軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第273話 乾杯

「やだん、どうもって何よ~ん! いきなりの他人行儀だったからぁ、私の筋肉が驚いちゃったわん!」

「わ、悪い。まさか花魁姿のプリティアちゃんを見られるとは、夢にも思っていなかったんだよ。しかも登場が唐突だったろ? 心臓が止まるところだったぞ……」

うん、本当に止まるかと思った。ジェラール、今日はこっちに居なくて良かったな。居たら、俺以上にダメージを受けるところだったぞ。

「も~ん、ダハクちゃんと同じでお世辞が上手いんだからぁ~。でも嬉しいわん! うふんッ!」

バチコンと、猛烈な勢いでゴルディアーナのウインクが放出される。もちろん、その標的は俺だ。その瞬間、これだけは絶対に接触してはならないと、俺が持つ察知スキルの全てが警報を鳴らし始めた。

転生神となったゴルディアーナのウインクは、以前のものとは比較にならないほどに強力なものと化していた。底知れない威力を秘め、それでいて速い……! だが、それでも躱す。必死に躱す。ゼロ距離だろうと意地でも躱す。そう、この時の俺は命懸けでこの攻撃を躱そうとしていたんだ。

(う、うおおおおおおぉぉぉ!)

叫びを上げている暇もないので、心の中で叫び、自分の心と体を奮い立たせる。そんな俺の努力は無事に実り、ハートの形を模した何かは、俺の真横を高速で通り過ぎていった。軌道が素直で良かった……! 変化球だったら危なかった……! と、一瞬安堵する。が、ここで気付いてしまったんだ。俺の直ぐ背後には、後を付いて来ていた久遠が居た事を。

(久遠、逃げろッ……!)

忠告をしている暇もないので、心の中で最大限の注意喚起を行う。流石の久遠もあんなものをまともに食らっては、ただで済むとは思えなかったんだ。だが、こんな事をしたって意味がないのは、俺もよく分かっている。仲間達とは違って、久遠に念話は飛ばせない。彼女が自力で何とかする事を祈る事しか、今の俺にはできなかった……!

「はえっ?」

―――パァーーーン!

と、祈りながら後ろに振り向いた直後、久遠に直撃したゴルディアーナのウインクが、粉々に砕け散った。風船が破裂するかのような、そんな大きな音と共に四散したのだ。

「……『 波羅蜜(はらみつ) 』が発動したのか?」

「そうみたい…… だね?」

突然の出来事に、久遠もよく分かっていない様子だ。いや、待て待て。久遠の固有スキルが発動したって事は、あのウインクに何かしらの特殊能力が備わっていたって事か? 純粋なダメージだけじゃ発動しないって話だし、多分そうだ。何それ、怖ッ……!

「プリティアちゃん、ウインクに何を付与させたんだ?」

「何って決まっているでしょん? 心からの愛・情・よん(はぁと)」

「愛情は爆発しないと思うんだが……」

「のんのん、愛情は爆発するものよ~ん? 好きな人の事を想い描けばぁ、プリティーなハートがドキドキするでしょん!」

いや、そうかもだけど、物理的に爆発はしないと思う。この桃女神、さては新しい能力に目覚めたんじゃなかろうか? しかも、自覚がないタイプのやつ。

「あー、まあそういう事にしておこうか…… ええと、プリティアちゃんもマリア達と一緒に行動していたんだな?」

「完全に放任する訳にもいかなかったからねん。この身は未だ不完全な転生神だけれどぉ、だからこそ地上にも干渉できるのん。メリットは最大限活かさないとん! それにぃ、マリア達も旅の友が欲しかったみたいだしぃ?」

「ああ、なるほど」

「ちょいちょい、いつまで部屋の入口で立ち話しているつもり? 妾、乾杯の時をとっても待ってたんだから、早く入って入って!」

「乾杯前にがっつり飲んでいた気がするんだが?」

「時間を持て余した故の余興よ。それにあの程度の量、飲んでうちには入らぬ。安心せよ」

一升瓶をラッパ飲みしていたと思うんですけど? アルコール調節ができるらしいマリアもだけど、この邪神様も規格外に酒に強いみたいだ。ケルヴィムのように巻き込まれないよう、気を付けなければ。

ってな訳で、アダムスとマリアが待つ予約席(?)にぞろぞろと入っていく俺達。当初少人数でやる予定だった話し合いが、今はツバキ様達を入れて八人だ。居酒屋でやるものとすれば、そこそこの飲み会の規模である。

「えー、それでは乾杯の挨拶を執り行うぞ。挨拶は水国トラージを代表して、現王であるこの妾、ツバキ・フジワラが担当させて頂く」

「ツ、ツバキ様!?」

「わあ、豪華な挨拶だ~!」

「うむ、ただの我にはもったいないくらいだ」

「串セット、まだかな……」

いつの間にか飲み会の中心に立っていたツバキ様が音頭を取り始め、エマが驚愕。この面子でも通常運転なのは、流石はツバキ様と言ったところだろうか。マリアとアダムスは歓迎ムード。シルヴィアは――― まあ、うん。ご飯を楽しんでくれ。

「肉と酒を前にして、堅苦しい諸々は意味を成さぬ。つまるところ――― 乾杯じゃ!」

「「「「「乾杯ッ!」」」」」

短く纏められた挨拶が終わり、各々乾杯を交わしていく。そうして始まってしまった焼き鳥屋での飲み会は、実に飲み会な様相である。

「ケルヴィンちゃん、トラージの王様も呼んだの? しかもぉ、久遠ちゃんは兎も角として、シルヴィアちゃんやエマちゃんまで居るじゃな~い?」

いつの間にか隣の席を陣取っていたゴルディアーナが、俺の盃に酒を注ぎ始める。

「呼んだと言うべきか、同行されちゃったと言うべきか…… 本当は連れて来たくはなかったんだけどな。まあ、あのツバキ様の事だ。裏で情報を集めて、全部分かった上で参加しているんだと思う。俺なんかが説明するまでもなく、さ」

そう言ってツバキ様の方を見ると、丁度マリアと会話しているところだった。

「ねえねえ、貴女も王様なの? 奇遇~、実は妾も王様なんだよ! 一人称も同じだし、本当に奇遇~!」

「ほう、それは真か? 実に奇遇であるな。ならば、これを機に良い関係を結びたいものじゃ。それに、まだ共通点があるぞ。ほれ、妾もそれなりに可憐じゃろ?」

「わっ、確かに! 妾の可愛さは当然として、また路線の違う魅力が詰まってる! これは組んじゃう? 王様系アイドルユニット組んじゃう!?」

「……盛り上がってるわねん」

「盛り上がってるな」

幸いな事に、ツバキ様とマリアは馬が合っているようだ。これが初顔合わせとは思えないくらいに意気投合している。だが、その横の二人はと言うと。

「昨日、夜が明くまで飲み続けた。その結果、この酒が最も我の舌に合っていた。その名も『神殺し』! その尊大な名に負けぬほどに辛口で、喉が焼けているかのように熱くなるぞ。ただのアダムスをこうも夢中にしてくれる酒は、そう存在しない。さあ、これを口にできる事を誇りながら、一気に行くと良い」

「いや、そんなに強いお酒を勧められても、私は下戸でして……」

「 汝(なんじ) 、もしや知らぬのか?」

「え?」

「酒が弱くとも、鍛えれば強くなるという事を!」

「無茶言わないでくださいよ!?」

「……アルハラされてるな」

「アダムスちゃん、無理強いは駄目って言ってるでしょん!」

不幸な事に、エマはアダムスのアルハラに巻き込まれてしまったようだ。前者コンビのマリア達とは違って、こちらの相性は駄目駄目っぽい。

「はぐはぐはぐ! ぼんじり、脂が凄い……!」

「でしょー? その調子でこっちもいきねぇ!」

「もぐもぐもぐ! ずりはコリコリ食感……! きもはクリーミーで濃厚……! 間違っていた、ねぎまばかりを食べていた私は間違っていた……!」

…… 久遠とシルヴィア(こっち) は実に平和そうだ。