんですわ。
「ハァ、まあ私が何を言ったところで、ここまで来ちゃったらもう止めようがないんだが。いやはや、困ったものだ」
「……総長らしからぬ振る舞いだな? まさか、心配してくれているのか?」
「してるよ? 戦いがこの世界に与えるかもしれない、悪影響の心配をね。私が健やかな老後を過ごす為には、この素晴らしき世界が絶対不可欠なんだ。そりゃあ心配もするさ。ケルヴィン君、己の欲求を満たすのは結構だけど、ちゃんと周りの事も考えてくれよ」
「ああ、そっちの心配ッスか……」
俺を心配してくれているのかと思って、ちょっと胸に響いていたってのに……
「まあ我が飲み友、アダムスとマリアちゃんの人格が、超越した力を持っている割にかなりまともだから、大丈夫だとは思うんだけどね。それでも生物である以上、興奮状態になると何をしでかすか分かったもんじゃない。マジで気を付けてよ? 責任取れよ?」
「総長らしからぬ正論っぷりに驚いているところだけど、言ってる事は尤もだから反論できねぇ…… 分かってる、分かってますって。あの二人に限って言えば、力の底が未だ知れていない。目算でレベル300オーバーなんて勝手に思ってるけど、それさえも超えてくる可能性だって大いにある。勝てる見込みがどれだけあるのかなんて、まるで分からないのが今の正直なところだ」
単純な力関係に加え、マリアには理不尽なまでの再生能力、アダムスに至ってはその能力が一切判明していない。口が裂けたって勝ち目がある、なんて無責任な事は言えないよ。まあ、それはある意味で無責任な事でもあるのだけれど。
「なのに、あんな余興をしてまで戦いたいのかい?」
「当然だろ? S級モンスター、魔王、神の使途、黒女神、十権能――― これまで刃を交えてきたどんな強敵を戦う時だって、俺達は勝算なんてものは考えてこなかった。心の底にあるものは、強い奴と戦いたいっていう、そんな単純明快な事しかないんだよ。戦闘狂でない総長にだって、少しくらいはそんな気持ちがあるだろ?」
「んー、ない事はないけどさぁ…… 何も結婚式でやる事じゃないと思うけど? お嫁さん達の気持ちも汲んであげなって。初めての共同作業が反対相手とのバトルって、どんな心境で臨むつもりなのさ?」
「これを提案した時、むしろ嫁さん達の方が乗り気だったけど?」
「なんてこった、戦闘狂が伝染しちゃってる!」
「人を感染症みたいに言うなよ……」
この冗談みたいなノリはさて置き、あの超越者達と本気で戦いたいってのは、俺の嘘偽りない気持ちだ。魔導士としてなら兎も角、 召喚士(・・・) として本気で戦える相手なんて、そう巡り合えるものではないからな。ああ、どれだけ強いのかなぁ? 初心な少女のように恋焦がれてしまうよ。