軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第189話 権能三傑

嬉々として邪悪な笑顔を振りまくケルヴィンに対して、グロリアは一度耳を疑った。そして聞き間違えた訳でも自分の耳が壊れた訳でもなく、本当に目の前の相手がそう言っているのだと理解した。

「……貴様、正気なのか?」

「ああ、とっても正気だ。しっかし、敵の心配をしてくれるなんて、グロリアは案外優しいんだな。それとも、気が変わって仲間になってくれるって事なのかな?」

「ば、馬鹿が! 違う、そういう意味ではない!」

そんな訳ないだろと、力強く首を振るグロリア。

「ハハッ、悪い悪い。まあ冗談はさて置き、 権能三傑(けんのうさんけつ) だっけ? そいつらについても、ケルヴィムから聞いているよ。こいつは不満があるみたいだけどな」

「当たり前だ。権能三傑は神であるアダムスが定めた位ではなく、エルドが勝手に唱えたものだ。大方、俺に対しての嫌がらせも含めて、俺をその面子から外したのだろう。権能を含めた総合力であれば、俺が後れを取る事なんて有り得ないからな」

「ヒソヒソ(マスター・ケルヴィンに負けた後なのに、恥ずかしげもなく、よくあんな大言を吐けるよね、彼)」

「ヒソヒ―――(それは俺も同意だけどよ、さっきの失礼云々は話はどうなったん―――)」

―――ギロリ。

ケルヴィムに睨まれ、一転して無言となり、そのまま視線を逸らすシンジールとパウル。どうやら二人のヒソヒソ話は丸聞こえで以下略。

「ケルヴィム曰く、権能三傑であるのは『武神』ハオ・マー、『蛮神』ハザマ・シェムハザ、そしてグロリアの姉である『守護神』イザベル・ローゼス…… なあ、何でエルドとケルヴィムは入ってないんだよ? 十権能のトップとナンバーツーだぞ? ハオって奴はプリティアちゃんやダハク達を倒した猛者だ。ここは納得できるけどさ…… これ、流石に嫌がらせ云々って訳じゃないだろ?」

「いや、あの卑劣なエルドの事だ。そこで帳尻を合わせてまで、俺に嫌がらせをしているに違いない」

「お前はどんだけエルドの事が嫌いなんだよ……」

ケルヴィンにとって、十権能各人の強さを知る事は何よりも重要視すべき事柄であった。何せ、それによって自分の戦うべき相手が変わってくるのだ。いつもであれば敵の頭目を真っ先に狙うのだが、その者が一番強くないのであれば、今回の対戦相手選びは吟味する必要が出て来る。この権能三傑の戦力分析はその一環であった。

「……フン、我々について変なイメージを持たれてしまっても困る。まあ、その程度の事なら私が教えてやろう」

「おお、規律の神は頼りになるな」

「おい、死の神も頼りになるだろ?」

「「………」」

真顔でそんな言葉を口にするケルヴィムに対し、ケルヴィンとグロリアは何も言えなかった。

「……権能三傑は先の大戦で多大な戦果を挙げた者に与えられる称号だ。ハオ、ハザマ、イザベルは大戦の最前線にて、より多くの神々を打ち破った。一方で、エルドとケルヴィムは戦場を統括する立場上、他の者と比べて直接手を下す機会が少なかった。これが権能三傑から外された、真の理由だろう。要は実績の差だ」

「ああ、なるほどな、そういう理由があったのか。 ……ちなみになんだが、ケルヴィムはこの事を知らなかったのか?」

「当然知らん」

「こ、こいつ、言い切りやがった……」

「エルドとケルヴィムは犬猿の仲だからな。まあ、正直なところケルヴィムが一方的に嫌っているだけなのだが。大方位を与えた時に、エルドの説明をしっかり聞いていなかっただけだろう」

「……そうだったのか?」

「ケルヴィム、お前……」

何はともあれ、ケルヴィムの疑問は解決したようだ。

「ま、まあいいや。それよりも、結局誰が一番強いんだよ? エルドなのか? 権能三傑なのか? そこをハッキリさせてくれ!」

「残念ながら、私如きでは推し量れんよ。まあ、エルドか権能三傑の誰かであるのは間違いないだろう」

「何だ、結局分からないのか……」

「そんな事は関係ない。誰と当たろうが、貴様に勝ち目などないのだ。慢心のまま死ぬが良い」

「待て、最有力候補の俺が入ってな―――」

「―――一度この人間に敗北している時点で、候補から外れるのは必然だ」

「………」

正論を返すグロリアに対し、ケルヴィムは何も言い返せなかった。

「ま、まあ参考にさせてもらうよ。ハオはダハクに任せる約束をしているし、その他の敵で運否天賦かな、こりゃあ」

「なあ、マスター・ケルヴィン、そろそろ稽古の話をだな……」

十権能の誰が一番美味しい相手なのか、想像を膨らませるケルヴィン。これはこれで乙な時間なのだが、背後で待機していたパウルにストップをかけられてしまう。

「ああ、悪い。そういやそれを頼みに来たんだった。つう訳で、グロリアもよろしく頼むな」

そう言って、ケルヴィンはグロリアの頭部に手をかざした。

「………?」

これは一体何の真似なのか、グロリアは不審に思った。それ以上何をされる訳でもなく、それ以上何か言葉をかけられる訳でもない。ただ、ケルヴィンはなぜか集中している様子だ。

「おい、何の真似―――」

―――ガチャリ!

グロリアはその瞬間、再び耳を、そして目を疑った。グロリアを閉じ込めている牢の扉を、ケルヴィンがあっさりと開けてしまったのだ。この時、グロリアの両腕と両脚には錠はされていたが、ケルヴィンは迷う事なくそれらの鍵も外してしまう。

ケルヴィンがグロリアに施した 鷲掴む風凪(ハートカーム) の制約には、ケルヴィンを害する行為を一切禁止していない。それどころか逃走も制限していない。つまり、ケルヴィン以外の者に攻撃を仕掛けさえしなければ、今この瞬間、グロリアは自由に動けるようになったのだ。

「愚かッ!」

そこからのグロリアの行動は早かった。権能を権限、更に無詠唱でB級白魔法【 閃光炸裂(フラッシュバン) 】を発動させ、目が焼けてしまうような強力な光を、瞬間的に周囲に放ったのだ。但し、前述の通り彼女はケルヴィン以外の者に害を与える事ができない為、それと同時に自身の権能である『 間隙(かんげき) 』を行使。間近に居るケルヴィンの背後より無限の距離を作り出す事で、光がスズ達に届かないよう調整をしていた。

(他は捨て置く! が、こいつに容赦する必要はない!)

閃光炸裂(フラッシュバン) を展開した直後、グロリアは握った拳をケルヴィンに叩きつけようとした。ケルヴィンは制約の対象外、鍵を外せるような超近距離に居る今であれば、狙った心臓を外す事は絶対にない。そうグロリアは確信していたのだ。 ……が。

(ッ!?)

右手に走る激痛。同時にぐしゃり、バキリと肉と骨が壊れる感覚を察知する。ただならぬこの状況に危機感を覚えたグロリアは、ケルヴィンの抹殺から逃走へと目的を変更。牢の外、そして部屋の外までの距離を無にし、全速力で駆け抜ける。

「マ、マスター・ケルヴィン!? 大丈夫ですか!?」

閃光炸裂(フラッシュバン) による光の塊が消失し、そこからケルヴィンが現れる。錠を外す為にしゃがんでいたケルヴィンであったが、光が消失した後もその体勢は変わっていない様子だ。当然、牢内にグロリアの姿は既にない。

「危ない危ない、咄嗟にハードの 智慧形態(アスタロトフォーム) になっていなかったら、心臓に穴が開いているところだったよ。反射的に展開するのにも、漸く慣れて来たな。まあ、絶対に壊れない鎧に思いっきり叩きつけて、向こうの拳は酷い事になっていると思うけど」

「おい、それよりも逃げられたぞ?」

「違う違う、逃げられたんじゃなくて、わざと逃がしたんだよ。弟子達と同じく、俺と前線で戦う仲間達も調子を取り戻さないといけないからな。だから、グロリアも鍛錬に参加してもらう。ああ、説得については任せてくれ。俺が引き継ぐから」

「は? ……お前、もしや並行してグロリアの説得を行うと言うのは」

「ケルヴィムが弟子達を鍛えている間に、伸び伸びとした環境で俺が説得するって事だよ。じゃ、後はよろしく!」

「あっ、おい!」

ケルヴィムが呼び止めようとした頃には、既にケルヴィンは部屋の中から姿を消していた。代わりに、強くなる為の鍛錬を期待する、四人の弟子達の熱い眼差しがケルヴィムへ一点集中。嘘は言われていない。言われていないが、ケルヴィムはなかなか納得する事ができなかった。