作品タイトル不明
第88話 因縁
対抗戦第四試合、ミルキーに名前を読み上げられたシンとアートは、間髪入れずに舞台へと入場。そして超特急で視線を衝突させ、猛烈な火花を散らしていた。
「ええ、ええ…… そうですか、リオンさんとラミさんの配置が完了したと。分かりました」
「ミルキー教官? 如何されました?」
「いえ、リオンさん達は大丈夫かなと、医療班と連絡を取っていたところです。話によれば、健康面に問題はないようですよ。お二人とも回復が早かったようで、直ぐにでも動けるそうです」
「なるほど、流石はミルキー教官! 生徒の安全を確認されていたのですね!」
「フフ、運営に携わる者として当然ですよ。それよりも司会進行を進めませんか? 舞台上のお二人、そろそろ勝手に始めてしまいそうですよ?」
「なんと!?」
ランルルが舞台に視線を戻す。するとそこには大剣を構え、今にも斬りかかりそうになっているシンと、両手に強大な魔力を集め、今にも魔法をぶっ放しそうになっているアートの姿が。
「おいおい、そんな魔力を渦巻かせて、開始の宣言前からどうしようっていうのかな? まさかルミエストの学院長ともあろうアートさんが、フライングからの不意打ちをしちゃうのかな? 大切な生徒達と父兄の方々の前で?」
「ハッハッハ、面白い事を言うものだ。またジョークの腕前を上げたんじゃないかい? それとも、年の功というものなのかな? 私は君のフライングからの不意打ちに備えて、こうしてやりたくもない迎撃の準備をしているだけだ。もう良い歳という年齢も過ぎているのだから、それくらいは察してほしいものだ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししたいな。備えているのは私の方だ」
「いいや、私に決まっている。なんなら学院長の座を懸けても良い」
そろそろ散っている火花が、盛大な花火に発展しそうだった。
「うわぁ、これは凄い事になっていますね…… あのお二人、毎年対抗戦の時期になると何かと争っているのが風物詩となっているのですが、過去に何かあったのでしょうか?」
「さあ、どうなんでしょうね? 誰から見ても低レベルな戦いで、非常に愚かしいという事だけは分かるのですが」
「おーい、解説席に座ってるミルキーくーん? 好き勝手言ってくれちゃってるけどさぁ~? 私がこの場で、狂犬時代の君の秘密をバラしちゃっても良いんだよ~?」
「………(スッ)」
「ミルキー教官!? あの、無言のまま立ち上がらないで頂けますか!? 笑顔が凝固してますよ!?」
言い争いは解説席までもを巻き込み、会場は更に混沌としていた。その様子を見ていた対抗戦のメンバー達も、何事かと首を傾げている。
「んん~、あまりスマートな会話とは言えないわねん」
「そうなんだよ。なぜかは知らないけど、この時期のシンはいつもあんな感じなんだよねぇ。アートとできていたのかねぇ?」
「バ、バッケさん、失礼ですよ……! ですが、あんなにも攻撃的な総長は、私も初めて目にします。だ、男女の関係は兎も角として、本当に何かあったのでしょうか? マスター・ケルヴィンはどう思われますか?」
「………」
「……? マスター・ケルヴィン?」
スズに声を掛けられるが、何やら悩んでいる様子のケルヴィンは一向に反応を示さない。それもその筈、この時のケルヴィンは自身の固有スキルである並列思考をフル活用してまで、とある事について頭を悩ませていたのだ。
(第四試合の相手はアート、という事は最終試合に出る俺の相手は必然的にクロメルだろう。いや、別に強そうな奴と戦えなくて残念とか、そういう気持ちは…… ないと言ったら嘘になるが、今俺が抱えている問題はそこではないんだ。クロメルを他の奴らと本気で戦わせる事を回避できただけでも、大変に意味のある事ではある。だが問題は、俺がクロメルとどう戦うべきかという事! クロメルに怪我をさせるのは論外だが、あまり手加減が過ぎるとパパ、クロメルに嫌われちゃうんじゃないか? あれだけ聡明な子なんだ、小手先の誤魔化しは通用しないだろう。S級冒険者らしくそれなりの実力を見せて、且つ無傷のままクロメルを圧倒する? けれどけれど、あまりに一方的な試合展開になれば学園でのクロメルの立場ががががががっ!)
(マ、マスターが何かに悩まれてる! ここまで苦悶されているなんて、恐らくは私が想像もつかない、次元の異なる問題を抱えているんですね! マスター、私は何もお助けできませんが、せめて心の中で応援させて頂きます! 頑張ってください! フレッ、フレッ!)
―――とまあ、試合を見守る側も見守る側で、なかなかにカオスであった。
「ああ、もう! 私の手に負えなくなって来ましたので、始めてしまいますよ!? はーい、試合開始ぃ!」
立ち上がったミルキーの腰にしがみ付きながら、ランルルが決死の試合開始宣言を決行。流れでやってしまった試合開始であるが、結果としてこれは最善のタイミングであった。なぜならば、その宣言は偶然であったとはいえ、シンとアートが得物と魔法を放ったのと、全く同じタイミングであったからだ。
「「死ねぇ!」」
シンの持つ大剣は、以前ギルド本部でケルヴィンに不意打ちした際にも使用した、『ハザードクラスター』という武器だ。刃先に弾丸発射用の筒を備え、猛毒を周辺に撒き散らすという、大変に危険な代物である。シンはその得物を何の躊躇もなく振り下ろし、また弾丸をぶっ放した。
対するアートは両手に集めていた魔力を用い、右手と左手で異なる魔法を発動。赤と青の光が輝いた刹那、眼前のシンに向かって無数の鳥を模った炎と水が飛来する。エフィルの 多重炎鳥(ミリアドバーンバード) に似たそれら魔法は、一瞬にして舞台上を覆い尽くした。
「こここ、これはフライングぅーーー!? いえ、私の宣言と同時に攻撃したのでしょうか!? 解説のミルキー教官、その辺どうなんでしょう!?」
「………」
「ミルキー教官、そろそろ理性を戻して! 私を引きずらないで席に戻ってーーー!」
現在実況のランルルは席から大きく離れ、掴んだミルキーに引きずられて舞台へと向かっていた。学園側もこれは止めないと不味いと思い至ったのか、教官のアーチェが二人の下へと駆け寄り、説得を試みている。
「また毒か。先ほどの試合もそうだが、学び舎でそのようなものは使ってほしくはないものだな。性格の悪さが滲み出ているぞ?」
「魔法はよくて毒は駄目なのかい? 指導者がそんな差別をするとは、ルミエストも落ちたものだね。自分の無能を棚に上げないでくれる?」
「「………(イラッ)」」
舞台外でのトラブルを余所に、シンとアートは本格的な戦いを開始。これまで培った恨みが攻撃に上乗せされ、二人の攻防は指導者と総長らしからぬ 大人気(おとなげ) ないものへ――― つまるところ、最早舞台や周辺の結界への被害について、全く配慮しないレベルへと至っていた。
「くふふ、ふざけた得物も持って来たね。そんなんで私に勝つつもりなのかな? それとも、演奏の一つでも披露してくれるつもり? なら、私の勝利を祝うファンファーレでも奏でてよ」
「断固拒否するし、私は至って真面目さ。君こそ、また目新しい武器を持って来たものだな。一体どこの腕利きの鍛冶師が鍛え上げた? 『工匠の父』と謳われるドワーフ職人あたりの作か?」
猛毒の煙、そして赤と青の鳥達が消え去り、ズタボロにされた舞台の上に二人の姿が現れる。二人は姿が見えない中でも言い争いを続けていたようで、言葉のドッジボールは未だに終わる気配を見せない。ただ、そんな二人の手には新たな得物が見受けられた。シンの左手には明らかに銃の形状をした火器が、アートの手にはギターに似た 撥弦(はつげん) 楽器があり、今正にそれらを使おうとしているところだった。