軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第272話 焼き鳥

スズという尊い犠牲者を早速出してしまった訳だが、邪神や異世界の吸血鬼という恐るべき存在が滞在しているのにも拘らず、トラージの街はどこもかしこも至極平和な様子だった。強いて言えば、街中をツバキ様が普通に歩いているところを驚かれたり、その横にS級冒険者である俺やシルヴィアが居る事で更に驚かれたりで、ちょっとした騒ぎになりはしたが、まあその程度の事は平和と言っても差し支えないだろう。

「西大陸ではそんなだったけど、やっぱり本拠地を置く東大陸だと、それなりに顔も知られてきているみたいだな」

「フッ、今更顔を覚えても遅い遅い。妾はずっと昔、それこそS級冒険者になる前から、ケルヴィンとシルヴィアの力を知っておったわ」

「ツバキ様、そんな古参のファンみたいな事を言わないでくださいよ…… それと久遠、さっき買った刀を街中で抜き身にするな。ツバキ様が居なかったら、もう何度か捕まってるぞ?」

「いやあ、だって刃文がとっても綺麗でさ~」

仕方なくといった様子で、カチンと音を立てながら刀を鞘に戻す久遠。ちなみに久遠は現在も文無し状態である為、刀はツバキ様がポケットマネーでプレゼントしていた。しかも業物である。あとが面倒だぞと俺は再三止めたんだが、結局、妙なところが無防備な久遠は、ツバキ様の押しの強さに付け込まれてしまった。こうなってしまった以上、俺からしてやれる事は何もない。いや、頑張って貰った恩を返すんだぞと、応援だけはしておくか。

「ん、そろそろエマが見える頃合い。と言うか、あそこに居た」

「どれどれ?」

シルヴィアが指差す方向を凝視&発見。

「……何であいつもうどんをすすっているんだ?」

「私が考案した偽装工作。うん、完全に街の風景と一体化している。これなら誰にも気付かれない。正に完璧、とっても自然」

いや、トラージでエマの赤髪は頗る目立つから、普通に周りの人達からも注目されてるみたいだけど…… 本人も後からその事に気付いたのか、それともシルヴィアの案を断れなかったのか、若干頬も赤く染まっている気がする。多分、後者だろうなぁ。エマって肝心なところでシルヴィアに甘いイメージがあるし。

「エマの為にも、早く合流してやろう。ちょっと気の毒になってきた」

「ケルヴィンがそんな事を言うなんて、少し驚き。見張り役、そんなに危険? 監視対象からそんな感じの気配はしなかったと思うけど?」

「そういう意味じゃなくてだな…… 兎も角、早く行ってやろう」

そんな訳で、俺達は無事に(?)合流を果たすのであった。ちなみに一杯のうどんで長時間粘っていたせいか、エマのうどんは伸びに伸びていた。二重に惨劇である。

「うう、一杯のうどんで長時間持たせるのは、ちょっと無理がありました…… それ以前にかなり目立っていたみたいですし……」

「エマ、無理なものは無理と言い切ったが良いと思うぞ?」

「ひょっとして、蕎麦の方が良かった? 蕎麦は蕎麦で良い店がある。紹介する?」

「いやいや、そういう事ではなく――― って、今はそれどころじゃなかった。エマ、監視対象はどこに?」

「え? あ、はい。あの店ですけど」

エマが指差す方向を凝視&発――― あの、焼き鳥屋って書いてません? 店先に吊るしてある赤提灯に、でかでかとそう書いている気がするんですけど? マリアさん? アダムスさん? 飲み会とは銘打ってるけど、一応話し合いの場にもなってるって事、分かってます? お酒飲む事しか考えてないとか、そんな事はないですよね?

「ほう、待ち合わせの相手はあの店に入ったのか。なかなか良いセンスをしておる」

「ん、あの店は最近になってオープンした、鳥の串焼きを売っているところ。串焼きなんて珍しくない! なんて、そう思うかもだけど、それはとんだ間違い。ここの串焼きは炭火で焼いていて香ばしい。それに、味付けも独特。部位も豊富」

「あー…… 塩とかタレで売ってたりする?」

「ッ!? 流石はケルヴィン、物知り……! 同志メルの婚約者なだけはある……!」

前世の自分については知らないが、日本の食文化についての知識はあるからな。にしても、同志って何の同志だよ? まあ、何となく分かるけど。

「焼き鳥美味しいよね~。私はきもとずりが好きだな~。あとぼんじり!」

「ッッッ!? な、何で焼き鳥のメニューを知っているの……!? しかも、私の知らない呼び方をマスターしてる……! さては、焼き鳥通の常連……!? けど、貴女の顔は今まで見た記憶がない……! な、何で……!?」

珍しくシルヴィアが酷く狼狽えている。ひょっとしなくても君、この店の常連?

「不思議に思っているところ悪いが、まずは入店しよう。話はそれからだ」

「えっ? あの、ちょっと、ケルヴィンさん!?」

見張り役のエマが慌てているようだが、ここで説明するよりも実際に会わせた方が話が早い。思いの外大人数になってしまったのは計算外だが、そっちが飲み会スタイルなら、こっちも宴会スタイルで立ち向かうまで、である!

そんな気構えでガラガラっと引き戸を開け、先頭を切って入店。おおっ、想像以上に飲み屋な内装だ。それでいて、俺が想像する通りの焼き台が置いてある。と言うか、全体的に焼き鳥屋としての再現度が高い。これ、現代からの転移者が作った店なんじゃないか? 演歌っぽい曲がどこからともなく流れてるし。

「いらっしゃい。アンタ、ケルヴィンさんで?」

店内の様子に感動していたら、カウンター裏で串を焼いていた店主に名前を呼ばれた。

「あ、はい。そうです」

「そうかい。奥の部屋に行きな。お知り合いが待ってるよ」

ねじり鉢巻きをした坊主頭の店主が、視線でその場所を教えてくれた。うーむ、眼光が鋭くて良い眼をしている。店主、アンタ転移者だったりしない? ひょっとして強かったりしない? と、聞きたい事が山のようにあったが、ここは涙を呑んで我慢。

「どうも。じゃ、失礼しま―――」

「どうも~。私は取り合えず生で! えっ、ない? じゃ、日本酒で!」

「ん、取り合えずいつもの山盛り串セットで」

「店主、邪魔するぞ。きもとずりとぼんじりとやらを用意するといい」

―――早速注文するなと。せめて部屋に行くまで待てと。

「……ツバキ様、お忍びですか?」

「お忍びじゃ。見なかった事にせよ」

「何もこんな時に来なくて良いでしょうに…… カゲの旦那に叱られても知りませんぜ?」

「ええい、うるさいのう! 構わんから、今は好きにさせよ!」

ツバキ様と対等に話しをしている店主が相変わらず気になるが、我慢我慢。さて、アダムス達は大人しく飲んでいるだろうか? 心配しながら 襖(ふすま) を開け、中の様子を窺う。

「妾、アダムっちゃんのちょっといいとこ見てみた~い! あそーれ、いっき! いっき!」

「んぐ、んぐ、んぐぐ…… ふぅ、この程度は問題にならぬ」

「ヒューッ! やるぅー!」

……そこに居たのは着物姿のマリア、そしてはっぴ姿のアダムスであった。すっごく駄目な飲み方をしていらっしゃる。

「ちょっとちょっと、私がお花を摘みに行っている間に何をやってるのん! 駄目よぉ、一気飲みは~。ヘルス的に駄目駄目よ~ん! って、あらん? ケルヴィンちゃん?」

「……ど、どうも」

俺の横から颯爽と現れたのは、花魁風の豪華な装いをしたゴルディアーナであった。不味いな、飲み食いする前から胃もたれしてしまいそうだ……