作品タイトル不明
第91話 留守番組
時間を少し巻き戻し、場面を迷宮国パブに移す。金雀の宿に滞在するエフィルはお腹の子供の事もあり、今回はここで留守番を任される事となった。彼女と共に宿に残るは、学園都市ルミエストにあまり関心を示さず、それよりもご飯(野菜・米・甘味)の事で頭が一杯で、それ以上にエフィルの事が大好きな竜王ズの面々。そして誰よりも何よりもご飯(全部)の事で頭が一杯な、元転生神のメルであった。
「メル様、よろしかったのですか?」
「ンング? ングング…… 何がでしょうか?」
ソファーに座り編み物をしていたエフィルが、間食(テラ盛り)をしていたメルに問い掛ける。
「いえ、クロメル様も対抗戦に出場されるのですから、ご主人様と共にルミエストへ向かった方が良かったのではないかと、そう思いまして」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。保護者という立場では大勢が向かいましたし、アンジェにもよろしくやるよう伝えていますからね」
今回の留守番にはアンジェも残ろうとしてくれていたのだが、元ギルド職員&元神の使徒というシンとの繋がりもあって、どうにも断れなかったらしい。現在はこの場に居ない面子と共に、こっそりとどこかで対抗戦の観戦を行っているところである。
「ですが……」
「フフッ、そう心配せずともクロメルは私に似て聡明な子ですから、きっと事情を察してくれるでしょう。それに、パパに似てとっても強いんです。心配する要素が見当たりません。フフン!」
メルは頬に食べ物を詰め込みながら、器用に鼻息を荒くしている。 ケルヴィン(パパ) が重度の子煩悩である事は周知の事実であったが、どうやら メル(ママ) も結構な親馬鹿であったようだ。
「そうそう、エフィル姐さんは余計な心配をしないで、安静に努めるべき。はむっ!」
「んだなぁ。姐さんに何かあったら、おで達が申し訳、立だねぇよぉ。ハグッ、ハグッ!」
「ッスね~。あっちにはケルヴィンの兄貴の他にも、ジェラールの旦那やセラ姐さんの親父さんも行ってるんスよ? 世界最強の保護団ッスわ。パキッ!」
そんなメルに乗っかるのは、各々の好物を口にする竜王ズ、ムドファラク、ボガ、ダハクの三体だった。金雀で出される料理は竜王の舌をも唸らせる出来のようで、概ね満足しているようである。
「そ、それはそれで相手方に粗相がないか、少々心配ではあるのですが……」
当然の心配であった。親馬鹿&爺馬鹿×2の相乗効果によって、一体どんな化学反応が起こるのか、予想なんて出来よう筈がない。
「ですから、エフィルは心配し過ぎなんです。如何にクロメルやリオン、ベルが可愛い三人だからといって、立場と場は弁えますよ、流石に。ダハク達もそう思うでしょう?」
「……よくよく考えれば、信頼して良いのか疑問になってきた」
「極めに極めているからなぁ。エフィル姐さんが不安になる気持ち、嫌ってほど気付かされたぜ」
「おで、凄く心配」
「……ほら、ダハク達もこう言っている事ですし!」
「メル様、会話内容を 改竄(かいざん) されるのは如何なものかと」
好物に夢中だった竜王ズも、ここに来て正気に戻ったようだ。
「まったく、我が家の者達は心配性で家族思いなんですから。リオンはあれでも戦闘経験が豊富ですし、ベルに関しては言うまでもありません。クロメルはクロメルで持っていますからね。ひょっとしたら、パパと戦う事になっているかもしれませんよ? ほら、そうすれば爺馬鹿達の怒りの矛先は、自然とパパの方へ―――」
「―――そうなった場合、ご主人様はクロメル様との戦い方に悩まれるでしょうし、ジェラールさんとグスタフ様との戦いを前に、冷静さを保てるでしょうか? うう、とても怪しいところです。そんな時だからこそ、私がご主人様のお役に立ちたい、支えたい……!」
ふとしたメルの言葉を受け、ご奉仕禁断症状が発症してしまうエフィル。
「メル姐さんがエフィル姐さんの不安を煽った。それはいけない」
「駄目ッスよ、メル姐さん。兄貴と離れ離れになってるエフィル姐さんの気持ちも考えてくださいよ」
「メル姐さん、軽率、なんだな……」
「あの、一応私も妻として離れ離れな立場なんですけど?」
想い人への愛は誰にも負けないと自負しているメルは、どこか納得していない様子だった。まあ、実際問題世界を揺るがすほどに重い愛を持っているのだが、日頃の行い(食)への印象が強過ぎて、いまいち竜王ズには浸透していないようである。
「エフィル姐さん、安心して。姐さんの想いは、主になくてはならないもの。どんなに離れていても、それは絶対不変。気遣い優しさ甘いお菓子、そしてオンリーワンな弓術に並ぶ者なし。イコール、主も夢中。私も夢中パンケーキ」
「そうだそうだ! 天下一の野菜スティック!」
「んだんだ! 炊き立てご飯!」
「そ、そうでしょうか? そうだと、嬉しいのですが……」
治まりの気配を見せるエフィルのご奉仕禁断症状。但し、空気が読めなかった元女神様はここでも口を滑らせてしまったようで。
「あ、でも弓術でしたら、エフィルに並ぶ傑物が居ましたね、確かルミエストに」
「あうあっ……」
「「「メル姐さん!?」」」
メルに悪意はない。ただ、致命的に空気が読めないだけなのである。転生神を止めて半ニート生活になってからというもの、最近になってその兆しが顕著になってしまったのである。
「エフィルは弓術に炎の魔法を組み合わせ、更には火竜王の加護を下地にしていますので、他の者では真似ができないとんでもない火力を叩き出します。どこまで影響を与えているかは分かりませんが、調理技術における火の扱いの上手さも、巧みな技術に影響を与えているのでしょう。単純な殲滅力ならば、私達の中でも随一です。ええ、私は理解していますよ、エフィル。そんな超火力弓術と肩を並べる者が存在するとなれば、エフィルがそこまで気になるのも、ある種仕方のない事でしょう」
「さ、流石はメル姐さんだぜ。何と言われようと、全部説明する気だ……!」
「というか、エフィル姐さんが動揺している理由自体、ちょっと勘違いしている」
「彼の名はアート・デザイア、ルミエスト学院長であり『 縁無(ふちなし) 』の名を冠するS級冒険者です。ダークエルフの里を取り纏める族長でありながら、ある日を境に里を抜け出した彼の経歴はかなり特殊なもので―――」
(((―――経歴から語り始めた……!)))
暇を持て余したメルの口は止まらない。ただ、このまま語らせると長くなる為、メルの話はざっくりと要約。
「へえ。つまるところ、そのアートって奴はエフィル姐さんと同じく、弓術に魔法を付与するんスか!」
「しかも扱う魔法は 全属性(・・・) 。私よりも属性が多いとか、かなり 猪口才(ちょこざい) 」
「それも矢を放つのは弓からではなく、楽器の弦からですか。実際に放っている姿が想像できませんね。更にはそこに演奏のスキルを組み合わせるらしいですし、私には真似できそうにないです……」
「まあ彼が放つのは実際の矢ではなく、完全に魔法で生成した矢ですからね。厳密に言えば矢に魔法を付与しているのではなく、弓術という発射形体に魔法を利用しているようなものです」
「でも、でもよぉ。全部の属性? っで、五個の魔法に、もっど一杯の属性っで事、だよなぁ? それっで、器用貧乏っで事じゃ……?」
「「「えっ?」」」
ボガのふとした一言に、エフィルやダハク達が振り返る。メルだけは茶をすすりながら、ボガが気付いた事に感心しているようだった。