軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第89話 争いは同じレベルの何とやら

シンとアートの因縁は数百年も昔に遡る。当時、まだお互いが冒険者でもなかった若かりし頃――― とは言っても、その頃既にシンは神の使徒として活動し、アートはダークエルフの長として里を統治する立場にあった。そんな二人の初対面にて、事件は早速起こってしまう。それはとある任務の関係で、シンがダークエルフの里を訪れていた時の事であった。

『うーん、君、眼鏡のセンスないんじゃない? 変に分厚いし、何だか瓶の底みたいだよ? 』

『『『『―――!?』』』』

排他的なダークエルフを口八丁手八丁で言い包め、無理矢理族長のアートと対面したシンが、突然そんな爆弾発言をぶっ放したのだ。彼女としては思った事を素直に言っただけなんだろうが、アートを含め、この時のダークエルフ達の衝撃を凄まじいものだった。

世界で最も容姿の美しい種族は何か? そう問われれば、大半の者はエルフの名を、或いはダークエルフの名を口にするだろう。それ故に悪党に狙われるなど、長い歴史において何度も種族間の 軋轢(あつれき) を生んだ要因となるほどに、二種族は美し過ぎた。

そんな美し過ぎるダークエルフの中でも、アートの美貌は頭一つ抜けたもので、里内で秘密裏に行われている美エルフコンテストでは、毎年優勝を掻っ攫うほどのものだった。だからこそ、他のダークエルフ達はアートのファッションセンスを含めた美しさこそが、美の全てだと信じて疑わなかったのだが―――

『えっ、皆がそんな変な格好をしてるのって、もしかして族長を真似てるの? あちゃー』

『『『『―――!!??』』』』

―――里が閉鎖的で、外界との繋がりが薄かったのも原因の一つだろう。ただ一つ言えるのは、この頃からアートのセンスは独自性が強く、一般的な感性からは程遠いものだったという事だ。つまり、控えめに言ってダサかったのである。しかし、そこは思っても口にしないのが普通だろう。

『その服もないよー。何で袖がギザギザになってるの? 自分で引き裂いたの? え、マジで?』

『『『『―――!!!???』』』』

だが、シンは普通ではないし容赦もしない。自分が我慢するくらいなら、全てをかなぐり捨ててしまう自由な人物であった。というのも、この頃からシンは超自由人であり、使徒としての使命も気分でやったりやらなかったりと、本当に自分に素直な性格だったのだ。任務中、各所で今回のような問題を起こす事などざらで、これまで幾柱もの使徒を統括して来たアイリスが、火消しの為に日々頭を悩ませていたほどだ。

それでも長年に亘って使徒として働けて来られたのは、それだけの実力と能力があったからだ。今でこそ『選定者』の前身としての力は消失してしまったが、当時の彼女は組織の要として、問題を起こすのと同じくらいに活躍していたのだ。 ……しかし、流石にこれ以上は無理だとアイリスが匙を投げて、リオルドと交代する形で使徒を引退していたりもする。彼女としては円満な退職だと思ってるようだが、実際のところはリストラに近かった。

とまあ、そんな彼女が正直な気持ちを連呼してしまったものだから、アートのファッションセンスの悪さが里の皆にバレてしまった訳だ。流石に最初は戯言であると、シンの言葉を信じる者はいなかったのだが、またしても口八丁手八丁な彼女は、無駄に根気強くダークエルフ達を信じさせてしまった。その後、アートはすっかりと自信をなくして寝込んでしまい、暫くして族長としての地位を辞して旅に出たという。センスを磨き己の自信を取り戻す為に、そして仇敵であるシンを見返す為に。

ちなみに、二人以外にこのふざけた因縁を知る者は、今となっては殆どいない。知っているとすれば、かつて神の使徒を束ねていたアイリス(現シスター・エレン)くらいなものだろうか。今でこそ多少は落ち着いた(?)二人であるが、積もりに積もった恨みとは恐ろしいもので、かつては洒落にならないレベルでの殺し合いに発展した事もあったようだ。例えば、こんな事件がある。それはシンがギルドの総長に就任し、本部にアートを招集した時の事だった。

『これから冒険者の頂点になる奴にさー、私が直々に二つ名を付けようと思うんだよねー。何か格好良いし、インパクトがあって良いよね! こう、毎年年刊誌みたいなのを出してさ、馬鹿な事を考える各国に注意喚起するの。あ、私、イラストも描いちゃおうかなっ!』

『……おい、そんな事の為に私は呼ばれたのか? 大事な話ができたからと聞いて、わざわざ来てやったんだぞ?』

『いやいや、これだって最上級に大事な話じゃん? 今後の冒険者ギルドの在り方が、すっげぇイカした感じで変わるんだよ? 一種の革命だよ!?』

『ハァ…… で、だからどうしたと言うのだ。別に私の賛同が欲しい訳ではなかろう?』

『ああ、うん、それは全然いらない。ノーセンキュー』

『………』

『そんな怖い顔しないでよー。一応、アートもS級冒険者の立場に居るからね。二つ名をくれてやろうと思いまして。あ、ちなみに私の二つ名は『 不羈(ふき) 』ね。何者にも束縛されない自由なる風って感じで、正に冒険者の象徴として相応しい名じゃない?』

『周りの気苦労を気にもせず、どこまでも馬鹿という意味ではそうだろうな』

『あ、そんな事言っちゃう? 良いのかな~? アートの二つ名、変なのにしちゃうよ? 昔のファッションセンス並みに、恥ずかしいのにしちゃうよ?』

『ふん、挑発には乗らん。大方、己のセンスのなさを私の過去に擦り付けたいんだろうが、公表前からそんな保険を掛けているあたり、大した二つ名は思い浮かばなかったんだろう? どれ、聞いてやろうではないか。貴様が一生懸命に考えた、私の二つ名とやらを』

『……『 縁無(ふちなし) 』』

『は? おい、今何と言った?』

『だから、縁なし眼鏡で『 縁無(ふちなし) 』だって。見たまんまだし、分かりやすくて良いよね? 実はアートが来てから考えようと思ってさ、今三秒くらい考えて、思い付きで決めちゃった! はい、これで決定~! いやー、瓶底眼鏡からお洒落にジョブチェンジしてくれて、私も鼻が高いよ、『 縁無(ふちなし) 』!』

『……なるほど、有象無象の 縁(えん) に囚われず、 縁(ふち) が無いほどに無限の才能に溢れていると、ある種、『 不羈(ふき) 』のお前よりも圧倒的に上で自由なる存在であると、つまりそう言いたい訳だな?』

『はい? おーい、勝手な解釈を挟むなよ。そんな意味合い微塵もないよ。老化で遂にボケてしまったんですか? お薬出します?』

『フッ、真実を突きつけられたからといって、そんなに僻むものではないぞ。これだからお子様は困る』

『『……死ねぇ!』』

以降、二人は無人島にわざわざ移動してまで、三日三晩にも及ぶバトルを行ったという。このような本当に些細な事で、それも小学生レベルの口喧嘩からマジな殺し合いに発展するものだから、周りの面々の苦労が計り知れないのは、最早言うまでもないだろう。但し、その後はアートがルミエストの学院長に就任し、シンもギルドでの仕事が本格的に忙しくなったのもあり、二人の関係は適度に(?)火花をバチバチさせる程度に落ち着いた。

「アートさあ! 自分はお洒落になったと勘違いしてるみたいだけど、その格好は本気でどうかと思うよ!? 全身金ぴかとか、どこの成金だっての! 女装はガウンんとこ獣王とキャラ被ってるし!」

「これは私の生徒より受け継いだ意志の表れだ! そんな事も分からないとは、やはりお前は人の上に立つべきではなかったようだな! 自由と勝手を履き違えるな! あと、これは女装ではない! お洒落!」

「うっさい撃ち殺されろ!」

「お前が射殺されろ!」

……やっぱり、落ち着いていないかもしれない。