作品タイトル不明
第285話 寝台にて健やかに眠る天使
「ララノア~、元気でちたか~? おっと、お眠中でちたか~。すやすや眠るララノアは天使でちゅね~。チュッチュしたいくらいに天使でちゅね~。チュッチュしちゃおうかな~?」
「「「「「………」」」」」
「……? お前ら、どうした? そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして?」
久方振りのララノアとの対面を堪能していると、皆が啞然としながら俺に視線を向けている事に気が付く。何だよ、ベビーベッドで眠るララノアは最高に天使だろ。えっ、女神の間違いだろって? なるほど、そういう文句なら受け付けよう。確かにララノアは最高に女神だ。
「う、ううん、ケルヴィンお兄ちゃん、そうやってあやすんだ~、なんて思ったりして……」
「何だか私、幼い頃の記憶が想起しちゃったみたい……」
「セ、セラさんも昔、ああやってあやされていたんだね……」
「主、家の中でやる分には良いけど、外では控えた方が良いと思う。戦っている時以上に、顔と言葉が不味い事になってる」
「こ、こら、ムド! あんまマジな事を言うなって!」
「分かる、分かるぞ、王よ……!」
何だかよく分からないけど、皆から若干引かれている事だけは分かる。そんな中、ジェラールだけは俺を支持してくれているようだ。嬉しいような、そうでもないような――― そうでもないな、うん。
「……そんなに変だったか?」
「「「「「うん」」」」」
まさかの即答、しかも多数意見。待て待て、待ってくれ。俺のガラスのハートにもっと思いやりを持ってほしい。クッ、リオンなら俺の味方をしてくれる筈なのだが、今は学園に戻っちゃったしで悲しい……!
「フフッ、ご主人様は世界で一番ララノアを愛されていますからね。こうなってしまうのも仕方のない事です」
「エ、エフィル~……!」
居た、ここにも味方が居てくれた! やはりエフィルは俺のオアシスだったんだ……!
「はいはい、こんなところでイチャイチャするのは禁止です。あなた様、そろそろ本題に入りましょう。モグモグ」
エフィルの胸に飛び込む寸前のところで、メルから待ったをかけられてしまった。真面目に話し合いに移行するのなら、おかわりした巨大握り飯を食べるのも駄目なんじゃ――― あっ、全然駄目じゃないです。メルにとって握り飯は飲み物みたいなもんだからな。飲み物が話し合いの場にあっても全然不思議じゃないって言うか、うん、その通りだ。だから俺の心を読むの止めてくんない? 圧のある怖い微笑みを俺に向けるのは止めよう。なあ、お願い。
「―――って事で、シュトラと一緒に世界を回って後処理は万全、結婚式の方もそんな感じで話をつけてきた」
メルを落ち着かせた後、既に念話で伝えている事柄ではあるが、顔を合わせた上で改めて現状の説明を行う。特に結婚式については、例の“ちょっと待った”に参加すると予測される人物達、その者達がどの程度の強さに達しているかのなど、事細かく話していった。
「ふーん、何となく強い感じはしていたけど、あの久遠って女、そんなに強かったのね」
「ああ、身体能力の高さと卓越した魔法も脅威的なんどけど、何よりも固有スキルが厄介だ。純粋なダメージ以外の尽くを無効化されてしまうからな。セラの『血染』やシュトラの『報復説伏』も、多分効かないと思う」
「なるほどのう、それが本当であれば王とは相性が頗る悪い。連敗を喫してしまったのも、まあ納得じゃわい」
「俺は全然納得していないんだけどな。どうやって久遠を倒してやろうかと、現在進行形で燃えているところだよ……!」
「ちょっと、ケルヴィンが全部戦うつもりじゃないでしょうね? 私の式は私が戦うんだからね!?」
「えっ?」
「いや、え? じゃなくて!」
もちろん、今のは軽い冗談だ。 ……それも良いかな、とも少し思ってるけど、一応は冗談である。
「と言うかさ、この余興って私達の誰が出ても大丈夫なの? 例えばエフィルちゃんの結婚式で、アンジェお姉さんが迎え撃ったり~ってのはアリ?」
「アリではあるが、基本的にはその式の主役が務めるのが一番スマートではあるかな。今の例なら、俺かエフィルって感じでさ。まっ、本気の余興ではあるが、所詮は余興だ。形式を多少変えたとしても、誰にも文句は言わせないさ」
「ケルヴィンの兄貴、言うッスね~。それなら仮にこの余興で負けたところで、結婚式を取り止めにするとか、そんな事もないって訳ッスか!」
なるほどな~と、ダハクが笑う。
「いや、必ずそうなる訳じゃないぞ? 相手が本気で止めさせたいと思っているのなら、それ相応の対応はしなくちゃならん。つまり、負けたら終わりだ」
「え、え゛え゛ッ!? な、何でッスか!? 所詮は余興なんスよね、これ!?」
「所詮は余興でも、本気の余興だからな。相手が本気で止めに来たってんなら、俺はそいつを納得させた上で式を完遂したい。負けたままの中途半端な気持ちで、結婚なんかしたくないんだよ」
「そ、その気持ちはまあ分からなくもねぇッスけど、エフィル姐さん達の気持ちもあるんじゃ……?」
「それは違いますよ、ハクちゃん。私達もご主人様と同じ気持ちなんです」
「ええええっ、エフィル姐さん!? 何スか、兄貴の戦闘狂気質が伝染しちゃったんスか!?」
「おい」
失礼だな。けどその台詞、ちょっと前にも言われた気がする。
「伝染だなんて、そんな大層なもんじゃないわよ。単に皆に認められた上で結婚したいってだけ。特に私の場合、父上の問題がまずあるもの」
「あはは、グスタフさんは確定参加かもね。これが最後の試練だ! とか言ってそう」
「そうなのよねぇ、まったく。まあ、そうなっても今度は私が相手をするだけ! あっさり返り討ちよ!」
「セラ姐さんまで――― あ、いや、セラ姐さんの気質は最初からそっち側だったか?」
「ダ~ハ~ク~? まずは貴方が私の相手になってくれるのかしら?」
「滅相もねぇッス!」
「ダハク、セラと真剣勝負ができる良い機会だぞ? 誘いに乗らないのか?」
「それで喜ぶのは兄貴だけッスよ!?」
失礼だな。アズグラッドとかも多分喜ぶぞ。
「私達の式に反対できるという事は、それだけの自信と実力のある強者の証でもあります。夫婦の覚悟を示す良い機会に、そしてあなた様を満足させる良い餌になる事でしょう」
「おっ、メルも乗り気ね!」
「ええ、私もルキルとの関係を清算する良い機会ですから。と言いますか、これを機会に区切りにしないと、今後何をしでかすか分かったものじゃありませんし、ハァモグモグハァ……」
「う、うん、メルさんは一番切実かもね……」
メルは真剣なのだが、溜息を漏らしながら飯を食っているからなのか、その姿はどこかコミカルに見えてしまう。しかしルキル、か。ベガルゼルドからの報告を聞くに、参加するとしても長期の休養明けの戦いになる訳だが、勝算があると思っているんだろうか? それとも、全く予想もしていないような方法で、強化を図ってくるとか? 是非ともそうしてくれると有難いなぁ。
「ところでお姉ちゃん達は、どこで式を挙げるかは決めた? 私は言うまでもなく、トライセンのお城で挙げるの! こう、大々的に!」
幼シュトラがぴょこんと飛び上がる。
「当然じゃない。私だって言うまでもなく、故郷のグレルバレルカで挙げるわ!」
「私は神皇国デラミスで、と言いたいところですが、それではコレットと被ってしまいますからね。元女神であった事は隠しておきたいですし、どこか美味しい料亭で挙げたいものです。ああ、次点候補は仕方なく 白翼の地(イスラヘブン) といった感じで」
「私はその、エルフの里で皆さんと喜びを共有できたらなぁ、と」
「アンジェお姉さんもエフィルちゃんと一緒に! って思っていたんだけど、シン総長のパブ推し最近凄いんだよねぇ。確かに冒険者ギルドには知り合いが多いし、それはそれでアリなのかもしれないけど、むむぅ……」
心に決めた場所がある者が居れば、未だ場所に悩んでいる者も居る。なんて、俺も他人事じゃないんだが、場所については皆に一任しているからなぁ。余計な口出しはできんのよ。 ……そう言えば、この場に居ないリオンはどこで式を挙げようと思っているんだろうか? 候補地は聞いた事があるけど、確かまだ決定はしていなかった筈だが、ふむ……